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” Belle Du Jour / ベル・デュ・ジュール” (邦題:「昼顔」)
ファッションに最も大きな影響を与えたフランス映画の1本

ファッション・デザイナーは映画好きが非常に多いけれど、そのシーズン毎のコレクションの インスピレーションとして、
特定の映画や、そこに描かれる時代、キャラクターを選ぶ場合も非常に多いもの。
ここに紹介する、1967年公開のルイス・ブニュエル監督作品 「Bell De Jour / ベル・デュ・ジュール」 (放題:昼顔) は、
おそらくファッション業界にもっとも大きな影響とインスピレーションを与えた作品と言えるもので、
その中で着用されるファッションの数々は、40年が経過した今日見ても決して古臭さを感じさせない、
ベーシックなエレガンス。
カトリーヌ・ドヌーブの抜群の美しさ、妖艶さと、当時としてはショッキングなエロティズムも手伝って、
同作品を高く評価するファッション&ビューティー関係者は非常に多いのが実情である。
さて、同作品を監督しているスペイン人の Luis Bunuel / ルイス・ブニュエルは、さまざまな作風の映画を撮ってきたものの、
サルバドール・ダリと共同製作した短篇映画 「Un chien andalou / アンダルシアの犬」や、
「Le Journal d'une femme de chambre / 小間遣いの日記」などの代表作で知られ、
彼の作品を語る上でのキーワードになっているのが、Surrealisme / シュールレアリズムである。
シュールレアリズムは、日本語で「超現実主義」とも訳されるけれど、この超現実とは「非現実」という意味ではなく、
事実に隣接した夢や妄想の世界。常識や事実に捕らわれない無意識、潜在意識が生み出す世界や
そのイメージで、現実を超越した物事の核心を捉え、表現するのがシュールレアリズムである。
シュールレアリズムは、映画、ベル・デュ・ジュールの中にも見出すことが出来るけれど、
ファッションのクリエイターには このシュール・レアリズムを好む人々が 非常に多いのも また事実である。






= 「ベル・デュ・ジュール」 ストーリー =
セヴリーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ) は若くハンサムなドクター、ピエール(ジャン・ソレル)と結婚して約1年、裕福で何不自由の無い生活を送っている。
彼女は幼い頃、家の修理にやってきた作業夫に性的虐待を受けており、その経験から 夫との性生活が無い代わりに、
マゾヒズムな妄想を抱く傾向にあった。
その妄想にしばしば登場するのが、2匹の馬に引かれ、2人の御者を擁した馬車。
同作品はそのセヴリーヌの妄想からスタートする。 抵抗する彼女を馬車から降ろし、森の中まで引きずり、
御者に彼女を鞭打つように命じる冷酷な夫、夫の命令に従って自分を犯そうとする御者に快楽を感じ始めるセヴリーヌ、という
1967年の作品としては極めてセクシャルで、ショッキングなシーンが、同作品のオープニングである。
やがてピエールの優しい呼びかけに、妄想から現実に引き戻されるセヴリーヌ。
そんな彼女はある日、夫の友人であり、彼女に執拗な関心を寄せるアンリ・フッソン(ミシェル・ピッコリ)のガールフレンド、レネーから、
同じテニス・クラブに通う上流夫人 が娼婦として働いていることを聞かされ、驚くとともに、不思議な興味をそそられる。
そしてアンリから、マダム・アナイス という ”メゾン(売春宿)” の存在を聞かされた彼女は、
自分に混乱しながらも アナイス(ジュヌヴィエーヴ・パージュ )を尋ね、彼女のところで毎日午後だけ、5時までの約束で働き出すことになる。
アナイスがつけたセヴリーヌのメゾンでの呼び名は ”Belle De Jour / ベル・デ・ジュール ” 。 覚え易くて、コケティッシュなネーミング、
昼間だけ働くセヴリーヌのスケジュールから名づけたものだった。
当初は 娼婦 になりきれない彼女であったものの、徐々に 娼婦と妻 というダブル・ライフを演じ 愛の無い欲情を満たし続けるうちに、
セヴリーヌは 夫も見違えるほど明るくなっていく。
しかしセヴリーヌの淫らな妄想は続いていた。彼女はその中で、純白のドレスをまとったまま縛られた自分に向かって、夫を伴ったアンリが、
「売春婦!」「ブタ!」などとののしりながら、牛の糞を投げつける様子を見るのだった。
そうするうちにマダム・アナイスのところにやってきたのが、強盗を働いて羽振りの良いマルセル(ピエール・クレマンティ)と彼の相棒。
マルセルはセヴリーヌを気に入ってしまい、セヴリーヌも彼の 夫には無い野性味や危険な雰囲気に惹かれるものの、
彼のセヴリーヌへ思いは ほど無く 独占欲に高まっていく。
その後、マダム・アナイスのところに ”かつての常連客”として現れたのはアンリ。
彼の指名を受けて、怒りを露わにするセヴリーヌであったが、アンリの反応はすべてを見越していたかのようにクールなもの。
彼は「ボーイスカウトのようなピエールと結婚した貞淑な妻 であるセヴリーヌには惹かれていたけれど、今となってはそんな興味も失せた」
と言い、支払いだけを済ませて立ち去るのだった。
セブリーヌはその日のうちにマダム・アナイスを辞めてしまうが、そんな彼女を自宅に訪ねてきたのがマルセル。
相棒に彼女の後をつけさせ、彼女の本名や夫の存在まで知った彼は、
「自分の物にならなければ夫にすべてをバラす」とセヴリーヌを脅すのだった。
しかし、彼をようやく説得して帰らせたセヴリーヌが しばらくして窓の外で聞いたのは2〜3発の銃声。
そしてバルコニーから彼女が見たのは、打たれて倒れる夫の姿だった。
マルセルはそのまま車で逃走するものの やがて警官によって射殺され、一方の夫は 車椅子の不自由な身体になってしまう。
夫の看病をしながら、静かな日々を過ごし始めたセヴリーヌを尋ねて来たのはアンリ。
彼はピエールにすべてを打ち明けるという。
理由は、ピエールが不自由な身体になったせいで、セヴリーヌに迷惑をかけている罪悪感にさいなまれているので、
すべてを打ち明けることによって その罪悪感を払拭すべきだと彼が考えたため。
やがてアンリが立ち去った後、恐る恐るピエールに声を掛けるセヴリーヌ。
そして彼女が見たのは、ピエールが元気な身体で車椅子から立ち上がり、笑顔で彼女に語りかけてくる という美しい妄想。
ラスト・シーンには再び、2頭の馬に引かれた 2人の御者を乗せた馬車が田舎道を走るシーンが登場するものの、
オープニングとは異なり、明るい日差しと、希望にも似た明るい展望を感じさせる画像で 同作品は幕を閉じる。
夫と愛し合いながらも、性の行き違いから精神的に不安定で満たされなかった時は、幸せそうな上辺とは正反対に
淫らで病的な妄想ばかりを思い描いていたセヴリーヌ。 しかし、夫が不自由な身になったという不遇に見舞われた時、
常に自分に無い物を求めて その妄想を描く彼女が、
初めて穏やかな2人の生活を思い浮かべ、夫に対してようやく愛情に満ちた、安らぎの表情を見せることになるのである。

さて、先述のように映画 「Bell De Jour / ベル・デュ・ジュール」からインスピレーションを得るデザイナーは非常に多いけれど、
カトリーヌ・ドヌーブがこの作品の中で着用しているのは、オープニングで、背中から引き裂かれる真っ赤なアンサンブルと、
自宅に居るシーンで彼女が着用しているブラウンのボクシー・シェイプのドレスがイヴ・サンローラン。
そして彼女が 度々着用しているエナメル素材のコートは、メゾンの娼婦仲間が 「Cardin!, Tres Chic!(カルダン!?、凄く シック!)」
と声を上げるシーンがあるけれど、その台詞通り ピエール・カルダンのもの。
日本では、コスチュームすべてがサンローランのものと伝えられているけれど、実際はそうではないようである。
でもこの作品によって、最も有名になったファッション・プロダクトと言えば、なんと言っても Roger Vivier / ロジェ・ヴィヴィエのローファー、
”Bell De Jour / ベル・デュ・ジュール”。 その後Roger Vivierのシグニチャーとなるこのスタイルはシルバーの四角いピルグリム・バックルを
フロントにフィーチャーしたエナメル素材のもの。
同シューズは、カトリーヌ・ドヌーブ扮するセヴリーヌが、マダム・アナイスのメゾンを尋ねようか、どうしようか?と迷うシーンで、アパートの前を右往左往する
彼女の足元のクロースアップされている他、
セブリーヌが彼女に惚れ込んでしまうマルセルと メゾンのベッドでキスを交わすシーンでも、穴の開いたソックスを履いた彼と
Vivierのピカピカのシューズを履いた彼女の足が絡み合う様子が映し出され、2人の住む世界が異なる様子が象徴的に描かれている。
この映画が公開された1967年以降、ベル・デュ・ジュールは大ヒット・シューズとなるけれど、
このシューズが復活したのは、2002年にトッズやホーガンの経営者として知られるディエゴ・デラ・ヴァルが、
ロジェ・ヴィヴィエ亡き後の同ブランドを買収し、シューズ・デザイナー、ブルーノ・フリゾーニを起用して
新生Roger Vivierをスタートさせて以来。
以後、同ブランドからはベル・デュ・ジュールのハイヒール・ヴァージョン、”Bell De Nuit / ベル・デュ・ニュイ” (”ベル・デュ・ジュール”の
昼のビューティーに対して、夜のビューティーという意味)や、ハンドバッグ、最近ではサングラスなどのアクセサリーも
同じピルグリム・バックルを用いて登場。また今シーズンには、かかと部分にエラスティックが入った、ラウンド・トウ(丸いつま先)の
新しいバレエ・フラットも登場。
オリジナルのベル・デュ・ジュールから、大きくそのプロダクトラインを拡大するに至っている。

これに対してビューティーの世界では、メークアップ・アーティスト、フランソワ・ナーズのコスメティック・ライン、
ナーズで、1995年に発売以来のロング・セラーになっているのが、リップスティック ”Bell De Jour / ベル・デュ・ジュール”である。
フランソワ・ナーズも映画にインスピレーションを得た、カラー・パレットを展開することで知られる、メークアップ・アーティストで、
特に初期に発売されたリップスティックにはことごとく映画の作品名がつけられ、そこに登場するヒロインをイメージしたような
カラーが表現されている。
写真左、ナーズのリップスティックのベル・デュ・ジュールは、映画の中のカトリーヌ・ドヌーブの薄っすらオレンジがかった
ナチュラルなヌード・カラーをそのまま再現したもの。
マガジンのビューティー・エディター達に、「ネーミングを聞いただけで欲しくなった」と言わせたのがこのカラーで、
目にインパクトを持たせたセヴリーヌのメークの唇をやわらかく 色付ける大人のヌード・プリコットです。
「Bell De Jour / ベル・デュ・ジュール」は、アルゼンチン出身のフランス人作家、ジョゼフ・ケッセルの1928年の 同名小説を映画化したもの。
脚本は監督のルイス・ブニュエルと ジャン・クロード・カリエールの2人が書き上げており、原作を完璧なまでに映像にした
作品として高い評価を受けている。同作品は公開された1967年のヴェネチア国際映画祭で、最高の栄誉である”金の獅子賞”を受賞。
また、2006年には同作品の続編で、マノエル・デ・オリヴェイラ監督作品である 「Belle Toujours / ベル・トゥジュール (トゥジュールは”常に、いつも”という意味)」が、
同じくヴェネチア国際映画祭で上演されている。
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