La Corrida en France
パリから出掛ける フランスの闘牛

by Naomi Shinoda




闘牛というとスペインを思い浮かべる方が多いと思いますが、スペイン以外の国でも闘牛は多くの人々に愛されています。
フランスの闘牛は、先ずアルルの feria de Paques (フェリア・ドゥ・パック : イースター/復活祭) によってシーズンがスタートします。 その後、10月頃まで 南仏を中心にアルル、ニーム、ダックス、バイヨン等、各地で開催されますが、ここでは その中でも代表的なアルルとニームを 中心にご案内します。


アルルとニーム。ここは古代ローマ人が作った古代円形闘技場が闘牛の開催会場となっています。 古代ローマ人は ヨーロッパ、アフリカと 版図を広げ、彼らの建築は保存状態の良し悪しに差はあるものの、今でも各地に残っています。 円形闘技場(Arene、アレーナ)を例に取ってみると、フランスのアルルとニーム、イタリアのヴェローナは、 今でも現役として活躍し、アルル、ニームは闘牛、ヴェローナはオペラの会場として有名です。
2000年前の古代ローマ時代。その当時、ローマ人は 剣闘士(グラディアトール)と 猛獣、もしくは 剣闘士同士の殺し合いを娯楽として楽しんでいました。 そして2000年の月日が流れた今でも、同じ観客席で私たちはそれと同じようなシーンを 闘牛として見ることが出来るのです。
スペインやポルトガルなど、フランス以上に闘牛が盛んな国はありますが、2000年前の古代円形闘技場で闘牛を見ることができるのは、 ここアルルとニームだけです。 築2000年。座るところも石で堅く、隣の人とは肩が触れるほど窮屈ですし、新しい円形闘技場を建てるよりも これらを修復、保存するほうがずっとお金が掛かります。
しかし、古いものに価値を見出すフランス人(ヨーロッパ人)には座るところが堅かろうと、隣の人と肩が触れようと関係ありません。 そして、闘牛やオペラの時期と知らずにこれらの街を訪れると、「ホテルが取れない」、「お目当てのレストランは満席」というように 町全体に人が溢れ、お祭り騒ぎになっているのです。


アルルの闘牛は、先述の 「feria de Paques / フェリア・ドゥ・パック」と 「feria de riz / フェリア・ドゥ・リ」の2つ。 ニームの闘牛も 「feria de Pentecote / フェリア・ドゥ・パントゥコット」 と 「feria des Vendanges / フェリア・ドゥ・ヴァン・ダンジュ」の2つがあり、 「Feria / フェリア」 は通常 “お祭り” という意味ですが、フランス人にとっては “お祭り プラス 闘牛” を意味します。
そしてこの4つの「Feria / フェリア」 はそれぞれ、“イースターのお祭り”、“収穫のお祭り”、“ペンテコステ(キリスト教の行事)のお祭り”、 “ぶどうの収穫祭”といったところでしょう。


闘牛とは人と牛の勝負ですが、勝負と言っても人が勝つ事が前もって分かっている勝負です。 なので 勝負というよりも むしろ ”闘牛士が織りなすスペクタクル” と言った方が良いでしょう。 そのため、闘牛士が闘牛を射止めるまでの過程が一番大切になるのです。

ではこれから、闘牛の世界へご案内いたします。
1回のパフォーマンス(1枚のチケット)で、 3人の闘牛士が2回ずつ、合計6頭の闘牛を死まで導くことになります。


@ 挨拶
闘牛士(TOREROS)、闘牛(TORO)を育てた牧場の主人、その他、闘牛に参加する闘牛士の助手達や ピカドール(Picador / 槍方)達が 入場して 主催者に挨拶します。 闘牛士達はきらびやかな衣装を身につけての入場です。


A 牛の入場
ここでは、先ず助手達が カポテ(牛を導く布)を振り、牛を導きます。 これを見ながら闘牛士は牛の性格、攻撃力、状態などすべてをチェックします。 そして、その後は闘牛士本人がカポテを振ります。


B ピカドール (槍方) の入場
プロテクターを付けて、馬に乗り、長槍を持った ピカドールの入場です。ピカドールは突進してくる牛の首の後ろにある こぶのような所を長槍で突きます。 これは牛の頭を下げさせるのと、非常に攻撃性の高い牛の力を弱めるために必要です。
ここでピカドールが槍を強く突き過ぎて 牛が弱くなってしまうと、これから始まる 闘牛士と牛のスペクタクルが面白くなくなってしまいますし、逆に 充分に刺さなければ闘牛士にとっての危険が高くなってしまいます。そのため、この場面は 非常に大切なもので、 ピカドールの充分な知識と技術が必要とされます。
牛は刺されても、刺されても、馬に向かって突撃します。怖いもの知らずで 馬に突撃していく牛の姿は 言葉では表現できないほど勇敢なものです。 そして、この場面から一部の人々が苦手とする 血の場面に入ります。 ピカドールは馬の背の高いところから 自分の全体重を掛けて牛の背を長槍で突き、 牛の背からは真っ赤な血が流れ出るのです。 しかし、勇ましい牛の背から流れる血は、牛をさらに強く、美しく 見せるものでもあります。
時には牛があまりにも勢い良く突撃して、ピカドールが馬ごとひっくり返ってしまうこともあります。





C テルシオ・デ・バンデリリャ (TERCIO DE BANDERILLAS)
ピカドールが退場した後、助手たち、時には闘牛士本人がバンデリリャ(飾りのついた短い槍)を牛の背中に刺します。2本1組で3回、計6本の バンデリリャを刺します。 これは、飾りのために行うと言われています。


D 闘牛士の主催者への挨拶
闘牛士は通常、観客に牛の死を捧げますが、時には、観客の中にいる身内、恋人、主催者等、特定の人に捧げられることがあります。
そして時折そのサインとして闘牛士が帽子を投げますが、この時帽子の落ちる向きがポイントで、逆さに落ちた時は悪いことが起こるサインです。 日本でも以前子供達が「あ〜した、天気になーれ!」と靴を投げていたのと似ています。
また、逆さに落ちるのを嫌う闘牛士は 初めから地面に帽子を置いたりもします。


E テルシオ・デ・ムレタ (TERCIO DE MULETA)
ここからは 闘牛士と牛が1対1で 向かい合う場面。 闘牛士のムレタ(赤い布)の演技の始まりです。
闘牛士はムレタを使って、巧みに牛を自在に操ります。ここに到達するまでに、様々な場面が繰り広げられてきましたが、ここが一番のメイン。 500kg 前後の体で突進してくる牛に対して 足元一つ動かさず、その巨体を操る。 もちろん闘牛士は 牛以上に勇敢でなければなりませんし、彼らは常に死と隣り合わせで牛と向き合っているのです。 ここでの大切なポイントは闘牛士の足元が動かないことで、闘牛士の勇気が問われます。
若い闘牛士の中には膝をつきながらムレタを振ってみたり、牛の角を持ちながら演技してみたり、 牛が横を通り過ぎる時、ギリギリまで牛を接近させてみたり と、 危険を冒して 場を盛り上げようとする人も居ます。 でも、あくまでも観客に素晴らしいスペクタクルを披露することこそが一番大切で、 少しでもアクシデントが起これば、その場の雰囲気が損なわれてしまいます。
闘牛士の見せる演技が際立って素晴らしい時は、観客席からの 「オーレ!」 の掛け声がアレーナいっぱいに響き渡り、 それに合わせて楽団が音楽を奏でます。その時はアレーナ全体が1つになり、この瞬間ほど感動的な場面はありません。
あんなに大きな牛が、それよりずっと小さな人間に まるで赤ん坊のように操られているのです。


  F 死の場面
ムレタの演技が終わったあと、闘牛士はそれまで持っていた偽物の剣を本物と交換して、牛と向き合いながら 剣を首の後ろのコブのところに差し込みます。 左手でムレタをもって牛を下に向かせて、じっとさせて右手で剣を構える。 そして、掛け声と共に1m以上もある長い剣が スルッと根元まで牛の体に入り、心臓を貫通します。 そして、牛は前足を折りまげ徐々に体を落とし最後には力尽き地面に倒れます。 この最後の1突きが決まらず、長い剣が根元まで入らないために、何度も突き直して 牛を苦しませたり、 なかなか息耐えない牛を 今度は短剣で後頭部のあたりの急所を刺したりします。 これでほとんど牛は死をむかえますが、それでも殺せない闘牛士もいて、 闘牛士達による、よってたかっての刺し合いは 闘牛を残酷なものに変えてしまいます。 牛を苦しめていると観客席からはブーイングが、楽団は警告のラッパを鳴らします。 ムレタの演技がいくら素晴らしいものであっても、死の場面で失敗してしまったら それまでの演技は台無しです。


G 耳の授与と闘牛士の退場
ムレタの演技や死の場面が素晴らしいものだったら、観客は白いハンカチを振り上げ 主催者に牛の耳を要求します。
主催者がそれに応えて、主催者席から1枚の白いハンカチが出たら 牛の耳は闘牛士にプレゼントされます。 観客が1つの耳だけでは満足せず、もう1つの耳を要求し、主催者もそれに応えてもう1枚の白のハンカチを出せば、 2つ目の耳が闘牛士にプレゼントされます。 ちなみに私はまだ見たことありませんが、2つめの耳でも観客が満足しない場合、その次にご褒美として闘牛士に与えられるのは牛の尻尾です。
耳をもらった闘牛士は他の仲間たちと一緒にアレーナを1周しながら 観客からの声援を受けます。 花束が飛んできたり、座布団、上着とフランス人は興奮していろんなものを投げ込みます。 花束以外は闘牛士が それを拾って 持ち主のところに投げ返すという感じです。
闘牛士の成績は出場した回数に対してどれだけ多くの耳をもらったかで決まります。 そしていつも耳を勝ち取るためには 良い牛との出会いも必要です。 有名闘牛士になるにはその人の能力と同じくらいその人の運も左右します。 牛に攻撃性が乏しく、臆病だったりすれば、迫力や面白さに欠けるので、いくら闘牛士が1突きで牛を射止めても、 臆病な牛が殺される姿は、見る者には残酷に映るのです。   


H 牛の退場
牛はラバに引かれ退場しますが、良い闘牛だったときは観客の拍手の中、アレーナを1周して退場します。 この時は牛を育てた牧場主も出てきて一緒に観客の拍手に応えます。牧場主にとっては これほど名誉なことはありません。


I エンディング
牛が退場した後は会場の砂が整備され、次の闘牛が始まります。
ある程度の規模の闘牛場には解体所も設置されているので、殺された牛はその場で解体され肉屋に並びます。


闘牛の初心者は、La Rejoneada / ラ・レオネアダ (写真下)から入るのも良いかも知れません。
これは闘牛士が馬に乗って行う闘牛(Corrida a Cheval / コリダ・ア・シュバル)で、普通の闘牛よりスペクタクル性に富んでいます。 闘牛士はもちろん、馬もプロテクターをつけていませんが、向ってくる牛に対して、全く怯むことはありません。





Feriaのときは3〜4日間、朝から晩まで続けて闘牛が開催されます。毎日、朝から晩まで闘牛を見てもいいし、 有名な闘牛士のものだけを見るのも良いかもしれません。 しかし、闘牛は見れば 見るほど 好きになります。
闘牛士が良くても 牛が悪くてはいけないし、牛が良くても闘牛士が悪くてはいけない。 雨が降ったり、風が強かったりという天候のコンディションにも影響を受けるだけでなく、その助手たちやピカドールの働き等、全ての要素が揃って 素晴らしいスペクタクルが完成します。
闘牛は残酷なものという意見もありますが、勇敢に闘う意志のある牛と闘牛士の間には残酷さは見い出されません。 観客席には小さな子供連れの家族の姿も見かけられます。
フランスでは、テレビ番組や映画等に、子供用の視聴基準として、10歳以下、12歳以下、16歳以下に区分した制限を設けるなど、 「子供達に見せるヴァイオレンス」の見地では、日本より遥かに厳しいと感じます。 でもそのフランスで、闘牛に関しては何の制限も定められてはいないのです。
ヨーロッパでも闘牛を子供に見せることに対する意見は様々ですが、子供の頃からコンピューター・ゲームの中で、 殺し合いをして、殺人に対する罪の意識が鈍化してしまうよりは、 闘牛を目の前で見ることにより、命懸けで牛と向き合う闘牛士や、500キロもある牛の巨体が1突きの剣によって力尽きる姿に触れる方が、 命の大切さを学べるのではと感じます。



パリからのアクセス

【ニーム】
・ パリ・リヨン駅からTGV(フランス新幹線)で約2時間50分。駅から旧市街まで徒歩、約5分。
・ 飛行機ではニーム・アルル・カマルグ空港まで約1時間20分。空港から旧市街まで約7キロ。

【アルル】
・ パリ・リヨン駅からTGVでアヴィニョンTGV駅まで約2時間40分、そしてアルル行きのバスで約40分。
・ パリ・リヨン駅から直通のアルル行きTGVも1日1〜2本運行しています。所要時間約4時間。駅から徒歩約10分。


執筆者プロフィール:
篠田 直美 (しのだ なおみ)。
la culture francaise / ラ・キュルチュール・フランセーズ 旅のコンシェルジュ 代表
大学でフランス文化を学ぶ。卒業後、添乗員としてヨーロッパ(特にフランス)を中心に世界各国を 日本人の旅行者、研修旅行生らを案内。
2005年より フランス・パリに 滞在。添乗員としての経験を生かし、一般的な観光からフランス文化にふれる旅を日本人クライアントに紹介中。


la culture francaise ・ 旅のコンシェルジュ では、9月にアルルとニームで開催される「feria de riz / フェリア・ドゥ・リ」、 「feria des Vendanges / フェリア・ドゥ・ヴァン・ダンジュ」 の闘牛観戦ツアーを企画しました。
お問合せは、mail:tabinoconcierge@yahoo.co.jp もしくは tel: + 331-4603-4104 (フランスの電話番号)、090-9686-1242、まで。
(※フランスと日本の時差のため、電話での問合せは日本時間17:00〜02:00となります。)