L'Astrance / ラストランス
--- パリで最も予約が取れないレストラン ---

by Hideki Hashiga




フランス料理好きの間で ラストランスについて話題があがる時、必ずついてまわるのが予約の困難さである。
とにかく、このレストランは予約が取れない。パリの3つ星と言えども 1ヶ月前に連絡すれば、すんなり予約が取れる場合が多いことを考えると、 同店の予約の取り難さは突出していると言えるもの。
今では週休3日で、しかも年3回の休業期間もあるので、出来る事なら2ヶ月前には予約を済ませておきたい。 但し、昼間であれば、もう少し近い日付でも予約が入ることがあるようだ。
では、それだけ人気がある ラストランス とは一体どんなレストランなのだろうか?

シェフのパスカル・バルボ氏は、パリの三つ星レストラン、アルページュ/Arpege のシェフ、アラン・パサールの右腕として活躍し、 2000年秋、若干27歳にして同店のメートル・ド・テル(給仕長)のクリストフと共にラストランスをオープンした。 そして、その直後から同店では 予約の電話がひっきりなしに鳴り続けることになる。
翌年のミシュランでは、開店後、僅か半年にもかかわらず1つ星を獲得、2005年版のミシュランでは2つ星に昇格。また、2005年版のゴーミヨで パスカル・バルボは 「シェフ・ド・ランネ」(シェフ・オブ・ジ・イヤー、すなわち ” その年のシェフ ”)に選ばれている。 まさに飛ぶ鳥を落とす勢いと言えよう。


現在、パリでも最も地価が高い16区のパッシー地区にある同店へは、散歩がてら歩いてアプローチをしたい。 パッシーの駅から階段を下りるとベートーベン通りという短い通りがあり、その左手にラストランスはひっそりと佇んでいる。
内装はイエローを基調としたコンテンポラリーなもの。特別なオケージョンの「一世一代のディナー」というよりも、 食べることが好きな仲間同士やカップル、しかも比較的若い層が似合うレストランだ。
テーブル同士の間隔を広く取っており、キャパシティは30席程度、1階に加えて、螺旋階段で上がって行くメザニン(中2階)に2テーブルがあり、 ここからは店内を見下ろしながら、食事が出来るようになっている。


ムニュ(コース)は昼が75ユーロ、120ユーロのいずれか。夜は150ユーロのみ。
ラストランスのコースは 「ムニュ・シュープリーズ (驚きのコース)」 というネーミングされており、その名の通り、事前に料理の説明が無い。 日本料理の「おまかせ」に近いものと考えたほうが良さそうだ。でも、もちろん最初に苦手な食材を尋ねられるので、食べられない料理が出てくる心配は無用である。
そして出てくるのは、 食材を巧みに使いこなした、サプライズをもたらす料理。
バルボ氏の料理の特徴はバターとクリーム、そしてソースを極力使わないこと。 これは彼が修行を積んだアルページュが、「素材の力を生かす」という哲学を持っていることに通じるもの。 また少量 多品目の構成で、「フランス料理は食べたいけれど、重いのはちょっと…」と躊躇する必要もない。







もう1つの料理の特徴は、和の食材を積極的に取り入れているということ。 たとえば舌平目の蒸し焼きに添えられていた5種類の季節野菜(かぶや人参など)には 出汁が効いていたのだが、 その出汁のとり方はパーフェクトと言えるものだった。
ニューヨーク同様にパリでも日本の食材は人気が高く、今やミシュランの星付きレストランで 和食材を見かけない事の方が珍しくなっているが、 その多くは日本人から見ると、ややエキセントリックな使い方をしている場合が多いのが現状。 それらと比べれば、ラストランスの和食材に対する解釈は「際立っている」と評価されるもの。
これは厨房に居る日本人キュイジニエ(料理人)の能力の高さとも言えるし、 彼らの能力を引き出しているシェフの力量とも取れるものである。
前述のように、同店のコースは 次に何が出て来るかが分からない上に、出された料理がいずれも独創的なものであるため、 食べながら「食材は何であるのか?」を 考えさせられることになる。 サービスの男性陣に食材について訊ねると、逆に「何だと思いますか?」と 問い返してくるような 茶目っ気があったりもする。

そんな独創性の例を挙げれば、コースの間の口直しに出されるのが 焦がしたパンのスープであったり、 アヴァン・デセール(デザートの前に出される小さなデザート)には 唐辛子を使ったソルベ(シャーベット)が出てくるといった具合。
言葉にしてしまうと やや奇想天外な印象も受けるが、実際には それがフランス料理のオーソドックスな技法と上手く噛み合っており、 違和感を感じさせず、しかも美味極まりないのである。

グルメの人なら誰でも堪能出来るのは言うまでもないけれど、同時にフレンチをそれほど食べつけていない人でも すんなり楽しめる 気軽さも兼ね備えている上に、サービスも行き届いたレストラン。
今、パリでも最も旬なこのラストランスをトライしない手は無いだろう。



L'Astrance
4, rue Beethoven  75016 Paris (Metro : 6号線 Passy駅より 徒歩5分)
Tel : +33 (0) 1 40 50 84 40
Fax: +33 (0) 1 40 50 11 45

予約は2カ月前の1日から
休 日 : 土・日・月曜日
営業時間 : ランチ 12:30〜13:45、 ディナー 20:00〜21:15
休業期間 : 2月26日〜3月4日、7月28日〜8月27日、10月27日〜11月7日
コース: ランチが70ユーロ。 ディナーが150ユーロ。ワイン込みで 250ユーロ
ミシュラン ★★
ゴーミヨ  19点
メニューの言語 : フランス語
サービスの言語 : フランス語、英語(問題なく通じます)






執筆者プロフィール:
橋賀秀紀
トラベル・ジャーナリスト。
東京生まれ。海外旅行関連の執筆を手がける。
フランス料理店には年間平均60回ほど足を運ぶ。