Viktor & Rolf
H&Mがゲスト・デザイナーの白羽の矢を立てたヴィクター&ロルフ
パリ・コレクションで遡る そのデザインの軌跡




Viktor & Rolf ./ ヴィクター&ロルフは、イスラエル生まれの ヴィクター・ホスティンと、 オランダ生まれのロルフ・スノーレンの2人によるデザイナー・チーム。
この2人の名前が、世界各国のメディア、それもファッション・メディアだけでなく、一般メディアにフィーチャーされたのが、2006年5月初旬のこと。 というのも激安アパレル・チェーンとして知られるH&Mが、11月に発売する一流デザイナーを招いたリミテッド・ラインの ゲスト・デザイナーに、大方の予想を裏切ってヴィクター&ロルフを選んだためだった。

共に今年37歳となるヴィクター・ホスティンとロルフ・スノーレンは、共にオランダのアーネム芸術アカデミーを卒業。 ブランド・デビューは1993年のことで、同年には、フランスのイェールのヨーロッパ新人デザイナーコンテストに参加。 プレス賞、レディス部門最優秀賞等を受賞している。
2000年秋冬シーズンには、パリのプレタポルテ・コレクションにデビューを果すが、2人のコンセプト・ドライブの(コンセプトが先行する)クリエーションは、 商業的に受け入れられるにはあまりにも難しいもので、彼らの風変わりなファッションと、そのショーの演出を楽しむプレスや バイヤーは少なくなかったものの、ビジネスとしては数年 地味な活動を続けることとなった。

しかし、徐々にそのクリエイティブなスタイルを守りながらも、ファッション・ビジネスという側面に目覚めてきた彼らは、 2005年春夏シーズンに、初のフレグランス、「Flowerbomb / フラワーボム」を発売。 ガラスの手榴弾のようなボトルに、「フラワー爆弾」と呼ぶに相応しい濃厚で、爆発的にセクシーな香りを詰め込んだフレグランスがマーケットに 登場すると、プロモーションの広告や、記事がメディアに掲載されるようになり、デザイナーとしてはあくまで地味な知名度に止まっていた彼らの名前が、 徐々に一般に知れ渡るようになってきた。

それでも、5月に発表されたH&Mのゲスト・デザイナーに選ばれたというニュースは、ファッション業界のみならず、ウォール・ストリートまでもを驚かせたのは、この候補に彼らよりずっと知名度がある、ミューシャ・プラダやトム・フォードといったデザイナーが上がっていたことに加えて、 ヴィクター&ロルフのクリエーションがあまりにクチュール的で、H&Mバージョンに落とし込むことが難しいと思われるブランドであるため。
また、今年で3回目を迎えるH&Mのゲスト・デザイナーによるリミテッド・ラインは、 初回、2004年がカール・ラガーフェルド、2回目に当たる2005年がステラ・マッカートニーと、ヴィクター&ロルフより知名度も高く、 一般大衆がそのシグニチャー・スタイルを頭に描き易いデザイナー。 そのオリジナルが高額であるだけに、人々は安価なH&Mバージョンを求める訳だけれど、 これに対してヴィクター&ロルフは、シグニチャーと呼べるスタイルが一般に知られていないために、 それが安価で手に入ることに、人々がどの程度の価値観を見出すのかが疑問視されているのである。

とは言っても、現在のパリ・コレで、プレスやバイヤー達が楽しみにしているのは、シャネルやヴィトンのようなブランドのショーよりも、むしろ、 このヴィクター&ロルフやオリビエ・ティスケンスのロシャス、アルベル・エルバのランバン等、 どんどん進化する力を持っている若いデザイナー達のコレクションであるのも事実なのである。
言ってみれば、今回のH&Mのチョイスは、ファッション業界の玄人ウケを狙ったようにも見受けられるものであるけれど、 噂ではH&M側がヴィクター&ロルフに決定する決め手となったのは、彼らの2006年の秋冬コレクションの出来栄えの 素晴らしさであったことも伝えられている。

そんなヴィクター&ロルフの進化ぶりについては、百聞は一見にしかず。 ということで、ここでは、2001年春夏シーズンから彼らがパリで見せた最新のコレクションである2006年秋冬シーズンまでの 6年、12シーズンを遡って、彼らのクリエーションのビジュアル検証を試みました。
彼らのデザイナーとしての姿勢に、徐々にマーケッタビリティが感じられていく様子がよく分かります。



2001年 春夏コレクション

テーマはブロードウェイ。モデルは皆、ライザ・ミネリのようなヘアとメークで登場し、ステージ上でダンスを繰り広げた。 もちろん本人達も、ステージ・パフォーマーのような出で立ちで、エンディングに登場。
当時、一般ウケなど全く考えていなかった彼らの姿勢が非常に顕著なコレクション。





2001年 秋冬コレクション

ブラック・ホールにインスピレーションを得たというコレクション。光とエネルギーを吸い取ってしまう宇宙のブラック・ホールを表現するため、 モデルの肌を真っ黒に塗りつぶし、ブラックのアウトフィットと同化させており、服はシルエットは分かっても、ディテールは殆ど 分からないコーディネートが多かった。本人達も肌をブラックに塗って、ブラックホール・ファッションで登場。





2002年 春夏コレクション

前回のランウェイが真っ黒だったのに対して、今回は発表作品全てが白1色というコレクションを展開。 普段に着用出来そうな服と、シアトリカルなファッションが混じっていたシーズン。





2002年 秋冬コレクション

白1色のコレクションの次に登場したのがブルーのコレクション。
でもブルーの単色コーディネートだけでなく、他の色の無地やプリント物とのコーディネートも見られて、 段々頭が柔らかくなってきたのが感じられたコレクション。エンディングには彼らもブルーのアウトフィットで登場。





2003年 春夏コレクション

プリントものが沢山見られた鮮やかなコレクション。ストリート・フェスティバルのようにモデルが踊りながら登場した、 フォトグラファー泣かせのランウェイ・ショーを展開





2003年 秋冬コレクション

カラーではなく、ディテールにこだわるという新しい側面を見せたコレクション。 このシーズンに彼らがこだわったのは襟。襟を2〜3枚から、5重、6重にも重ねたレイヤーやが見られていた。





2004年 春夏コレクション

彼らのコレクションで、初めてコマーシャル性が感じられたのがこのコレクション。
モデル達は皆、個性的でありながらも、生活の中で着られそうな服でランウェイに登場し、彼らのコレクションが初めてバイヤーから 評価を得たシーズン。でも彼らにシアトリカルなクチュール・テイストを求めていたプレスからは物足りないという声も聞かれていた。
このシーズンはモデル全員だけでなく、ヴィクター&ロルフ自身も真っ赤なシューズを履いて登場した。





2004年 秋冬コレクション

モデルが全員、鹿の角を頭に付けて登場したのがこのシーズン。彼ら自身でシューズを手掛け始めたシーズンであっただけに、 アクセサリーなどのディテールにこだわりを見せたコレクション。 でも、作品としては面白味に欠けると同時に、彼らの持ち味が発揮されていないという辛口の批評が聞かれていたシーズン。





2005年 春夏コレクション

彼らの初のフレグランス、フラワーボムのプロモーションを兼ねた、フラワーとボム(爆弾)の2つのシーンで展開されたコレクション。 これまでの彼らのコレクションで、最もシアトリカルで、視覚的な美を追求した演出が行われていた。 前半はブラック1色で、女性戦闘パイロットをイメージしてモデルの顔はヘルメットで覆われているけれど、後半は一転してピンク、それもロゼの世界。 モデルの顔もほんのりとピンクに染まり、美しいピンクを中心とした華やかな作品が次々と登場。 過去のシーズンのスランプを吹き飛ばしたと言われる圧巻のコレクション!





2005年 秋冬コレクション

名実ともに「夢見るようなコレクション」と言われたこのシーズンは、コートの襟がそのまま布団と枕になった作品や、 布団がそのままドレスになった作品、イヴニングの肩に枕を巻きつけた作品など、ドレスアップしたまま眠れるようなクリエーションを展開。 着用するにはジョークが利き過ぎた作品に混じって、至ってシックで、まともな作品が登場して、不思議なバランスを保っていたコレクション。





2006年 春夏コレクション

ショーの順番をさかさまにし、デザイナーが登場するエンディングとイヴニングからスタートし、ショーが終わりに近付くにつれて、 どんどん軽装になるという意表をついた構成で展開されたコレクション。 でも、作品の評価は決して高いとは言えず、中途半端なクリエーションが目立ったシーズン。





2006年 秋冬コレクション

モデルの顔を、バスケットのようなヴェールで被ったコレクション。奇抜なプレゼンテーションであったものの、服は至ってシックで エレガント。女性が着られる、着たくなるドレスやスーツに溢れていた彼らのこれまでのベスト・コレクション。 特に、ロマンティックなイヴニングと、トレンチ・コートが高い評価を獲得していた。