May Week 2, 2016
★ Dream VS. Reality
自分の理想と現実のギャップに耐えられません


秋山様
こんにちは。私は、秋山さんとキューブニューヨーク、そしてこのコーナーの大ファンです。 毎日、仕事で疲れて家に帰宅した時に読み、とても癒されています。
今回もし私の悩みについて、直接秋山さんのお言葉をいただけたら、こんな嬉しいことはありません。

今、私はこの先のキャリアについて悩んでいます。
私は、高校生の時からファッション雑誌の編集者になることを夢見て、 海外のファッションの大学に留学までしました。卒業後帰国し、新卒でいきなり念願のファッション誌の編集部に入社することができました。 しかし実際に勤めてみると、毎日の深夜残業に加え、パワハラ、イジメ、罵倒が飛び交うような厳しい職場で、 そんな過酷な労働環境に耐えることができず、あんなに夢に描いていたのにもかかわらず、たったの1年で辞めてしまいました。

辞めた後はなかなか職が決まらず、アルバイトで自分の好きなブティックの販売員をしたり、 好きなアート系の本を置く書店に勤めたり、自分好みのブランドを取り扱うPR会社でアシスタントをしたりしてきました。 どの仕事も「自分の好き」を軸にして選んできましたが、リストラにあったり、体調を崩したりで、 結果的にどれも1、2年しか続いていません。 今、辞めた理由が外的要因にあるように書きましたが、内心、会社や業界の人達のことがあまり好きになれないという思いも抱えてはいました。

そして年齢も30歳を越え、これが最後の転職、と覚悟をして職探しをしている時、 親戚のコネで、「地味だけど、堅実で安定した良い会社」ということで、今まで自分が選んできた自分好みの世界とは全くかけはなれた、 不動産業界の会社を紹介されました。最初はあまり気が進みませんでしたが、職探しに疲れていて とにかく身を安定させたいと思っていたのと、実際に面接に行ってみたら、今までいた業界とは違い、 保守的だけどしっかりしていて、温厚で、おっとりした社風に安心し、ここに決めてしまいました。

そして勤め始めて2年近くが経ちました。労働環境が良く、社員も良い人ばかりのいわゆるホワイト企業で、 居心地は良いです。一番「自分好み」じゃない会社が、今まで勤めた会社の中で一番居心地が良いなんて、 何か皮肉のようですが…。
ですがそれに反し、最近だんだんと、この会社に勤めている自分自身に嫌気がさすようになってきてしまいました。 自分と、自分が今置かれている環境が嫌でしょうがありません。理由は、自分が思い描く「理想の自分」と、 「自分好みではない会社で働く現在の自分、その会社に勤め続ける将来の自分」のギャップが激しいということ、 そしてそういう状況を招いた自分自身の、考えの浅はかさや甘さ、忍耐力の無さ、努力不足に嫌気がさしているのだと思います。

私には、自分が特に元々裕福で美人で頭が良いわけでもないのに、変にプライドと理想が強いところがあり、 「シャネルを持つ高校生でありたい」と思っては お小遣いをためて無理してシャネルバッグを買ったり、 「3カ国語は話せる女でありたい」と思っては必死で語学を勉強して身につけたりと、 色々追求してきました。
ちなみにその頃から一貫して持っている「理想の自分」というのは、そんなのレアケースだと言われそうですが、 海外系のファッション誌によく取り上げられるような、オシャレな業界で働き、 経済的に余裕があり、幸せな結婚をして、可愛い子供もいて、かつ自身もオシャレにしているキャリアウーマンです。

周囲にはこんな本音は言えませんが、結局私は、自分が満足できるような華やかな職場で仕事をし、 かつ労働条件と人間関係だけは現在の会社のような恵まれた環境の、 「美味しいとこ取り」をしたいのだろうと思います。 逆にそんな夢のような職場があれば、何が何でもその会社に長く居続けると思いますが…。
自分は一体どうしたらいいのか悩んできましたが、結局道は2つ、辞めるか続けるか、しかないのは分かっています。 ですが、どちらの道に行けばいいのか、全く分かりません。
今、分からないと書きましたが、今の会社、興味の持てない不動産業界に ずっと居続けるのは絶対に嫌だと内心思っています。 だけど同時に、こんなにコロコロと職場を変えていては、周囲からの信用も失うし、 一生を通じて結局何も成し遂げることができない、とも思っています。

長々と、お恥ずかしい限りの自己中心的な悩みでごめんなさい。どんな厳しい言葉でもかまいません。 私はどちらの道に進むべきなのか、この先仕事に対し、どういう風に考えていったらいいのかなど、 何かアドバイスをいただけないでしょうか。どうぞよろしくお願いします。

-T-




Tさんのお悩みを私が少なからず理解できるのは、私もファッションが大好きで、一度は普通に丸の内の一部上場企業でOLをしていましたが、 そんな自分がやりたくない仕事をしている状態がどうしても嫌で、転職したという経験があるためです。
私の場合、まずはファッション業界でもハードルが低いフォーマルの分野に転職し、 その後、ファッションのマーケティング会社に勤めました。どちらも丸の内の会社の 9 To 5の勤務時間や しっかりした待遇に比べると、 残業が多く、お給料は安く、人間関係もあまり好きではありませんでしたが、 仕事は好きだったのと、何より遣り甲斐があって、学ぶ事が沢山あったので 自分の将来のための勉強と思って務めていましたが、 どちらも職場での限界を感じた時点で辞めたので、さほど長くは務めませんでした。 でも2つ目の仕事でのNY出張を機に NYのFIT(ファッション工科大学)で 勉強したいと思うようになり、それが私がNYに住み始めるきっかけの1つになりました。

しかしながらFITで学ぶうちに、ファッション業界というものに ほとほと失望させられて、 この業界に勤めたら貧乏人にしかなれないという現実を見せ付けられたこともあり、 仕事が見つかってヴィザを取得した後は、 あっさり休学してしまったのがFITでした。 それほどFITのディグリー(学位)などあっても、将来に役に立たないと思えたのと、 見つけた仕事がアメリカで編集を行う 日本の業界紙のファッション&ビューティー・エディターでしたので、 仕事をする方が よほど実践的にファッション業界を勉強することが出来ました。
私はそもそもファッションのクリエーションの側よりも、マーケティングに興味があったので、 業界紙の視点でファッションの記事を書くのは苦になりませんでしたし、 何を記事にするかを 殆ど自分の裁量で決められたので、仕事は楽しかったのですが、 やがて記事を書いて 撮影に立ち会うだけで、一向に収入が増えない仕事、 自分の能力が金銭面で評価されない仕事に遣り甲斐が見出せなくなっていたところで、 雑誌が休刊になったので、別の道を模索するしかなくなりました。
でもその時点では、取材を通じてアメリカのファッション業界、及び広告を含むファッション・メディアの内側をかなり見てきたので、 それを仕事にするより、一流ファッション・ブランドの顧客になる人生を目指す方にシフトしていました。

さて話をTさんのキャリアに移させていただくと、私は自分が嫌いな仕事を続ける辛さを理解しているだけに、 自分らしく生きるため、人生において後悔をしないために、自分のやりたい仕事を追求するというポジションには反対はいたしません。 でもそれは、「その仕事によって自分が目指す何かを達成したい」、「自分のアイデアを具現化したい」 、「世の中に貢献したい」、 「人のために何かをしたい」、「自分の可能性を試してみたい」という人生における建設的な意思や目標に基づく場合で、 「海外系のファッション誌によく取り上げられるような、オシャレな業界で働き、 経済的に余裕があり、幸せな結婚をして、可愛い子供もいて、かつ自身もオシャレにしているキャリアウーマンになる」 という上辺の格好だけで、中身が希薄な目標のためではありません。
厳しいことを申し上げて失礼なのですが、Tさんは 雑誌の2〜3ページに掲載されるような姿やスケジュールで、 人生を送っているキャリア・ウーマンが本当に存在するとお考えでしょうか? 実際には そんなページに掲載された女性達さえもが、そんな女性像はレア・ケースどころか、 存在しない偶像だと考えているのが普通です。 大人の人間の生活には 数ページの取材記事に描かれない、描けない側面が沢山あります。
周囲が思うほど財産が無くて 常に金策に追われているケースもあれば、夫の愛人問題に悩まされていたり、 子供がドラッグ中毒であったり、何不自由の無い生活に退屈していたり、本当の友達がいなくて孤独であったり、スノッブな私立校のママ友の 派閥争いに巻き込まれていたりして、マルチミリオネアでも ビリオネアでも、経済レベル、社会的ステータスにかかわらず苦境は付き物ですし、 人が羨む存在ほど 周囲が思い込んでいる自分と実際の自分のギャップに嫌気が差していたり、 いつか人にそれを見破られることを恐れていたりするものです。

メールを拝見した限りでは、Tさんがご自分の理想像として掲げるのは、雑誌にフィーチャーされて 人に見せびらかせる人生、 誰もが憧れる絵に描いたような人生とお見受けしましたが、もしそれがTさんの夢であり、目標であるのなら、果たしてそれを誰にに見せびらかして、 それによって一体何を達成、もしくは獲得しようとしていらっしゃるのでしょうか?
どんなにトレンディなレストランで 最新のファッションを身に纏ってスナップされたとしても、見目麗しい高級コンドミニアムでワイングラスを片手に リラックスしてポーズをしたところで、次の号でもっと若く、美しく、リッチでラグジュリアスな女性が登場すれば、 忘れ去られたり、比較&卑下されるだけの存在になることが、Tさんが目指す人生なのでしょうか?

雑誌に取り上げられるかどうかは別として、Tさんの理想像の中の 「幸せな結婚をして、可愛い子供もいて、自身もオシャレにしている」というのは どんな仕事をしていても 本人次第で可能なことです。また「経済的に余裕があり」がどの程度の給与や生活レベルを意味するかは 個人の尺度の問題なので、この部分も保留するとして、 Tさんのご質問のポイントであり、Tさんが最もフラストレーションを感じていらっしゃるのが「オシャレな業界で働き」 という部分です。
では具体的に Tさんが メールに書いていらした「自分が満足できるような華やかな職場」、「オシャレな業界」とはどんな職業でしょうか? タワー・ビルディングの中のモダンで洗練されたインテリアの広々としたオフィスで、スタイリッシュに装った社員が働く世界でしょうか? その世界はファッションでしょうか?メディアでしょうか? ITでしょうか? そこでTさんは一体何がしたいのでしょう? その世界でのTさんの適性に見合った仕事、企業が経済的な余裕をもたらすだけの給与を支払ってくれるけの 能力をTさんが発揮できるお仕事は何なのでしょうか? それが具体的になっていない限りは、転職を試みたところで、どうにもならないのは目に見えています。

またTさんは どうして「自分が満足できるような華やかな職場」、「オシャレな業界」にこだわるのでしょうか? そこに務めて、雑誌のグラビアにフィーチャーされたいからなのでしょうか? 職業を言っただけで 友達に羨ましいと言って欲しいからなのでしょうか? それとも、そこに務めて華やかな世界の一員になれば、華やかな交友関係が出来て、 そこからとんとん拍子に将来が開けて行くと考えていらっしゃるのでしょうか?

アメリカにはグラマラスとは無縁の世界にもスターが存在します。 ファッション誌にフィーチャーされる美人で高給取りで、ファッショナブルな不動産ブローカーも居れば、 高額不動産ブローカーをフィーチャーしたリアリティTVも放映され、登場するブローカー自身もマルチミリオネアになっていて、 常にビスポークのスーツでファッショナブルに装っています。そのリアリティTVのブローカーの1人は、俳優として全く仕事がなかったので、 不動産ブローカーになり、リアリティTVに登場して人気が出てからというもの、数本の映画やTV番組に 俳優として起用されるようになりました。
医療の世界においても、インスタグラムで100万人以上がフォローするドクターも居れば、 セレブリティをクライアントにして、ファッション誌やメディアのパーティーに頻繁に登場する存在も珍しくありませんし、 もちろんリアリティTVでスターになるドクターも居ます。
要するにどんな業界で働いていてもスターになれる人はスターになるものですし、 逆にどんなに華やかな世界で働いていても、 地味な仕事しかあてがわれることなく終わる人も居るものなのです。 大切なのは自分が輝ける職場に居ることで、職場が華やかである必要などありません。

また、Tさんは ”自分が思い描く「理想の自分」と、 「自分好みではない会社で働く現在の自分、その会社に勤め続ける将来の自分」のギャップが激しいということ、 そしてそういう状況を招いた自分自身の、考えの浅はかさや甘さ、忍耐力の無さ、努力不足に嫌気がさしているのだと思います” と ご自分に厳しいジャッジをしていらっしゃいましたが、 未だ30代のTさんがこの時点で、夢が適った完璧な人生を送っている必要がどこにあるのでしょう? Tさんの人生はあと5年で終わる訳でもなければ、締め切りが設けられている訳でもありません。

大変失礼ながらTさんのメールを拝見して、理想像が高いものの 実態が無く、 ご自身の現実に対する自己批判が厳しすぎるという印象を受けました。 通常、これほど高い理想像を描く方というのは、ご自身に対する評価も ”夢が一杯”と思えるほど甘い場合が多いのですが、 Tさんの場合、どんな頭脳明晰な美女が思慮深く、忍耐強く、努力をしても達成が難しい理想像を掲げながら それが出来ないのは自分の考えが浅はかで、忍耐力がなく、努力不足だと責めている訳で、 それではどんな仕事を選ぼうと、どんな職場に移ろうと幸せになれないと思えてしまいます。

そこでお伺いしたいのは、Tさんはどんな時に幸せを感じるのでしょう?最後に自分が幸せだと思ったのは何時でしょう?
以前にもこのコラムに書きましたが、どんな人生を送っていても、どんな目標を掲げていても、 人間が最終的に目指すべきは自分を幸せにすることです。それが達成されない人生には意味がありません。 そのためには 自分にとっての幸せは何かを知る必要があります。
私がTさんのメールから感じた第一印象は、Tさんがご自身にとって何が人生の幸福かを 理解する前に、理想の偶像を築き上げて、その偶像を崇拝し続けているというものでした。 ですので理想と掲げるアイデアに縛られて、それが幸福を追求する障壁にさえ見受けられてしまいます。

どんな優秀な陸上選手でもいきなり高いハードルを飛び越えるのは不可能です。 トレーニングをしながら、徐々にハードルを高くしていくからこそ記録が伸びるのです。 ですのでTさんにも、達成不可能なほどの理想を掲げて それに到達できない自分を責めるより 一歩一歩現実的なステップを踏みながら理想に近づくという形で 人生のブループリントを描き直していただきたいと思います。
苦言を呈させて頂くならば、Tさんのメールからは掲げた理想とのギャップに対する失望は感じられても、 それに近づこうとする前向きな姿勢が欠落しているように思われました。

英語には「Everything Happens For A Reason」、すなわち”全ての出来事は、何らかの意味があって起こっている” という言葉がありますが、それは私が今まで生きてきて 本当に心から感じることです。 私が今までやってきた仕事、出会った人々、良い出来事も、悪い出来事も 全て現在の私という人間が形成される要素を担っています。 ですので Tさんが今、不本意な気持ちで不動産のお仕事をしていたとしても、それは Tさんが理想の人生に失敗しかかっているからではなく、 何らかの意味があって、将来のためにTさんが そこで何かを学ぶために与えられた時間だと思って間違いないのです。
大切なのは、どんな状況にあっても、 それが幸福でも そうでなくても、そこから出来る限りのことを学んで 次のステップに備えることなのです。 それは、年齢や社会的ポジション、財力に関係なく人間が生きている限り続けて行くべきことです。
これを機会にTさんには ご自分が描いていらした理想像から解き放たれて、もっとしなやかに そして 自分を励ましながら、 毎日幸せが感じられる生活を送ることを心掛けて頂きたいです。 それによって、ファッションでは決して演出する事ができない内面からの女性の魅力が備わってくるはずです。
今までTさんは外から見た華やかさばかりを追求していらしたように思いますが、本当の人間の魅力、女性の美しさというのは 外から演出されるものでなく、内側から輝くものです。
その意味で、これからは外観や体裁よりも、本質に目を向けて生きて行って頂きたいと思います。

Yoko Akiyama

追記:
このコーナーは2012年11月からスタートしましたが、程なく Cube New Yorkのウェブサイトの中で最もアクセス数の多いページになりました。 そうするうちに 特にここ1年ほどの間に頂くようになったのが、「詳細を説明すると自分のIDが分かってしまうので、 サイトに掲載されない形でアドバイスが受けられないか?」、もしくは「NYに行った時にアドバイスを直接受けられないか?」といったお問い合わせでした。
これまでは、一部の例外を除いてはそれらへのアドバイスはご遠慮していましたが、 今後は、少しずつそういったリクエストにお応えしていくことにいたしました。
その場合は、Will New Yorkでご提供しているレクチャーやクラス同様の有料セッションとなりますが、 日本在住の方のためにはスカイプなどで、NYにいらした方のためには直接お会いしてお話させて頂きます。 私自身も、一方的にメールで状況をご説明いただくより、こちらからご質問をして そのインターアクションから 分析してお答えしたいケースがとても多いので、Q&ADVのコーナーより 更にパーソナルなご対応をさせて頂けると考えています。
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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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