Oct. Week 4, 2016
★ "Dealing with Unreasonable Client"
クライアントに能力で評価してもらうためには?


秋山曜子様、
初めまして。このコーナーやキャッチ・オブ・ザ・ウィークのコラムを毎週とても楽しみに読んでいます。 特にこのコーナーには、自分の悩みではなくても今まで何度助けられたかわかりません。
私もこのコーナーにメールをする皆さん達と同じように、考えた挙句、秋山さんにアドバイスをして頂きたいと思ってメールをすることにしました。

過去2年ほど、あるフリーランスの仕事をしてきました。 仕事量の割にお金が良い訳では無いのですが、自分にとって専門職と言えるのがその仕事しかなかったのと、 仕事をしている会社が そのうち正社員として採用してくれる可能性があるという言葉を信じて、なるべクォリティが高い仕事を心掛けてきました。
ところが少し前に、別のフリーランスの人が正社員として雇われたという話を聞きました。 それを私に話してくれた社員によれば、そのフリーランスの人よりも私の方が仕事ぶりがしっかりしていて、完成度が高く、簡潔で分かり易いそうで、 採用された人は 頭をフル回転させても分からないような内容の仕事をすることが多かったらしいのですが、 それが何も分からない部署のチーフには優秀に思えたらしくて正社員になったそうです。

私は以前 その人の仕事ぶりを見たことがあるのですが、見れば見るほど混乱するような仕事ぶりで、 どうやって修正したら良いのか、手の付けようが無いような感じだったことを覚えていて、その人が採用されたことにショックを受けましたし、 そんな仕事が優秀と見なされたのにも驚きました。
今でもその会社のフリーランスをしていますが それからは何となく頑張っても認めてもらえないような虚しさや、訳が分からないような仕事をする人の方が きちんとオーガナイズされた仕事をする私よりも評価された悔しさで、仕事に対するやる気とか熱意みたいなものが無くなってしまいました。 頑張っても報われないとか、能力で評価してもらえないという人は世の中に沢山居るのはわかっているのですが、 この先一生、そんな不公平と向き合っていくのかと思うと気が重くなってしまって、 どうやってそれを割り切ったり、消化したりして仕事をしていったら良いのかわかりません。 何かアドバイスをいただけないでしょうか。

こういうことがあると、仕事を続けるよりも、誰か自分のために稼いでくれる男性を見つけて結婚してしまった方が簡単だと思えてしまいますが、 今時、一生頼りになるような男性がそう簡単に見つかる訳ではないですし、家庭や子供ができても、自分の収入源になったり、自分で打ち込めるものがあった方が 良いと思うので、長く仕事を続けていくためにも、こういう時にどうしたら良いかを教えて頂けたらと思います。
よろしくお願いします。

- T -




私も、CUBE New Yorkのサイトをスタートする前、そしてスタートしてからもビジネスが軌道に乗るまでの間、 フリーランスのリサーチャー兼ライターとして仕事をしていた時期があって、その時代に Tさんと似たようなフラストレーションを味わった経験があります。

私がリサーチの仕事を請け負っていたのは一部上場の企業数社で、 仕事内容は日本に進出していない企業の業績分析や、その競合企業との比較、マーケット展望の分析等で、 同じリサーチ&執筆の仕事でも 雑誌の記事の10倍はフィーを貰っていたので、当時のライター仲間に比較すると遥かに効率が良い収入だったのを覚えています。

私はレポートを読む立場の人のことを考えて、できる限り簡潔に、分かり易く、読むのが苦にならない内容を心掛けていたのですが、 ある時、クライアントの1人がNY入りした際に、「もっとレポートの専門レベルを上げて欲しい」というリクエストを受けました。 でもそのクライアントが話す内容は、私が書いたレポートの請け売りで、どう考えてもそれ以上の知識があるとは思えなかったので、 自分が提出したレポートと全く同じ内容を、あえて難しく、分かり難く、英語の専門用語をたくさん盛り込んで話したところ、 「そういう事をレポートに書いてくれなきゃ!」と言われました。
その時に私が悟ったのは、このクライアントには分かり易いレポートが歓迎されないということで、 理解できない内容ほど、レベルが高い、専門的かつ、的確な分析として評価されるということでした。

私が考えるに 人間は学習、理解、知識に対するアプローチで大きくで2種類に分かれます。
1種類目はセオリー、プロセス、コンセプトを学んだり、理解した上でその結果を知識として頭に刻み込む人、 もう1種類はセオリー、プロセス、コンセプトに関心を払わず、結果だけを知識として覚える人です。 前者は、自分の知っていることを簡単に、簡潔に人に説明することができますが、 後者は自分では分かっていると思い込んでいても、いざ説明しようとすると支離滅裂な理論を展開したり、全く説明ができないのが常です。
また前者は、簡潔に物事を教えてくれる人の有能さや有難味を理解していますが、 後者は 物事が簡単に学べると、それが教える人の手腕ではなく 自分の能力と錯覚して、 教えられて初めて学んだ事でも 「そんな事は最初から分かっている」という態度を取ったり、 実際に「自分は最初から そんなことは分かっていた」と思い込むケースさえあります。

でも相手の人格がどうあれ、クライアント・ビジネスというのは クライアントが望むものを提供して、それと引き換えにお金を支払ってもらうものなので、 自分が正しいと思うものを相手に押し付けるものではありません。 ですから私の場合は、そのクライアントが 難しい文章を評価することを悟ってからは、 わざと専門用語をたくさん使って、文章を難解にしました。 代りにビジュアルは、分かり易いものを添付して、たとえ文章の内容が簡単に理解できなくても ビジュアルから内容のアイデアが得られるようなプレゼンテーションに切り替えましたが、 それが功を奏して、以降はレポートを出す度に「勉強になる」と評価されたのを覚えています。
おそらくこのクライアントの部署では 童話の「裸の王様」ように、 「自分には意味が分からなくても、上司が評価するのなら 合わせておかないと馬鹿にされる」、「自分には難しくて分からないから、レベルが高いのだろう」 というような見栄や思い込みで私のレポートが読まれていたのだと思います。
他のクライアントは難しい内容を簡単に説明する方を評価してくれて、そのクライアントだけが例外的な存在だった訳ですが、 私がフリーランスの仕事を辞める頃には、同社は業績が悪化して、リストラの波が押し寄せていたので、 やはり「仕事の質の真価が見いだせない企業は、生き残っていけない」というのが、当時の私の教訓になっています。

その意味では、Tさんは頭脳明晰で、責任感や正義感もお持ちでいらっしゃるので、クライアント企業の正社員にならなかったことは、かえって良かったのかもしれません。 そもそも仕事のクォリティに対する考えや見解が異なる職場だった訳ですから、そこにフリーランスとして関わるのと、正社員として9 To 5で勤めるのでは ストレス・レベルも異なります。
フリーランスというのは、企業にコミットする必要が無い立場なのですから、Tさんにはこの機会にそのクライアントを満足させるポイントをしっかり把握して頂いて、 これまでの「仕事の量の割に お金が良い訳ではない」という働き方を改めて、効率的な収入源として仕事をこなすやり方に切り替えることをお薦めします。 そして、それとは別にTさんが情熱を傾けられると同時に、能力が発揮できるクライアントやプロジェクトの模索と発掘に時間と労力を注ぐ方が、Tさんのためであり、将来のためだと私は考えます。
要するに企業とフリーランスの関係というは、その程度のものと思って取り組むべきもので、それが何時切っても、切られても仕方がないフェアなビジネス関係であることは 私自身、フリーランスを営みながら学んだ次第です。 そんなコミットしたくても出来ない、不安定な働き方をした時代があったからこそ、CUBE New Yorkという自営業を続けてこられたと思っているので、 人生何が幸いするかは、時間が経ってみなければ分からないものです。

話を人間の理解力に戻すと、相対性理論を唱えたアルバート・アインシュタインの語録に 「もし6歳児に理解できるように説明ができないのなら、その物事が理解できていないということ」というものがありますが、 誰にでも自分では分かっていると思い込んでいても、実は理解できていないことは沢山あるものです。
でもそうと悟って自分の無知を認めて、常に学ぼうとする姿勢が人間の向上心であると私は考えています。 向上心がある限り、人間は夢や希望を追いかけて、諦めさえしなければ 何歳になってでもそれを実現できる訳ですから、 短期的な展望に捉われずに、女性でも 男性でも 常に自分にとってのベストを追及する姿勢を貫くべきだと思います。
そうやって生きる限りは、何歳の時点で人生を振り返っても 決して後悔しないことは私自身の経験から保証する次第です。

Yoko Akiyama

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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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