Nov. Week 2, 2016
★ "Life Goes On After 11/9 Shock"
2016年11月9日に思うこと


今週のQ & ADVのセクションは、頂いたメールにお答えするのをお休みして 2016年大統領選挙の結果について思うところを書かせていただくことにしました。
というのも今回の大統領選挙がスタートしてからというもの、Cube New Yorkのお客様からのコメントや 日本に住む友人とのコミュニケーションで、 何度もその行方を危惧する声を聞いてきたためで、 昨夜私が出掛けたエレクション・ウォッチング・パーティーでも、民主党支持者が多いニューヨークとあって、 オハイオ州でトランプ勝利が伝えられた頃から、誰もが先行きを懸念して まるでお通夜のような状態。 皆が口々に 「トランプが大統領になったら、トランプ同様に税金を払わない」、「カナダに移住する」、「カナダのデート・アプリをダウンロードする」などと言っている有様でした。
実際に、トランプ優勢が伝えられてからというもの グーグルでは 「カナダ移民」がトレンディングのサーチとなり、 カナダ政府の移民のサイトにトラフィックが集中した結果、サイトがパンクしてしまって復旧に時間がかかっていることが伝えられていたほど。 そんな事からも 私が出掛けたパーティーの人々だけが特別だった訳ではないことが 分かるかと思います。

私はアメリカ国民ではないため投票権が無いので、大統領選挙はスぺクテーター、すなわち観戦者として眺める状況を続けてきましたが、 それでも もちろん支持する候補者はいる訳で、今回の場合、特に積極的にヒラリー・クリントンを支持した訳ではないものの、 彼女のこれまでの功績、特にニューヨークの上院議員としての功績を個人的に評価していたこと、 そんな功績がスキャンダルや女性であるディスアドバンテージで正当に評価されていないこと、そして常に支持率や人気のピークが 選挙戦とズレていることには同情的な立場でしたし、「現在のアメリカにおける女性の社会進出は、ヒラリー・クリントンを始めとする ベビー・ブーマー世代の女性たちが切り開いてくれたもの」という意識も持っていました。
その一方で、ドナルド・トランプの人種差別、女性蔑視、暴力を煽る発言や移民政策については、この国でアジア人、女性、移民という3種類のマイノリティで生きる立場から 非常に不愉快に思っていたので、ドナルド・トランプが大統領になった暁のアメリカ社会に 恐怖にも似た不安感を抱いてきましたし、 それが選挙が近づくにつれて、どんどん現実味を帯びて来たことがストレスにもなっていました。
そのため、通常の政治的ポジションは「リベラル・インディペンデント(支持政党無しのリベラル派)」である私も、今回の選挙戦期間中は 「アンチ・トランプ」の立場でしたが、幸い私の周囲には同じポジションの友人しか居なかったので、 多くのアメリカ人が今回の選挙戦で経験した候補者支持をめぐる口論などの 不愉快な思いを味わうことはありませんでした。

私が唯一、選挙戦について気分が悪い会話をしたのは 10月初旬、日本に住む母とスカイプをしていた時で、 トランプが大統領になると言う母の言葉が、アメリカで移民・女性・アジア人、しかも税制上で最も不利なスモール・ビジネス・オーナという四重苦(?)状態で生活する私の 危惧やストレスに理解を示してくれない様子に受け取られて、そのスカイプの直後は 「最後に母とこんなに後味の悪い会話をしたのは何時だろう?」と 思いを巡らせてしまったほどでした。
その時に思い出したのが2005年のサンクス・ギヴィングにパリ旅行を計画していた時のこと。 フライトとホテルをブックしてから 占い師でもある母に「方位が悪いから止めておきなさい」と言われてしまい、 せっかくの旅行に水を差された思いをしましたし、当時の私は旅行と言えばことごとく母に尋ねて方位が良い場所だけに出掛けていたので、 不安な気持ちも高まってしまいました。
でも、そんな折に 病気を患った女性の「起こってもいないことを恐れていたら、人生何もできない」というエッセーを読んで共感した私は、 予定通りにパリに出掛けようと決心。行ってみると、確かに泊まった5スター・ホテルの部屋のTVが壊れていたり、暖房が入らなかったり、ノイズで眠れなかったり、 ミシュラン3つ星レストランに行けばディナーが手抜きで美味しくなかったりと、母の言う通り 本当にろくな事がありませんでした。 でも時間が経過すると共に その旅行は 後の私に自信や教訓を与えてくれた 最も意義深い旅となりました。
その理由の1つ目は「方位が悪いから ろくなことが無い」というのが 実際にどんな状況なのかを身をもって学ぶことができたこと。
2つ目は、どんな状況でも 自分がしっかりしていることが一番大切で、そのための訓練を日常からするべきだと学んだこと。
3つ目は、嫌なことが起こっても、後悔したり、自分を責めたりせずに、気持ちを切り替えることで 精神の負担が和らぐことを理屈上ではなく、実践して納得出来たこと。
4つ目は、辛い経験や酷い目に遭っている時ほど 時間が長く感じられる分、当時の気持ちや状況を記憶にしっかり刻みこめたお陰で、後々その旅行中の出来事から様々なことを学べたこと。
5つ目は、トラブルが起こった時でも 人と仲良く、上手くやっていくことで、本来とは違う醍醐味が味わえたことでした。

それでもパリから戻った直後は、懲りていたので「もう母に方位が悪いと言われた場所には旅行をしない」と思いましたが、 人生の中の出来事というのは、時間が経過してから様々な意味を成してくるもので、 この旅がきっかけで 私は「やらずに後悔するよりも、やって後悔する方を選ぶ」という信念を持つようになりましたし、 「起こってもいないことにビクビクせず、起こり得ることに備えて常に自分を鍛えて、自信を持って生きて行きたい」と心掛けるようになりました。




この旅行についての母との会話と、その旅行のことを思い出してからというもの、自分で結果がコントロールできる訳ではない 大統領選挙について心配するのを止めることにして、クリントン、トランプのどちらが大統領になったとしても、 その政権が及ぼす影響下で この先4年間を生きるのが私だけでなく アメリカ、そして世界中の人々の運命であると頭を切り替えました。
私がこのコラムを書いている11月9日の朝は、民主党&ヒラリー・クリントンを支持した人々がショックを受けて落ち込む一方で、 トランプを支持した人々は勝利にエキサイトする様子が見られていましたが、 スポーツの世界でも見られる通り、人間というのは自分が応援&サポートする側の勝ち負けを 自分自身の勝ち負けと思い込んでしまう傾向があります。 でも108年ぶりにシカゴ・カブスがワールド・シリーズで勝利を収めても、地元の人々の給与がアップする訳では無く、 その勝利で一時的に良い気分を味わったとしても、個人を取り巻く状況は何1つ変わっていません。
もし人々に 選挙による自分自身の勝ち負けがあるとすれば、それは自分が支持した候補者が勝利することではなく、 その政権下でどんな生活をしていくかが勝敗を分けるポイントだと私は考えています。

アメリカでは 特に郊外や地方のブルー・カラーの人々を中心に、自分達に起こっている逆境を招いたのが政治のせいだと思い込む傾向がありますが、 実際に政治や政策が変わったところで、自分の努力や運の助け無くしては トレーラー住宅に住んで ファスト・フード店のレジをしている人の生活が 突然豊かになることなどありません。 逆にどんな政権下でも 上手く世の中を立ち回っている人は、たとえ政策がビジネスや生活の手かせ、足かせになることがあっても、 上手く生きて行くものです。したがって もし「政治が自分の生活や仕事を改善してくれる」、「政治家が変われば自分の暮らしも良くなる」などと思い込んでいるとすれば、 それは理想と現実のギャップに目を瞑って、夢を見ている状況に過ぎません。
私が尊敬して止まない ベンジャミン・フランクリンの言葉に、 「The U.S.Constitution doesn't guarantee happiness, only the pursuit of it. You have to catch up with it yourself.」 というものがあります。これは合衆国憲法で謳われた 国民の幸福追求の権利について、 「憲法が保障するのはそれを追及する権利だけ、幸福は自分で掴まなければならない」と語っているもので、 アメリカ建国時にも 人々の間に社会や政治に対する甘えや非現実的な期待感があったことを感じさせる語録だと私は思っています。

でも実際には 人間の実生活において政治というのは ある意味で 天気のようなもので、それに無防備であったり、翻弄されて振り回されるのではなく、 傘を差したり、サンブロックを塗ったり、スノーブーツを履いたり、使えるものを全て使って、恩恵を受けられるように生きていくしかないのだと思います。 ですから特定の政権下で世の中がどうなっていくかという指標や目算を 気象予報として捉えて、 やってくる天候に備えることはとても大切なことです。
そんな”予報”の1つと言えるのは、トランプ勝利を受けて製薬会社の株式が上昇したこと。 これは もしヒラリー・クリントンが大統領になっていたら、 ここ数年で何倍にも跳ね上がり続けていた処方箋薬に価格上限のキャップをつけることを公約していたので、 製薬会社の利益が減少する可能性があったものの、 クリントンが敗れたことで これまで通り ブッシュ政権下で成立したメディケア改革法案パートDによって、製薬会社が思いのままに 処方箋薬価格を設定できることから、今後も製薬会社がさらなる業績アップを見せることを予想しての上昇ぶり。
処方箋薬の価格が上昇すると、今まで以上に大切になってくるのが健康保険によるカバー率。 でもトランプの選挙公約の最優先課題となっていたのがオバマ・ケアの撤廃と新たな保険制度の確立。 そのオバマ・ケアが実施までに6年を要したことを思うと、新しい保険制度がトランプ政権下で一体何時誕生にこぎつけるかは定かでないだけに、 健康を害することが 従来以上の経済負担や破産原因になることが見込まれるのが今後のアメリカ社会。
したがって健康管理が個々の人々の生活の中で最重要課題になってくるというのが私の考えで、 先が読めない未来を危惧して ストレスを貯めている場合ではないのです。

Yoko Akiyama

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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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