Dec. Week 3, 2012
★ Professional Pain


アドバイスのセクションが出来て、キューブさんのサイトを読む楽しみが増えました。ありがとうございます。 私もご相談させてください。

ヘアスタイリストを職業にしています。
一番困ることの1つが、友達の家に行った時に、「ちょっと、ここをカッコ良く見えるように直してくれない」って言われたり、 親戚の集まりで叔母の家に行った時に、叔母からその場で 姪のヘア・カットを簡単にやってくれと頼まれることです。
お正月になると、親類で集まることになるので、またヘア・カットを頼まれるかと思うと、気が重くなります。 友達だったらまだ、「いきなり言われても、ハサミが無いからダメ」と言って断れますが、 「それでも家のハサミで切ってくれ」と食い下がられることがあります。 「髪の毛を切ると、ハサミが切れなくなるから」とか、「ヘアカット用のハサミを使わないと毛先が傷むから」と言っても、 「それでも構わないから」と 迫られることが少なくありません。

それより断るのが大変なのが親戚の場合で、 一度、「ハサミが無いから」と言って断ったら、今年のお正月の集まりの時には、 「お土産は要らないから、ハサミ持って来てね」と前日に電話が掛ってきて、その時は渋々 ハサミを持っていきましたが、 便乗組が出てしまって、結局、姪と甥、従姉妹の計3人のヘアカットをさせられて、ウンザリしてしただけでなく、ドップリ疲れてしまいました。
特に甥っ子は 髪の毛を切られるのが嫌いで、動いたり、途中で居なくなったりして、 本当に大変なんです。おまけに髪の毛を切る人のことも嫌いみたいで、ヘアカットの椅子に座らせようとすると、 物を投げてきたりします。(投げてくるのは玩具とかなので、危険な思いはしていませんが。)
叔母は、仕事より ずっと大変なヘアカットを押し付けておきながら、「もっと一杯カットしてくれても良かったのに。そうしたら暫く髪の毛を切らないで済むから」などと 言ってくるあり様で、正直言って気分を悪くしました。
なので、もう次は御免だと思って、予め母に 今年のお正月の文句と、もうこれ以上はやらないということを伝えたのですが、 「別に波風を立てなくても、1年に1回くらい良いじゃない」で片付けられてしまいました。 母はそもそも職に就いたことが無くて、主婦として家族や人の世話を焼くことを仕事にしてきたので、 「そのくらいのこと」としか思っていないようです。
一体、どうやってこういう無神経なリクエストを断るべきでしょうか?
お知恵を拝借できると、嬉しいです。
いつも、無料で、コラムやいろいろなコーナーを読ませていただいているので、 恩返しにショッピングをさせていただきますね。

− R −





Rさんのお気持、私にも少なからず理解が出来ます。
というのも、私はライター兼、リサーチャーをしていた時代があって、その時に、日本からNYに市場調査にいらした アパレル、百貨店、マーケティング会社の方などに、 「今の話、簡単で良いから、ちょっと纏めて書いて送ってくれる?」などと 言われることが非常に多かったのです。
依頼してきた方たちは、私がプロとして お金を稼いで、生活の糧にしている業務を 「簡単で良いから・・・」という名目で、 無料で押し付けてきた訳ですが、そういったリクエストは ある時点からは、 きっぱりと お断りすることにしました。
「ある時点から・・・」というのは、私も最初のうちは そのリクエストに応じていた時期があるのです。 ライター&リサーチャーの仕事は、 年間契約のクライアントも居たものの、基本的にはフリーランスだったので、 「それが いずれは仕事に繋がるのなら・・・」と思って、受けてしまっていました。
実際、無料の簡単なサービスを求めてくる人というのは、「後から埋め合わせをするから・・・」とか、 「今度は、もっと大きな仕事を一緒にやりましょう!」などと、将来の仕事を”餌” に依頼してくる例が多かったのです。

でも、簡単に書こうと思っても 手が抜ける性格ではありませんし、プロとしてのレベルを保たなければ、その後の仕事も来なくなると思ったら、 簡単で良いはずのレポートに、有料のサービスと同じ労力を費やしてしまいます。 それで その後、大きな仕事が来るか?といえば、決してそんな事は無くて、 「お礼」と称して 食事をご馳走してくれて、その席で また次の「簡単で良いから ちょっと書いてくれる?」という無料プロジェクトを押し付けられるような状態でした。
ふと考えれば、相手は「簡単で良いから」と依頼しているので、どんなレベルの高いレポートを出したところで、 「私が 簡単にやった仕事」 としてしか見ていない訳です。なので、食事程度のお礼で十分と思っています。 さらにレポートを読んで 「無料で簡単に書いてもらった情報量で十分」と判断するので、有料の仕事など くれるはずはありません。
逆に、有料で仕事を依頼して下さる方というのは、決して「簡単で良いから ちょっと書いてくれる?」などとは言わずに、最初から仕事として 依頼して下さるもので、それを悟ってからは、こうしたオファーを全て断ることにしました。

私の場合は、「プロとして、それで食べていますので、無料のお仕事はお断りしています 」と ニッコリ微笑んで、 シンプルにお断りするようにしました。 一度、シンプルに断る姿勢を 身につけたら、それ以降は ストレスを感じることも無く、 当たり前のように断れるようになっただけでなく、相手も あっさり諦めるようになりました。
とは言っても、それが出来るようになるまでには、相手が図々しいことを頼んでいるにも関わらず、 こちらが罪悪感を感じたり、断る理由 を言い訳がましく説明して、そんな言い訳をしているうちに 相手のペースにはまって、「そのくらいはやってあげても・・・」と 判断してしまったこともありました。
フリーランスというのは、それほどまでにクライアントに対して立場が弱いもので、 それは親戚という身内の義理で、ヘアカットを押し付けられてしまった Rさんのお立場と、共通する部分もあるかと思います。

私が、”断り癖”を身につけるまでのプロセスで学んだのは、言い訳をすると、相手につけ込まれるということです。 「ハサミが無い」と言えば、「ハサミを持って来て欲しい」 と言われてしまったRさんのご経験からも お分かり頂けるように、 「xxが無いから 出来ない」、「xxだからダメ」と 言い訳をすることは、 逆に「xxがあれば 出来る」、「xxでなければ、やっても構わない」というメッセージを 送っていることになるのです。
また、断ること自体が大きなストレスになっている場合は、「波風を立てて断るよりは、やってあげた方が簡単」と 判断してしまうケースがありますが、これはストレスを延長するだけで、解決策ではありません。

このケースでは、相手がお友達でも、親戚の方でも、 Rさんが 「プロのヘアスタイリストなので、サロン以外では (もしくは仕事以外では) ヘアカットはしません」 と、極めて簡単かつ、明確にお断りすることを、お薦めします。 親戚の方達は、 最初は 「身内なんだから、それくらいしてくれても・・・」、「去年はやってくれたのに・・・」 的な 文句をおっしゃるかも知れませんが、 一度、峠を越えれば、そんなものだと思って、頼んでこなくなるのが普通です。
一番防がなければならないのは、一度お断りして、顰蹙を買っているにも関わらず、 「じゃあ、これが最後」と言って、あと1回だけと思って 引き受けてしまうことです。 そうすると、「これが最後」のはずが、「今度こそ最後」、「今年だけ特別」と、何度も 何度もリピートされる ことになってしまいます。
でも、一度きっぱりお断りして、2度と蒸し返せない状況にしておけば、 今後は、同じ問題で悩むことはありませんし、それで 根性が座れば、 それ以降は 相手が誰であっても、罪悪感ゼロで、あっさりと断ることが 出来るようになります。

Rさんと同じような状況は、弁護士、医者、占い師、翻訳者など、様々な職業が抱える問題です。 「ちょっとで良いから」、「簡単で良いから」、「身内だから」という理由で、人がプロで行なっているサービスを 無料で受けようという人は、世の中に沢山居ます。 そうした人達は 「プロでやっているのだから、このくらい簡単だろう」 という安易な気持を持っている場合が 非常に多いのです。
でも実際は、プロは 「手を抜けない」、「手の抜き方を知らない」 ので、安易に依頼してくる人が 想像する以上の負担を感じます。 素人が深く考えずに、適当に対応する方が、無責任でいられるだけあって、よほど簡単です。
だからこそプロのサービスは お金を払う価値があると同時に、お金を払われるからこそ プロな訳です。
ですのでRさんも、既にお持ちのプロ意識に さらに磨きをかけて頂くためにも、無料リクエストを きっぱり断る姿勢を実践なさってみてください。


Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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