
タトゥーとアメリカ国民に関する最も古いデータと言われるのが、今から90年前の1936年にタトゥーをしていたアメリカ人は10%以下であったというもの。
2003年にはそれが16%に、2012年には21%に増加。その後2015年までの3年間には29%に急増。
そして現在はアメリカの成人の3分の1に当たる32%、数にして8200万~8850万人がタトゥーをしているとのこと。
2010年代にタトゥー人口が大きく増えた要因は、タトゥーに対する社会的な偏見やスティグマが無くなり、当時ティーン~20代だったミレニアル世代が
自己表現の一環としてのタトゥーにオープンになったため。さらにはレーザー施術が行き渡り、「タトゥーは一生ものではなく、嫌になったら消せるもの」という概念に変化したことも
気軽にタトゥーをする人が増えた大きな理由。
現在30~49歳になったミレニアル世代は46%がタトゥーをしているけれど、30歳以下のZ世代はそれより少ない41%。
驚くべきは現在米国史上初めてタトゥーをしている女性(38%)が男性(27%)を上回ったことで、
50歳未満で比較すると女性のタトゥー人口は56%、男性の26%を大きく上回っているのだった。
アメリカの成人の22%が2つ以上のタトゥーをしているけれど、
タトゥーをしている人口の3分の1、数にして約2800万人が自分のタトゥーを後悔しているとのこと。
興味深いのはタトゥーに社会的偏見がある時代に、レーザーで消せることなど考えず、一生ものだと覚悟を決めてタトゥーをした年上世代が
10年前後が経過してからタトゥーを後悔するのに対して、タトゥー人口が増え、嫌になったらレーザーで消せば良い時代に
タトゥーを入れた若い世代が後悔するのは僅か2~3年後。簡単に下した決断に、簡単に後悔する状況が起こっているのだった。
自分のタトゥーが嫌いになる原因は「仕上がりがイメージと違った」、「好みや気持ちが変わった」、「飽きた」、「家族や友人にタトゥーを嫌がられた、からかわれた」、
「自分のタトゥーが時代遅れになった」というものがあり、実際にタトゥーにも存在するのがトレンド。
1990年代のアメリカでは漢字のタトゥーを入れるのがトレンディングで、間違った意味、間違った文字のタトゥーを後悔した人々が多かった一方で、
ヨガが爆発的に広まった際にはサンスクリット語のタトゥーを入れる女性が増え、更に女性の間でトレンディングだったのが自分の子供の名前のタトゥーを入れること。
でもミレニアル世代、その上のX世代は子供が成長するにしたがってタトゥーを後悔してきたのは周知の事実。
男女共に絶対奨励されないのが伴侶や交際相手の名前をタトゥーにすることで、「別れることになる」、「後悔する」確率は100%と断言されるほど。
近年のタトゥー・トレンドは、針の精度の向上によりマイクロ・リアリズム(写実的タトゥー)の需要が急増中。
ゲーム&アニメ関連のモチーフが増えた中、未来的な記号や「デジタル・トライバル」アートがもてはやされる反面、タイガーやパンサー、短剣とヘビ、バラや白頭鷲、
十字架のような”ド定番”タトゥーへの回帰が見られており、理由はタトゥー・アーティストが何度も手掛けているとあって仕上がりに当たりはずれが無く、時代やトレンドとは無関係であること。
そして定番タトゥーの方が写真映えがするといった要因が挙げられているのだった。
とは言ってもインフレが進み、庶民の可処分所得が減った今は「タトゥー・リセッション」に突入しており、
経済的困窮を押してまでタトゥーを入れようという人がどんどん減っている状況。逆に増えているのがタトゥーをレーザーで消そうという人々で、
こちらはリセッション知らずで売り上げ急増中。
写真上左のコメディアン、ピート・デイヴィッドソンは、体中に200以上あったタトゥーを20万ドルの施術費と約2年の時間を掛けて消したことで大きな注目を集めた存在。
俳優としても活躍していた彼は、かつては撮影前に全身のタトゥーをメークで消すために3時間前に現場入りしていたとのこと。
でも彼がタトゥーを消したのは、それが面倒だったからではなく、彼がドラッグとアルコールの問題を克服して
まともな精神状態になった時に、身体中のタトゥーが意味を成さない無益な存在に感じられたため。
タトゥー・フリーの状態が彼のドラッグ&アルコール・フリーの”クリーンでヘルシーなライフスタイル&まともな頭脳活動”の象徴として捉えられているのだった。
今やタトゥー・ショップの中にも、タトゥーを消すサービスを加える店が出て来ており、タトゥーを入れるより高額なのがタトゥーを消すレーザー施術。
例えばNYで4千ドルを掛けたタトゥーを除去する場合、12〜24ヶ月を掛けて8〜15回のレーザー照射の痛みを伴う施術が必要。その費用の総額は6~9千ドル。
ちなみに4千ドルのタトゥーとは、腕全体を覆う”スリーブ”や、胸や背中ならその中央にあしらうような大き目のサイズ。デザインも比較的複雑で、インクの密度も高いもの。
除去のためのレーザー照射は、施術の合間に十分な治癒期間を設ける必要があるので、1年以上が掛かるのが通常。このサービスを提供する店側は
高額リピート・クライアントが得られることを意味するのだった。
施術代が嵩んでもタトゥーを消そうという人が増えている理由は、単に自分のタトゥーが嫌いだからだけではなく、「これまでの自分の愚行や自分の嫌な部分をタトゥーと共に消し去って、新しく人生をやり直したい」という
願望が強いため。そうなる理由の1つは、シンディ・クロフォードの長男、プレスリー・ガーバーを始め、ドラッグ常用や精神障害で苦しむ人々の多くがタトゥーをしているのに加えて、
ジャスティン・ビーバー、アリアナ・グランデといったセレブリティがタトゥーが増えるにしたがって、どんどん人生もおかしくなっていること。
つい最近、大バッシングの対象となったエド・シーランは、「たとえキャリアが順調に見えても、身体がタトゥーで覆われている人間は考えが歪んでいて、いずれは墓穴を掘る」
という人々の偏見をさらに強めた存在。
国民の3分の1がタトゥーを入れているアメリカでも完全にアウトと言えるのがフェイス・タトゥーで、前述のプレスリー・ガーバーは
精神障害が悪化した段階で、せっかくのハンサムな顔に「Misunderstood(誤解されている)」というタトゥーを入れ、
その後除去したことは有名。 タトゥーに偏見が無いITスタートアップ企業でさえ「フェイス・タトゥーは、どんなに優秀でも人間性を疑ってしまう」ようで、
フェイス・ピアスの1つ、2つは業界によっては許されても、フェイス・タトゥーには極めて厳しいのがコーポレート・アメリカの現状なのだった。
ではタトゥーを消せば人生がやり直せるかと言えば、大金を投じて消すほどまでに嫌気が差した人にとって、タトゥーは自分に押されたネガティブな烙印。
自分の精神がまともじゃなかった時、若く愚かだった時に自分に描いてしまった洗っても落ちない落書きであり、価値観の歪みや稚拙な自己表現、もしくは空虚な虚勢の象徴。
それがレーザー施術によって徐々に薄くなり、最後にはキレイに消えて無くなるのは、精神的浄化のプロセスで、自分を苦しめていたものを克服するある種の達成感を味わうとのこと。
そしてタトゥーが消えて行くにしたがって、周囲からの扱いも変わって来るようで、タトゥーが無くなるだけで「成長した」、「一皮剥けた」、時に「覚醒した」とまで評価されるようになるのが常。
逆に職場でタトゥーとは無縁に見えた人が、ヴァケーション写真やSNSポストで日頃は服に隠れて見えないタトゥー、それもサイズが大きく、過激なデザインのタトゥーを披露した場合は、
周囲がその人物の隠れた闇深い人間性や、ワイルドな過去などを勝手に想像する傾向は極めて顕著。
要するにタトゥーとは知らず知らずのうちに自分のアルター・エゴを生み出してしまうもので、アメリカの若い世代は
興味本位でドラッグに手を出すと、次はタトゥー、もしくはタトゥーを入れた途端にドラッグにも手を出すというのはありがちな人生崩壊のステップ。
ドラッグも、タトゥーも手を出す際には「自分の身体なのだから自分が好きなようにして何が悪い」という意識を持つようだけれど、
どちらも1度解禁してしまうと、簡単に弱い自分が乗っ取られてしまう様子は現代社会に溢れる悲しい現実。
ちなみにアメリカで逮捕されると、有罪になって前科が付かなくても 連邦政府のデータベースに加えられるのが
逮捕者の指紋、DNAサンプル、そしてタトゥー。タトゥーは犯罪者識別の有力な証拠になるだけでなく、ギャング団の追跡にも有益な情報。
アメリカでは35歳未満の服役者の85%がタトゥーをしており、その意味ではタトゥーを入れることは犯罪者へのゲイトウェイにもなり得る行為。
したがって、タトゥーはドラッグや犯罪と同じくらい手を出すべきものではないとも言えるのだった。
Yoko Akiyama
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |


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