Dec. 29 2008 〜 Jan. 4 2009




” Recession Resolution ”


2009年は厳寒の中でのカウントダウンで新年を迎えたニューヨーク。
ニューイヤーズ・イヴのニューヨークは、カナダのスキー旅行から戻ってきたばかりの友人が、 「カナダより寒いかもしれない」と言っていたほどの猛烈な寒さ。 しかも風が強かったために、体感温度は更に低いもので、 あの寒さの中を何時間もタイムズ・スクエアでカウントダウンを待ち続けていた人達は 私からしてみれば 「エスキモー か トナカイ のDNA が入っているに違いない」という感じなのだった。
実際、帽子が嫌いな私はこの日、数ブロックしか歩かない予定だったので、帽子を被らずに出掛けたけれど、 僅か5分ほど外を歩いただけで、後頭部が凍りつくような寒さで その後 室内に入っても寒さによる頭痛がずっと続いていたような状態。
そのニューイヤーズ・イヴは当初、友人のプロモーターがホストするクラブでのパーティーに出掛ける予定であったけれど、 当日になってから その予定を変更し、レストランのディナーという ロウ・キー のセレブレーションに変更したのだった。 でもこの企画変更は大成功で、とっても楽しくニューイヤーを迎えることが出来たけれど、困ったのはその後。 先週のこのコラムで、「今年のニューヨークのホリデイ・シーズンは簡単にタクシーが捕まる」と書いたけれど、 さすがにニューイヤーズ・イヴは外出している人が多い上に、どうしようもないほどの寒さとあって、 タクシーが全く捕まらないのである。 やっと1台が止まってくれて、友人と乗り込もうとしたところ、反対側の扉から スウェット・シャツしか着ていない男性が いきなり乗り込んできて、「コートを何処かに忘れてきたんだ。クイーンズまで行ってくれたら100ドル払う。」 と運転手と交渉し始めたので、 そのタクシーは彼に譲ることにしたのだった。
あまりの寒さのために外に立って居られない私達は、 未だ開いているレストランに飛び込んで、カーサービスに電話を掛け続けていたけれど、 そんな私達を見て同情したウェイターが シャンパンを何杯も注いでくれて、タダで飲ませてくれたのはラッキーだった部分。 ウェイター氏によれば、飲食業に勤めている人達のニューイヤー・セレブレーションは、彼らの仕事が引けた 午前2時、3時からLES (ローワー・イーストサイド)などのバーでスタートするのだそうで、 「レストランのセレブレーションなんかよりずっと楽しいよ」と 誘ってくれたけれど、 こちらは もうドップリ疲れていたので、結局はサブウェイで帰ることにしたのだった。 そのサブウェイは午前2時にして朝のラッシュのような混み合いぶり。
もしタクシーかカーサービスで帰宅することが出来れば、 レストランからもらってきたゴールドのバルーン(風船)を4つ 家に持って帰ろうとしていたけれど、さすがに バルーンを4つも持ってサブウェイに乗り込む訳には行かないので、 そのバルーンをギブアップして、1つ1つ空に飛ばしながら、ニューイヤーのレゾルーションが叶うように願を掛けていたのだった。

毎年このコラムで書く通り、日本語で言う ”新年の目標”は 英語では ”ニューイヤー・レゾルーション”。 新年に多くのアメリカ人が掲げるのがこの ”ニューイヤー・レゾルーション” である。
2009年の私のレゾルーションは「Pursuit of Wealth, Health and Happyness」 、すなわち、「豊かさ、健康、そして幸福の追求」。 この3つの1つ1つの実現に願を掛けながらバルーンを飛ばしたのに加えて、 なかなか上達しないフランス語の向上も 私のニューイヤー・レゾルーションであったので、4つ目にして最後のバルーンはその願掛けに使うことにしたのだった。
では一般的なアメリカ人はどんなニューイヤー・レゾルーションを抱いているか?と言えば、 2009年のレゾルーションのトップ3 に掲げられていたのが、リセッションを反映して 「借金の返済」、 「ウェイトを落とす/健康的な食生活をする」、そして 「タバコをやめる」 というもの。 それ以外には 「環境に優しい生活をする」、「ストレスを貯めない」、「自分の能力の向上 / 何らかの勉強をする」、 「お金を貯める/節約する」、「仕事を見つける / より良い仕事を見つける」、「エクササイズやスポーツをする」、「旅行に行く」 といったもの。
やはり新年は 新しい事を始めたり 、生活を改めたりするのには非常に適している時期なのだそうで、 例年通り、年明けのジムはホリデイ・シーズンに蓄えた脂肪を落とそうという人達、 今年こそは健康的な生活をしようと心掛ける人達で混み合っていたのだった。
しかしながら、そのニューイヤー・レゾルーションはヴァレンタイン・デイが来るころには、先ず30%前後の人々がギブアップし、 6月を迎える頃にはその割合が55%にまでアップするという。 そして1年が終わる頃には、90%の人々がその年に果たせなかったレゾルーションを 「来年こそは・・・」と 先送りする状態になっているという。
心理学の専門家は、この人々の挫折の理由として 「人間はそう簡単に変われるものではない」 こと、 そして 「人間は変化をもたらすための苦労や苦痛よりも、変わらない楽な状況を選ぶ傾向が強い」 ことを挙げているのだった。

とは言っても現在のリセッションは、多くのアメリカ人のニューイヤー・レゾルーションを 例年よりも遥かに実現し易くしてくれるものであったりする。
例えば ニューヨーク州が財源不足で増税を行う予定であるため、1日1箱タバコを吸っている人は、 1週間当たりのタバコ代が 50ドルに達する見込みで、単純計算をすれば 1年間に費やすタバコ代は 2600ドル(約23万5000円)。 このため 健康のことなど考えていなくても、お金が続かなくてタバコを止めざるを得ない人が増えることが見込まれているのだった。
またダイエットの大敵と言えば、外食。アメリカ人は平均で1週間に4.2食を外食で済ませると言われているけれど、 ニューヨーカーは、ディナーだけでも1週間の平均的な外食回数が4回を超えると言われていたもの。 ところがギャラップ・ポールの調査によれば、年末の週に3〜4回外食をしたアメリカ人は僅か18%、1〜2回と答えた人々が42%。 そして1度も外食しなかった人々は40%にも上っており、リセッションのお陰で外食によってダイエットが台無しになる可能性は激減しているのである。
更にリセッション入りしてからというもの、環境コンシャスもさることながら、経済的な理由から、 リユーザブルなボトルに水を入れて持ち歩く人が増えており、レストランでも 俗にデザイナーズ・ウォーターと呼ばれた輸入物のボトルド・ウォーターが姿を消し、 無料の水道水をオーダーする人々が圧倒的に増えているという。
加えてMTA(メトロポリタン・トランジット)が地下鉄の料金を現行の2ドルから3ドルに値上げし、 メトロ・カードの大幅値上げを検討する中、自転車や徒歩通勤をする人々が益々増えることも見込まれているという。

リセッションがこうしたヘルシー志向をもたらす反面、 人々は外観にもお金を掛けなくなるようで、ヘアカットやハイライトを入れる回数が減ったり、 ネール・サロン代、フェイシャル代を節約する人も増えているという。
そんな状態なので、フェイス・リフト、ブレスト・インプラント(豊胸手術)をする人々も激減しているとのことで、 美容整形医は、手頃な価格で出来るボトックス等の注入トリートメントやケミカル・ピーリング等の ディスカウントを提供しているのが実情である。
また人々がエンターテイメントのバジェットもカットしているので、以前もこのコラムでお伝えしたとおり、 1月にはブロードウェイで 12のミュージカルとプレイがクローズすることになっている。 その一方で、2008年にはマンハッタン内だけで15軒以上のワイン・バーがオープンしたけれど、 今年厳しいビジネスが見込まれているのが そうしたワイン・バーや、高額なカクテルをウリにするラウンジ。 同じく厳しいビジネスが見込まれるのは、スシ・レストラン。アメリカ人が日本人よりも頻繁に食べているお寿司であるけれど、 リセッションを受けて、スシ好きのニューヨーカーもその回数を減らさざるを得ないのが実情のようである。
その代わりに増えるのがホーム・パーティーや、ホーム・エンターテイメント。 加えて ダイブ・バーやジョイントといったブルー・カラーが好むバーで ビールを飲むような、一晩15ドルであがる 夜遊びである。
こんな世の中であれば、お金が節約できて、ダイエットや健康的なライフスタイルが実現し易いのは言うまでも無い訳で、 1人では実行できないニューイヤー・レゾルーションも、世の中全体がリセッションになったお陰で、 好むと好まざるに関わらず身体に悪いことや、お金の無駄遣いが出来なくなっているのである。

ところで、先述の心理学者によれば 「人々は自分の変化やそれに伴う苦痛を好まない」 とのことだったけれど、 その変化 = チェンジ を掲げて次期大統領に選ばれたのがバラック・オバマ氏。
年末には出身地のハワイでバケーションを楽しむ次期大統領の姿がメディアで公開され、 写真右のようにニューヨーク・ポスト紙は 歴代大統領で最も 健康的といわれるその姿を第一面にフィーチャーしていたのだった。
選挙戦の最中には 「アメリカの大統領としては 痩せ過ぎ」と指摘されたり、カリフォルニアのアーノルド・シュワルツネッガー州知事には 脚が細すぎるなどと批判されていたオバマ氏であるけれど、 彼はスポーツ好きに加えて、ダイエットにも非常に気を配っていることが伝えられているのだった。
そのオバマ氏のダイエットは・・・と言えば、ノン・ファット、ロー・ファットの食品が中心で、 朝食は主に卵白中心のオムレツ。食間のスナックは、アーモンド、ピスタチオといったナッツ類やグラノラ・バー。 そして夕食には肉より魚を好むという。
エクササイズは、朝一番に45分間のワークアウトを週6日行うとのことで、そのプログラムは1日置きに ウェイト・トレーニングと 有酸素運動を行うというもの。また職務の合間を縫ってバスケット・ボールをプレーしていることは あまりに有名であるけれど、バスケットが出来ない時はランニング・マシーンでジョギングをして 気分転換をしているという。
2週間後に就任式を控えているオバマ氏であるけれど、ウォールストリートが政治家の手によってベイルアウトされている今、 2009年は政治だけではなく 経済もワシントンが アメリカの拠点になると言われている年。 ボンドの取引会社として知られるピムコのチーフ・インベストメント・オフィサー、ウィリアム・グロス氏が今週、 「今の世の中で、喜んで危険な投資をするのはアメリカ政府だけだ」と語ったコメントが ニューヨーク・タイムズ紙に 2回も掲載されていたけれど、経済を立て直すというアメリカの国全体のニューイヤー・レゾルーションが 果たして実現されるかは、蓋を開けてみなければ分からないものである。

ところで12月に人々を驚かせたポンジー・スキームのバー二ー・メイドフであるけれど、年末に入ってからは 俳優のケヴィン・ベーコン&キーラ・セドウィック夫妻も メイドフ証券に投資していたことが明らかになっていたのだった。
でもここへ来て報じられているのが、多くの投資家の損害が当初見積もられていたよりも遥かに少ないということで、 ウーマンズ・ジオ二スト・グループ、ハダサーはその損害額を$90ミリオンから$33ミリオンに訂正し、 差額の$57ミリオンは メイドフに投資をして儲けたと思い込んでいた ファントム・プロフィット(お化け利益)であって、 実際の損害ではないと発表。 同じく アメリカン・テチオン・ソサエティも その損害額を$72ミリオンから$29ミリオンに、 そして イエシヴァ・ユニヴァーシティも$110ミリオンと公表した被害額を$14.5ミリオンに訂正しているのだった。
このため、以前はメイドフ自身が語った$50ビリオンの被害金額が 何処まで膨らむか?が危惧されていたけれど、 今では、その被害額が大袈裟すぎるのではないか?という指摘も聞かれている状況である。

アメリカでは、2009年には何百ビリオンをも投じた大型の景気刺激策が見込まれているけれど、 国の経済がどうあれ、一個人はそれなりの幸せや、豊かさを味わって生きていけるものというのが 私の考えで、 そのために最も大切なのはやはり健康、そして精神的に強くあること。
2008年は私にとって 降って沸いた災難や、信じていた人の裏切り、自分の愚かさを痛感させられる出来事などがあった反面、 学ぶことや、楽しいこと、新しい友人との出会い等、素晴らしい経験も沢山あって、 息をつく暇も無いような1年だったけれど、精神的にへこまされるような出来事が 1年の間に何度と無く起こっても、 1 日の終わりには毎日のように 幸福感が味わえたのは 自分が健康で、そして 人生には良い事も悪い事も起こるものだと 達観することが出来たためである。
自分自身を分析してみると、ポジティブでハッピーな自分を保てる 要因の1つになっているは、 自分が今まで乗り越えてきた辛い経験や災難、苦しい思いの数々で、 それらが「あれを乗り切ったのだから、これくらい大丈夫」 というような自信や、精神の安定に繋がっているのだった。
だから 「辛い思いや苦境の時ほど それらが将来の自分の人生の財産になる と信じて頑張らなければならない」 というのは、 私が今まで生きてきて学んだことであるけれど、それと同時に新たに悟ったのは もし自分が不幸だと感じていたら、 それは他人や災難によって不幸にさせられているのではなく、自分で自分を不幸にしているのだということ。
幸福や不幸という状態には、偏差値のような万人に共通の基準がある訳ではなくて 自分さえ幸せだと思っていれば 幸せであるし、 自分が不幸だと思えば 周囲が羨むほど恵まれている人でも不幸な訳である。
なので、嫌な事が起こったり、人に意地悪をされることがあった時ほど、そんなことで自分が不幸になりたくないと思うだけに、 健康や家族&友達に恵まれて、好きな仕事をして、いろんな経験をして生きてきた 自分が如何に幸せかを 改めて噛み締めて 人生の素晴らしさを実感するのが 私が心掛けていることである。
もちろん不幸になろうと思ったら、被害者意識に浸って、泣いたり、ひがんだり、嘆いたり、愚痴ったり、悩んだりすることも出来る訳で、 その方が遥かに簡単であるし、世の中にはそんな不幸な自分を哀れむのが好きな人も居る訳である。 でもどんな状況でも 不幸な自分より 幸福な自分を選ぶオプションが与えられている訳で、 2008年の経験を通じて私が心に誓ったのが、もう決して 自分で自分を不幸にはしないということ。
私がニューイヤー・レゾルーションで ”幸福の追求” を掲げたのは この信念を貫こうと思ったためだけれど、 そもそも幸福の追求は合衆国憲法でも、日本国憲法でも 保障された人間の権利。 何もそれを投げ打って、自ら不幸になる必要は何処にも無いのである。
ちなみに、1ヶ月ほど前にニュースで 「幸福というのは伝染するもので、幸せな人の傍に居ると幸福度が9%増す」 という 何処までこの数字に科学的根拠があるかが分からない報道がされていたけれど、幸福と不幸が伝染するのは紛れもない事実。 人を不幸にする人には、その不幸が自分に降りかかってくる反面、 人を幸せにする人にはその幸せが自分に返って来るものなのである。


最後に、年末から年始に掛けて、CUBE New York のショッピングのお客さまや、読者の方から新年のご挨拶のメッセージを 多数頂戴いたしました。この場を借りて、お礼申し上げます。どうもありがとうございました。
2009年が皆様にとって幸せで思い出深い年になりますように、お祈りしています。





Catch of the Week No. 4 Dec. : 12 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Dec. : 12 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Dec. : 12 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Dec. : 12 月 第 1 週







執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。