Jan. 2 〜 Jan.8



今週のメディア報道 At Randam




今週のアメリカで、最も報道時間が割かれていた事件といえば、 2006年最初の惨事となったウエスト・ヴァージニア州のセーゴ炭鉱における、 12人の炭鉱労働者死亡のニュースである。
月曜午前6時半に起こった爆発によって炭鉱内に閉じ込められた13人の労働者は、 まず爆発から約40時間後に1人の死亡が確認され、残り12人の生存も絶望視されていた中、 飛び込んできたのが全員生存の誤報。これによって静まり返っていた町はお祭りムードに 沸き返ったものの、その3時間半後にはニュースが取り消され、誤報から14時間後、爆発から2日と6時間後に、 1人の生存者を除く、残り11人全員の死亡が確認され、 遺族は、愛する家族を失う苦しみを2度も味わう結果になってしまったのだった。
このため遺族とメディアからの非難の対象になっていたのは、 爆発事故そのものやその原因よりも、きちんと確認をしないまま 生存のニュースを伝えた一方で、それが間違えであったことが確認された後、 3時間も遺族に伝えず、ありもしない希望を繋ぎ続けた経営側の姿勢であった。 その後、炭鉱内から発見された犠牲者のメモによれば、 彼らは徐々に失われる酸素とハイレベルの一酸化炭素と暗闇の中で、10時間生存した後、 死に至るという 考えただけでも悲惨な最後を迎えたとのことで、 彼ら同様に、胸が詰まるような思いで救出状況を見守り、 生存のニュースで希望が与えられた後、再び失望のどん底に叩き落された遺族には、 アメリカ中から同情が寄せられていたのである。
また、誤報に振り回されたのは遺族だけでなくメディアも然りで、ニューヨーク・ポスト紙などは、 「Alive!」という大見出しで、奇跡の生存を伝える水曜 第1面の報道を、午前3時に 「Chaos(混乱)」という見出しに変更。「奇跡の報道が悲劇に変わった」という内容で、 大急ぎで印刷をやり直すという前代未聞の超スピード訂正を迫られることになったのだった。

さて、もっと気分的に軽い報道としてはアメリカでは1月に入ると、毎年女性誌を中心に 必ず特集を組むのが「ダイエット」である。
今年もありとあらゆるメディアが、身体についたホリデイ・ファットを 落とす方法を紹介しているけれど、共通して言えるのは、適度な運動とバランスの取れた食事というような リアリスティックなダイエット・プランほど読んでいて面白味が無いということ。 逆に、明らかに信憑性の無いダイエットの方が、読み物としては興味をそそるところがあるけれど、 例をあげるならば、「ヘルス」誌が特集しているフレーバー・ダイエットなどはその典型と言えるもの。
これは「食欲を満足させるのは、カロリーよりもフレーバー(味)」というセオリーに基づいて、 1日1種類のフレーバーのみにフォーカスを当てて食事をプランするというもの。 このフレーバーには、オニオン、レモン、ニンジン、そしてチョコレートなどがあり、 このうちの1つのフレーバーだけで、1日の食事をまかなえば、少量の食事で満足感を得ることが出来、 結果的に体重が落とせるという。とは言っても、こうした特殊なダイエットというのは、 「1週間で5キロ落とせる」というようなセンセーショナルな謳い文句がないと、 苦労をしてまでトライしようという人は居ないのが実情である。
その意味では5年ほど前にアメリカで大流行したキャベツ・スープ・ダイエットなどは、 簡単なレシピのキャベツ・スープだけを食べ続けるだけで10キロ、20キロが落とせるというもので、 科学的根拠ゼロでありながら、実際に痩せた人が沢山居たダイエットである上に、 特殊なダイエット・グッズやダイエット・ピルを摂取しなくて良い、お金の掛からない ダイエットとして口コミとインターネット上でレシピが広まり、それをやがてメディアが報道して 一大トレンドとなった珍しい存在だったのである。
でもダイエットの特集と共に今週のメディア報道に見られたのが、急激なダイエットが身体にもたらす弊害の特集で、 無理なダイエットをすること、それに失敗することによる精神的な落ち込み、 肌の乾燥、そして頭髪が抜け落ちるといった症状は、アメリカにおける肥満と同じくらいに 問題視されつつあるという。特に脱毛症に悩む若い女性の60%近くが、 無理なダイエット、もしくは無理なダイエットとストレスのコンビネーションが原因に よるものだと指摘されているのである。

手っ取り早いダイエット法として専門家が指摘するものとしては、毎日飲んでいるコーラやソーダを水に替えること、 カプチーノやカフェ・ラテをブラック・コーヒーに替えることで、これによってかなりのカロリーが落とせる というけれど、経済の専門家が「今年からはカフェ・ラテをカットするように」 と警告する別の理由が、今年からクレジット・カード負債の返済額が 切り上げられるという制度の変更に伴うものである。
このことについては、年が明けてからというもの、多くのメディアが警告を兼ねた特集を組んできたもので、 そもそもアメリカは、日本とは異なりクレジット・カードで買い物をする際、 リボ払いという分割払いのシステムは用いず、 毎月カード会社から請求書が送られて来た際に、 その月はいくらを返済するかをカードの利用者が自ら決めるようになっているのである。 でも、もちろんミニマム・ペイメント(支払いの最低限度額)というのは決められており、 これまでのシステムだと、その金額は負債額に掛かる利息分のみだったのである。
でも、カード負債が嵩めば 嵩むほど、利用者は毎月ミニマム、すなわち利息分しか返済しない 傾向にあり、その結果アメリカは1世帯平均のカード・ローンが約1万ドル(115万円)と言われるほどのカード負債社会になってしまい、 引いては個人倒産の急増という事態を招いてきた訳である。
そこで、今年からはそのミニマム・ペイメントに加えて、全体の負債額の1%を毎月 利用者が支払うという規定になっており、この新しいシステムだと、 カード会社に1万ドルの借金があり、年利が18%の場合、毎月のミニマム・ペイメントは、 以前のシステムの200ドル(約2万3000円)から 50ドルアップの 250ドル(約2万8800円)に値上げされることになるという。
アメリカ社会の場合、カード・ローンを抱える世帯の多くは、ガソリン代や食費など、 生活費をカードで賄っている場合が少なくないだけに、この約5800円の差額のために 生活を切り詰めなければならない世帯も増えてくるとのことで、経済専門家が 「ラテをカットするように」というのも、都市部に住む若い層が無理なく この差額を支払うためのテクニックとして提案しているものである。
VISAカードによれば、2005年11月、12月のホリデイ・シーズン2ヶ月間の 同社のカード使用総額は2,320億ドル(約27兆5000億円)。 2006年からは、同システムの導入によって庶民のカード使用が減ることが見込まれているけれど、 旧システムで毎月利息だけを払いつづけていた場合、1万ドルの借金を返し終わる 段階での支払い総額は2万9000ドル。すなわち借金の約3倍を返済していた計算になるけれど、 新しいシステムであれば返済終了時の総額は1万4000ドル程度で済むとのことで、 この新システムは、アメリカ国民の借金減らしに貢献するであろうと見込まれているのである。

さて、私が今週の報道で個人的に「やっぱり・・・」と思う反面、ちょっとガッカリしたのが、 クロエのデザイナー、フィービー・フィロ辞任のニュースである。
前任者、ステラ・マッカートニーがグッチ・グループ傘下で自らのブランドをスタート させた後、クロエを支えてきたのが彼女であり、現在クロエは、 ステラ・マッカートニーがデザインしていた時よりも、そしてそれ以前に カール・ラガーフェルドが同ブランドをデザインしていた時よりも、 ブランド・ポジション的にも、売上的にも良好な状況であるだけに、 今、彼女が辞めてしまうのは非常にもったいないと感じているのがファッション業界の正直なリアクションである。
彼女が辞任する理由は、今年出産した子供や夫と過ごす時間が欲しいからとのことで、 出産前にも、同じ理由でクロエを去ろうとしたフィービー・フィロのために、 クロエはロンドンにアトリエを移し、彼女を引き止めるための策を講じて来ていたのだった。 彼女が 恐らくクロエのデザイナーを辞めるであろうという憶測は、既に 2005年11月に業界紙が報じており、それだけにファッション業界は 今回の報道に 驚きはしなかったようだけれど、 トップと言えるポジションに着いた女性というのは 時に大企業のCEOでも、 最高裁判事のサンドラ・オコーナーでも、「家族と一緒に時間を過ごしたい」ことを理由に あっさり職場を離れるものである。
でも自分自身で、自分の名前が付いたビジネスをしている女性というのは、 ドナ・キャランでも、ミューシャ・プラダでも、マーサ・スチュアートでも、 子供が居ようが、拘留されようがビジネスを続けるものである。 私が起業した女性と話していて感じるのは、 自分で起こした会社に対して母性を抱いている場合が多いということで、 私自身も、よく「会社は自分の子供みたいなもの」と言っていたりする。 だから、キャリアにしても、私生活にしても、最終的に女性を駆り立てるもの、 女性が忠実でありたいと思う対象は家族愛や母性なのかもしれないと思ってしまうけれど、 男性の目からは、「家族と一緒に時間を過ごしたい」と職場を去る女性というのは、 本心がどうあれ、厳しいビジネスの世界からの逃避しただけに見えてしまうようである。
クロエ側は、フィービー・フィロの後任はしばらく置かず、この春に発表される2006年秋冬 コレクションは、フィービーの下で働いたデザイン・チームによってクリエイトされるということになっている。 そして現時点でクロエが、新しいクリエイティブ・ディレクターとして獲得に動き始めたのが、 昨今の私のお気に入り、ローランド・ムーレであると噂されているけれど、 彼に限らず、男性デザイナーを選べば「家族と一緒に時間を過ごしたい」という理由で ポジションを去ることはまず無いのである。でもその分、自分の思い通りに仕事をしたがるために、 経営側と衝突して辞めて行くという可能性も大きいのである。



Catch of the Week No.1 Jan. : 1月 第1週


Catch of the Week No.4 Dec. : 12月 第4週


Catch of the Week No.3 Dec. : 12月 第3週


Catch of the Week No.2 Dec. : 12月 第2週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。