Jan. 8 〜 Jan. 14




” Beckham Welcome !? ”



今週のアメリカは 木曜に発表されたデヴィッド・ベッカムのMLS(メジャー・リーグ・サッカー)、ロサンジェルス・ギャラクシーへの 移籍が最大のニュースとなっていたけれど、 アメリカ中を驚かせたのは$250ミリオン(約300億円)というその膨大な移籍料。
そもそもベッカム移籍の噂は、昨年のワールドカップの最中からアメリカでは大きく取り沙汰されており、 2年前にLAでサッカー・アカデミーをスタートし、ポッシュ・スパイスこと ヴィクトリア夫人と共にハリウッドに深い関心を寄せている ベッカムが アメリカでプレーをするのは「お金と時間の問題」と言われて久しい状況だったのである。
そんな中、MLSが11月に定めたのが別名 「ベッカム・ルール」 とも呼ばれた新しいサラリー・キャップ(報酬制限)規定で、 各チームにつき1人のプレーヤーについては サラリー・キャップから外し、その上限を定めなくて良いというルール。 これによって、かねてから囁かれていた LA ギャラクシーがベッカム、ニューヨーク・レッドブルズがロナウドという ヨーロッパ・リーグの エイジング・スーパースターをお金を積んで誘致する準備が整っていたのである。

でも、ベッカム移籍が急転直下の展開を見せたのはプレス発表があった木曜から遡って48時間のことで、 この段階で向こう5年契約で 合計$250ミリオンという破格の移籍料を含む詳細が固まったとのこと。 この 5年間に オフ・シーズン中でも1週間に約1億円が稼げるという契約の内容はと言えば、 チームが年俸としてベッカムに支払うのは年間$10ミリオン(12億円)、すなわち$250ミリオンのうちの僅か20%。 残りの80%である$200ミリオンは、ペプシ、モトローラ、アディダス、ジレットなど既にベッカムがCM出演をしている企業からの報酬や、 ベッカム夫妻のフレグランスを発売しているコティ等からの広告出演やプロダクト・ライセンス料になるという。
ちなみに、現在ベッカムがリアル・マドリッドから受け取っている年収は約$8ミリオン(約9.6億円)、ヨーロッパにおける 広告出演料は$30ミリオン(36億円)であるから、この契約によって 彼の年収 は20%以上アップする計算である。
彼がLA ギャラクシーから受け取る$10ミリオンというサラリーはアメリカのサッカー・プレーヤーとしては最高額であるけれど、 ティーム・スポーツのプレーヤーとしてアメリカで最高額の年俸を受け取っているのはヤンキーズのアレックス・ロドリゲスで、 彼には10年で$252ミリオン(約302億円)のサラリーが支払われている。

このベッカムのLA ギャラクシー移籍のために、背後で動いたのが、 クリエイティブ・アーティスト・エージェンシー(通称CAA)と19エンターテイメントのサイモン・フラー。 CAAと言えば、ハリウッドの有名スターが数多く所属している、日本で言う 芸能プロダクション。 CAAが抱える最大のスターといえば、昨今ベッカム夫妻が非常に親しくしているトム・クルーズである。
一方のサイモン・フラーと言えば、アメリカのNo.1 リアリティTV であると同時に最高のドル箱番組になっている 「アメリカン・アイドル」のクリエーターであり、19エンターテイメントは彼が設立した マネージメント会社。 彼はTV番組のプロデューサーとして大成功を収める以前は ミュージシャンの敏腕マネージャーとして知られており、 イギリスではビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインの功績を抜いた唯一の人物でもあるけれど、 その彼が育て上げた最大のスターと言えばヴィクトリア・ベッカムがメンバーの一員であったスパイス・ガールズである。
サイモンとヴィクトリアはずっと友人同士で、 ソロ・シンガーとしてのキャリアが全く花開かないヴィクトリアのために サイモンは彼女をメイン・キャラクターにしたファッション関係のリアリティTVの企画を練っていることも報道されており、 この2つのエージェントがスポンサーへの働きかけを行って、総額$250ミリオンの ベッカム移籍のお膳立てを整えた訳ある。
さらに言うならば、2007年シーズンの MLSサッカーを放映するFOXは、「アメリカン・アイドル」の放映局で、 サイモン・フラーと極めて親密な関係にあるのは周知の事実。 ベッカム移籍でMLSのゲームの視聴率がアップすればFOXの広告収入もアップするというシナリオも成り立っているのである。

さて、ベッカム移籍の報道はアメリカでは木曜午後の緊急ニュースとして伝えられ、一部のTVニュースでは ライス長官のスピーチが途中でさえぎられたことが 後にLAギャラクシー関係者によって誇らしげに語られていたけれど、 これはブッシュ大統領と共に昨今槍玉に上がっているライス長官のイラク問題に関する答弁に全くニュース性が無いものだっただけに、 ベッカムが国政を上回る関心事であるとは言い難いところ。
それでもベッカム移籍が発表されて数時間後には、ギャラクシーのウェブサイトでシーズンチケットが1000枚も売れたというから 既にベッカム効果は現れているといっても過言ではないところ。 ところでサッカー不毛地帯と言われるアメリカであるけれど、アメリカ人の10人に6人はデビッド・ベッカムの存在を認識しているとのことで、 皮肉なことに これはLA ギャラクシーのアメリカにおける知名度よりも遥かに高いものである。
実際、ベッカム移籍決定後、夜のトークショー や サタデー・ナイト・ライブが このネタをジョークにしていたけれど、いずれも 「LAにサッカー・チームがあるなんて知らなかった」とか、「デビッド・ベッカムが移籍するLAギャラクシーというチームは実在するようです」 という、チームの無名さを指摘するものだった。
そのアメリカ国民の殆どが目にしたことさえないギャラクシーのユニフォームは写真左のもの。ホーム・ジャージーがイエロー、 ヴィジター用がホワイトである。
アメリカのサッカー・プレーヤーの年俸が如何に低額であるかは、 ワールドカップ開催中のこのコラムでも触れたけれど、LA ギャラクシーでは アメリカ人サッカー選手としては最高年俸である 90万ドル(1億800万円)を支払われているランドン・ドノヴァンがプレーしており、 彼の年収は チームメートとなる ベッカムの1週間分の収入にも満たないものである。

アメリカのスポーツ・メディアはベッカム誘致を「ビッグ・ギャンブル」として報道しており、ベッカム1人の移籍が果たしてどれだけ メジャー・リーグ・サッカーを盛り立てることが出来るかについては、「行方を見守る」という慎重な姿勢を見せている。
メディアがこうした姿勢を取るのは、今回のベッカムの移籍が1975年の 歴史に残るブラジルのスーパースター、ペレの ニューヨーク・コスモスへの移籍を思い起こさせるからである。
当時のコスモスの試合には沢山のファンが詰め掛け、アメリカにおけるサッカーがベース・ボールのような人気を博すかに 見られた時代があった訳で、そのニューヨーク・コスモスの人気が頂点に達し、やがて忘れ去られる姿を描いた ドキュメンタリー映画 「ワンス・イン・ア・ライフタイム : ザ゙・エクストローディナリィ・ストーリー・オブ・ザ・ニューヨーク・コスモス 」は 昨年ワールドカップ閉幕直後に封切られている。 当時のペレも 現在のベッカム同様、キャリアのピークを過ぎてからの移籍で、コスモスの人気が廃れてからは ハリウッド映画 「Victory (邦題: 勝利への脱出)」にシルベスター・スタローンらと共に出演。 撮影時に 見せ場の バイシクル・シュート(オーバーヘッド) が決まらず、 50テイク以上を要したというエピソードは アフター・ピークを迎えて久しい当時のペレを感じさせるもの。
したがって、ペレでさえ果せなかったアメリカにおけるサッカー振興にベッカムが失敗し、 B級ハリウッド映画でサッカー・プレーヤーを演じるような顛末を迎えたとしても不思議ではないという見解が アメリカのメディアにあるのは紛れも無い事実である。
でも20年以上前のペレ移籍の時代と異なるのは、サッカーというスポーツを受け入れるアメリカの地盤。 過去10年ほどの間に、サッカーというスポーツに馴染みが深いヒスパニック系の人口が急増していることや、 2006年のワールド・カップ決勝の視聴率が、同年の野球のワールド・シリーズを上回ったこと(ワールドシリーズは史上最低水準の視聴率)、 さらに昨年夏にアメリカ遠征をしたリアル・マドリッド、バルセロナ等が、MLSチームとの親善試合で いずれも7万人入りのスタジアムを超満員にしていることなど、サッカー人気が今度こそアメリカで 盛り上がりを見せそうな兆しがあるのも また事実なのである。

ベッカム自身も、スペインからのサテライト放送で行われた記者会見で 「アメリカにおけるサッカー人気の盛り上がりを信じているからこそ、 この(ギャラクシー移籍の)チャンスに踏み切った」と語っているけれど、 写真右のイメージが、移籍発表翌日のニューヨーク・タイムズ紙に一面広告で掲載されるなど、 MLS も LA ギャラクシーもベッカム移籍を大金をかけてプロモートする用意があるのは言うまでも無いこと。
万一、ベッカムがメジャー・リーグ・サッカーの振興に役立たなかったとしても、ベッカムは彼が設立したサッカー・アカデミーを通じて アメリカの子供達の間でサッカーを普及させるという、滑り止めとも言える ”プランB” を既に打ち出している訳で、 この” プランB ” については、ベッカムの存在があっても無くても、アメリカの小学生の間でのサッカー人口は 男女ともうなぎ上りで 増えているだけに、こちらは ”負けることの無い賭け”と言えるものである。

既に、ヴィクトリア・ベッカムは数回に渡ってLA入りをし、新居を探していることが伝えられるけれど、 現在最有力候補に挙がっている物件は、トム・クルーズ&ケイティ・ホルムズ邸から道を1本隔てただけの$13.6ミリオンの大邸宅。 既にこの邸宅には ”ベッキンガム・パレス” というニックネームが付いている。
ゴシップ誌はヴィクトリアのワードローブがドレスだけで年間2500万円以上であること、彼女のお気に入りのブランドが、 ロベルト・カヴァーリ、ドルチェ&ガッバーナ、ディオール、グッチであること、ベッカム夫妻の長男、ブルックリン の初めてのバースデー・パーティーに200万円の費用が掛けられたこと、ベッカム・ファミリーが サン・トロペのバケーションに約1000万円を支払ったことなどを報じており、 2人がLA入りをすれば、こうしたゴシップ・メディアが2人の一挙一動をスナップしては レポートするのは目に見えている状況である。

でもこうしたアメリカにおけるベッカム・フィーバーは、ベッカムが現在所属するマドリッドのファンにとってはあまり面白いニュースではないようで、 マドリッドのファビオ・カペッロ監督は、残りのシーズン中 「ベッカムは練習には参加しても試合ではプレーさせない」 とコメントしたことが伝えられている。
さらにイギリスのファンの間でもベッカムのギャラクシー移籍、というよりも 「アメリカのサッカー界への移籍」は かなり不評なようで、「アメリカでプレーをするなんて、ベッカムはクズだ!」とサッカー・ファンが語っていることも報じられている。

ところで、ベッカムのサテライト記者会見の様子は、MSLのサイトから動画で見ることが出来ます が、もちろん全て英語です。 全40分以上の長いビデオですが、ベッカムがサテライトで登場するのは11分過ぎから10分ほどなので、ベッカムだけ見たい方は カーソルを進めることをお薦めします。なお彼が登場してから最初の1分近くは音声が入っていませんのでご注意下さい。



Catch of the Week No.1 Jan. : 1 月 第1週


Catch of the Week No.5 Dec. : 12月 第5週


Catch of the Week No.4 Dec. : 12月 第4週


Catch of the Week No.3 Dec. : 12月 第3週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。