Jan. 5 〜 Jan. 11 2009




” Let Them Eat Award Shows? ”


今週の金曜にはアメリカの12月の雇用統計が発表され、それによれば12月にアメリカで失われた職の数は52万4000。 これによって アメリカの失業率は7.2%に達し、これは過去16年で最高のものとなっているのだった。
その結果、現在アメリカで 失業中の人口は1,110万人となっているけれど、この数字に表れていないのが フルタイムから パートタイムに格下げされる人々が 激増しているという事実。
これを受けてオバマ次期大統領は今週エコノミーに関するスピーチを行い、 失業率が今年中に2桁に達するであろうという見込みと共に、「こうした経済状況で 新たな仕事をクリエイトできるのは政府だけ」 として、公共事業を中心に300万の仕事を早急に 生み出すことを提案していたのだった。
しかしながら、そのオバマ次期大統領の景気刺激策は 民主党の議員からも さほど大きな支持を獲得してないことが伝えられており、 「一度に沢山のことをやろうとし過ぎている」、「現在のリセッションを乗り切るには刺激策が弱すぎる」といった批判が聞かれているのだった。

年が明けても 一向にリセッションが底を打った気配が無い 世の中であるけれど、ファッション・ニュースのセクションでも お伝えしたとおり、シャネルでは今週パリの本社で200人のスタッフ解雇を発表。そしてエルメスも第4四半期の売り上げ見込みを下方修正。 更にニューヨーク5番街にアップスケールな店舗を構えていたブルックス・ブラザースがその撤退を明らかにした他、 同じく5番街にフラッグシップを構えるデパート、サックス・フィフス・アベニューは 既存店舗の12月の売り上げが 前年比 19.8% ダウンという ショッキングな数字をレポートしているのだった。
スポーツの世界では アリーナ・フットボール(室内で行われるフットボール)が、観客動員が望めないため、 2009年のシーズンをキャンセル。 またアメリカ国内で旅行者が激減していることは以前にもお伝えしたけれど、 その煽りを受けて、”東のヴェガス” と呼ばれてきたニュージャージー州のアトランティック・シティでも 12月の カジノ収入が前年比で18.7%ダウン。2008年の売り上げも前年比で 7.6%ダウン していることが伝えられているのだった。
食の世界では、数多くの映画のシーンに登場するニューヨークのランドマーク、”レインボー・ルーム” が そのレストラン・エリアである ”レインボー・グリル” をクローズし、今後はバーエリアのみの営業となる予定。 更に改装後のプラザ・ホテル内に 昨年初夏に 再オープンした パーム・コートも、 その高いお値段とフードレビューで酷評されたことも手伝って、近々クローズすることが伝えられているのだった。
この他、広告業界、出版業界もリセッションの痛手を大きく受けているビジネス。 私自身、つい最近 ヴォーグ誌の1月号を手に取って その週刊誌のような薄さ、すなわち広告ページの少なさに 唖然としてしまったのだった。

こうして ありとあらゆる業界がリセッションと戦っているだけに、自動車業界へのベイルアウトに対する世論の風当たりは 益々強いものになってきているけれど、 今週に入って 政府に対してベイルアウトを要求したのがポルノ業界。
ポルノ業界は、「昨今のファイナンシャル・クライシスで男性が精神的に打ちのめされて、性欲が沸かない」 ために、 急速に売り上げを落としていると同時に、海賊版のDVDやダウンロードによって大きく利益を減らしているとのことで、 今週 ペント・ハウス誌のオーナー、ラリー・フリンと、素人女性を起用したポルノ 「ガールズ・オン・ワイルド」の創設者であるジョー・フランシスが、メディアを通じて 約280億円の ベイルアウト・マネーを政府に要求していたのだった。
もちろん こんなベイルアウトが認められるはずがないのは目に見えているので、これはポルノ業界の冗談半分、 パブリシティ獲得のためのマーケティングの一環だと見られているけれど、 広告バジェットが減っている現在、無料のパブリシティをニュース・メディアから獲得するのはビジネスにとって意義あることと見なされているのだった。

その意味で昨今、格好のパブリシティを獲得しているのが携帯端末機、ブラックベリーの製造元、リサーチ・イン・モーション。
というのも 目下 アメリカでは、”ブラックベリー・プレジデント” というニックネームさえ付いているほどにブラックベリーを肌身離さず持ち歩き、愛用している オバマ次期大統領が、 「大統領になってからもブラックベリーを使い続けるべきか?」 が 大きな話題となっており、それが多大なパブリシティをもたらしているのだった。
もしアメリカ大統領 並みのセレブリティを起用して、現在獲得しているパブリシティ規模の広告キャンペーンを打った場合、 その費用は$50ミリオン(45億円)は下らないと言われているから、それを一銭も支払うことなく実現しているリサーチ・イン・モーションは、 ありとあらゆるビジネスが羨む存在となっているのだった。
オバマ氏のブラックベリーがこれだけ話題になる理由は、歴代の大統領、及び副大統領はコミュニケーション・ディバイスを持つことが許されていなかったためで、 俗に”オーバル・オフィス” と呼ばれる大統領執務室には これまで パソコンが持込まれたことも無ければ、 大統領がそこでパソコンを使ったことも無かったのである。
もちろん Eメールも使えない、タイプも出来ない 共和党のジョン・マケイン候補が大統領になっていれば、 この時代遅れの伝統が受け継がれたと見込まれるけれど、 オバマ氏はブラックベリーを使い続けることを主張しており、一国の大統領が外界とのコネクションを持つことの大切さを強調しているのだった。 加えてオバマ氏は、歴代で初めてオーバル・オフィスでラップトップ・コンピューターを使う大統領になる決意を固めているとのことで、 彼は選挙キャンペーン中も、アップルのマックブックを愛用し、アイチャットのウェブ・カム・プログラムで家族と コミュニケートしていたことがレポートされているのだった。



さて、私がこれを書いている1月11日、日曜はゴールデン・グローブ賞の授賞式。
ハリウッド・フォーリン・プレス・アソシエーションによって選ばれる同賞であるけれど、昨年は脚本家組合のストライキのために 授賞セレモニーが行われず、簡単な受賞者発表だけを行い、その視聴率を大きく落としていたのだった。
ゴールデン・グローブに限らず、ハリウッドが今年の授賞式シーズンを迎えるにあたって、 映画会社やエージェントらの 間で行われたのが いわゆる ” 足並み調整 ”。 というのも アメリカはもちろん、世界中がリセッションに陥っている中、果たしてどの程度華やかな セレブレーションが適切であるのかは、ハリウッド関係者の間で かねてから話題になってきたことであったという。
その結論として ハリウッド関係者が選んだのが リセッションをあえて感じさせない華やかな 授賞式シーズンにするということ。 すなわち、「世の中が失業、リセッションで苦しんでいても、 ハリウッドはそれを物ともせずに華やかであるべき」という姿勢で、 ニューヨーク・タイムズ紙は今週、そんなハリウッドを マリー・アントアネットが貧しい民衆を尻目に ”Let them eat cake ” (パンが無いなら お菓子を食べさせなさい”) と語ったエピソードに例えて、 ” Let Them Eat Award Shows ” ( ”貧しい国民に 授賞式でも与えておきなさい” 的なニュアンス ) という見出しで記事にしていたのだった。

そうは言っても、リセッションの波はゴールデン・グローブにも確実に押し寄せているようで、今年はギフト・スウィートを設ける ブランドや企業が激減しているという。
このギフト・スウィートとは、ホテルのスウィート・ルームを借り切って セレブリティやハリウッド関係者に無料でプロダクトを進呈するプロモーションのこと。 CUBE New York で扱っている コサベラもエミー賞などでギフト・スウィートを構えて、 そこに訪れたセレブリティのスナップをプロモーションに使っているけれど、かつてゴールデン・グローブの ギフト・スウィートで そこを訪れたセレブリティに無料で提供されていたのは、 メキシコやアリゾナの高級スパでのヴァケーション、最新の携帯電話やアイポッド、高額ジュエリー、 プライベート・ジェットの招待券、2000ドルものスキンケア・プロダクトなど超豪華な品物。
このギフト・スウィートを歩き回ってセレブリティが入手するプロダクトやギフト・サーティフィケートの総額は 数百万円と言われていたけれど、今年はそのギフト・スウィートを設けるだけの資金がある ブランドや企業が殆ど無くなっているという。
加えてセレブリティの エージェント達も セレブリティに対して 「国の経済がこんな時にギフト・スウィートで無料のプロダクトを 貰って回るのは不適切だし、ファンから嫌われかねない」と 釘を刺していることが伝えられており、 ただでさえ 数が減っているギフト・スウィートを 徘徊するセレブリティの 数や質も低下していることが伝えられているのだった。

ところで、TV中継ではオスカーに次ぐ視聴率を獲得する授賞式イベントが ゴールデン・グローブであるけれど、 ”オスカーの受賞者を占う” という意味では、少なくともこれまでは あまり実績が無かったのが同賞。
これに対して、過去7年のうち6回も その受賞者がオスカーの 作品賞とマッチしているのがディレクターズ・ギルド・アワード。 今週木曜に発表されたそのノミネーションは、「スラムドッグ・ミリオネア」のダニー・ボイル、 「ザ・キュリオス・ケース・オブ・ベンジャミン・ボタン」のデヴィッド・フィンチャー、「ザ・ダーク・ナイト」のクリストファー・ノーラン、 「フロスト/ニクソン」のロン・ハワード、そして「ミルク」のガス・ヴァン・サント。
このうち、ゴールデン・グローブ賞のドラマ部門とマッチしていないのは、「ミルク」のガス・ヴァン・サントと、 サプライズ・ノミネーションと言われた「ザ・ダーク・ナイト」のクリストファー・ノーランである。
逆にゴールデン・グローブにノミネートされていたものの、ディレクターズ・ギルト・アワードのノミネーションを逃しているのが、 ケイト・ウィンスレットが出演する2本の映画。 そのうちの1本は彼女が元ナチスの収容所の看守を演じた「ザ・リーダース」、 そしてもう1本は「タイタニック」以来初めてケイト・ウィンスレットとレオナルド・ディカプリオが共演し、ケイトの夫で「アメリカン・ビューティー」 でオスカーの監督賞、作品賞を獲得しているサム・メンデスが監督を務める「レボルーショナリー・ロード」。

ゴールデン・グローブでは、「ザ・リーダース」で ケイト・ウィンスレットが助演女優賞を受賞し、 「レボルーショナリー・ロード」で 同じく彼女が 主演女優賞を獲得し、ダブル受賞となっていたのだった。 でも個人的に 「レボルーショナリー・ロード」は、 パワフルな作品で 時代描写も素晴らしいけれど、 見終わった後に とても気持ちが重たくなったので、あまり人には薦めない映画。
この作品はケイト・ウィンスレットが脚本を読んで、レオナルド・ディカプリオに自ら電話を掛けて、 「We shoud do this movie!」 と彼に出演を説得したことを インタビューで語っていたけれど、 映画館では大いびきをかいて寝ている人が居たほど 言い様によっては退屈な作品。 ケイト・ウィンスレットとレオナルド・ディカプリオがスクリーン・プレゼンスのある俳優なので、 私は居眠りはしなかったけれど、別のアクターだったら眠っていたかもしれないと思うのだった。

この映画を完全に理解するには、アメリカの50年代の社会とそのモラル、ことに離婚や中絶についての見解や、 レジャーが少なく、アルコールに依存し、狭い人間関係に縛られるライフスタイル を理解していなければならないもの。
同作品でケイト・ウィンスレットとレオナルド・ディカプリオが演じているのは、 離婚というオプションがない時代に 退屈で不幸せな結婚生活を送っているカップル。 「タイタニック」では、選ばれた人間だけが乗船できる豪華客船という外界から隔離された極限状態で、 めぐり合い、愛し合ったのが2人で、”たとえタイタニックは沈んでも 2人の愛は永遠” という印象を観る側に与えていたもの。
でも「レボルーショナリー・ロード」では、タイタニックから約40年後の 50年代に、 ごく普通に出会って 結婚し、 ごく普通の郊外での結婚生活を送っている2人が 徐々に若き日の夢を失い、 近隣では 特別扱いされる スター性のあるカップルでありながら、 その2人の結婚生活が やがてタイタニックのように深く 沈んでいく・・・ という様子が描かれているのである。
私は「タイタニック」を特筆すべき名画だと思ったことはないので、特別な思い入れはないけれど 当時 この映画を見て、2人のラブ・ストーリーに夢を描いたことがある人は、この作品は見ない方が良いだろうというのが私の意見である。

精神的に英気を奪われる思いをした 「レボルーショナリー・ロード」に比べて、 今回のゴールデン・グローブのドラマ映画部門を制した「スラムドッグ・ミリオネア」は、見終わった時に 本当に気分が晴れやかになる フィールグッド・ムービー。
私は、今週金曜にこの作品を やっと見ることが出来たけれど、映画館は夜10時20分の回がほぼ満員になる盛況ぶり。
「セックス・アンド・ザ・シティ」の中で、サラー・ジェシカ・パーカー扮する キャリーが尊敬していると言っていた 作家の フランク・リッチも 彼のニューヨーク・タイムズのコラムの中で、 「ファイナンス・クライシスで沈んでいる世の中で、 『スラムドッグ・ミリオネア』を見て 思いもかけず 素晴らしい気分を味わった」 と絶賛していたけれど、私もまさに このコメントに100%同感なのだった。
現実の生活が厳しいご時世だと、ハリウッドは 「人々がコメディを好む」 と短絡的に考えるようだけれど、 こういう時代こそ 「スラムドッグ・ミリオネア」のように 見終わった後に 爽快感 や 純粋な感動を 残してくれるような映画に 人々の心が救われる というのが私の考え.。 それだけにゴールデン・グローブの受賞をきっかけに、より多くの人が 同作品を観ることを 望んで止まない気持ちなのである。





Catch of the Week No. 1 Nov. : 1 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Nov. : 12 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Nov. : 12 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Nov. : 12 月 第 2 週







執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。