Jan. 3 〜 Jan. 9 2011

” Mind Your Manners! ”

今週末のアメリカで最大のニュースとなったのは、アリゾナ州トゥーソンで起こった 銃乱射事件。
銃撃のターゲットとなったのは民主党女性下院議員のガブリエル・ギフォーズ(40歳)。 犯人は過去に米軍入隊を断られた 前科のある22歳のジャレッド・リー・ロフナーで、ギフォーズ議員の頭部を打ち抜いてから、周囲の人々に発砲し、 14人が負傷、9歳の少女を含む6人が死亡するという大惨事になったのだった。
犯人は現場に居た2人の一般人男性に取り押さえられて逮捕。ギフォーズ議員は 一命は取り止めたものの、余談を許さない状況であるという。
ロフナーはYouTubeのビデオで過激、かつ反社会的な言動を繰り返しており、精神的に不安定であったことも伝えられているのだった。

でもこの事件が起こる前の、週明けのアメリカで 最も大きなニュースになっていたのは、オハイオ州のホームレス、テッド・ウィリアムス。(写真右)
ブルックリンの生まれで、オハイオのラジオ局でディスク・ジョッキーを務めていた彼が、ホームレスに転落したきっかけは、 コカイン、クラックに手を出したこと。 仕事を失った彼は、1993年頃からホームレスになっていたというけれど、2008年以降はアルコール、ドラッグには一切手を出していないとのこと。
そんな彼が ほぼ一夜にしてセレブリティになってしまったのは、YouTubeにポストされたビデオがきっかけ。 物乞いのプラカードを掲げて道に立っている彼が、マイクを向けられた途端に プロのアナウンサーのような素晴らしい声で 流暢に語りだす様子は、あっという間に500万人が閲覧するビデオとなり、彼のもとには 仕事やインタビューのオファーが殺到。
既に地元オハイオ州のNBAチーム、クリーブランド・キャバリアーズが彼をアナウンサーとして雇いたいとオファーしただけでなく、 クラフト・フーズは早くも彼をマカロニ&チーズのCMの語りに起用。 NFLフィルムも、彼をヴォイス・オーバー(吹き替え)に起用したいと申し出て、テッド・ウィリアムスは一躍 「マン・ウィズ・ゴールデン・ヴォイス」、 すなわち ”黄金の声を持つ男” としてメディアから引っ張りだこになってしまったのだった。
ことにニューヨークのメディアは、ブルックリンに暮らす90歳になる彼の母親との再会シーンを 番組内でフィーチャーするために争奪戦を繰り広げたことが伝えられており、今や彼は オバマ大統領を番組に出演させるより 難しいと言われるほどの 忙しさなのだった。


写真左のように、メディアに登場するためにメイクオーバーされたテッド・ウィリアムスは、 突然のスターダムを、「まるでスーザン・ボイルになった気分」と”言いえて妙”の例えで語っていたけれど、 彼のもとには、そのスーザン・ボイルのように 突如のメディア・スポットライトや プレッシャーに押しつぶされないようにと、 全米のセラピストから 「無料でカウンセリングを引き受けたい」 というオファーが寄せられているとのこと。
またアメリカという国は、非常に歯にこだわる国なので 「長年のホームレス生活でボロボロになった彼の歯を 美しくリメイクしたい」という オファーが アメリカ中の歯科医から 寄せられていることも伝えられているのだった。
実際、アメリカでは 子供のうちに歯の矯正をするのは、教育の一環。 アメリカで 歯並びの悪いセレブリティが 見当たらないことからも分かる通り、 スマイルを重んじるアメリカでは、微笑んだ時の歯の印象は非常に大切なもの。 古くはクリントン・スキャンダルで、モニカ・ルインスキーがTVインタビューに応じた際、 多くの人々が共通して 彼女を褒めた唯一のポイントが、「Nice Teeth / ナイス・ティース」であったこと。
逆に 日本の荒川静香選手が、2006年トリノ・オリンピックのフィギュア・スケートで 金メダルに輝いた際には、「演技は素晴らしいけれど、 歯がグレーだ」と、厳しい指摘がされていたのだった。

今週、私が個人的に笑ってしまったヘッドラインは、ニューヨーク・ポスト紙の1月5日付けの第一面を飾ったオバマ大統領のヴァケーション・ファッションについてのもの。
写真右にあるとおり、「自由世界のリーダーが、たとえ休暇中でも、こんな服装をするべきなのか?」というヘッドラインであるけれど、 ポスト紙が批判しているのは、オバマ大統領のカジュアルな服装よりも、むしろ足元。 同紙によれば、クリントン元大統領の休暇中の足元はソックスにスニーカー。 ジョージ・W・ブッシュ前大統領は、ソックスにクロックス姿でスナップされており、素足にビーチサンダルでスナップされたのは、 オバマ大統領が初めて。
10年以上に渡ってホームレスだったテッド・ウィリアムスが一夜にしてメイクオーバーされて、メディアに登場した様子からも言えるように、 容姿のイメージはプレゼンテーション、すなわち服装やグルーミング、女性ならメークによって一変するもの。 そのことは、大統領にも ホームレスにも当てはまる訳で、それなりの服装をしていれば、それなりにステータスに見えるし、世の中もそう扱うようになるけれど、 それなりの服装をしていない場合は、外観に応じたステータスと扱いにダウン・グレードされても仕方が無いのである。

オバマ夫妻は、就任式の際の正装ファッションから、エリザベス女王に対面した際のミッシェル夫人のカーディガン姿など、 ドレス・コードが歴代の大統領夫妻に比べて極めてカジュアルであることが指摘されているけれど、それは夫妻のマナーにも言えること。
ゴードン・ブラウン前英国首相にハリウッド映画のDVDをギフトとして贈ったり、エリザベス女王にはアイポッドを贈るなど、 オバマ夫妻のギフト・センスの無さは英国メディアから酷評されており、2009年4月の訪英の際にエリザベス女王の背中にミッシェル夫人が手を回したことも 儀礼破りとして批判を浴びていたのだった。

その一方で、昨今やっとマナーの大切さに目覚めてきているのが20代の ”ジェネレーションY” と呼ばれる世代。
ジェネレーションY は、自分の結婚式の最中にツイート(ツイッターの短文を打つこと)をしたり、就職のグループ面接の最中に 携帯メールを打ったり、一緒に食事をしている相手と殆ど会話をせずに、お互いに携帯メールを打っているだけだったり、 職場のボスをフェイスブック上で”フレンド”扱いする一方で、親類や家族をフェイスブック上で”デフレンド(Defriend:友達解除・絶縁 )” するなど、 儀礼やマナーとは無縁の世代。
それでも、「学校の成績が良いだけでは仕事が見つからない」、「初めてのビジネス・ディナーでマナーを知らなくて恥をかいた」、もしくは 「職場のボスにマナーを学ぶように言われた」というジェネレーションYが、昨今、エチケット・マナーのクラスを取るようになってきており、 1回のクラスに 300〜400ドルを支払って、テーブル・マナーや電話の掛け方などを学ぶようになってきているという。


アメリカという国は ヨーロッパに比べて、テーブル・マナーがカジュアルなのは周知の事実。
決して育ちが悪い訳ではなくても、びっくりするほどテーブル・マナーがいい加減である例は非常に多いのだった。 以前、このコラムでも20代の友達がナイフで刺した食べ物を口に運んだのを見て、絶句してしまった話を書いたことがあるけれど、 ジェネレーションYは、食事中も携帯メールを打つのが当たり前の、「ながら食いの世代」。 社交の一環としてのダイニングの機会が少なかった世代なので、自分の食べる姿や、食べた後の食器やカトラリーの見た目などを 気遣う必要があるとさえ考えていないのが通常であったりする。
なので、ナイフやフォーク、グラスの持ち方が間違っている、食べている最中の姿勢が悪い、会話の身振りで手に持ったナイフやフォークを振り回す、 床に落としたナイフやナプキンを自分で拾うなど、マナー・スノッブが見たら呆れるような状況が頻繁に繰り広げられているのが、アメリカのレストラン。

加えて、最近私が気になりだしたのは、テーブル・マナーがなっていない人というのは、食べ方の勘も鈍いということ。
これは テーブル・マナーが悪い人のウォーター・グラス、ワイン・グラスが 食事の終わりくらいになると、物凄く汚く見えることから気付き始めたこと。 テーブル・マナーがなっていないほどに、食べるという動作に関心を払わずに来た人は、食べ方の勘が鈍いので、 口元に運んだ食べ物を 的確に口の中に入れられず、唇に料理のソースや脂が付着するのは自然の成り行き。 その唇で水やワインをグラスから飲むので、グラスの縁に脂が付着して、どんどん汚く見えていくのだった。 加えて、ワイン・グラスもステムではなく、グラス本体を持つので、手の脂か、食べ物の脂かは分からないけれど、 グラスがどんどん指紋で汚れていって、食事の後半には グラスが脂でギドギドして見えるのは、たとえ自分に関係がなくても、 あまり気分が良くない光景。
テーブル・マナーを熟知している人ならば、脂で汚れた唇はナプキンで拭い、グラスはなるべく同じところから飲むようにして、 脂やリップグロスの付着をミニマムに防ぎ、その部分を 時々手で拭うことによって、グラスが汚く見えないようにするのが通常のルーティーンなのだった。

その一方で、昨今ではレストランで食事をする限りは、料理に合わせてナイフ&フォークが その都度テーブルに運ばれて来るようになっているので、 映画「プリティ・ウーマン」のジュリア・ロバーツのように、”料理を食べるのに どのフォークを使ったら良いかが 分からない” というケースはまずは起こらないもの。 これがウェディングやチャリティ・ディナーのように、多数ゲストの着席ディナーになると、 全てのカトラリーがテーブルの上に並んでいるので、どのナイフ&フォークを使うかで恥をかくケースが出てくるのだった。
私が個人的に一番みっともないと思うのは、使っているナイフ&フォークが間違っているのに気付いて、 それを元の場所に置いて、正しいナイフ&フォークに持ち替えること。 そうするとナイフ&フォークに付着したソースやドレッシングでテーブル・クロスが汚れる上に、 本人は人が見ていないと思っても、同じテーブルの人間は皆気付いているものなので、 マナー知らずを露呈するだけになるのだった。
それよりは間違ったナイフ&フォークを使って料理を食べ終えて、プレートを下げに来たウェイターに 新たにナイフ&フォークを持ってくるように頼む方がずっとスマートな上に、 マナー知らずとは取られない場合も多いのだった。

残念ながら食事のマナーは、1〜2時間レクチャーを受けたくらいでは改善できないのが実情。
加えて、アメリカ人がクラスで学ぶエチケット・マナーというのは、恐ろしいほど低いレベルから始まっているのだった。
例えば、「パンは指でちぎって、ナイフでカットしないように」、「ナプキンで唇は拭っても、歯を拭かないように」、 「フィンガー・ボウルは使った指だけを洗うもので、手全体を浸すものではない」など、中には 笑ってしまうほど当たり前のアドバイスが含まれていたりする。
でも学ぶということに遅すぎるということは無いので、ジェネレーションYが マナーを学ぶ必要性に目覚め始めたのは歓迎すべきこと。
どんなにルックスが良くても、頭が良くても、マナーが悪ければ それらを生かすチャンスに恵まれないケースは多いのである。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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