Jan. 11 〜 Jan. 17 2016

” What is New York Value? ”
共和党大統領候補ディベートで火が付いた、”ニューヨーク・ヴァリュー”論争


今週全米で大報道になっていたが 1月13日、水曜に行われたパワーボールの宝くじで、その賞金額が史上最高額の 15億8,640万ドル、日本円にして約1,937億円になっていたのは世界中で報じられていた通り。
その前の土曜のパワーボールで当選者が出ず、水曜の賞金額が$1ビリオン(10億ドル)を超えることが報じられてからの4日間には、 カリフォルニア州だけで 1分間に3万7000枚のパワーボール・チケットが売れていたとのことで、 全米のチケット売上げ総額は何と12億7021万ドル(約1,524億円)。 結局、カリフォルニア、フロリダ、テネシー州から それぞれ1人ずつの当選者が誕生しており、 既にメディアに名乗り出たテネシー州のファミリーは 税引き後 3億2800万ドル(約394億円)の賞金を 受け取ることが明らかになっているのだった。

それ以外に、今週大きく報じられたのは、70年代にグラム・ロックの貴公子として登場し、 その後もミュージシャン、俳優として輝かしいキャリアを保ったデヴィッド・ボウイ(69歳)が 16ヶ月に渡る肝臓がんとの闘病の末、1月10日に息を引き取ったニュース。 晩年をニューヨーカーとして過ごした彼のソーホーのアパート前には 大勢のファンが詰め掛けて哀悼の意を表していた一方で、 ブライアント・パークのスケートリンクでは 今週、デヴィッド・ボウイ・ナイトと称して、BGMにデヴィッド・ボウイの往年のヒット曲をかけて、 売上げをチャリティに寄付するといったイベントも行われていたのだった。
今週は他にも、木曜にシンガーのセリーヌ・ディオンの夫であり、長年のマネージャーであったレネー・アゲリル氏が やはりがんのために死去。 また土曜日にはセリーヌ・ディオンの59歳の兄が 同じく がんでこの世を去った他、 「ハリー・ポッター」シリーズで知られる俳優のアラン・リックマンも1月14日に69歳の生涯を終えているのだった。

ビジネスの世界では、石油価格の大幅下落を嫌って株価が暴落。史上最悪の年明けからの2週間を記録しているけれど、 1月の相場は1年の市場を反映するとあって、今年はあまり株に期待が持てないというのが大方の見解。
また世界最大手の小売店、ウォルマートがそのビジネスの縮小を発表したのも今週で、アメリカ国内の154店舗を含む、全世界の269店舗を クローズし、1万6000人の職が失われることが見込まれているのだった




でも週末の大報道ネタ であり、ソーシャル・メディア上の トレンディングを提供したのは、木曜に行われた 共和党大統領候補者のディベートにおける”ニューヨーク・ヴァリュー”論争。 これはテキサス州の上院議員で、ドナルド・トランプに次いで現在共和党候補者で第2位の支持率を集めている テッド・クルーズ(写真上右、右側)が、ニューヨーク出身のドナルド・トランプのことを 共和党の大統領候補としてはリベラル過ぎることを訴えようとして語った以下のコメントがきっかけで火が付いたもの。
「Everybody understands that the values in New York City are socially liberal and pro-abortion and pro-gay marriage, focus around money and the media.(ニューヨーク・シティのヴァリューと言えば、社会的にリベラルで、中絶と同性婚を支持して、お金とメディアにフォーカスしたものだということは誰もが理解している)」
これに対してドナルド・トランプは9・11テロを克服したニューヨークを例に挙げて、「地球上であのテロを立派に乗り越えられる街はニューヨーク しか無い、Everybody in the world loved New York, and loved New Yorkers」と反撃。テッド・クルーズのコメントをニューヨークに対する侮辱と言い切ったのだった。

それ以降、ソーシャル・メディア上では、”#NewYorkValue”がトレンディングとなり、翌日までに2万5000件の ”ニューヨーク・ヴァリュー”に関する ツイートが寄せられ、その中には、「Just this once, Trump's right (今回に限ってはトランプは正しい)」という ヒラリー・クリントンのツイートも含まれていたのだった。
当然のことながら 翌日のニューヨーク・メディアとニューヨーカーは、このテッド・クルーズのコメントに腹を立てて、 デイリー・ニューズ紙は 写真上左のように自由の女神が中指を立てるという”ファック・ユー” を意味するジェスチャーのイラストで猛反発。 また街頭でのニューヨーカーのインタビューでも、 「テッド・クルーズなんて、ニューヨークに絶対来るな!」という声が聞かれていたけれど、 同時にメディアでは、テッド・クルーズの選挙資金の大口寄付の殆どが彼の地元テキサスではなく、ニューヨーク・エリアから来ていることや、 彼の2012年の上院議員選挙資金がゴールドマン・サックスからの超低金利ローンで賄われていることが指摘され、 「テッド・クルーズはニューヨークは嫌いでも、ニューヨーク・マネーは大好き!」と皮肉られる有り様なのだった。




このコメントによって都市部の約850万票を失ったと指摘されるテッド・クルーズであるけれど、 前述のようにソーシャル・メディア上で火が付いたのが、ニューヨーク・ヴァリューとは何か?の論争。 このヴァリューとは、価値観という解釈もあるけれど この場合は ”スタンダード”、”プリンシパル(原理原則)” と理解した方が分かり易いかと思うのだった。
確かにテッド・クルーズの指摘どおり、ニューヨーカーの多くはリベラルで、多くが人工中絶や同性婚を支持しているけれど、 それ以上にニューヨークは人種の坩堝。 ありとあらゆる国や文化の人々が、東京の世田谷区ほどのサイズのマンハッタン島を中心としたエリアで ひしめいて暮している訳で、誰もを受け入れる街であり、違いが尊重される街。 したがって、テッド・クルーズのコメントのような形で ニューヨーカーを一括りにするというのは ニューヨークについて何も知らない人間がすることで、 ニューヨーカーが最も嫌うことの1つなのだった。

でも私が今回の”ニューヨーク・ヴァリュー”関連の ニューヨーク外の報道をチェックして驚いたのは、 サウス・キャロライナや、アイオワ州の人々が地元メディアとのインタビューで、それぞれに自分が理解している”ニューヨーク・ヴァリュー”について 堂々と語っていたこと。中にはかなり的が外れた答えもあったけれど、 同じことをニューヨーカーに対して行った場合、 サウス・キャロライナや、アイオワ州の出身か、その州の大学にでも行っていない限り、「貴方が理解している”サウス・キャロライナ・ヴァリュー” とは?」などと聞かれて、クリアに答えられる人はそう何人も居ないと思うのだった。
要するにそれほどまでにニューヨークが、メディアだけでなく、ファッション、映画、音楽、アートといったエンターテイメントやカルチャー、 政治、ビジネス、テクノロジーなど様々な分野を通じて、人々に様々なインパクトを与えている街であるという事になるけれど、 ニューヨーカーについては、今も「冷たい」、「早口」、「マテリアリスティック(物質至上主義)」、「アグレッシブ」といった ネガティブな形容詞を思い描くアメリカ人が 決して少なくないことは 今回改めて認識したのだった。


かく言う私は、アメリカ人にさえ「典型的なニューヨーカー」と言われるのを誇りに思っているので、多くのニューヨーカー同様、何も知らないよそ者が ニューヨークの悪口を言っているのを聞くと とても不愉快になるけれど、 自分自身を振り返ってみた場合、私という人間はニューヨークに暮し始めてからの方が、遥かに人に積極的に親切に出来るようになって、 正義感も強くなったと同時に人間的に善良になったと信じているし、何より周囲の雑音など気にせずに 自分らしく、失敗を恐れずに生きられるようになったので、 「今の私があるのはニューヨークのお陰、私を成長させてくれているのはニューヨーク」と真剣に考えているのだった。
なので、特に女性には一生に一度はニューヨークに来て、自分自身と人生について考えたり、軌道修正をする時間を持つことを 薦める立場でいるけれど、 私に言わせれば ニューヨーカーほど他人に親切で、フレンドリーな人々は居ないと思うのだった。 他の州のアメリカ人にこれを言うと、皮肉か冗談かと思われるけれど、 私には 「ニューヨーカーの親切によって救われた1日」というのが 数えきれないほどあって、 困っていた時に助けてもらった経験もあれば、イライラするような事が起こった時に 見ず知らずの人が慰めて、落着かせてくれたことなどもあって、 そんな思いやりや親切を 全然知らない通りがかりの人から受けているうちに、自分も他人に同じ事をしてあげたいと思うようになって、 それを実践できるようになったことは、大袈裟な言い方であるけれど 私の人生を変えたとさえ思っているのだった。




さて、一般にニューヨーカーと言えば 「早口、早歩き」、「合理主義」、「ワーカホリック」、 「全米一外食が多い」などとキャラクタライズされる一方で、 ニューヨークのスポーツファンは「情報通でホームチームにも厳しい」と言われるけれど、 ワーカホリックについては、週間の労働時間はロサンジェルスやワシントンDCに比べると僅かに短いのが実情。
でもそんな 外から枠付けたキャラクターではなく、ニューヨーカーが自分自身を ”生粋のニューヨーカー”と呼べるかについて、某メディアが作成したのが以下のチェックリストなのだった。

・ 赤信号でも交差点で待たない、Jウォーク(交差点以外で道路を横切ること)をする
・ 変な事を目撃する度に "Only in New York (こんな事が起こるのはNYだけ)"と言う、もしくは思うけれど 特に驚かない
・ タイムズスクエアで ディズニー・ランドに居るかのように写真を撮って、ノロノロ歩く旅行者を嫌悪している
・ 空車を示すライトが付いていないタクシーを拾おうとする人を ”Loser”もしくは ”アマチュア”だと思う
・ シティ・バイクのプログラムを毛嫌いしている
・ 2007年まではブルックリン、クイーンズ、ニュージャージーの住人を”ブリッジス&トンネルズ”と呼んでいた
・ オバマ大統領がNY入りするニュースを聞くと ウンザリする (交通規制があるため)
・ 今時 フェイスブックを逐一アップデートしている時間なんて持ち合わせていない(もっぱらインスタグラムで済ませる)
・ ピザとベーグルへのこだわりが強く、何処の何が美味しいかを熟知している
・ ロサンジェルスが大嫌い
・ クローゼットの中に黒い服が沢山吊ってある
・ カーペットを自宅に敷くことなど考えたことがない (ウッドフロア&ラグがニューヨークであるべき床の姿)
・ ホボケンやジャージー・シティ(どちらもニュージャージーのマンハッタンに近いエリア)の開発ぶりに全く無関心である
・ 州外に出かけて「何処から来たの?」と尋ねられるのを好む
・ ニューヨーカー以外が気に入らないことをした場合、「NYではそんなことはしないから」と言って 相手にしない
・ ”ハウストン・ストリート”を”ヒューストン・ストリート”と発音する人を心から”田舎者”だと思っている

そして、このリストを見て「当ってる〜!」と笑い飛ばせるのが生粋のニューヨーカーとのこと。

スノッブで性格が悪そうなイメージのリストではあるけれど、確かに当っているのがこのリスト。
そもそもニューヨークは アメリカ国内外の様々な街からやって来た人々で構成されているので、 ニューヨーカーというキャラクターは、既に生まれながらに持ち合わせているキャラの上に レイヤーのように形成されたもの。したがって、生粋のニューヨーカーを括ろうとした場合、 こんな他愛の無いリストになってしまうけれど、私のイメージでは、このリストのスノッブさとエッジに、上昇志向と人間愛を加えたのがニューヨーカー。 暮せば暮らすほど、ヤミツキになる魅力に溢れていることが理解できるのだった。

Will New York 宿泊施設滞在



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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