Jan. 17 〜 Jan. 23 2005




津波ドレス



先週の日曜日が ゴールデン・グローブ賞の授賞式、今週はブッシュ大統領2期目の就任式と その関連イベントが ワシントンで4日間に渡って行われ、それが終わったかと思えば、ニューヨークに大雪が降った土曜日には、 フロリダのパーム・ビーチで ドナルド・トランプと、5年間交際を続けた24歳年下のモデル、メラニア・クナウス嬢(34歳)の結婚式が行われたため、 今週はメディアを通じて、この3つのイベントのドレスというドレスを見せ付けられることになった。

ゴールデン・グローブ賞は、例年、授賞式イベントの中ではオスカーに次いで視聴率が高く、そのファッションも 大きく話題になるものだけれど、今年は 昨年より40%も視聴率が低下しており、 そんな人々の関心の薄れを反映してか、ドレスのレビューを扱うメディアも例年よりトーン・ダウンした傾向で報道が行われていた。

その一方で、既に先週スケッチが公開されていたのが、ブッシュ大統領の就任ガラ、及びその関連パーティーで、 ローラ夫人とブッシュ・ツインズ(ブッシュ大統領の双子の娘達)が着用するドレス。 今週木曜に行われた就任ガラの映像では、これを実際に着用した3人の姿を見ることになったけれど(写真左)、 ブッシュ・ツインズが着用したバッジリー・ミシカのドレスについては、それぞれ若い2人の雰囲気に合っていたように見受けられたものの、 ローラ夫人が着用したオスカー・デ・ラ・レンタのガウンについては、ちょっと間が抜けた インパクトに欠けるもので、 V字に開いたネックラインも夫人には似合っていないと思えたのが正直なところだった。

でも今週、最も話題が集中したドレスと言えたのは、土曜日に行われたドナルド・トランプとの結婚式で、 3人目のミセス・トランプとなったメラニア嬢が着用した クリスチャン・ディオールのウェディング・ ドレスである。
このドレスは、式の4日前の火曜日に 発売されたヴォーグ誌2月号の表紙としてメディアと一般に 公開されており、 ヴォーグ誌がウェディング・ドレスを表紙にするのが 同誌115年の歴史上初めてのことならば、 セレブリティが 式の前にウェディング・ドレスを公開するのも極めて異例なことで、 今週のアメリカでは、ゴールデン・グローブのセレブリティ・ドレスよりも、ローラ・ブッシュ夫人のガラ・ドレスよりも、 遥かにメディアの注目を集めることになったのがこの1枚だったのである。

同ウェディング・ドレスは、昨年秋に行われたパリのオートクチュール・コレクションに ヴォーグ誌エディター、アンドレ・レオン・タリー氏とメラニア嬢が出向いてドレス探しをするという、 同誌の企画の一環として クリエイトされたものでもあり、メラニア嬢は、ディオールのショーのエンディングに登場したウェディング・ドレス(写真右、パリのオートクチュール・コレクションは、 必ずマリエ(ウェディング・ドレス)でショーを締めくくるというのが慣例となっている)を見て、 「自分が着るのはこのドレスしかない」と確信したのだという。
そこで、ディオールのデザイナーであるジョン・ガリアーノが、この作品をメラニア嬢のテイストでアレンジしたのが、 小売価格にして 20万ドル(約2千万円)と言われる 写真左のドレスである。
この見るからにオーバー・デコラティブで、津波のようにドレープがうねったドレスは、 300フィート(約90メートル)のシルク・サテンを用い、 トレーン(ドレスの後ろの引きずり部分)の長さが13フィート(約4メートル)、オーガンジーのヴェールの長さは16フィート(約5メートル)、 刺繍とドレープを仕上げるだけで550時間、ドレス製作に掛かった延べ時間は1000時間と言われ、 その重さは約27キロ。ランウェイでは、ドレスが重過ぎて、ビスチェからモデルの胸が飛び出してしまうなど、 実際に歩いたり、動いたりすることなど、全く考慮されずにデザインされているドレスである。
このドレスを着用するために、メラニア嬢はマノーロ・ブラーニックが彼女のために特別製作した、 マノーロ史上最高ヒールのサンダル(15センチ・ヒールと言われる)を履くことになっており、 肉体的にもかなりのチャレンジが要求されるのがこのドレスの着用である。

それでも、今週最もメディアの注目を集めたこのドレスの評判が上々かと言えば、 決してそうではなく、NYポスト誌のファッション・エディターは、「マンガっぽいディテールで、ニューヨークで最も 派手なビリオネア(トランプ氏)と結婚するためのドレスとしても、トゥー・マッチである」と辛口の批評をしているし、 トークショーのパーソナリティなども「どうして あんな布がグチャグチャしたドレスで、1生に1度の日を迎えたいのだか?」などと ドレスに対して理解に苦しむコメントをしており、私はこれを極めてまともな見解だと思っていたりする。
でも、私が個人的に最も理解に苦しむのは、「どうしてディオールのランウェイに出てきたドレス(写真上右)を見た時点で、 これを着て結婚したいと思う女性が居るのか?」という疑問もさることながら、 こともあろうにヴォーグという世界のファッションをリードする雑誌が、どうして こんな悪趣味なドレスを花嫁と一緒に選び、 しかもそれを 同誌史上初のウェディング・ドレスの表紙にしてしまうのか?という点である。
スロヴェニアからやってきたモデル上がりのメラニア嬢が、ビリオネアと結婚するにあたってこんなステージ衣装のような ドレスを選んでしまうというのは、いかにもありがちなシナリオであるし、 ドナルド・トランプ自身のテイストも、派手で成金的な豪華絢爛型であるから、 それはそれでバランスが取れているのだと思うけれど、 これに「ヴォーグ」という ファッションの金字塔メディアが加担しているという事実は、私にとってはどうしても納得の行かないもので、 ファッションを語る上で最も大切な「シック」とか「エレガンス」というコンセプトは一体何処へいってしまったのか?と、 嘆かわしく感じてしまう一方で、「ヴォーグよりもNYポストの方が、まともにファッションを語っている」というのも、 信じ難いほどにショッキングな事実であったりするのである。


ところで、欧米では、式の前に花婿がウェディング・ドレスを見ることは「バッド・ラック」とされており、 花嫁は通常、式の当日まで花婿には内緒でドレスの準備を進めるものであるため、 今回のメラニアのドレス公開は、その意味でも周囲を驚かせていたけれど、 彼女がこれだけヴォーグ誌に対して協力的であったのは、既に女優のヒラリー・スワンクに決定していた2月号の表紙を ドレスを公開することを条件に彼女にしてもらったこと、そしてヴォーグ側から、ドレス代の全額とは言わないまでも、 ある程度が支払われているためであると 業界関係者は指摘している。またディオール側からも パブリシティと引き換えに、かなりのディスカウントがオファーされていることが噂されているけれど、 ドレス代の負担については、非公開の協約が結ばれているとのことで、明らかになっていないのが実際のところである。

でも今回のドナルド・トランプの結婚式は、約7億円を投じた、今世紀最大の結婚式と言われる一方で、 メラニアのドレスのように、パブリシティと引き換えのスポンサーシップやディスカウントで、 ケータリングからエンゲージメント・リングに至るまでの ほぼ全てが まかなわれていることが報じられており、 加えて結婚式のエクスクルーシブ・フォトの出版権が約3800万円で ピープル誌とインスタイル誌に買い取られているため、 日本のようなお祝儀というシステムが無いにも関わらず、 この結婚式が、黒字イベントになっているであろうことは、メディアから盛んに指摘されているところである。

アメリカでは、セレブリティ・ウェディングの報道が盛んに行われるようになってから、一般のカップルがこれを真似て 豪華、もしくは予算を上回るウェディングを 時に借金をしてまで行うようになって久しいけれど、 新婚生活が、結婚式の借金の返済に追われながらのスタートとなり、これが原因で不仲、 最悪の場合、離婚に発展するカップルも少なくないことが報じられている。
そう考えると、「金は高きに流れる」という言葉は、本当に言い得て妙だと思えてしまうけれど、 トランプ夫妻は、今回の黒字ウェディングが、あまりに広く報じられたことを受けてか、 結婚式参列者には、「自分達へのブライダル・ギフトの代わりに、 2人の名前で津波救援のチャリティに寄付をして欲しい」と呼びかけていたことも伝えられている。



Catch of the Week No.3 Jan. : 1月 第3週


Catch of the Week No.2 Jan. : 1月 第2週


Catch of the Week No.1 Jan. : 1月 第1週


Catch of the Week No.4 Dec. : 12月 第4週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。