Jan. 16 〜 Jan. 22




ヴィンテージ : ファッション、フレグランス & ワイン



今週月曜に行われた「ゴールデン・グローブ」の授賞式のレッド・カーペット・ドレスで、今年最もパブリシティを獲得する結果となったのが、リース・ウェザースプーンが着用した シャネル・オート・クチュールの「ヴィンテージ」である。
レッド・カーペット上のインタビューで、どのデザイナーの作品かを訊ねられたリースは、「ヴィンテージ・シャネル」と笑顔で答えていたけれど、 実はこの「ヴィンテージ」、3年前のゴールデン・グローブのアフター・パーティーでキアスティン・ダンストが着用したものだったということが判明し、 メディアは一斉にこのことを取上げ、リースとキアスティンが同じドレスを着用している写真を並べて掲載したのだった。
また一部のメディアは、「このことによってヴィンテージの新しい解釈が生まれた」と、セレブリティに提供したドレスの記録を 残しておかなかったシャネルに対する皮肉とも取れる報道をしていたけれど、果たしてこのドレスが 本当にヴィンテージと呼ぶに相応しいほど古い作品であるのか、それともキアスティン・ダンストが3年前に着用しただけで 「ヴィンテージ」 と呼んでいるのかは、はっきり報道されていないのが実情である。

ではファッションにおける「ヴィンテージ」とは何であるかといえば、そもそもヴィンテージという言葉の由来はワインである。 車の世界にも「ヴィンテージ・カー」というカテゴリーが存在するけれど、「ヴィンテージ」よりも 古いものを指す言葉が「アンティーク」で、 一般的にはファッションでも家具や調度品でも、生産されてから50年が経過したものが「アンティーク」と呼ばれるに値するもの。 そしてヴィンテージとは生産されてから25年程度が経過したものというのが一般的な認識で、 現在ファッションのヴィンテージ市場では、80年代のものがようやく「ヴィンテージ」の仲間入りをし始めているのである。
その一方で、ワインについては、生産から50年以上が経過したワインについて 「オールド・ヴィンテージ」という表現は使っても 「アンティーク」という言葉は まず使われないもので、「ヴィンテージ」という言葉は あくまで年号を示すだけの意味合いで、 決して 「古い」 という意味合いを含んでいるものでは無かったりする。すなわちワインの場合、特定の年に収穫されたブドウだけを使って生産されたワインであれば、 2000年ものでも、2003年ものでも「 ヴィンテージ・ワイン」な訳である。

では、何故ファッション、もしくは車や調度品の世界で「ヴィンテージ」という言葉が使われ始めたかと言えば、 そもそもワイン以外のカテゴリーで用いる「ヴィンテージ」とは、何年もが経過した後でも、生産された年がはっきり分かるほど エスタブリッシュされた生産者によってクリエイトされたものであると同時に、 そのスタイルやクォリティが 世の中に出回った時点で 社会に認識されているため、ワインのように 「何年もの」という表現で 語れるプロダクトを指しており、 30年代、40年代に生産された車や、クリスチャン・ディオール、シャネルのドレスなどは、まさに「ヴィンテージ」と呼ぶに相応しいものだったのである。
でも、「ヴィンテージ」と呼ばれていたものが、時代の経過に連れてどんどん古くなっていったために、 「ヴィンテージ・ドレス」、「ヴィンテージ・カー」というと、「アンティークほどは古くなくても、ある程度年代が経過した古いもの」 というイメージが定着してしまった訳である。
だから先述のゴールデン・グローブのドレスについては、ファッション的に「ヴィンテージ」という言葉を解釈した場合、 2003年春夏クチュール・コレクションで発表された作品を、ヴィンテージと呼ぶのは 「ドレスが新し過ぎて不適切」 と見なされる訳だけれど、これが「ヴィンテージ」という言葉の起源であるワインの世界であれば、 生産年さえはっきりしていれば、シャネルの「2003年のヴィンテージ・ドレス」と呼ぶことは差し支えないのである。

さて以前、このコラムで何度か 「マノーロ・ブラーニックもワインと一緒で、当たり年、ハズれ年がある」と書いたことがあるけれど、 実際、ファッションとワインというのは、意外に共通点が多かったりする。 ファッションもワインも、世界的に認識されているリーディング・カントリーはフランスであり、ブランド志向の強い世界である。 フランスの一流老舗ブランド、エルメスをワインの世界に置き換えればロマネコンティのようなものだし、 シャネル、クリスチャン・ディオール、セリーヌ、ルイ・ヴィトン、YSLは、言ってみれば ワイン界のボルドー5大シャトー(ムートン・ロスチャイルド、シャトー・マルゴー、シャトー・ラトゥール、シャトー・オーブリオン、ラフィット・ロスチャイルド)のような存在。 これに対するイタリアン・ブランドに目を移せばグッチは イタリアン・ワインに例えるならガヤ(GAJA)、 そして 80年代後半からプラダがファッション業界に及ぼした影響は、スーパー・トスカン(トスカーナ)の先駆者、サッシカイアがワイン界にもたらした インパクトと非常に似ていたりするのである。
こうやって、ファッションとワインで ブランド・ポジショニングの類似点を探していくとキリがないけれど、 残念ながら これまでは ファッションほど 女性に関心を示されてこなかったのがワインである。 それも仕方が無いと思うのは、洋服は生まれた時から毎日身につけて 生活しているものであるけれど、 ワインは法律上、未成年のうちは味わえないものであり、「ワインを飲む、ワインを楽しむ」という行為が ライフスタイルの中に取り込まれるには時間も掛かれば、きっかけも必要で、 加えて「お酒を美味しく味わえる」という体質も要求されてくる訳である。
また 私が知る限り、ワイン好きな人がワインに入り込んで行った要因としては、「ウンチク好き」と「見栄」という要素が絡み合っているけれど、 これらはファッション通にも不可欠な要素であるのは事実である。 でもファッションにおける「ウンチク好き」と「見栄」の要素が、成長過程に着用する洋服を通じてデベロップ出来るのに対して、 ワインにおける「ウンチク」と「見栄」は、時に受験勉強のように書物と格闘して得られているもので、 世の中の他のものに興味がある人だったら、挫折して興味を失ってしまうのは仕方が無いものであるし、 「ワインなんて、飲んで美味しければ良い」と思って、深く知ろうとしなくても不思議はないのである。
かく言う 私の本棚にも、96年に購入したワインの本が置いてあるけれど、退屈極まりない上に、意味が良く分からないので 殆ど読んでいなかったりする。 しかしながら、ファッションとて学問として勉強させられれば この上なく退屈なもので、私がそれを痛感したのが FIT(ファッション工科大学)在学中に 取ったテキスタイルのクラスであった。ここで、リネン・カウンターなるものを使って1平方インチの中に幾つ織目があるかを数えたり、 コットンに伸縮性を持たせるにはスパンデックスが最低何%含まれるべきか?といったことを学んでいたクラスは、 まるで、ワイン・スノッブが、「ワインを美味しく味わうには 先ずブドウの種類を全部覚えなきゃダメ」といって、 ブドウとその特徴をレクチャーするのを聞かされるのに非常に似ていたのである。

ファッションの場合、幼い頃は親に買い与えられたものを着ていた子供でも、物心が付けば自分の好みを主張するようになって、 やがては自分の給与の大半を叩いて、自分の好きなデザイナーの服やバッグやシューズを買ったり、 高くても特定の素材やクォリティ、ブランドにこだわるようになる訳で、 ワインにしても、最初はボーイフレンドやワインに詳しい友人が選んでくれたものを飲んでいるうちに、「メルローが飲み易くて好き」程度のことは 誰でも言えるようになるのである。そうするうちに、美味しいワインに巡り会えば、「この間、オーパス・ワンっていうカリフォルニアのワインを飲んだら 美味しくて、それ以来カベルネ党なの」などと言い出す訳である。 そこで「何年のオーパス飲んだの?」と誰かに訊かれれば、初めてワインのヴィンテージを意識することの大切さを学ぶかもしれないし、 オーパスが、カリフォルニアのロバート・モンダヴィとシャトー・ムートン・ロスチャイルドを所有する バロン・フィリップ・ロートシルト(ロートシルト)のコラボレーションで生まれたことを教われば、 今度はその興味がモンダヴィやムートンに傾くかも知れない訳で、そうやって知識欲や興味がおもむくままに楽しんで行けば、 女性がファッションに抱くこだわりや、ブランド性、トレンド性がワインの中に見えてくるのは紛れも無い事実なのである。
実際、ニューヨーク・タイムズ・マガジンが昨年末に掲載した ファッションとワインの関わりに触れた記事の中でも、カルバン・クラインの女性エグゼクティブ、キム・ヴァーノン女史が、 年間500万円近くをワインの購入に当て、彼女の2000本近いワイン・コレクションのうち 高いものは、 「フェンディのバッグと同じくらいのお値段」とコメントする様子が紹介されており、 ファッションの価値観を持ち込むことによって、ワインに凝り始める女性達が描かれているのである。

その一方で、ワインのヴィンテージのアイデアをフレグランスに用いる動きもビューティー業界では出始めている。
バーガンディ・ワインでは、最上級のヴィンヤードで収穫されたブドウを用いたワインをグラン・クルーと呼ぶけれど、このアイデアを用いて、 各年のグラン・クルーに当たるプレミアム・フレグランスをクリエイトしようというのがジヴァンシーとフランスのパフューマリー、ラーティザンである。
ジヴァンシーは、これを実現するため フレグランスの原料となるフラワーのグラン・クルー・ヴィンヤードに当たるフランスのL.M.R社の株式を取得。 これまでナチュラル・ミモザ10%を用いて生産してきた同ブランドの定番フレグランス、アマリージュのグラン・クルー・バージョンを 2005年にL.M,Rの畑で収穫された 最上のナチュラル・ミモザを25%用いてクリエイトし、 「アマリージュ・ハーヴェスト 2005」とネーミングしている。その生産数は、メジャー・フレグランスとしては極めて少ない10万本に限定。 オリジナル・バージョンよりも お値段を20%高めに設定したヴィンテージ・フレグランスとなっている。。 この他、ジヴァンシーではオーガンザ、ヴェリー・イレジスタブルの2本のフレグランスでも「 ハーヴェスト 2005」 バージョンを製作しており、 どちらも2006年春に店頭に並ぶことになっている。
その一方で、ラーティサンも、毎年、最高品質を生産する1産地、1種類のフラワーに絞って、グラン・クルーのヴィンテージ・フレグランスを生み出すプロジェクトを手掛けており、 その第1号となったのが、チュニジアのナブルで2004年4月に摘み取られた最上のオレンジ・フラワーのみを使ってクリエイトされた フルール・ドランジェ 2005で、生産されたのは100ml入りのボトルが僅か2990本。お値段は250ドル。
また、南フランスのロゼールで2005年6月に摘み取られたナルシサス(水仙)のみを使ってクリエイトされた ラーティザン・ナルシサスも2006年に登場することになっており、ラーティザンの場合、収穫年ではなく 発売年をヴィンテージとしているのは ワインとは異なる点である。

さて、12月3週目の「Gift for Myself」のコラムにも書いたように、私も 今ではすっかりワインにはまってしまっていて、これまでは「600ドル=マノーロが1足分」という価値換算で、 例えば、1200ドルの買い物をしようとする場合、「マノーロ2足分かぁ・・・」と迷っていたけれど、 昨今では、「200ドル出せばかなり良いワインが買える」という価値判断が加わったので、 800ドルの出費を考える時などは「マノーロ1足&シン・クァ・ノン1本」と比較するなど、 ワインが金銭価値基準になりつつあったりする。
そんな私のワインに対する興味をサポートしてくれているのが、オークション・ハウス、クリスティーズに務める ワイン・スペシャリストで、私の個人的な友人でもある渡邊順子さん。 順子さんについては、以前CUBE New Yorkのキャリア・プロファイルのセクションでご紹介させていただいたことがあるので、 そちらをご覧になって覚えている方も居ると思うけれど、彼女と常々話しているのは、 「どうして日本の教養もファッション・センスもある女性達がもっとワインに夢中にならないのか?」ということ。 順子さんも、私同様、「女性がもっとファッションのようにワインを楽しむべき」という考えの持ち主で、 だからこそミーハー的にワインにはまっていく私を温かくサポートしてくれた訳だけれど、 女性というのは、ちょっとワインの知識を付けると ファッション・トレンドを嗅ぎ分けるように、 本能的に旬のワインに引かれる傾向があるのだそうで、 これは、ウンチクを目一杯頭に詰め込んで、味わうのも忘れてワインの説明をするような「ワイン・スノッブ」には決して無い感性であるという。
とは言っても、世の女性がワインの事を知ろうとすると、溢れているのは女性にフレンドリーとは言えない、お堅いワイン・ガイドばかり。 そこで、「女性がファッションのようにワインが楽しめるようなガイドを!」ということで、 CUBE New Yorkで、6回シリーズで順子さんに担当してもらうことにしたのが、 「Wine Sophistication By Junko Watanabe (ワイン・ソフィスティケーション バイ ジュンコ・ワタナベ)」というタイトルの バイ・マンスリー(2ヶ月置き)コラム。
従来とは異なる切り口で、ワインに親しんで頂けるページになる予定で、 Vol. 1は2月初旬にアップの予定です。
ワインに興味がある方も、全く無い方も、是非ご一読下さい。



Catch of the Week No.3 Jan. : 1月 第3週


Catch of the Week No.2 Jan. : 1月 第2週


Catch of the Week No.1 Jan. : 1月 第1週


Catch of the Week No.4 Dec. : 12月 第4週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。