Jan. 16 〜 Jan. 22, 2012

” Definition of Fake Gourmet ”

今週末のニューヨークは金曜夜中から降り始めた雪で、昨年10月末以来、この冬2度目の積雪となったけれど、 マンハッタンでの積雪量は 10月の雪に比べれば極めて少ないもの。
この冬は、雪かき業者が「全くビジネスにならない」と嘆くほどに 雪が降らないだけに、スキー場も閑古鳥。 ニューヨーカーのリアクションにしても、「冬が終わる前に あと何回か雪が降ってほしい」といった声が多く、 頻繁な大雪に泣かされた昨年の冬とは 全く異なる様相を見せているのだった。

さて、今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたニュースの1つは、 イタリアのクルーズ船、コスタ・コンコルディア号の座礁事故で徐々に明らかになってきた真相の報道。
今週末の時点で死者の数が12人に達した事故の原因として 現時点で説明されているのが、キャプテンであるフランチェスコ・スチェティーノが 勝手に進路を変えて ジリオ島に接近し過ぎたことで、これはもちろん違法行為。 彼は、緊急避難のプロトコールがきちんと行なわれず、パニック状態になっている乗船客やクルーを残して船を脱出しただけでなく、 日が落ちて暗くなったことを理由に船に戻って避難の指揮を取ることを拒んだことが明らかになっており、 先に避難した理由についても、船が傾いていたために タグボートに転落してしまったと説明。
今週中旬には、事故の直前までキャプテンとディナーをしていたというブロンドの美女、ドミニカ・セモータンが登場し、 「自分はキャプテンに命を救われた」と証言したけれど、この女性は他の乗船客が何も持たずに 着の身着のままで避難しているのに対して、 荷造りした荷物を持ち、暖かいコートを着込んで、真っ先にタグボートに乗り込んでおり、 明らかに誰よりも先に避難を告げられていたことが疑われていたのだった。
さらに乗船客の中には、キャプテンがドミニカと もう1人のブルネットの美女を連れ立って、 船内のエクスクルーシヴなレストランで、キャプテンというよりも、まるでマルチミリオネアの乗船客のように振舞っていたと証言する人々もおり、 まだまだ様々な真相が明らかになりそうな気配なのだった。 そのキャプテンは故殺罪と船を立ち去った罪で 現在は自宅軟禁状態。
コスタ・コンコルディア号は、オイル・タンクがダメージを受けてたことが伝えられ、燃料の流出が心配されているけれど、 全長290メートル、11万4500トンという巨大なクルーズ・シップであるだけに、 燃料を抜き取ってから、座礁船を回収する作業には 最低でも1年を要することが 専門家から見積もられているのだった。



ところで、今週アメリカで大きな話題になったと同時に物議を醸していたのが、脂肪分、糖分の多いサザン(米国南部)・クッキングの女王として知られる ポーラ・ディーン(写真上左側)が、3年前から糖尿病であったことを明らかにしたというニュース。
ポーラ・ディーンのクッキング・スタイルは、ただでさえ不健康なサザン・クッキングをさらに高脂肪、高カロリーにしたもので、 写真上右のドーナツ・ベーコンエッグ・バーガーは彼女の代表作。 「何でもかんでもベーコンで巻いて、脂で揚げる」とさえ言われる彼女のレシピには、他にも チーズとベーコンのトッピングをたっぷり乗せたミートローフや、砂糖とバターを固めて作ったピーカン・パイなど これでもか!で脂や砂糖など、身体に悪いものを詰め込んだメニューが勢揃いしているのだった。
そんなポーラ・ディーンが糖尿病であったというニュースが物議を醸していたのは、 自分自身は こっそり糖尿病の治療をしておきながら、料理番組に登場にしては 自分を糖尿病にした料理をプロモートし、 「食べたいものを食べるべき」といったポリシーを掲げて、そうした料理を食べる健康上のリスクを全く訴えずにいたため。

彼女のクッキング・スタイルは、あまりに不健康であるため、「アメリカを肥満にする」といった批判は以前から聞かれており、 彼女が糖尿病であるという噂も数年前から流れていたこと。
でも、そのサザン・クッキングをトレードマークに 料理番組、料理本のベスト・セラー、鍋を始めとするライセンス・プロダクトを展開し、 年収数億円のビジネス・エンパイアを築いていたポーラ・ディーンだけに、そう簡単にはスタイルを改めることはできなかったというのが 内情のようなのだった。
糖尿病であることを明らかにしたポーラ・ディーンは、 自身が服用してきた糖尿病治療薬のスポークスマンとなっており、 しっかり新しい収入源を確保した上での 糖尿病宣言。 しかも、彼女の息子が 彼女のレシピを低カロリー、低脂肪ヴァージョンにした料理番組をスタートしたばかりで、 ビジネス・インパクトを計算した上でのタイミングだと周囲から見られていたのだった。
これに対してポーラ・ディーンは、「自分の料理を毎日食べろとは言っていない」、「食べる時は、量を制限することが大切であることは 常に訴えてきた」と釈明しているのだった。

とは言っても、彼女の料理は まともな味覚の人だったら受け付けないほどに 砂糖や脂肪が多いもの。
それだけに、彼女の料理が受け入れられてしまうアメリカという社会が、いかに肥満社会になるべくしてなったかを実感してしまうけれど、 アメリカは後進国とは異なり、肥満になるのは低学歴の貧困層。 すなわち、太っているということは ファスト・フードなど、栄養のバランスが悪い食事しか食べられない経済力や生活意識の低さを意味するもの。
なので、かつてはシェフやグルメと言えば 丸々太った体型がまかり通っていたけれど、 今ではスリムでなくても、肥満であるべきではないというのが一般的な認識。
特にシェフが太っているということは、そのレストランで食事をすると、シェフ同様に太ってしまうことを来店客にイメージさせるため、 レストランのイメージダウンになると指摘されているのだった。
グルメにしても、たとえキャビアやフォアグラで太ったとしても、肥満体型になるまで体重が増えてしまえば、 マクドナルドのハンバーガーを食べて太った貧困層の体型と見分けがつかないのが実情。 また、昨今グルメと呼ばれる人々は日本食を好んで食べる傾向が強く、かなりのヘルシー志向。 フレンチ・レストランでさえ、そうしたヘルシー志向のグルメに対応するために、 バターやクリームの量を減らしていることが伝えられて久しい状況なのだった。

ところで、少し前に女友達が愚痴っていたのが、”自称グルメ”が集まるディナー・パーティーが いかにつまらなかったかという話。
このパーティーは、インターネット上でメンバーを募って、食事をするイベントで、 彼女が出かけたパーティーに集まったのは12人。 レストランのプライベート・ルームを借りたパーティーで、参加費が120ドルというものだったというけれど、 料理もワインも美味しかったにも関わらず、彼女が満足できなかったのは 参加者の数人が語るグルメ体験の自慢話と薀蓄(うんちく)にウンザリしてしまったため。
たとえば、パスタ料理の上に少しだけキャビアが乗っていたのを見て、 「去年xxxxで食べた ベルーガ・キャビアをふんだんにまぶしたパスタは絶品だった!」、「本物のキャビアっていうのは黒じゃなくて、グレーなんですよ。 知ってました?」などと、食べている料理の味が落ちるようなコメントが次々と飛び出してくるのだそうで、 デザートにパンナコッタが出てきた時も、「これはパンナコッタではなくて、ザバイヨーネだ。ペストリー・シェフはこの2つの違いが分かっているのか?」 と言う始末。そうかと思えば、ゲテモノ食いの自慢話を競って始めるメンバーも居て、彼女は支払いを終えて、早々に立ち去ったと言っていたのだった。



そこで、私達はグルメぶっているだけの、フェイク・グルメの話になってしまったけれど、 私自身、もう何年も前に 果たしてどの程度のグルメだか分からない人に、長々とレクチャーをされてしまい、ウンザリしたことがあったのだった。
この人物は「70年代のマルゴーを飲まずして、ワインは語れませんよ」と言っていたけれど、 マルゴーは、70年代のオーナーによる運営が悪く、、 1977年にメンゼロプロス家に買収されるまでは評判を落としていたシャトー。メンゼロプロス家が多額の投資を行なって、 伝統的なワイン・メイキングを復活させてから名声とバリューを取り戻しているので、メンゼロプロス家が買い取る前と後の 70年代のマルゴーを ひと括りで語るのは無理があるのだった。
でもそんなことを言ってしまうと 釈明を長々と聞かされると思ったので、「そんなに美味しいんですか?」と訊ねたら、 「”美味しい” なんて稚拙な言葉じゃ表現できませんよ」と言われてしまったのだった。
私からは、この人物がグルメぶって優越感を味わっているだけに思えてしまったけれど、 シェフでもソムリエでも、料理やワインの誉め言葉として彼らが最も好むのは 実は、「Delicious!/ 美味しい!」という言葉。 逆に、食通、ワイン通をひけらかすように、コテコテ細かい感想を 長々と語るのは、嫌われると言われているのだった。

私が個人的に 人をフェイク・グルメだと見なす基準は、以下に挙げる10点。

基本的にグルメというのは、食べ物に生きがいやこだわり、幸福感を見出している人々であり、 食べるという行為に卓越し、食に対して冒険的でオープンマインドであるべきもの。 だから見るからに美味しそうに、しかもキレイに食べるものだし、 舌の上で食べ物が最も美味しく感じられる瞬間に飲み込むので、咀嚼(そしゃく)の時間が短いのが通常。
また、世の中には一口食べた時は理解できなくても、食べているうちにヤミツキになるフードが存在する訳で、 ちょっと食べただけでジャッジを下すのは、食べ物に対する愛情が欠落している証拠。
さらに運転免許を持たずしてカー・レースの解説者になれないのと同様、 簡単な料理が普通に美味しく作れなければ、食に関する基本知識やセンスに乏しいということで、グルメとは言い難いというのが私の意見なのだった。

相手がグルメであるか、ないかは別として、私が食事中に最も嫌う話題は、やはり他人の悪口や悪い噂話。 そういう話をしながら物を食べると、話題の毒気がフードに混入するような気がするためで、 他人の悪口を言いながら食が進む人というのは、やはり人格的に問題があると思うのだった。
私の考えでは本当のグルメというのは、一緒に食事をしていて、美味しいものが一層美味しく感じられるような 食べ方、話題、雰囲気の演出が出来る人。これが本人にしてみれば、普通に食事を楽しんでいるだけで出来てしまうというのが ”真のグルメ” と言える人物だと思うのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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