Jan. 21 〜 Jan. 27, 2013

” Anti YOLO? ”


とにかく寒かったのが今週のニューヨーク。
私がこれを書いている1月27日日曜は、1週間ぶりに日中の最高気温が零度を超えていたけれど、 週日は、日中でもマイナス5〜7度、体感温度にしてマイナス10度以下の日が続き、 今週は天気のニュースに かなりの報道時間が割かれていたのだった。

もちろんその寒さは、月曜にワシントンで行なわれた オバマ大統領の2度目の大統領就任式の際も同様であったけれど、 その就任式で最も物議を醸していたのが、アメリカ国歌を歌ったビヨンセ。
写真上左は就任式翌日に、 華やかにニューヨーク・ポスト紙の表紙を飾った ビヨンセ&ジェイ Z夫妻であるけれど、 その次の日には、ビヨンセが事前に録音したテープに合わせて、国歌をリップ・シンキング(音に合わせて唇を動かすこと)をしていたという報道がされ、 写真上右側のポスト紙に見られるような、ジョーク交じりの批判がメディアに飛び交っていたのだった。
大統領就任式の国歌がテープのパフォーマンスになったのは史上初めてのことで、 一部ではこれが顰蹙を買っていたけれど、 実際には、就任式に訪れた人々、及びTVの視聴者が聴いた歌声はテープでも、 ビヨンセ自身はテープに合わせて歌唱をしており、音に合わせて 口だけ動かしていた訳ではないのだった。

ビヨンセ側は同件についてノー・コメントを貫いているけれど、 大統領就任式の ミュージック・パフォーマンスが、事前に録音されたテープ演奏になったのは これが初めてではないこと。 ジョージ・W・ブッシュ前大統領の就任式で パフォーマンスを行ったヨー・ヨー・マも、 就任式当日の気温が低く、チェロの弦のコンディションが保てないことを理由に、 テープに合わせて、演奏しているふりだけをしていたのは、当時 やはり大きく報じられたこと。
今回はそれがアメリカ国歌であったことが、大きく問題視された要因であったけれど、 気温の低い屋外での歌唱の難しさや、ビッグ・イベントのプレッシャーを考慮して、 ビヨンセに同情する声も 多いのが実際のところなのだった。



ところで、今週はダウとS&Pが 引き続き順調に値を上げて、過去5年で最高値をつけていたけれど、 その流れに逆らって大暴落していたのがアップル社の株価。
2012年9月半ばには、700ドルを超えた同社の株式であるけれど、今週末の終値は439.88ドル。 若い層が 「アップルは親の世代のブランド」として、アップル離れをする傾向が伝えられて久しいアメリカでは、 徐々に同社の株式が下落傾向にあったけれど、 今四半期の業績が発表された1月24日には、この日1日だけで株価が12%も下落しているのだった。
この理由としてアナリストが指摘するのが、アイフォン5の売り上げが今ひとつなのに加えて、この先、目新しいプロダクトの発売ニュースが無いこと。
この株価下落によって、今週末には ”アメリカで最も業績が良い企業” の座が、アップルから 再びエクソン・モービルに戻っているのだった。



さて、2012年の流行語の1つに ”YOLO/ヨーロー” という言葉があるけれど、 これは、「You Only Live Once」の略。
この同義語で、もっと一般的に英語に定着している言葉として、「Bucket List / バケット・リスト」というものがあるけれど、 どちらも死ぬ前にやっておきたいこと、もしくはやっておきたい事のリストという意味。 バケット(バケツ)・リストについては、その語源は スラングで 死ぬことを ”Kick the Bucket / キック・ザ・バケット”、 すなわち”バケツを蹴っ飛ばす” と表現する ところからきているのだった。
でもバケット・リストもYOLOも、本来は やりたいことを全て終えて、後悔しない人生を送るというコンセプトでありながら、 2012年に流行語になった”YOLO”については、「自分にやる気を起させる目標」とか、「人生における短期展望の目標」の ような コンセプトとしても 捕えられていたのだった。

YOLOは 昨年末のネット上のアンケート調査で、”Trending / トレンディング”、”Fiscal Cliff / フィスカル・クリフ”と並んで、 「2012年を最後に消え失せてほしい言葉」の上位に上がっていたので、 これについて語るのには もうウンザリしているアメリカ人が 少なくないのが実情。
2013年に、ニューイヤー・レゾルーション(新年の決心)を定めるアメリカ人が例年より少なかったのも、 YOLOが流行語になったせいで、2012年中に 死ぬ前に達成する目標を考えすぎたため とも言われているのだった。

そんなYOLOにウンザリしたアメリカを象徴するかのように、昨日1月26日に放映された「サタデー・ナイト・ライブ」の中では、 YOLOを オチョクッた ラップ・ソングが登場して、大爆笑を誘っていたのだった。
その歌詞では、「人生は一度しかないから、ドラッグをやって刑務所に行くリスクを冒すべきじゃない。 事故が起こるかもしれないから、バスも電車も、車も使うべきじゃない、ましてや飛行機なんて とんでもないから、旅行なんてするべきじゃない。転ぶといけないから階段を使うべきじゃない。 家具はぶつかると危ないから、部屋に置くべきじゃない。 銀行はつぶれるかも知れないから、お金を預けるな。 食べ物に毒が入っているかもしれないから、毒見係を雇うまで物を食べるな。」というような、 1度しかない人生を しくじらないために、やるべきではない事のリストが 挙げられていて、 曲の最後には、YOLOが 「You Ought to Look Out (あなたは注意するべきだ)」になっているという オチがついていたのだった。

この「サタデーナイト・ライブ」のコメディは、今日ブランチした女友達の間でも話題になっていたけれど、 それがきっかけで私達が話し始めたのが、YOLO/バケット・リストについて。
前述のようにYOLOは、昨年の流行語だったので、多くのセレブリティが ネット上でYOLOを公開していて、女優のスーザン・サランドンは、”長生きして、ひ孫の顔を見ること”、 シンガーのカイリー・ミノーグは ”ボーイフレンドのために、料理が作れるようになること”、 ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムは、”既に8つあったYOLOを実現したので、新しいYOLOを見つけること”が YOLOだと答えていたのだった。



一般のアメリカ人の YOLOやバケット・リストの中に必ずと言って良いほど含まれているのは、スカイ・ダイヴィング、 バンジー・ジャンピング、宇宙旅行のようなアドヴェンチャー。
それに加えて、「特定の外国に一定期間暮らしてみたい」、「世界旅行」というようなトラベル願望、 「ブロードウェイやカーネギー・ホールでパフォーマンスをしてみたい」というようなスター願望、 「スーパーモデルとデートしてみたい」というようなロマンス系の願望、 もしくは、「自分のレストランをオープンする」、「アントレプレナーになって、自分の会社を経営する」というような、ビジネス願望が 多いと言われているのだった。

その一方で、長年ニューヨークのエリート・ランナーのバケット・リストと言われてきたのが、 ニューヨーク・マラソン、ニューヨーク・トライアスロン、そしてエンパイア・ステート・ビルディングの階段を駆け上がる ”Run Up / ランアップ” という3つのイベント。
ラン・アップについては、エンパイア・ステート・ビルのロビーから、観覧デッキがある地上86階まで、 1576段の階段を一気に駆け上がるレースで、 女性のトップ・ランナーは 13分台でフィニッシュするというけれど、 時間は短くても、かなり熾烈なイベントとして知られているのだった。

さて私の友人達はと言えば、やはり「パリに1年暮らしたい」、「本を書きたい」、 「アイス・ホテル(スウェーデンのユッカスヤルヴィにある 氷で出来たホテル)に泊まりたい」、 というものが出てきたけれど、 皆が共通して言っていたのが、バケット・リスト/YOLOは、 お金と時間と体力があれば 達成できることが殆ど。
すなわち バケット・リスト/YOLO は、お金さえあったら 単なるバケーション・プランであったり、 ビジネス・プロジェクトであったり、奮発して自分に与えるご褒美に過ぎない場合が多いのだった。

例えば、ゴルフが大好きな人だったら、タイガー・ウッズや、フィル・ミケルソン、ローリー・マキロイといった プロと 一度は ラウンドしてみたい と考えて、それをバケット・リスト/YOLOに 加えるかもしれないけれど、実際のところ、プロ・ゴルファーにとって お金が有り余っているファンに 大金を支払われて、彼等とラウンドするのは 重要な収入源。
ハリウッド女優や、シンガーにしても、大金持ちのパーティーにゲストとしてのアピアランスをしたり、 そこでパフォーマンスをするのは 同様に収入源になっていて、 大富豪は、場を盛り上げるために 彼等をパーティーやイベントに招待しては、セレブリティの格に応じて 500万〜2500万を支払っているという。
また、チャリティ・イベントで頻繁にオークションにかけられるのが、セレブリティやスーパーモデルとのデート。 なので、大金を投じて オークションに競り勝てば、憧れのセレブとのデートも夢ではないこと。
友人が掲げた本の出版にしても、お金があれば実現するし、Eブックスなら 今やお金が無くても実現すること。 宇宙旅行でさえ、ヴァージン・ギャラクティック社に大金を払えば実現する訳で、 そう考えると、バケット・リスト/YOLOは それに向けて必死に努力しなくても、お金さえ稼いでいれば、殆どが実現してしまうのだった。

もちろん人生の夢が 「お金を稼ぐこと」というのは寂しいので、お金を稼いで達成しようという夢や目標を定めることは大切であるけれど、 不治の病で、余生が限られている訳でもないのに、死ぬ前にやっておきたい事を真剣に考えるのは、 この先、生きている間に価値観が変わるこを考慮すると、時間の無駄にもなりかねないこと。
実際、私の友達にしても、コレというバケット・リスト/YOLOがあった訳ではなくて、 無理やり捻り出していただけに、「考えるだけで 疲れる」と言っていたのだった。

私はと言えば、125歳以上まで生きることを目標にしているだけに、 生に執着する気持が強すぎて、死ぬことを考えて目標を定める気にはなれないのだった。 私の人生の目標はと言えば、出来るだけ健康に長生きして、いろんな場所に行って、いろんな人に出会って、いろんな経験をして、いろいろなことを学びたいというもの。 これはどんどん積み重ねるからこそ意義があるもので、「達成したら終わり」 というバケット・リスト/YOLOとは 異なるコンセプト。
したがって、私はバケット・リスト/YOLOを定めるタイプではないと思っているのだった。

ところで、非常に寒かったニューヨークに話を戻せば、日中も氷点下の厳寒がもたらした 唯一のメリットと言えるのが、ニューヨークで9日間、一件も殺人事件が起こらなかったということ。 この記録は、残念なことに 昨日土曜日で破れてしまったけれど、ここまで寒いと 殺意が起こらないのか、外に出たくない人が多いからなのかは 定かでないけれど、 いずれにしても、気温という小さな要素が、犯罪発生率に影響を与えていたのは、 ニューヨーク市警察も認める事実なのだった。

以前、犯罪が多発するエリアのバス停の照明を明るくした途端に、そのエリアの犯罪件数があっという間に減少。 さらに その場でモーツァルトの音楽を流し続けたところ、その数がさらに減ったというデータがあったけれど、 そんなちょっとしたことが、人間心理や行動に影響を与えることは多いもの。
そう考えると、バケット・リスト/YOLOなどを定めるより、日頃の生活の中で、 自分のやる気や集中力を高めるちょっとした工夫をした方が、 仕事の効率が上がって、収入が増える、増えないは別として、 自分がやりたい事をする時間くらいは捻出できるように思うのだった。
身体が疲れていることを理由に 後ろ向きになる現代人は多いけれど、 人間の身体を操っているのは脳。 したがって、脳に効率良く働きかける方法を見つければ、身体はそれについてくるのである。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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