Jan. 19 〜 Jan. 25 2015

” Superbowl Deflation & Inflation ”
スーパーボウルのデフレーション&インフレーション


今週は、火曜日にオバマ大統領が一般教書演説を行ったけれど、年に一度の大統領のスピーチよりも 遥かに報道時間が割かれていたと同時に、今週のトークショーから 「サタデー・ナイト・ライブ」までの ジョークのネタになっていたのが、"Deflate-gate / デフレートゲート"。
これは先週日曜に行われた、スーパーボールの出場カードを決めるAFCチャンピオン・シップで、 45-7という大量得点差でインディアナ・コルツに勝利したニューイングランド・ペイトリオッツが、 NFLが定めるスタンダードより2パウンド空気圧が低いボールを使って、試合を有利に運んだというスキャンダル。
この試合が行われたペイトリオッツのホーム、ジレット・スタジアムは、厳寒の上に雨が降っていて、 空気圧の低い、柔かいボールを使った方が、クォーターバックがボールを投げ易いだけでなく、 レシーバーも受け取り易いという、大きなアドバンテージをもたらす状況。
NFLではオフェンスのチームが ゲーム・ボールを提供するルールになって久しく、 各チームのボールは試合前にレフリーがチェックすることになっているものの、 後の調査では ペイトリオッツ側の12個のボールのうち、11個の空気圧が低かったことが明らかになっているのだった。

この問題については、試合中にコルツ側が既にクレームをしていたとのことで、 AFCチャンピオンシップの翌日、月曜には既に大スキャンダルになっていたのだった。 メディアやフットボール・ファンが この不正行為についての徹底的な究明を求める理由は、 スーパーボウルというイベントの規模と、社会的インパクトもさることながら、 ニューイングランド・ペイトリオッツが不正行為を行ったのが、これが初めてでは無いため。
前回ペイトリオッツが不正行為で、大非難を浴びたのは2007年の ”Spy-gate / スパイゲート”。 これは、同チームが対ニューヨーク・ジェッツ戦で、ディフェンシブ・コーチのサインをビデオ・テープに撮影して、分析していたというもので、 後にペイトリオッツは 同様のスパイ行為を2002年スーパーボールの際にも、対戦相手のセントルイス・ラムスに対して行っていたことが 報じられているのだった。
2007年のスパイゲートについては、これが報じられたのは2008年のスーパーボールにペイトリオッツが出場した2日前のこと。 この時のスーパーボールは、ニューヨーク・ジャイアンツが勝利したけれど、 不正行為が報じられたタイミングが スーパーボウル直前とあって、フットボール・ファンの間では 記憶に鮮明に残っているのが このスパイ・ゲート。
以来、ニューイングランド・ペイトリオッツはメディア関係者の間でも、NFLのファンの間でも ”好感が持たれないチーム”となっており、再びこうした疑惑が浮上した際の、 メディアとファンの共通したリアクションが、「ペイトリオッツだったら、有り得る不正行為」というものなのだった。




今週、この疑惑に拍車を掛けることになったのが ペイトリオッツのコーチ、ビル・ベリチェックと、クォーターバックのトム・ブレイディがそれぞれ行った プレス・カンファレンス。 ベリチェックは、汚職に問われた政治家の議会公聴会証言のように、「知っていることは、全て答えた」 の一点張り。 一方のトム・ブレイディも、「不正行為をしていない」とは決して断言しない、煮え切らない回答を繰り返しながらも、 「ボールのデフレートには気付かなかった」ことだけは明確にしていたのだった。
でも、この答えには何人ものNFLのOBクォーターバックが、「信じがたい」とコメントしていたのに加えて、 トム・ブレイディ自身が数年前に、柔かいコンディションのボールが好きだとコメントしている等、 彼のプレス・カンファレンスは、疑惑の打ち消しには全くの逆効果。
プレス・カンファレンス後のアンケート調査によれば、コーチ、ビル・ベリチェックが「真実を語っていない」という印象を持った人々は70%、 トム・ブレイディが「真実を語っていない」という印象を持った人々は77%にも上っていたのに加えて、 ペイトリオッツをスーパーボウルに出場させるべきでないと回答した人々は80%以上に達していたのだった。

前述のように、今週は ”ディフレートゲイト” がトークショーやニュースのスポーツ・セグメントのジョークとして頻繁に登場していただけでなく、 インターネット上に、パロディが飛び交っていたけれど、 土曜日になって、再び緊急のプレス・カンファレンスを行ったのがコーチのビル・ベリチェック。 その中で、彼は「 ペイトリオッツが NFLの規定を満たしたボールを使用していたものの、極端な低気温の試合環境のため、 ボールの空気圧が変わった」と説明。 何も咎められることはしていないと主張したのだった。
でも、この稚拙な説明で満足したのはペイトリオッツのファンくらいなもの。 インターネット上では、「何故ペイトリオッツのボールは気温の影響を受けたのに、同じフィールドでプレーをしていたインディアナ・コルツのボールには 同様の影響が出なかったのか?」という指摘、「ペイトリオッツが、ホーム・スタジアムの同様の環境でプレーした試合では、 常にボールがデフレートしていたのか?」といった指摘が飛び交っており、 事実、 ウォールストリート・ジャーナルの調べによれば、ペイトリオッツのプレーヤーによる ファンブル(ボールを落とすこと)の確率は、 他のチームに比べて 極めて低いことが明らかになっているのだった。




今週は、”ディフレートゲイト”の関連報道として 「スポーツと ”Cheating / チーティング”」がメディア上で大きく取り上げられていたけれど、 チーティングとは 「ごまかし」のこと。それと同時にこの言葉は 浮気からカンニング、手抜き行為 にまで幅広く使われる単語。
ニューヨーク・タイムズ紙の記事では、最もチーティングが多いスポーツとして ベースボールが挙げられていたけれど、 実際に マーク・マグワイア、サミー・ソーサ、アレックス・ロドリゲス等のパフォーマンス・エンハンシング・ドラッグ疑惑や、 昨年、ヤンキーズのピッチャー、マイケル・ピネダが パイン・タールを指につけて ピッチングをした不正行為など、確かにチーティングが多いスポーツ。
でも、今週のペイトリオッツのデフレートゲイトの報道規模は、NFLのビジネス規模、 スーパーボウルというメガ・イベントがもたらすビジネス効果やコマーシャル・インパクトも手伝って、 過去のスポーツ・スキャンダルの中で、最大級と言えるものであったのは紛れも無い事実。

そのスーパーボウルは2月1日、次の日曜日に開催されるけれど、 昨年のシアトル・シーホークスVS.デンバー・ブロンコ戦が、1億1,100人の視聴者を獲得して、 TV史上最高の視聴率番組となったことを受けて、今回のスーパーボウルの試合中に放映される 30秒のCMの放映料は、 何と450万ドル(約5億3000万円)。
高額なのは観戦チケットも同様で 今年のスーパーボウルが行われるアリゾナ州、 ユニヴァーシティ・オブ・フェニックス・スタジアムの平均的なチケット価格は 現時点で6,500ドル(約77万円)。 最も安価なチケットで、その再販価格が3,000ドル(約35万円)以上となっており、過去最高レベルになっているのだった。

すなわちスーパーボウルというイベント自体は、ペイトリオッツのボールとは正反対の インフレーションを見せているけれど、 今やスーパーボウルは、フットボール・ファンのイベントであると同時に、メガ・コーポレーションのイベント。 スカイボックスに陣取るのはスポンサー企業ビリオネアCEO。 試合では スーパーボウルのロゴが入った100個以上のボールが使われるけれど、これらは 出場チームやリーグ関係者以外に、スポンサー企業のエグゼクティブへのギフトに使われるのは例年のこと。

そんな中、今週発表されたのが、来年 2016年までに 世界の最も裕福な1%の人々が、世界中の約50%の資産を所有することになるというデータ。 そのうちのトップ80人が擁する資産は 2兆ドル以上。この額は貧困層を含む中流以下の人々、約30億人分の資産に値するのだった。
このニュースは、ボールのデフレーション・スキャンダルに沸く一般大衆と、スーパーボールのインフレーションを物ともしない ビリオネアを象徴するようにも思えたけれど、 今年のNFLの相次ぐトラブルで批判を受けているNFLコミッショナー、ロジャー・ゴッデルの年俸は 2013年の時点で52億円。 今回のデフレートゲートの渦中にあるクォーターバック、トム・ブレイディの総資産は、 妻であるスーパーモデル、ジゼル・ブンチェンの資産を加えなくても、約140億円。
コミッショナーと深い交友関係にあることで知られるペイトリオッツのオーナー、ロバート・クラフト(73歳)は、フォーブス誌の2014年度の長者番付ランキングによれば アメリカで122位の富豪で、 その総資産は約4700億円。驚くべきは、彼が2013年からの1年で総資産を38%、金額にして約1300億円を増やしていることなのだった。

したがってスーパーボウルの勝敗や、デフレートゲートの真相がどうあれ、「Rich Get Richer / リッチ・ゲット・リッチヤー」のシナリオだけは変わることは無いのだった。


Will New York 宿泊施設滞在



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。




PAGE TOP