Jan. 24 〜 Jan. 30 2005




ファジー・ガイドライン



1月31日からマイケル・ジャクソンの幼児虐待裁判の陪審員選びがスタートすることになっているけれど、 この裁判で、原告側と弁護側が真っ向から対立すると目されている争点の1つに、 マイケル・ジャクソンが自宅に持っていたと言われる、チャイルド・ヌーディティをフィーチャーした写真集が 果たしてポルノグラフィーに当たるのか?、それともアート・コレクションと見なされるのか?というものがある。
私はこの写真集の中の20枚程の写真を報道番組を通じて見ているけれど、もしこの本が普通に書店の写真集のエリアに並んでいたら、 決してチャイルド・ポルノグラフィーとは見なさないと思うし、事実この写真集は8歳〜14歳程度の少年が海辺で 自然と戯れる姿や その表情をモノクロで捕らえたもので、彼らが服を着ていないショットが含まれていても、極めて自然な状況なのである。 しかしながら、報道番組に登場したチャイルド・ポルノグラフィー専門家の見解は、私とは異なっており、 その写真集は、一見、海辺で過ごす子供達の姿を自然に捕らえたように見せているものの、実際には こうした少年達を性的対象として好む人々をターゲットに撮影されたものであることが、彼の目からは明らかであるという。
また、こうした写真集は家の中の何処から発見されたかでも そのポルノ性の解釈が異なってくるとのことで、 もし写真集が、アートブックに囲まれたエリアの1冊として発見された場合は アート・コレクションと見なすことが出来るけれど、 ポルノのコレクションの中で発見された場合は これをチャイルド・ポルノグラフィーと見なすのが一般的で、 この基準が適応されたとすると、マイケル・ジャクソンの場合、 写真集が発見されたのは、ポルノ・コレクションの中であるだけに、彼にとっては不利な証拠と 見なされてることになる訳である。
弁護側は、マイケル宅で発見されたヘテロ・セクシャルのポルノ・マテリアルは「成人男性としては極めて常識的な量であり、 子供の写真集については、アート・コレクションの1部である」とこれに反論しているけれど、 確かに同じ写真集が、家の中の何処にあるかで、ポルノと見なされたり、アートと見なされたりする というのは、おかしな話である。

でも、世の中にはこうした「一般のガイドライン」として設定されていることが 非常に曖昧で、 どう解釈するべきなのか分からないケースが、この件に限らず 非常に多いのも事実なのである。
例えば、一番最近私がその曖昧さに戸惑ったものに 1月2週目にアメリカ政府が発表した 「ニュー・ダイエタリー・ガイドライン」というものがあるけれど、 これは、政府が国民に対して食事の栄養バランスやエクササイズの習慣をアドバイスするもので、 医師や科学者、13人のパネル・メンバーによってデザインされたものである。
これによれば、推奨される1日の摂取カロリーは成人女性が2000キロカロリー、成人男性が2400〜2600キロカロリーと なっており、食事の中で最も摂取を減らさなければならないのは、脂肪分と砂糖類で、 この摂取量が1日のカロリーの20%以上になってはならないことがアドバイスされている。 アメリカ人が非常に気にする食塩の摂取量については、1日ティー・スプーンに1杯が限度とされており、 アルコールに関しては、女性が1日1杯、男性は1日2杯がリミット。
その一方で、摂取が奨励されているのは、当然のことながらフルーツと野菜類で、1日最低4.5カップ以上の摂取が 提案されている。また、 グレイン(穀物)が含まれたパンや、 オートミール、シリアル等も主食としての摂取が奨励されているもので、加えて種類豊富に食物を摂取することが 健康に繋がることも説明されていたりする。

このガイドラインは、既に言い古されてきた 言わばダイエットの常識的なものであるけれど、 私が曖昧だと感じるのは、これが一体、体重何キロ程度の、年齢にして何歳くらいの人々を対象にプランされているのか? という点である。例えば体重が80キロもある女性なら1日2000カロリーの摂取でも 体重を減らしていくことが出来るけれど、体重45キロの女性が2000カロリーを摂取した場合、 どの程度活動的なライフスタイルであるかにもよるけれど、往々にして体重を増やすことになるものである。 また、新陳代謝のスピードが速い若い年齢が摂取する2000カロリーと、新陳代謝がスローになった年齢が摂取する 2000カロリーでは、意味が異なる訳で、女性なら誰でも2000カロリー、男性なら2400〜2600カロリーを摂取していれば 体型と健康が維持できると言うのは、ガイドラインどころか、かなり間違った印象を人々に与えかねないことになるのである。

さらに、私が今回のガイドラインでビックリしたのは、体重維持のために 奨励されているエクササイズが毎日1時間、オーバーウェイトの人が体重を減らそうとした場合、 毎日1時間半のエクササイズを行うようにと指示されている点である。
このタダでさえ時間に追われるライフスタイルのアメリカ人が、毎日の生活の24分の1をエクササイズに当てるというのは、 かなり非現実的であるけれど、この1時間とて、どのようなエクササイズを行うのかで、 その効果も全く異なる訳である。 例えば、よほどの上級者でない限り、1時間ヨガを行って燃やせるカロリーは、たかだか150〜200カロリー。 でも、トレッドミルの上で1時間走り続ければ、軽くその3倍のカロリーは燃やせるし、 その1時間をウェイト・トレーニングに費やせば、燃やせるカロリーは400カロリー程度でも、 筋肉がデベロップされるので、ジッとしているだけでカロリーを効率良く燃やせる体質が構築される訳である。 したがって、エクササイズの内容も明らかにしないまま、漠然と体重維持のためには1時間とか、減量のためには1時間半 と提示するだけでは、一体どの程度のエクササイズが要求されているのか、その解釈に困るのが実際のところなのである。
でも私自身、最も体重を落とした際には、週に5日〜6日、1日2時間はジムで過ごしていたことを思うと、 このガイドラインの「減量のためには1日1時間半のエクササイズ」という部分は、納得できなくもなかったりするけれど、 体重維持だけのために毎日1時間のエクササイズというのは、スケジュール的にも体力的にも 厳しすぎるというのは、専門家も指摘する問題点であったりする。

そもそも、平均的な成人のライフスタイルは、仕事と通勤時間で1日のうちの10時間を使い、歯磨き、シャワー、身づくろいを含めたパーソナルケアに 1時間、睡眠に6時間、3食の食事に約2時間を費やし、これだけで1日のうちの19時間を使っている訳である。 そして残された5時間を、TVを見たり、ショッピングをしたり、インターネットを使用したり、新聞&雑誌や郵便物に目を通したり、 掃除をしたり、といった趣味や雑務やエンターテイメントに当てる訳であるけれど、 実際にこの5時間のうちの1時間は、「余計な手間や、無駄な時間」として費やされてしまう傾向があるという。 この「余計な手間や、無駄にする時間」に含まれているのが、忘れ物をして戻る時間、カギやTVのリモコンを探す時間、交通機関で 待たされる時間、Eメール、郵便を含めたジャンク・メールを処理する時間、銀行や病院等で待たされる時間、 訳もなくボッとしてしまう時間で、「そんな些細な時間…」と思う人も居るかもしれないけれど、 事実、人間はTVのリモコンを探すのに1生のうちの3週間以上を使い、 郵便のジャンク・メールの整理に1生のうちの5週間以上を費やしているという統計も出ているのである。
いずれにしても、そうして残った1日のうちの僅か3〜4時間の自由時間のうち、1時間をエクササイズに当てるというのは、 身体を動かすことが趣味であるとか、余暇にテニスやローラーブレードを楽しむ 習慣がある人でない限りは、かなり難しいものなのである。

この政府が定めた健康ガイドラインは、細かな指定が多い割に、肝心な部分が曖昧なのが気になるものであったけれど、 昨年末からアメリカで話題を集めている ダイエット本、「French Women Don't Get Fat: The Secret of Eating For Pleasure / フレンチ・ウィメン・ドント・ゲット・ファット:ザ・シークレット・オブ・イーティング・フォー・プレジャー」は、 政府のガイドラインとは比較にならないほどに曖昧にダイエットをアドバイスした書物として知られるものである。
この本の著者、ミリエル・ジュリアーノは、シャンペンで有名なヴーヴ・クリコのCEOで、 フランス女性は何故、甘いペストリーやフォアグラのパテ、鴨料理を食べてもスリムで居られるのか?という疑問に 答えるべく執筆されたのが同書である。 この本では、フランス女性達が、「朝食にチョコレート・クロワッサンを食べたら、昼はサラダだけ、夜もパンは食べず、 肉料理だけを食べる」というように、1日に1度くらいは自分が食べたい物を食べて、 他の食事を減らしてバランスを取ることによって、食事を楽しみながらも、体型を維持していることを、 科学的根拠ゼロで説明しており、それと同時に、 食事は1日3度きちんと、そして小さなポーションで取る、エレベーターの代わりに階段を使い、水を沢山飲むといった いかにもフランス的なアドバイスも述べられていたりする。

フランスに止まらず、ヨーロッパ人から見れば、アメリカは、オーバー・ワーク(働き過ぎ)、オーバー・イーティング(食べ過ぎ)の ストレスフルなライフスタイルで、その健康のツケをエクササイズやメディケーション(薬)で解消しなければならない エクストリームなカルチャーとして捉えているという。
だから、「少なく食べて、ゆったり暮らす」というヨーロッパでは当たり前のライフスタイルが、 アメリカ人にとっては「新しいダイエット・アドバイス」として本になってしまう訳であるけれど、その反面、 「食べて、太って、痩せることにお金と時間を使う」というアメリカン・スタイルも、 マクドナルドやコカコーラ、ジーンズ&Tシャツといったアメリカ生まれのプロダクト同様に、 ヨーロッパ諸国にじわじわと浸透しつつあるのも現状なのである。



Catch of the Week No.4 Jan. : 1月 第4週


Catch of the Week No.3 Jan. : 1月 第3週


Catch of the Week No.2 Jan. : 1月 第2週


Catch of the Week No.1 Jan. : 1月 第1週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。