Jan. 23 〜 Jan. 29
「The Remarrying Kind」
1月16日に行われたゴールデン・グローブ賞で、これといったワースト・ドレッサーが見当たらなかった分、
メディアのバッシングの矛先が向けられていたのが、E! エンターテイメント・チャンネルのレッドカーペット・コメンテーターとして出演した
デザイナーのアイザック・ミズラヒである。
彼は自らゲイであることをオープンにして久しい存在で、
自らのトークショーでは、女性セレブリティとガールズ・トークを繰り広げることでも知られているけれど、
ゴールデン・グローブの際は悪ノリが過ぎて、エンターテイメント・チャンネルが用意した特設ステージで
インタビューをした女性セレブリティに、どんな下着を着けているかを訊ねたり、「デスパレート・ハウスワイブス」で人気絶頂の
エヴァ・ロンゴリアには「ブラジリアン・ワックスをしているか?」といった質問をし、メディア関係者から顰蹙を買う結果となっていた。
中でも彼の最大の失言と指摘されたのは、夫、チャッド・ロウと別居が報道された女優のヒラリー・スワンクに対する
「今や貴方もまたシングルに戻った訳だから・・・」という問いかけで、これに対してヒラリーは
「私は未だ結婚しているし、結婚生活を取り戻すために努力するつもりです。」と毅然と答えたけれど、
「その場の気まずい雰囲気がブラウン管を通じて十分に伝わってきた」として、アイザック・ミズラヒは
多くのメディアから非難されることになったのである。
さて、そのヒラリー・スワンク&チャッド・ローと言えば、ハリウッドのおしどり夫婦として知られた存在で、
昨年、ヒラリーが「ミリオンダラー・ベイビー」で2度目のオスカー主演女優賞を受賞した際のスピーチでも、
彼女が夫、チャッド・ローのサポートに対して、熱い感謝を送っていたのは記憶に新しいところであるし、
チャッド自身もインタビューを受ける度に、自分とヒラリーの夫婦関係を「サクセスフル・マリッジ」とコメントしていたのである。
しかし、昨年半ば頃から徐々に不仲が囁かれ、秋には別居、そして今年に入ってメディアに対して別居を認めたのがこの2人で、
昨年11月末に離婚を発表したジェシカ・シンプソン&ニック・ラシェイ夫妻や、今年に入って離婚の噂が報じられた
マドンナ&映画監督、ガイ・リッチー夫妻同様、
「妻が夫よりサクセスフルで稼ぎも良い」カップルの”典型的な末路”的な報道をされていたのだった。
同じ理由で、頻繁に危機説が流れるカップルとしては、今年のオスカー主演女優の最有力候補とも言われる
リース・ウェザースプーン&同じく俳優のライアン・フェリペ夫妻、そしてブリットニー・スピアーズと、彼女の力でラッパーとしてデビューしようとしている
ケヴィン・フェダライン夫妻であるけれど、ブリットニー&ケヴィンが他のセレブリティ・カップルと異なる点は、
夫が妻の成功によってかすんでしまう自分に嫌気が差すというというよりも、
ブリットニーが、何もしないでパーティー三昧で遊んでいるケヴィンのグウタラぶりに嫌気が差していると報道される点で、
妻が夫よりずっと成功しているカップルは、夫が自立していても、していなくても、世間からは 成立し難い関係であると見受けられているようである。
一方、その逆のパターン、すなわち男性が女性より ずっとサクセスフルであるという夫婦関係は、世の中では全く珍しいものではないけれど、
そんなマルチ・ミリオネア、ビリオネアの実業家男性の結婚とて、安定している場合は非常に稀であったりする。
昨年1月にモデル、メラニア・クナウス嬢と結婚したニューヨークの不動産王、ドナルド・トランプも
彼女が3人目のミセス・トランプにあたる訳だし、先ごろ女優のエレン・バーキンと離婚したばかりの
レブロン社会長、ロン・パールマンにしてもこの離婚は4回目である。
私がこれを書いている1月29日付けのニューヨーク・タイムズには「The Remarrying Kind (再婚向きの人々)」というタイトルで、
ロン・パールマンを例に挙げて、結婚と離婚と再婚を繰り返す富豪実業家のことが記事になっていたけれど、
これによれば、フォーブス誌によるランキングで、アメリカで34番目にリッチとされるロン・パールマン氏は、
最初の離婚で、$8ミリオン(約9.2億円)、2回目の離婚で$80ミリオン(約92億円)、3回目の離婚で$30ミリオン(約34.5億円)、そして
今回のエレン・バーキンとの離婚で$20ミリオン(約23億円)の慰謝料を支払っているにも関わらず、
同氏も結婚に懲りていなければ、同氏の5番目の妻になりたい若い女性も列を成しているとのことだった
私にとって、「The Remarrying Kind」の記事で面白かった部分は、
メガ・リッチの結婚に「愛情」という要素が入り込んできたのは、ほんの100年ほど前からだという指摘である。
歴史を遡れば、かつて富豪男性にとっての結婚とは、さらにリッチになるためにするもので、
結婚が意味するのはビジネスの合弁や貿易協定であったという。
しかし、時代と共にメガ・リッチの結婚における「愛情」が過大評価されてきたことにより、
大富豪が財産の一部を失うリスクを負ってまで、若く美しい女性と結婚する傾向が出てきたと
この記事は説明する。
今では死語になりつつある「トロフィー・ワイフ」という言葉が登場したのは80年代のことであるけれど、
これは実業家が自分のビジネスを大きく成功させた後に離婚をして、自分よりもずっと若く美しい妻と再婚した状態を指すもの。
70年代半ばから、アメリカ社会での離婚が増え、離婚に対する偏見が無くなってきたのを受けて、
実業家が世間体を恐れず妻と別れ、それまでなら愛人止まりだったような若い女性と再婚をする傾向が
80年代に顕著になったことを窺わせるのがこの言葉である。
「The Remarrying Kind」の記事によれば、大富豪が再婚を繰り返すのは、
「家や車同様、若く、美しい妻も自分の財産として見せびらかしたい」という男性のエゴからだそうで、
記事には こうした富豪達は結婚相手を 「失敗したら、別に切り替えるだけのヘッジ・ファンドのようにしか考えていない」
という著名な離婚弁護士のコメントも掲載されている。
とは言っても、こうした富豪の結婚には、何度もこのコラムで説明している「プリナプチュアル・アグリーメント」、通称プリナップと呼ばれるものが付き物であり、
これは離婚手続きをスムーズに行うために、結婚前に財産分与等に関する協約を結んでおくことである。
このプリナップによって富豪実業家の財産はプロテクトされるので、安心して離婚も再婚も出来る訳だけれど、
先述のパールマン氏の場合、離婚によって失った財産総額は$138ミリオン(約158.7億円)というとんでもない金額。
それでも彼の総資産からすれば、この金額も「財産の一部を失ったに過ぎない」額なのである。
しかしながら、このプリナップ無しで カリフォルニアで結婚した場合、
結婚期間に得た財産の半分を 離婚する伴侶に持って行かれる訳で、
もちろん妻が夫より稼いでいれば、夫は妻が稼いだ財産の半分を受け取る権利を得ることになる。
現在、この恩恵に浴することで注目を浴びているのは、ジェシカ・シンプソンの夫、ニック・ラシェイで、
ジェシカが稼ぎ出した約100億円と言われる総資産の半分を手にすることが見込まれているけれど、
90年代後半には、一度は離婚を発表したマイケル・ジョーダンが、離婚によって失う財産の大きさを弁護士に突きつけられて、
思い止まったという例もあり、プリナップの無い結婚が必ずしも悪い結果をもたらす訳ではなかったりもする。
でも、一般の人々の場合、プリナップがあろうとなかろうと、離婚というものが、個人の財産に悪影響を与えると指摘するのが、
オハイオ州立大学のリサーチ・サイエンティスト、ジェイ・ザゴースキー氏である。
たとえ結婚が幸せなものであっても、不幸なものであっても、カップルが結婚し続けている状態が最も資産が順調に増え続けるパターンで、
独身を続ける人々よりも資産の増加率が高いという。これは結婚しているカップルは「貯蓄と安全な投資をするため」と指摘されるけれど、
逆に離婚経験者は、個人資産の増加率が低い上に、離婚を前後する時期に、別居及び、離婚訴訟に伴う出費が嵩み、
この時期は一時的とは言え収入も伸び悩む傾向が強いという。
従って富豪やセレブリティほど、離婚で失うものが大きくなくても、「資産を増やしたいと思ったら離婚しないこと」というのが
ジェイ・ザゴースキー氏の調査から得られた結果である。
とは言っても、アメリカの離婚率が50%に達したといわれる現在、離婚をするカップルが増える一方で、
結婚するカップルは減り続けており、結婚するにしても、誓いの言葉から「死が2人を分かつまで」という言葉を削除したり、
プリナップを結ぶことにより、離婚を前提としたような結婚をするカップルが増えているのがアメリカの現状である。
こうした結婚前のカップルが危惧する離婚の可能性というのは、「お互いが嫌になるかもしれない」ということに加え、
「自分か、もしくは相手が誰か別の人に出逢って、その人を好きになるかもしれない」というもので、
前者が理由の離婚というのは、一般に「結婚の失敗」を意味するものであるけれど、後者が理由の離婚は
「新しい相手との再出発」を意味するものである。
特に男性の場合、「The Remarrying Kind」として、お金が掛かろうと離婚と再婚を繰り返す人々というのは、
後者の離婚をしている場合が多いと言える訳で、彼らにとっては離婚は単なる再出発の足がかり。
プリナップで財産が守られている限りは、失敗として敗北感を感じるようなことは決して無いのである。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。
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