Jan. 23 〜 Jan. 29, 2012

” Judgmental State Of Mind ”

今日1月29日、日曜はテニスのオーストラリアン・オープンの最終日で男子シングルス決勝の日。 対戦カードは ノヴァック・ジョコヴィッチVS.ラファエル・ナダルという 世界ランキングNo.1とNo.2の対決になっていたのだった。
でも時差の関係で、ニューヨークで試合がライブ中継されるのは夜中の3時からなので、DVDをセットして眠ったけれど、朝起きたら未だ試合は決着がついておらず、 朝食を食べながら5セット目を見守ることになってしまったのだった。
それもそのはずで試合時間は、グランドスラムの4大会の決勝戦としては最長の5時間53分。ウォームアップの時間を含めるとプレーヤーは6時間以上 コートでボールを打っていたという計算。 しかも終始、息を呑むようなゲーム展開とスーパーショットの連続で、見ているだけでどっぷり疲れるほどの凄まじい試合になっていたのだった。

トロフィー・セレモニーでは、ジョコヴィッチもナダルも筋肉疲労からくる痙攣が始まって、かがんだり、ネットに寄りかかっていないと立っていられない状態。 途中で椅子が運ばれてくるという異例の計らいがあったけれど、私が思うに男子テニスは最もタフで運動量が多く、一番、体力と精神力、ボディ・コーディネーションが要求されるスポーツ。 瞬発力と持久力に加えて、瞬時にショットを打ち分ける機転と頭脳、それを可能にする筋力やフットワークが要求される訳で、 ジョコヴィッチ、ナダルは世界のトップ・テニス・プレーヤーであるだけでなく、世界のトップのアスリートと言われる存在なのだった。
試合はジョコヴィッチが勝利したけれど、実は私はナダルの大ファン。なので、昨年秋に出版された彼の自叙伝を斜め読みしたけれど、 その中で彼が語っていたのが、一般の人々にとってスポーツというのは身体に良いことであるけれど、プロのレベルでスポーツを行なうということは 非常に身体に過酷で、健康を脅かすものであるということ。
実際に男子テニス・プロの多くは、常に怪我をしていて、ロッカールームでは足を引きずって歩いているプレーヤーが多いとのことだけれど、 そのテニスは 1月〜11月という年間11ヶ月が1シーズン。今年はそれまで4週間だったオフ・シーズンが やっと6週間になったけれど、それでも 殺人的といえるシーズンの長さなのだった。
なのでナダルを筆頭にプレーヤー達は、シーズンを短くして 健康管理が出来る トーナメント・スケジュールにするよう、 テニス・アソシエーションに働きかけているけれど、 今や男子テニスは空前の黄金時代を迎えて、ビジネス規模は大きくなる一方。 叫び声だけ大きくなって、プレーヤーにパーソナリティがどんどん欠落していく女子テニスとは異なり、 スーパースター・プレーヤーが質の高いゲームを見せる男子テニスは、ドル箱ビジネスであるだけに、 トーナメントに次ぐトーナメントの連続という過酷なスケジュールはそう簡単に変わりそうにないのだった。

ナダルの言葉通り、スポーツをプロフェッショナル・レベルで行なうのは、健康を害する危険が大きいけれど、 アマチュアのエクササイズでも、スポーツで怪我をするというのは非常にありがちなケース。
もっとも怪我が多いスポーツはランニングで、それはもちろんランニング人口が他のスポーツに比べて遥かに多いのが理由の1つ。 フィジカル・セラピストによれば、フォームが悪いというのは もちろん怪我の原因になるけれど、基本的には自分の体力以上に早く走ろうとする、 もしくは長い距離を走ろうとするのが 一番の怪我の原因であるという。

また一見身体に無害で極めて安全に思えるヨガでさえ 実際は腰痛、肩や膝の怪我の原因になっており、 極めて稀なケースでは脳梗塞を引き起こしているとのこと。 このヨガに関する危険性についての記事が掲載されたのが1月8日付けのニューヨーク・タイムズ・マガジン。
「How Yoga Can Wreck Your Body (ヨガが如何に身体を破壊するか)」とネーミングされたこの記事は、 ニューヨーク・タイムズ誌のサイエンス・セクションのベテラン記者、ウィリアム・J・ブロードの著書、「サイエンス・オブ・ヨガ」 からの抜粋で、私も興味深くこの記事を読んだけれど、 特にヨガの世界ではこの記事のインパクトは絶大で、全米各地のヨガクラスや インターネット上で物議を醸していたのだった。



この記事のポイントというのは、ヨガは肉体的に不可能なポーズを無理に身体に強いるものではなく、 むしろそんなエゴから自分を切り離すべきものであるということ。
そして、ヨガは1日8時間も椅子に座って仕事をして過ごすような現代人のためにデベロップされたものではなく、 そもそもは健康な人間が行なうべきもの。怪我人のリハビリ目的や 運動してない人間が手始めに するエクササイズではないということ。 出来ないポーズを生徒にプッシュするのは、十分なトレーニングを受けていないインストラクターのエゴであり、 ヨガがブームを超えて一般に普及した結果、多くのインストラクターがヨガを理解せずに教えていることが、 40年以上に渡ってヨガを教え続けるヨガの大家のコメントとして書かれていたのだった。
その大家自身も、長年に渡る 身体にきついヨガ・ポーズのために 何度か手術を受けているとのことだったけれど、 多くの読者にとって記事の中で最もショッキングなインパクトとなっていたのが、ヨガで首や頭を無理な角度に 曲げることによって、脳動脈の血流が減少して脳梗塞を起こしたという症例。 この場合、普通のドクターは まさかヨガが原因とは思わないので、対応が遅れることが指摘されていたのだった。

ヨガが原因で何らかの脳障害を引き起こすケースは2009年の時点で、年間4件が報告されているとのこと。 その殆どは回復はしているものの、暫くの間 は言語障害や、歩行障害などの症状が続くという。
でもヨガが身体に良いと信じて疑わないヨガの信者やインストラクターの一部は、この記事に猛反発して インターネット上に敵対心むき出しの抗議の書き込みを行なっていたのだった。
私はそんな書き込みを読んで、「ヨガをやって平常心を学んでいるはずの人が、こんな敵意を抱くなんて・・・」と 恐ろしくなってしまったけれど、そうした敵意に満ちた書き込みをしている人ほど、 記事の内容を曲解する傾向にあるのだった。
中には、「年間4件しか起こっていないような稀な例を持ち出してきて、ヨガが危険だと決めつけるなんて、 恥を知れ!、ニューヨーク・タイムズ」などという人が居たけれど、 もしニューヨーク・タイムズが年間4件報告されているという数字を隠して、「ヨガが脳障害の大きな原因になっている」 という記事にしているのならば、こういう意見が出ても理解が出来るというもの。
でも、抗議をしている人が ヨガによる脳障害が年に4件しか起こっていないという知識を何処から得ているかといえば、 自分のリサーチではなく、自分が読んで腹を立てている ニューヨーク・タイムズの記事から。 しかもその記事では「数は少ないけれど、こういう例がある」と説明されている訳で、どうしてその記事と全く同じ内容を語りながら、記事に対して抗議が出来るのかは 不思議以外の何者でもないのだった。
恐らくこうやって腹を立てる人々は、「ヨガが如何に身体を破壊するか」というタイトルを読んで、 「記事にはヨガが危険だというあらぬ事実や、誇張が書かれているに違いない」 という先入観を持って読んだと思われるけれど、一度そうした先入観を抱いた人々には、 どんな正当な言い分も曲解されるのは非常にありがちなこと。
私自身はこの記事を読んでから、逆に無理なポーズを自分に強いる必要を感じなくなったので、ヨガのクラスが前より楽しめるようになったのだった。


このように、一度先入観を抱いた人々の気持ちが変えられない というのは、現在行なわれている共和党の予備選挙にも言えること。
前回予備選挙が行なわれたノースキャロライナ州は、全米でも最も保守的なキリスト教の共和党支持者が多い州。 そんな同州で圧勝したのが、元下院議長、ニュート・ギングリッチであったけれど、 選挙の直前になってメディアを賑わせたのが、ニュート・ギングリッチが彼の2度目の妻に対して 「愛人との関係を続けることが出来るならば婚姻を続ける」という条件を突きつけていたというニュース。 結婚していながら、伴侶公認で別の相手と関係することは、英語で「オープン・マリッジ」と表現されるけれど、 一夫多妻のモルモン教ならばまだしも、オープン・マリッジはキリスト教ではあり得ないコンセプト。
これが明らかになったのは、彼の2度目の妻がメディアで証言したためで、当時の愛人は 現在のギングリッチの3人目の妻(写真上右)となって、ボトックスを打ちまくったような顔で、選挙戦で常に彼の傍についているのだった。

ギングリッチは3回結婚し、離婚の原因はいずれも不倫。加えて彼は下院議長として83の倫理違反に問われ、 税法を犯した上に ウソの証言をし、史上初めて議会から罰金を科せられた議長。 まともなキリスト教徒であれば、彼に投票するとは思えないし、事実キリスト教右派の共和党は彼を支持していなけれど、 それでも、ノースキャロライナ州の選挙民は、ギングリッチのオープン・マリッジの報道には一切耳を貸さず、 「メディアを信じるな!」といったプラカードを掲げて 彼を猛烈に支持。 対抗馬のミット・ロムニーのキャンペーンが ギングリッチの問題点を指摘すればするほど、 それに聞く耳を持たない人々の支持が益々高まっていったことが伝えられているのだった。



そのミット・ロムニーは、今週火曜日に2010年の税金申告書を公開しているけれど、 それによれば2010年に2700万ドル(約20億4170万円)を稼いだロムニーが支払っている税金は、所得の13.9%。 これはオバマ大統領が支払っている26.8%よりも、ニュート・ギングリッチが 支払っている32.2%よりも遥かに低いもので、所得8万ドル(約650万円)の人々と同じ税率。
彼がマルチミリオネアでありながら税金の支払いが少ないのは、その収入が給与ではなく、税率が低い投資利益であるのに加えて、 メガ・リッチだけに与えられた特権と言える税金逃れの合法手段を利用しているため。

もっともアメリカでは税金をさほど支払っていない大金持ちは、ミット・ロムニーに限ったことではないのは周知の事実。
アメリカ人の47%は所得税を払っていないと言われるけれど、その内訳はもっぱら税金が支払えないほど貧しい人々と、税金を支払う義務を逃れられるほどにリッチな人々。 なので、アメリカの税収はミドルクラスからの搾取によって支えられているといっても過言ではないのだった。
2011年11月にはエスティ・ローダーの経営一族のメンバーで、総資産数千億ドルのマルチ・ビリオネア、ロナルド・S・ローダーが、高価な絵画を購入しては、 それを自らが経営する財団に寄付することによって、何年にも渡って税金を逃れているという報道がニューヨーク・タイムズ紙の第一面を飾っていたけれど、 ミット・ロムニーにしても、ロナルド・S・ローダーにしても、やっていることは極めて合法。 ミット・ロムニーは、税率の低さについて「義務付けられた以上の税金を払う必要は無いはず」とコメントしており、 それは誰にとっても理にかなった説であるけれど、何故かロムニーが語ると面白くない というアメリカ人は非常に多いのだった。

またロムニーは、税率が低いケイマン・アイランドやスイスのUBSに億円単位の預金口座を持っていたけれど、 UBSの口座は同銀行がアメリカ人クライアントの脱税の手助けをしていた容疑が明るみになったために 2010年にクローズ。さらに彼は1999年に ゴールドマン・サックスが株式を公開した際、 一株57ドルという極めて優遇された価格で7000株を買い取っているけれど、さすがに これだけゴールドマン・サックスが槍玉に上がっている中、 大統領候補として同社の株式を所有しているのは体裁が悪いと判断したのか、 全株を同年に売却。$161ドルの売値で、113万ドル(約8,545万円)の利益を上げているのだった。
これらの行為も全て合法ではあるものの、何故かミット・ロムニーを悪く語る際に用いられるネタになっており、 今週行なわれた共和党候補者のディベートでも ニュート・ギングリッチが これらを持ち出してロムニーを攻撃しているのだった。
人々が、ロムニーの税金申告を見て好感を抱かないのは、たとえ合法であっても税金逃れには変わり無いという意識が強いためで、 たとえ合法であっても大統領になろうかという人物が税金逃れをしているということに違和感を覚えるため。
なので こればかりは 何をどう説明されて、それが理にかなっていたとしても、納得が行かない というアメリカ人は非常に多いのだった。

人間の思い込みというのは 往々にして それを覆す様々な情報をブロックしたり、 物事を曲解する原因になったり、判断に感情を介入させてしまったりするもの。
私が今、ゆっくり読んでいるノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの著書、 「Thinking Fast And Slow / シンキング・ファスト・アンド・スロー」によれば、 人間は限られた情報、もしくは偏った情報で、物事を強く思い込んでいる方が、脳が楽を出来るのだそうで、 様々な情報を分析して決断を下すより、先入観や思い込み、直感で物事を決断してしまうのは、 脳が怠けている状態であるという。
とはいっても、先入観や思い込みというのは 時間が経つと効力が薄れてくるのも事実で、人間の好みや考えが変わるのは そんな効力が衰えて、頭を冷やしてきた時。 その時こそが、自分と異なる考えを持つ人にアプローチする最適なタイミングであるけれど、それまでは たとえ何を言おうと、 どんなデータを持ち出してこようと、全く無駄に終わるケースが 非常に多いと言わなければならないのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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