Jan. 31 〜 Feb. 6 2005




スーパーボウル & スーパーモラル




私がこれを書いている2月6日はスーパーボウルが行われるスーパーサンデーであるけれど、 今年のスーパーボウルでセキュリティ(警備)よりも 厳しくなっていたのがモラル・コードである。
ご存知のように、昨年のハーフタイム・ショーで、ジャネット・ジャクソンが、後に「ワードローブ・マルファンクション (衣装の不具合)」として あまりにも有名になった片胸露出事件を起こしたせいで、 NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)はもとより、放映局のFOX、CMを放映するアドバタイザーが、 「あのような事件が繰り返されるようなことがあっては大変」とばかりに、非常にナーバスになっていたのが 今回のスーパーボウルなのである。
ハーフタイム・ショーでパフォーマンスを見せたポール・マッカートニーは、記者会見の席で 「自分はマルファンクションを起こすようなワードローブは持っていない」とコメントして 笑いを誘っていたけれど、彼のキャスティングからも、今回のハーフタイム・ショーが いかにモラルの見地からクリーンなパフォーマンスを要求されていたかが容易に推測できるというものである。

確かに、昨年の「ワードローブ・マルファンクション」と、それに対する猛烈なバックラッシュの影響は様々な部分に現れており、 今年のスーパーボウルCMの中には、そのパロディを見せる広告があった一方で、 自動車会社のフォードは、試写を行った時点で、「視聴者からクレームが寄せられる可能性がある」と 見なされた広告の放映取り止めを決定しており、スポンサー側も「昨年のジャネットの二の舞だけはゴメンだ」と 慎重な姿勢を見せていたのが実情である。 フォード側は、放映を取り止めたリンカーン・マーキュリーのCMについて、「決して問題になるような 内容は含まれていない」という見解を明らかにしているものの、試写を見たテスト・オーディエンスからの 「教会関係者の青少年に対するセックス・スキャンダルを思い起こさせる」という指摘をシリアスに受け止めて、 放映取り止めを決定しており、もやは「CMは物議を醸すほど効果が高い」という時代ではなくなったのは誰もが感じるところである。

例えば、先週ウォール・ストリートでは、雑誌「メンズ・ファッション」のウェブサイトの「NEWS, SPORTS, PORN (ニュース、スポーツ、ポルノ)」と書かれた 巨大看板が、広告を貼り終えて、30分後に取り除かれるというエピソードが起こっている。 これは、この看板の向いにあるゴールドマン・サックスのエグゼクティブが、自分の窓から見える「ポルノ」の巨大文字に 腹を立てて、クレームをしたためで、この広告自体は、ニュース、スポーツ、ポルノという 男性がインターネットにアクセスする3大要因を列挙し、その下に小さな文字で 「それ以外のもの(この広告の意図ではファッション)も、 ウェブ上に存在している」というメッセージをフィーチャーしていたけれど、 この看板が「ポルノ」の一言で、人々の関心をそそろうとしていたのは明らかであった。
広告主であるメンズ・ファッション・ドット・コム側は、 ゴールドマン・サックスが オフィス内での社員のポルノ・サイトへのアクセスを禁止していることを受けて、 「ゴールドマンでは、ポルノという文字を見ることさえ不謹慎とされているらしい」とやり返していたけれど、 看板を取り外さなければならないほどに メンズ・ファッション側の立場が弱いことは言うまでもないものであった。

では、今のアメリカが こうしたモラル・コードでガチガチになっているかと言えば、そうでもないようで、 今週土曜日のニューヨーク・ポストには、あの5番街のファッション・ストア、ヘンリ・ベンデルが、 メジャーなリテイラーとしては初めて、セックス・トイ(性的玩具)の販売を始めたことが記事になっていた。 これはベンデルのランジェリー・セクションに新たに設けられたブティック、 「リキエル・ウーマン」で販売されている、見た目は普通のリップスティックであったり、メークアップ・ブラシであったりする商品。 でも、これらは実は電動のバイブレーターで、お値段も100ドル以上という堂々たる5番街プライスになっている。 リキエル・ウーマンのオーナーで、パリのデザイナー、ソニア・リキエルの娘でもあるナタリー・リキエルは、 「これらの商品はセックス・トイという嫌らしさや、不潔感を感じさせないもの」と語る一方で、 「子供は入店させない」というポリシーを明らかにしているけれど、いずれにしてもヘンリ・ベンデルのようなメジャー・ストアが、 セックス・トイを取り扱うというのは、米国の小売史上初めてのこと。
これに対して「ファミリー・バリュー(家族の価値)」をスローガンに掲げるアメリカン・ファミリー・アソシエーションのスポークスマンは、 「過去50年間にアメリカのモラルがどんどん崩壊してきたことを示す例がまた1つ増えた」として 当然のことながら不快感を表している。

さて、話をスーパーボウルに戻すと、スーパーボウルというのは、たった1試合ながらも、試合日とその前の1週間で、 ワールド・カップに匹敵する程の経済効果をもたらすスポーツ・イベントと言われており、 その内訳は、開催地を訪れるプレスや観戦客が落としていくホテル代や食事&エンターテイメント代、 ライセンス・グッズの売り上げ、全米各地で行われるスーパーボウル・パーティーによる飲食の売り上げ、そして 30秒のCMで2億4000万円という破格のCM放映料、TVの放映権料などで、その総額は50億ドル(約5000億円)を超えるものだという。
ことに、開催地には この1週間に数十億円の経済効果がもたらされるため、 スーパーボウルの誘致は地方経済活性化を促す役割さえも果たすものであるけれど、 今回、スーパーボウルのホストとなったフロリダ州ジャクソンヴィルは、 歴代のホスト地の中では最小のマーケット。このため、NFLが提示している「17500室の宿泊施設の確保」という条件が 満たせないことが懸念されていたけれど、ジャクソンヴィルは約12億円を投じて、クルーズ客船を5隻もチャーターし、 3600の客室不足分をまかなったことが伝えられている。
それほどまで、誘致をして価値があるのがスーパーボウルという訳であるけれど、 そのジャクソンヴィルが、今回のモラル重視のスーパーボウルのホストに極めて相応しいロケーションと言えたのが、 同地がアダルト・エンターテイメントに対して非常にコンサバティブで、モラル重視のコミュニティであるということ。
ジャクソンヴィルには「ビキニ・ロウ(ビキニ法律)」と呼ばれるものが存在しており、 これは、トップレス・バーではアルコール入りドリンクの販売が禁じられており、アルコールを出すバーでは、ダンサーが ビキニの着用を義務付けられているというもの。 すなわち、アダルト・エンターテイメントを楽しもうと思ったらアルコール抜き、お酒を飲みたかったら ビーチで見かける女性の水着姿程度のものしか眺められない訳で、 同地を訪れた人々からは これに対する 猛烈な苦情が寄せられていたという。

昨年のスーパーボウルが、ジャネット・ジャクソンの胸の露出のせいで、 「肝心な試合がないがしろにされている」と嘆かれていたことを思い起こすと、 今年、スーパーボウルの取材陣や観戦に訪れた人々が、「ビールを飲みながらストリップが見られない」と 文句を言っている姿には、ある種の矛盾を抱かずにはいられないけれど、 結局のところ、今のアメリカでは、スポーツの試合、職場、家族揃って見るTV番組といった、 モラルが要求されるエリアでは、過敏なまでにモラルを追求する姿勢があるけれど、 その一方でアダルト・エンターテイメントやセックス・トイのように合法的かつ、商業的に セックスを取り扱う場合は、まだまだ許容範囲が広く、深いのがアメリカ社会である。
以前このコーナーで、アメリカにおけるポルノ・ビジネスが、大企業がサイレント・パートナーとなって、 大きな成長を見せていることに触れたことがあったけれど、 成人相手のエンターテイメントとしてのポルノだの、セックスだのというのは、 「モラル」というコンセプトが入り込む余地がないほどに、確立されているビジネス・セクターなのである。
だから、先述のメンズ・ファッションの看板も、オフィス街ではなく、タイムズ・スクエアに登場していれば、 ただの看板の1つに過ぎなかったであろうし、昨年のジャネット・ジャクソンの「ワードローブ・マルファンクション」にしても、 もしもそれが、TVR(成人向けTV番組)のレートを付けたケーブル局の番組の中で 行われたのであれば、 例え彼女が両胸を露出したところで、全くお咎め無しだったはずなのである。



Catch of the Week No.5 Jan. : 1月 第5週


Catch of the Week No.4 Jan. : 1月 第4週


Catch of the Week No.3 Jan. : 1月 第3週


Catch of the Week No.2 Jan. : 1月 第2週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。