Jan. 28 〜 Feb. 3 2008




” Underdog の 逆襲 ”



私がこのコラムを書いている2月3日、日曜は、スーパーボウルが行われるスーパー・サンデー。 スーパーボウルといえば、毎年アメリカではダントツの年間最高視聴率を獲得するため、 CM放映料が30秒で2億円以上であることは周知の事実であるけれど、 アメリカのありとあらゆるところで スーパーボウル・ウォッチ・パーティーが行われる結果、 スーパーサンデーは 毎年、アメリカで最も多くのパーティーが行われる日となっている。
ちなみに、アメリカで年間視聴率の第2位となっているのが オスカーことアカデミー賞の授賞式であるけれど、 今年は脚本家組合のストライキのために開催が危ぶまれているのは以前お伝えしたとおり。 アカデミー側では例年通りの授賞式の準備に加えて、授賞式が行えなかった場合に備えて、 過去のオスカーの歴史を振り返る特番の準備も進めていることが報じられている。

さてスーパー・サンデーに話を戻せば、この日は 1年で最もギャンブルが行われる日でもあるけれど、 ギャンブルが合法であるネヴァダ州、ラスヴェガスはもちろんのこと、アメリカ中のスポーツ・バーでも 個人宅で行われるウォッチ・パーティーでも、必ずと言って良いほど行われているのが、 勝利チームとスコアを予想する賭け。
今年のスーパー・ボウルはシーズン中、負け知らずの記録を打ち立てたニュー・イングランド・ペイトリオッツと、 シーズン開始当初にはスーパー・ボウル出場を語ることなど論外だったニューヨーク・ジャイアンツの戦いであっただけに、 予想はペイトリオッツ圧倒的有利どころか、戦わずして勝利が確定しているような雰囲気だったのである。
でも、私が出掛けたスーパーボウル・パーティーでは1人を除いて全員がジャイアンツに賭けたほど、 ニューヨーカーが何としても勝たせたかったのがジャイアンツであり、 逆に勝っても当たり前すぎて 面白味のかけらも無いと感じさせていたのがペイトリオッツ。 また ファイナンス関連の仕事をしている人にとっては 特にジャイアンツの勝利が重要だったのが、 例年スーパーボウルでNFCチャンピオン(今年の場合、ジャイアンツ)が勝利した年は 約80%の確率で ダウ平均がアップしており、 逆に AFCチャンピオン(今年の場合 ペイトリオッツ)が勝利した年は、マーケットが下降線を辿ることになっていたのである。

このジンクスが当たるかどうかは別として、今年のスーパーボウルで 大方の予想を覆して勝利したのは ニューヨーク・ジャイアンツ。 勝利が決まった瞬間から、ニューヨークではスポーツバーなどから溢れ出て来たジャイアンツ・ファンで ストリートが大騒ぎになっていたけれど、 こんな騒ぎを見たのは2003年の大停電後に 電力が戻った時以来。 特にタイムズ・スクエアには まるでカウントダウンの時のように大勢の人々が集まってきて メガ・セレブレーション状態になっていたのだった。
火曜日には優勝パレードが行われることになっているけれど、ニューヨークのスポーツ・チームが チャンピオンシップに輝いたのは2000年のヤンキーズ以来のこと。 でも、当時の勝って当たり前という感じだったヤンキーズに比べて、今回のジャイアンツは 「スーパーボウル史上最大の番狂わせ」と言われる勝利。 しかも9人ものルーキー・プレーヤーを擁する若いチームが接戦の末に勝ち取ったミラクル・チャンピオンシップとあって、 ニューヨーカーの 喜びと驚きがミックスしたエキサイトぶりは 近年には見られなかったものなのである。

さて、今年のジャイアンツと言えば、シーズン後半に尻上がりに調子を上げて、ワイルドカードでプレイオフに勝ち上がったチーム。 ワイルドカードのチームがスーパー・ボウル・チャンピオンに輝いたのは、今年で42回を数えるスーパーボウル史上で2度目の快挙である。 そのジャイアンツはシーズン中から常に ”Underdog / アンダードッグ” と呼ばれ続けていたけれど、 これは 「周囲から勝てるはずが無いと見なされている存在」 「勝負する相手に実力が遥かに及ばない存在」を意味する表現として 英語では頻繁に用いられるもの。
でもジャイアンツのプレーヤーによれば、彼らは周囲の 「ジャイアンツなんかが勝てるはずが無い」という 彼らを過小評価したり、見下したりする態度を 逆に 自分達を奮起させる のに利用して勝ち残って来たという。
ジャイアンツが勝利を決めたのを受けて、放映局のFOXのアナウンサーが「アンダードッグと言われても決して諦めないのが ニューヨーク・スピリッツ!」と興奮しながら語っていたけれど、 実際には ニューヨーカーは 上昇志向が強いから アンダードッグと見なされることを嫌う人々が多いもの。 でもアンダードッグには2種類があって、1種類目は周囲も自分も勝てるとは思っていないタイプ。そして2種類目は 自分では勝てると思っているのに 周囲が勝てるはずが無いと思っているタイプで 、 今年のジャイアンツの場合は 明らかに後者。
「誰が何と言おうと 自分の勝利を信じて疑わない」 というのは非常にニューヨーク的だし、 ニューヨーカーが時に傲慢なイメージで捉えられるのも こうした キャラクターに因るところが大きかったりする。 今回のジャイアンツにしてもスーパーボウルを取材していた ニューヨーク以外のスポーツ記者達からは 「ペイトリオッツに勝てるはずが無いのに、インタビューで大きな事を言い過ぎる」と かなりのバッシングを受けていたのである。
でも勝利後に ジャイアンツのプレーヤーが 「自分達を見下してきた連中は 何も分かっていなかったんだ」と語っているのを聞くと、 正に ”勝てば官軍” という感じなのである。

かく言う私は 1996年からのニューヨーク・ジャイアンツのファンで、それというのもヒューレット・パッカードの テック・サポートと交わした会話がきっかけだった。
プリンターでトラブルが起こった私は、夜中にテックサポートに電話をしてトラブル・シューティングをしてもらうことになったけれど、 当時はプリンターに必要なソフトウェアをリインストールするのにフロッピーディスクを何枚も使って、 1時間以上掛かる時代。でもそのテック・サポートの男性は、私のコンピューターが日本語版のウィンドウを使っていることを知っても 嫌がらずに 非常に親切に接してくれて、 ”地獄に仏”のような存在だったのである。
そのソフトウェア・リインストールの最中、お互いにやることが無いので 世間話をしていたところ、 ひょんなことからフットボールの話になり、彼がカウボーイズの本拠地であるアーヴァイン・テキサスに住みながらも、 実はネイティブ・ニューヨーカーで、家族中が熱烈なジャイアンツ・ファンであることを話してくれたのだった。 当時 カウボーイズ・ファンであったものの、そろそろカウボーイズに嫌気が差し始めていた私は、もし彼が プリンターのトラブルを直してくれたらジャイアンツ・ファンになると約束したのだった。 そしてその20分後には、私のプリンターがきちんと動き始めて、私もジャイアンツ・ファンになったという訳で、 それと同時に プリンターもロイヤルにヒューレット・パッカードだけを使い続けていたりする。

でも、私が今回のスーパーボールで痛感したのは、アンダードッグであるジャイアンツの方が、 無敗でスーパーボウルに臨んだペイトリオッツよりも ずっとパワフルなオーラを放っていたということで、 スーパー・モデル、ジゼル・ブンチェンと付き合えるほどグッド・ルッキングなトム・ブレイディが 今日のゲームでは 背後霊でも付いているかのように暗いイメージに見えていたのだった。 ビッグ・スクリーンTVで彼のアップの画像を見た途端、私が思わず指摘したのが 「メダルを逃した時のミシェル・クワンみたいに暗いオーラ!」ということだったけれど、 人間のオーラというのは 正直なものだと つくづく 感じてしまったのである。
その反面、ニューヨーク・ジャイアンツのクォーターバック、イライ・マニングはシーズン後半から 頼りないイメージの幼顔が どんどん良い顔つきに変わってきていて、スター・クォーターバックになりつつある勢いが感じられていたのである。 そんな彼の波に乗りつつあるオーラは、広告業界の関係者には既にアピールしているようで、 スーパーボウルに勝利する前から、イライ・マニングがスポーツ界の新しい広告アイコンになるだろうという 声は高まっていたのだった。

さてアメリカの今週は、スーパーボウルにフォーカスが行っていた上に、先週のような 様々な事件が起こらなかったので、比較的落ち着いていた印象があるけれど、 世の中にはいろいろな事件を利用してお金儲けをしようと考える人がいるもの。
今週になってから報じられたのは、ヒース・レジャーの父親に成りすました男性が、 ヒースの友人のハリウッド・セレブリティに電話をして、詐欺行為を働こうとしていたというニュース。 この男性はトム・クルーズやジョン・トラヴォルタなどに電話をし、ジョン・トラヴォルタは危うく 彼の飛行機のチケット代を払おうとして相手が詐欺であることに気が付いたことをスポークスマンを通じて明らかにしている。
その一方で、先週世界中の株式市場にインパクトを与えたのが 不正取引によって金融史上最悪となる49億ユーロ(約$7.2ビリオン=約7700億円)の負債を出した ソシエテ・ジェネラルのトレーダー、ジェローム・ケルヴィエル。 今週になって登場したのが、その彼の名前をフィーチャーしたTシャツのコレクションで、 写真右のように 「アイ・ラブ・ジェローム・ケルヴィエル」というハートの中にユーロ・マークをフィーチャーした Tシャツや、「大きくなったらジェローム・ケルヴィエルみたいになりたい」といったメッセージがフィーチャーされた Tシャツが、インターネット上で販売されて大きな話題となっている。

さてスーパーボウルが終わると、火曜日にはスーパー・チューズデイが待っており、 ここで民主・共和両党の大統領予備選挙の行方がかなりはっきりすると言われているけれど、 ニューヨーカーがジャイアンツのパレードに気を取られて、投票を忘れないことを祈るばかりである。





Catch of the Week No. 4 Jan. : 1 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Jan. : 1 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Jan. : 1 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Jan. : 1 月 第 1 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。