Jan. 26 〜 Feb. 1 2009




” Don't Talk About Wall Street Bonus! ”


私がこれを書いている今日、2月1日はスーパーボウルが行われるスーパー・サンデー。
スーパー・サンデーは、ハロウィンと並んで アメリカで最もパーティーが数多く行われる日となっていて、 この日はピッツァ・チェーンの大手、パパ・ジョンズだけで 600万枚のピッツァと100万のチキン・ウィングを デリバリーするという。 でも少々意外なのは、スーパー・サンデーはパパ・ジョンズにとって1年で2番目に忙しい日とのことで、 最もオーダーが多いのは、何と 多くのアメリカ人がターキーを食べているはずのサンクス・ギヴィング・デイであるという。

その今年のスーパー・ボウルは、ピッツバーグ・スティーラーズとアリゾナ・カーディナルズの顔合わせで、 ニューヨーク・ジャイアンツが大方の予想を裏切ってニューイングランド・ペイトリオッツに勝利した昨年に 比べると地味な対戦カード。
私は友人宅で行われたスーパーボウル・パーティーで試合を観ていたけれど、 ゲームの見せ場は第4クォーターに 一気にやってきて、特に最後の20分は 大興奮の展開。 結果的に ピッツバーグ・スティーラーズが27対23で勝利して6度目のチャンピオンシップに輝いたのだった。
そのスーパーボウル・パーティーと言えば ”賭け” が付き物。 パーティーの参加者全員が 勝利チームとそのスコアを予測することになっているけれど、私はアリゾナのクォーターバック、カート・ワーナーを応援しながら、 ピッツバーグの勝利に賭けていて、そのスコアは 何と 27−23 というドンピシャの数字を当ててしまったのだった。 でも他にも 同じスコアに賭けている人が2人も居た上に、今回はリセッションとあって全員が一律10ドルしか賭けていなかったので、 儲けはたった60ドル・・・。のはずだったけれど、その2人がたまたまレイオフされた人達だったので、 私は自分の掛け金10ドルと帰りのタクシー代10ドルだけを受け取って帰ってきたのだった。

さて、今週も悪化するアメリカ経済のニュースは後を絶たず、月曜には まずヴァイアグラのメーカーとしても知られる 製薬業界第1位のファイザーが第9位のワイスを買収するのをきっかけに、1万9500人の人員削減を発表。 同じ日には携帯電話会社のスプリント・ネックステルが8000人、キャタピラ社が2万人、 そしてホーム・デポが7000人の解雇をそれぞれ発表し、ホーム・デポは全米の34店舗をクローズすることも同時に明らかにしているのだった。
この1月26日、月曜には他にも8社以上がレイオフを発表し、この日1日だけで アメリカ国内、及び世界各国で 7万5千人の職が失われたという。
また今週はそれ以外にも、 1月に入って既に4000人の解雇を行っているIBMがハードウェア部門から1200人、 その他の部門から600人のレイオフを発表。 さらに業績悪化が伝えられて久しいスターバックスでも 300店舗の閉店と6700人の従業員解雇が報じられ、 ウォルト・ディズニーでも傘下のABCテレビ、ケーブル局で合計440人を削減。 その一方で、ボーイング社は既に発表していた4500人の解雇を1万人に増やすことを決定。 これらに加えて、来週には百貨店の大手メーシーズで大型のレイオフの発表が見込まれているのだった。

こんな解雇に次ぐ解雇が行われる状態であるため、新ヤンキー・スタジアムでのピーナッツ売りの仕事の募集に、 今週 人々が長蛇の列を作っていたことも伝えられているけれど、 人員削減だけでなく、企業における バジェット・カットは 昨今、あらゆるところに見られるものである。
例えば、リセッションのせいで旅行者が激減している ホテル業界では、 マリオット系列のホテルがハンドローションを客室の洗面台に置くのを止めたとのことで、 ウィンダム・ホテル&リゾートでも 客室のタオルの数を減らしているという。 さらにロビーや客室の 美しいフラワー・アレンジメントで 知られる リッツ・カールトンにしても、 コストのかかるフレッシュ・フラワーの代わりに、プラントやスカルプチャーなどで 空間をデコレートする一方で、 レストランやスパ、小売店の営業時間を短くすることによって 経営コストと人件費の削減を図っているという。
こうしたホテルは、ブレックファスト・メニューのオプションを減らしたり、 トイレタリー・グッズの種類を減らしたり、ウェルカム・ドリンクやロビーでの無料のコーヒー・サービスを廃止するなどして、 滞在客に気付かれない形での コスト削減を図っているとのだった。

こうしてありとあらゆる業界が経営努力を強いられる一方で、今週報じられたのが 国民の税金から捻出されるTARF からのベイルアウト・マネーを$45ビリオン(約4兆500億円)も受け取っている シティ・バンクが$50ミリオン(約45億円)のコーポレート・ジェットを購入しようとしていたというニュース。
でもフランス製のジェット機のデリバリーが行われる前日に、このことが大きく報じられ オバマ大統領や下院を始め、メディアや国民から猛烈な非難が集中したため、シティバンクはやむなく その購入を 取り止めるに至っている。
それでも、シティバンクはかつてのCEOで現在は同社のアドバイザーを務めるサンディ・ウェイル氏の家族の クリスマス・ヴァケーションに同社のプライベート・ジェットを提供したことが報じられており、 そのコストは6000〜7000万円。 ウェイル氏はCEOのポジションを去る際のゴールデン・パラシュートのパッケージで、同社のプライベートジェットを2009年 4月まで使用することが許されているというけれど、 シティバンクと言えば2008年には$28ビリオン(約2兆5200億円)の損失を計上し、7万5000人を解雇しするという 最悪の経営状態。新たにコーポレート・ジェットを購入するのも論外であれば、 元エグゼクティブがプライベートでそれを使用するのも非常識と言える状況なのである。

でもそれよりも何よりも、今週大論議を呼んでいたのがウォールストリートに 総額$18.4ビリオン(約1兆6200億円)の 2008年度分ボーナスが支払われたというニュース。
このボーナスの総額は史上6番目に高額なもので、2004年並みの金額。 その2004年と言えば ダウ平均が1万ドルを超えて ウォールストリートが多額の利益を計上していた年である。
ここで 一般の常識ある人々が首を傾げるのが、どうして企業が何兆円もの損失を出している時に、社員にボーナスが 支給されるのか?ということ。 ボーナスというのは給与ではなく、 成功報酬であるから 企業が利益を上げていなければ 支払われる必要は無いもの。 しかもバンカーの中にはそんな最悪の業績にも関わらず、 億円単位のボーナスを支給されている人も少なくないのである。
そもそも ウォールストリートがこれまで非常識なほど高額な ボーナスを受け取って来ても、誰も文句を言わなかったのは こうしたボーナスの支払いが自分達とは全く無関係に行われてきたため。 でも今回のボーナスは、TARFのベイルアウト・マネーから支払われているとも解釈できる一方で、 そのTARFのツケが回ってくる 国民の多くはボーナスどころか、仕事にさえ就くことが出来ず、 住宅ローンや医療費、子供の学費の心配をして 食費や生活費を最大限に切り詰めているような状態。
それだけに、メディアや世論がこのボーナスの金額に腹を立てるのは当然の結果であり、 今週はオバマ大統領も このウォールストリートのボーナスを 「Shameful (恥ずべき)」, 「Outrageous (とんでもない)」, 「The height of irresponsibility (無責任の極致)」という言葉を用いて、 厳しい口調で非難していたのだった。
でも、こんな風にTARFのベイルアウト・マネーが ファイナンシャル・クライシスを招いたバンカー達のボーナスに易々と使われてしまうのは、 その使い道を限定せずに 何十億ドルという大金をウォールストリートにポンポン投入し続けた ヘンリー・ポルソン長官時代の財務省の失態と言えるもの。 ベイルアウト・マネーが 住宅ローンに苦しむアメリカ国民の救済や スモール・ビジネスをサポートするローンといった本来の目的には全く使われていない実態は、 人々にTARF失敗を印象付けるものになっているのである。

でもアメリカ国民を、そのボーナス金額以上に腹立たせたのが 本来ならば受け取るべきではないボーナスを 受け取ったウォールストリートのバンカー達のコメント。
メディアに掲載されたバンカーのコメントは 「1週間に70〜80時間も働いているんだから、報酬を受け取るのは当たり前」、 「ウォールストリートには世界の金融ブレーンのトップが集まっているのだから、その最高の能力を 繋ぎとめておくためにもボーナスの支払いは必要不可欠」、「今年のボーナスはドアマンのチップ並みの金額だ」というような、 全く有り難味のかけらも無いもの。
私もこうしたバンカー達のコメントを新聞やネット上で読んでいて、あまりの勘違いぶりに唖然としたけれど、 ウォールストリートのバンカーがこうした訳の分からない彼らなりのセオリーを展開するのを実際耳で聞くのは、 普通の人にとっては かなり頭に来ることのようで、今日スーパーボウル・パーティーで出会った人の中には、 ウォールストリートのボーナスを巡って 友人と口論になったという人も居たほど。 このため、スーパーボウル・パーティーでは ”金融と経済の話はしない” というのがルールになっていたのだった。

でも、そんなルールがあっても 今の世の中で 人々の関心が集中しているのが金融と経済の問題な訳で、 試合が始まる前には やはりウォールストリートのボーナスの話題が出てきてしまったのだった。
ウォールストリートのボーナス肯定派は、 「自分達が高額のボーナスを受け取っていたときの方が、 レストランや小売店、不動産を始め、様々なビジネスが潤っていたことからも分かるように、 経済を回しているのがウォールストリートで、ウォールストリートが多額の報酬を得て、お金を使わなければ、 ニューヨークは税収を失って、ビジネスも失うことになる」 という意見を展開。
これに対して、ボーナス反対派は 「そもそもウォールストリートのバンカーの給与は他の仕事と比較しても、 他国のバンカーと比較しても高すぎるし、彼らにその金額に見合う能力がある訳ではないことは 今回のファイナンシャル・クライシスが証明している。 過去数年のボーナスにしても本来は支払われるべきものではなかったもの。 ニューヨークはこうした金遣いの荒いバンカーのせいで、レストランから不動産までが 馬鹿らしい値段に跳ね上がってしまった」 という意見で、真っ向から対立していたのだった。
結局この論争は、「今日は金融の話はしないルールだから・・・」 という仲介が入って 終わることになったけれど、 そのうち1人が語った最後の捨て台詞というのが 「ウォールストリートの人間とボーナスについて語り合うのは 日本人を相手にパールハーバーについて語り合うようなものだ」 というもの。 このコメントが面白くなかった私は、「日本人はアメリカ人相手にパールハーバーの話なんてしないわよ」 と思わず言ってしまったけれど、 こうしたアメリカ人が 何でもかんでも大災難について語る際にパールハーバーを持ち出してくるのは いい加減にやめて欲しいと思う習慣である。

とは言っても 一度スーパーボウルが始まってしまえば、ゲームに熱中して そんな論争はすっかり忘れてしまうのがアメリカ人の単純なところであり、 愛すべきところ。
でも見方を変えれば、これからもアメリカ社会では 新たなレイオフを始めとする経済悪化のニュースに加えて、 財政難による増税や公共料金の値上げが待ち受けているわけで、 スーパーボウルのような行事で息抜きをしなければ、現実があまりにも厳しすぎるという状況なのである。





Catch of the Week No. 4 Jan. : 1 月 第 4週


Catch of the Week No. 3 Jan. : 1 月 第 3週


Catch of the Week No. 2 Jan. : 1 月 第 2週


Catch of the Week No. 1 Jan. : 1 月 第 1 週







執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。