Jan. 31 〜 Feb. 6 2011

” Snowed In & Domestic Bliss”

今週のアメリカでは、国内のニュースよりもずっと大きく報じられていたのがエジプトにおける反政府デモと政情不安のニュース。
ムバラク政権の余命は短いと見込まれるものの、その終焉の目途が立つまでは、騒乱は収まらないと見込まれているのだった。
それ以外では、週半ばにアメリカの11州を跨いで襲ったスノー・ストームが大ニュースになっており、 私がこれを書いている2月6日、日曜にスーパーボウルが行なわれたテキサスにも、珍しく大雪をもたらしていたのだった。

ニューヨークでも、今週、クリスマス以来8度目の雪が降ったけれど、 冬がまだまだ長く残っているだけに、ニューヨーカーはもうウンザリ。
もちろん、シカゴやボストンに比べたらニューヨークの雪や寒さなど比ではないけれど、 そんな歴史的に寒い冬を迎えているアメリカで、頻繁に聞かれるセンテンスが 「Snowed In」、すなわち「雪篭り」。
郊外では車を自宅のガレージから出せないほどに雪が積もっているケースも多くて、外出したくても出来ない状況であるけれど、 雪が降る厳寒の中、レストランやバーに出掛けても活気が無い上に、足元はアグリーなスノーブーツなので、 女性はファッショナブルなアウトフィットを着る気にもなれない状況。
でも、この時とばかりに人気のあるレストランに出向けば、相変わらずの混み様で、こちらは予約があっても30〜50分待たされるのが 珍しく無い状況。これはレストラン側がテーブルを早く回転させようと、オーバー・ブッキングをしている一方で、 来店客がゆっくり食事をしているために生じる問題。
この状況は今週のニューヨーク・ポスト紙でも、ニューヨーク・レストランの問題点として指摘されていたけれど、 ここ2〜3年ほどは オペレーションを簡略化するため、予約を取らず、ウォークインのみの人気レストランがどんどん登場しているのだった。 例えば、CUBE New York で以前取り上げた超人気レストラン、ブレスリン(写真右上)などは、何時行っても1時間待ち。
噂では旅行者の方が、長く待たされる傾向が強いとのこと。この理由は旅行者は待たせても、他のレストランに行こうとせずに 辛抱強く待つこと、さらにリピーターにはならないので、レストランとしてはニューヨーカーを優先させた方がメリットがあるとのことなのだった。


さて、こんな風に外は雪だらけ、しかも夜は零度以下が当たり前の寒さ。 レストランでは予約をしても待たされて、雪でも降って来ようものなら、店のスタッフは雪が酷くなる前に仕事を終えたいので、 あっという間に明細伝票を持ってきて、暗黙の 「早く帰れ!」オーラを発していたりすると、 「ホーム・クッキングも悪くない」と思えてしまうけれど、 実際に今、ニューヨーカーの間で徐々に高まっているのがホーム・クッキングのブーム。
ニューヨーク、特にマンハッタンと言えば、アパートのキッチンが小さく、何処に暮らしていても近隣にレストランが沢山あることから、 これまではホーム・クッキングとは さほど縁が無いと思われてきた街。 ところが、まずリセッションに突入してから、お金を節約するための”自炊ブーム”がスタートし、 それがきっかけで、特に男性を中心に 料理の楽しさや、自分で好きなものを作って食べる気軽さに目覚める ニューヨーカーが続出。 今やニューヨークではクッキング・クラスが人気を集めており、その30%以上が男性によって占められているのだった。

そもそも、有名シェフの殆どが男性であることからも分かる通り、料理というのは一度 凝り始めると、 男性の方が その旺盛な食欲も手伝って、極めようとする姿勢が高まるもの。 また頻繁に料理をして、自分で食材を購入するようになると、気付くのは 「レストランで食事をするのが如何に割高であるか」。
加えて、ホーム・クッキングに はまっている多くの男性が語るのが、ニューヨークの女性達が ”料理をする男性に弱い” ということ。 例え既婚男性でも、「グルメ・フードが作れる」というと、オフィスの女性達が一目置いてくれるようになるそうで、 もちろんシングルの男性にとっては、女性を自分のアパートに招待して、手料理でもてなしてあげることは、 デート代の節約になると同時に、女性側に特別な愛情表現として受け取ってもらえるようで、 攻略の確率が高まることが指摘されているのだった。

かく言う私も、昨今はホーム・クッキングに凝っていて、そのせいで もっと大きなキッチンのアパートに引っ越したい、と真剣に 考えるようになってしまったほど。
料理に懲りだした原因となったのは、美容のためにコラーゲンが豊富な料理を食べようと思ったのがきっかけ。 そうするには自分で料理をするのが一番簡単かつ、安上がりな方法であると思ったのだった。
さらにホーム・クッキングならば、食材はもちろん、塩やハーブなど、細かい部分にも 自分のこだわりが生かせるわけで、 肉、野菜、果物は極力オーガニック、塩はシーソルト、ハーブは瓶詰めのドライは使わず、フレッシュ・ハーブのみを用いる主義の私としては、 気に入ったところで調達した、気に入ったものだけを食べる食生活が徐々に心地良くなってきてしまったのだった。

私はそもそも冷凍食品やシリアル、プロセス・フード等、工場で生産されているものは、食べない主義であるけれど、 レストランは よほどの一流店でない限りは、どんな食材が用いられているかは分からないもの。
食材だけでなく、塩分、脂肪分、そしてその脂肪の種類にしても、トランス脂肪酸を使うレストランは、さすがに ニューヨークでは減っているけれど、悪玉コレステロールを増やすと共に、 肥満の原因となる飽和脂肪酸の量に 気遣ってメニューを組み立てているレストランなど、殆ど無いのが実情なのだった。

また、少し前から私が 極力減らそうとしているのが砂糖の量。
もちろんデザートなどは、砂糖を使わない訳には行かないけれど、料理の際には、玉ネギやドライ・フルーツ、ハチミツを 甘味として用いて、砂糖や人工甘味料は使わないようにしているのだった。
そもそも、1日に摂取すべき砂糖の量は、成人女性が1日に ティー・スプーン5杯(20g)、成人男性がティースプーン9杯(36g)、 子供でティースプーン3杯(12g)。 ところが、アヴェレージなアメリカ人は 砂糖だと意識せずに摂取している糖分の量、すなわち パンやクラッカーなど、甘いという認識が無い食べ物や、ソフト・ドリンクに含まれる糖分だけでも、1日にティースプーン22杯分(84g)を 摂取しているとのこと。
なので、アメリカで肥満とそれに伴う糖尿病、心臓病が増えているのは決して不思議ではないけれど、 外食や、外で調達したものを食べ続けていると、どうしても糖分、塩分、脂肪分が、知らず知らずのうちに増えて、 それによって エイジングのスピードアップや体重増加の原因になるのはもちろん、食欲がコントロール出来ない体質が形成されてしまうのだった。

ところで、私はたんぱく質は動物性、すなわち肉や魚から取るべきと考える主義で、 私にとって、料理のメニューを決めるということは、動物性たんぱく質を何にするか?を決めるということ。
ホーム・クッキングに懲りだしてから、肉を買う際に気をつけるようになったのは、「Grass Fed / グラス・フェッド」のビーフ、 「Pasture-Raised / パスチャー・レイズド」のポークやチキンを選ぶということ。 これまでは 「ナチュラル」、すなわち「ホルモンや抗生物質が使われていない肉」 という視点で選んでいたけれど、 それでは安全な肉とは言えないようなのだった。
グラス・フェッド、パスチャー・レイズドは牧場で牧草を食べさせて飼育されたという意味で、 多くの人々が”牧場”という言葉を聞いて頭に描くのがこの光景。 でも実際には、アメリカの食肉業者は9000万頭の牛の殆どを、巨大なフィード・ロットと呼ばれる 強制食いをさせる、窮屈で劣悪な環境で飼育しており、与えている餌は牧草ではなく、 牛の肥満を招く穀物、もっぱらコーン。 そして抗生物質やホルモンを投与することによって、牛はあっという間に太って、 大きくなるので、短時間で多量の食肉が生産できるのがこのシステムなのだった。



でも 牛は、そもそもコーンを始めとする穀物を食べるように生まれた動物ではない上に、劣悪な飼育環境のため、 食肉にされる段階で、病気になっている、もしくは なり掛けている牛は少なくないとのこと。
さらに餌として与えられているコーンにしても、近年バイオ燃料の需要が増えていることもあり、 遺伝子組み換え技術によって大量生産されているのだった。 すなわち、アメリカ産の安価なビーフはホルモンやドラッグを投与されて、不健康な餌とストレスフルな環境で飼育された牛ということになるけれど、 これはグラス・フェッドのビーフに比べて、脂肪分が多く、ビーフ本来のフレーバーが弱く、 本来だったら牛肉にリッチに含まれているはずの、健康の鍵を握る オメガ3脂肪酸の量も少なくなっており、 安全性だけでなく、栄養価の見地からも遥かにクォリティが劣る食肉になっているのだった。
実際、グラス・フェッドの肉は塩、コショウを擦り込んでグリルしただけで、十分に美味しいけれど、 普通に安価に売られている肉は、ステーキ・ソースが無いと物足りない味なのだった。

ところで、アメリカでつい最近、大きく報道されていたのが、 ファスト・フード・チェーンの Taco Bell / タコ・ベルが ”100%ビーフ”と謳っていた挽肉に、 ソイ・レクチン、コーン・スターチ、アンチ・ダスティング・エージェントなどの混ぜ物が入っており、 農務省が定める牛肉の基準に見合わないとして、消費者から訴えられたというニュース。 でも、タコ・ベルの牛挽肉に限らず、肉だと思って食べていても、実際は肉とは言えないものは、 アメリカに限らず、世界各国の食品業界に溢れていて、 ホット・ドッグのソーセージやプロセス・ハム、ナゲットに用いられるチキンなどは、その最たる例。
なので一部には、散々同様の混ぜ物肉をホットドッグなどで食べておきながら、 高額レストランでもないタコ・ベルに対してのみ、「本物の肉を使っていない」と訴訟を起こす消費者の方が、 おかしいという指摘さえ聞かれているのだった。
こうした”肉”とネーミングされたスポンジのような、得体の知れない 物体だからこそ、塩や砂糖や脂をふんだんに使って味付けをすることになるし、 それを食べつけてしまうと何の疑問も感じないだけでなく、それを美味しいとさえ思ってしまうのが人間の恐ろしいところ。

ところで、アメリカの学校には家庭科のようなクラスが無いので、アメリカで「料理をしない人」というのは、往々にして料理に関わる機会がなかった人々。 なので、本当に簡単なものさえ作れないけれど、逆に料理をする人というのは、 アメリカ人シェフの多くを含めて、料理好きの母親や祖母の影響を受けている場合が殆どなのだった。
日本だと、女性でも男性でも基本的な食事が作れるのは 「一般教養」のように見なされているけれど、 アメリカ、それもニューヨークのような都市部では、「料理をする」というのはスペシャル・スキル(特殊技能)と見なされるもの。 したがって、アメリカではホーム・クッキングが日本以上に有り難味のあるものとして 捉えられているのだった。
アメリカ人で料理をする人を見ていると、日本人よりも不器用な場合が多いけれど、やはり長けているのはハーブやスパイスの使い方。 私はナツメグやオレガノが如何に肉料理に大切かは、そういったアメリカ人の料理から学んだのだった。

そうやってホーム・クッキングを楽しみ始めると、外食は時にホーム・クッキングのアイデアを与えてくれるもの。
1月末には、やっと先述のブレスリンで、40分もバーで時間を潰した後、ディナーをすることが出来たけれど、 その時に食べたのが同店名物のラム・バーガー。 これがきっかけでラムの挽肉料理も悪くないと思って、その後、早速トライすることになったのだった、
でも自宅でクックしたラム肉ディナーのコストは、サラダとサイド・ディッシュ、デザート、1本25ドルのワインを含めて2人分で75ドル前後。 これに対して ブレスリンでは、サラダとデザートをシェアして、小さなグラスにプロセッコ(イタリアのシャンパン)1杯、レッド・ワイン2杯と、 フライド・ポテト付きのラム・バーガーを食べて、チップと税金込みで1人80ドル。 脂が多いのでお腹は一杯になったけれど、そのせいで翌日顔に吹き出物が出てしまったのだった。

ちなみに、アメリカで外食が高くつく要因の1つはやはりワインなどのアルコール。
今週出かけたレストランでは1本12ドルのワインに40ドルのお値段が付いていたけれど、 これをグラスで飲んた場合のお値段は11ドルで、レストランは1杯で ほぼもとが取れる計算。 しかも昨今のレストランは小さなグラスに半分しかワインを注がないので、ワイン1本で7杯はサーブするような計算。 自宅で飲む25ドルのワインは、レストランでは80ドルくらいのお値段になってしまう訳で、これにタックスとチップが付くと、 本当に馬鹿らしいお値段になってしまうのだった。
なので中途半端なレストランに行って、出所の知れない食材で作った そこそこの食事と、ぼったくり安ワインを味わうくらいなら、 自宅で最高の食材でクッキングした方がベターというのが昨今の私の考え。
この方が、たとえ人を招待してもコストは1人分の外食以下。 もちろん片付けはあるけれど、その分、タクシー代が掛らないという利点もあるのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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