Feb. 5 〜 Feb. 11




”ファッション・ウィークとソーシャライト ”





今週のアメリカでの最大の話題と言えば、木曜に報道されたアナ・二コル・スミス突然の死去のニュースである。
39年の短い生涯を終えた彼女は 元ストリッパーからプレイボーイのプレイ・メイト、ゲス・ジーンズのモデルとなり、26歳の時点で62歳年上の テキサスの石油富豪、J.ハワード・マーシャルと結婚した典型的なB級セレブリティ。 アメリカ人なら誰もが彼女を知っているけれど、スキャンダル以外に一体 何が彼女を有名にしているのかは良く分からない存在で、 事実、アナ・二コルの死後に人々が思い出すのは、富豪の夫の死後、その遺産を巡って 彼の息子達と繰り広げた訴訟や、 彼女のドラッグ&アルコール中毒、その激しく上下する体重などのゴシップ・ネタばかり。 また、彼女の肩書きも「ピンナップ・ガール」、「ダイエット・ピルのスポークス・パーソン」、「元プレイボーイ・プレイメイト」など メディアによって様々なのである。
木曜午後に意識が無い状態で病院に搬送され、そのまま死亡が確認されたアナ・二コルは、 司法解剖後の結果でも死因は断定されておらず、当初は ドラッグの過剰摂取、もしくは過激なダイエットと過食の繰り返しによるものと 推測されていたけれど、彼女の胃からは違法ドラッグは検出されておらず、一部のゴシップ誌では殺害の可能性まで指摘される状況である。
彼女は 死亡の直前は、昨年9月秋に生まれたばかりの女児の父親が誰かを巡って元ボーイフレンドと争っていたけれど、 彼女の死去によって今後 その親権争いは益々激化しそうな様相を見せている。 それというのも、その女児が アナ・二コルの元夫である富豪の数十億もの財産を相続する可能性があるため。
富豪の財産は、度重なる裁判の末、テキサスの最高裁判所が息子達家族に相続権を与える判決を下したものの、 昨年には連邦最高裁がこの判決を差し戻したため、再び審議が行われることとなっており、もしアナ・二コル側が勝訴した場合、 財産は彼女の子供に渡ることになる訳である。 アナ・二コルには富豪と結婚する前の夫との間に出来た20歳になる息子が居たものの、 その息子は昨年秋、彼女が女児を出産した直後に ドラッグの過剰摂取で死去しているため、 アナ・二コル側の勝訴で財産を手にすることになるのは、今月で生後5ヶ月を迎えるダニエリン・ホープ・マーシャル・スターンと名付けられた女児。 そして、彼女が成人するまで 財産を管理する権利を持つのが その女児の親権を持つ人物である。
現在、その父親としては3人の男性が名乗りを上げている状態で、スキャンダルに満ちた生涯を送ったアナ・二コル・スミスは 死去後もスキャンダルとは縁が切れないことになりそうである。

アナ・二コル死去のニュースですっかり色褪せてしまったものの、週の前半に人々の関心が集中していたニュースと言えば、 NASAの女性宇宙飛行士リサ・ノーワークが、自分の恋敵である同じNASAの職員で エアフォース・ワンの女性パイロット、 コリーン・シップマンの誘拐・殺害を試みて失敗し、逮捕されたという事件。 彼女はテキサスから コリーン・シップマンが任務を終えて降り立つフロリダまで車を運転して出掛け、 ヘア・ウィッグを付け、トレンチコートを着用して、パーキング・ロットで待ち伏せして、シップマンに声を掛けたものの 不審な行動が怪しまれて 逮捕。その後、彼女の車の中からはペッパー・スプレーや空気銃、ナイフ、レイテックス・グローブ(医療用ゴム手袋)、 大きなゴミ袋などの誘拐&殺害グッズが見つかり、殺人未遂の容疑で起訴されるに至ったのだった。
この誘拐・殺害の動機となったのは 海軍将軍で41歳になるビル・オフェレインで、彼は2人の子供を持つ離婚経験者。 オフェレインと共にトレーニングを受けたリサ・ノーワークは、オフェレインがシップマンと交際していることを突き止め、 ジェラシーから 誘拐&殺害を企てたとのことで、彼女は計画遂行のために950マイルをドライブしてフロリダのオーランドまで 出掛けているけれど、その間 トイレの休憩を挟まず運転できるように大人用のオムツを装着して運転し続けていたという。
アメリカでは恋敵の殺害しようとする異常さと同じくらいに、この”オムツ装着” も大きな話題になっていたけれど、 NASAの宇宙飛行士は離陸から何時間もトイレに行くことが出来ないために、オムツを装着して宇宙に旅立つことになっており、 ”オムツ装着” はNASA職員にしてみれば、一般人が考えるほど突飛なアイデアではないことが指摘されていたのだった。

さて、そんな事件が起こっていた今週、ニューヨークで行われていたのはファッション・ウィーク。
今回のファッション・ウィークは期待外れのショーが多いという指摘を受けていたけれど、ランウェイ上の作品と同じくらい 期待外れだったのはフロント・ローに姿を見せたセレブリティのラインナップ。 かつてはサラー・ジェシカ・パーカー、グイネス・パートロ、ジェニファー・ロペス、ビヨンセといったセレブリティが、 パリス・ヒルトンに代表されるB級セレブリティに混じって登場し、ショーが始まる直前の フロント・ローでは 盛んにフラッシュが焚かれていたものだけれど、今回は一部のショーにブリットニー・スピアーズや シエナ・ミラーが姿を見せたものの、目玉になるようなセレブリティの登場が無く 嘆かれたシーズン。 その代わりにショーで控えめなフラッシュを浴びていたのは、ニューヨークのソーシャライト達である。
彼女らは一部の日本の雑誌で報道されるほどニューヨークでは有名な存在ではなく、 パーティーではドアマンが彼女らの顔を認識出来ないため、写真入りの名簿を用意しなければならないのが実状であったりする。

ではファッション・デザイナーにとってセレブリティとソーシャライトのどちらを大切かといえば、答えはもちろんセレブリティ。 というのも、セレブリティがショーに姿を現せば そのスナップは「ピープル」や「インスタイル」誌といった ナショナル・メディアで掲載されるけれど、ソーシャライトがショーに現れたスナップは、ヴォーグ誌のソーシャル・セクションか、 ニューヨーク・マガジンのようなローカル・メディアに載れば良い程度で、知名度が低いが故に 決してメジャーなパブリシティには繋がらないためである。
実際、先シーズンの某デザイナーのショーで女優のエバ・メンデスと、ソーシャライトのティンズレー・モータイマーが 同じドレスで登場してしまった際、デザイナー側がこっそり簡易式トイレで着替えるよう 別のドレスを差し出したのはティンズレー・モータイマー。 彼女が同じドレスを着用しているところがスナップされてしまったら、エバ・メンデスに恥をかかせることになって、 エバに今後2度とショーに来て貰えないどころか、衣装を提供しても着用してもらえなくなってしまう訳である。

ソーシャライトとセレブリティの共通点といえば、どちらもデザイナーの服を借りたり、貰ったりするだけで まずは購入しないこと。かつてはソーシャライトと言えば、メガリッチのデザイナーの上顧客を意味したけれど、 昨今のソーシャライトは自費で服を購入しない節約家が多く、 一流デザイナーは よほどビッグなイベントやパーティーでも無い限りはドレスを貸し出さないため、 通常、彼女らは無名、もしくは一流とは言えないデザイナーの服を借りたり 貰ったりして着用している場合が多いという。 また、かつてのソーシャライトといえばファッション・ショーには黒塗りのリムジンで登場したものだけれど、 昨今のソーシャライトと呼ばれる女性達がイエロー・キャブで移動する姿は珍しくないもの。
今日、2月11日付けのニューヨーク・ポスト紙では、ファッション・ウィークに現れたそんな庶民的なソーシャライト達の姿を スナップして特集していたけれど、その記事の内容と言えば、「ソーシャライト達は、Aリストのセレブリティとは異なり、最小限のメイクアップと、 風でブロウされたヘア、テイストフルではあるものの似たようなローキー・アウトフィット(地味な服装)の、 アンチ・セレブリティ・ファッションで現れている」という 皮肉とも取れるような内容であった。

ソーシャライトの数が増えて ステイタスが低下してきた分、彼女らも期限付きの乳製品のように フレッシュでなくなれば捨てられてしまうようで、今週のニューヨーク・タイムズには、「The Shelf Life of Socialites: For Some , Shorter Than Mini」 (ソーシャライトが棚に陳列されている期間:一部は ミニ・スカートより短い)というタイトルの記事が掲載されていた。 これによれば、日本のバッグ・ブランド、サマンサ・タバサのためにバッグを手掛けているティンズレー・モータイマー(30歳)は、 ソーシャライト界のパリス・ヒルトンの域に達していて、何処にでも顔を出し過ぎて、既にピークを超えてしまった存在。 替わって今シーズンメキメキと知名度を上げてきた存在としては、オリヴィア・パラーモ嬢(20歳)のことが写真入りで取上げられていたのだった。
このティンズレー・モータイマーとオリヴィア・パラーモは某ショーで鉢合わせし、フォトグラファーのリクエストに応じて 一緒に写真を撮影されていたというけれど、その間2人は一度も目を合わせなかったことも伝えられていたりする。

でも、今回のファッション・ウィークで ソーシャライトが見せた大失態と言えるのは、 一週間のトリを飾るチャリティ・イベントとして企画されたファッション・ショー ”Designer for Darfur / デザイナー・フォー・ダルフール(ダーファー)” 。
これは、スーダンのダルフールで行われている民族浄化の大量殺人に抗議するチャリティで、 ダルフールを救うためにはジョージ・クルーニ、ドン・チードルズ、オプラ・ウィンフリー、ナオミ・キャンベルといった 数多くのセレブリティが積極的にアクションを起こしているもの。 そこでデザイナーから作品を提供してもらい、セレブリティの協力を仰いで、バイヤーやプレス対象ではなく 一般の観客を集めた ファッションショーを行い チケット売り上げと、デザイナーから提供されたドレスの売り上げを ”セイブ・ダルフール”の チャリティに寄付するという目的でプランされたのが”デザイナー・フォー・ダルフール”のファッション・ショーであった。
同イベントをオーガナイズしていたのはソーシャライトでパートタイム・モデルのリディア・ハーストとマルコム・ハリスで、 一時は同ショーにジョージ・クルーニがスピーチをするためにやってくるという噂が流れ、「ファッション・ウィークで最もホットでビッグな イベントになる」とも謳われていたもの。しかし蓋を開けてみれば 主催者側のオーガナイズ力不足で、 有名デザイナーから作品が集まらなかったため、ショーは どの作品がどのデザイナーから寄付されたかも分からない状態で行われ、 観客はショーが始まるまで1時間半も待たされ、収益金は100ドルにも満たないという惨憺たるチャリティ・イベントになってしまったのだった。 この状態を察してか、セレブリティは誰一人姿を見せないばかりか、同イベントをサポートする向きさえなかったという。
すなわちソーシャライトが チャリティを利用してパブリシティやハリウッドへのコネクションを手に入れようとして 見事に失敗したというのがこのファッション・ショーで、「ダルフールの人々、そしてニューヨーク・ファッション・ウィークに対する侮辱」と メディアから酷評されていたのが同イベントだったのである。

少なくとも90年代までは、ニューヨークでソーシャライトと呼ばれていた人々は育ちも良く、毅然として、ハリウッド・セレブリティより お金も地位も学歴もある人々、セレブリティの方が引け目を感じてしまうような人々であったけれど、 今ではそれもすっかり様変わりしてしまったようである。
事実、以前ならソーシャライトが メディアに 期限付きの乳製品のように扱われることなど、 全くの論外、決して考えられないことだったのである。



Catch of the Week No.1 Feb. : 2 月 第1週


Catch of the Week No.4 Jan. : 1 月 第4週


Catch of the Week No.3 Jan. : 1 月 第3週


Catch of the Week No.1 Jan. : 1 月 第2週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。