Feb. 4 〜 Feb. 10 2008




” 今週のランダム・キャッチアップ ”



今週のニューヨークでは、2008年の秋冬シーズンの ファッション・ウィークが行われていたけれど、先週のこのセクションにも書いた通り、 ニューヨーク・ジャイアンツがスーパーボウル・チャンピオンに輝いたせいで、火曜日にはダウンタウンでパレードが行われ、 また同じ火曜日は大統領予備選の天王山とも言われたスーパーチュースデーと呼ばれる選挙日であったことも手伝って、 いつになく地味で、メディア・フィーチャーも小さかったのが今回のファッション・ウィークだった。
その中で唯一ビッグなファッション・イベントとなっていたのが、既にCUBE New York のスタイルのセクションでもご紹介している、 グッチの新フラッグ・シップのオープンと、それに際して行われたグッチ&マドンナのジョイント・ホストによる チャリティ・パーティーで、これは各界から 700人もの著名ゲストを招いたメガ・イベントとなっていたのだった
ところが、週末になってから報じられたのが、そのグッチが新しいニューヨーク店のためのエクスクルーシブ・プロダクトのために デザインした 「Gucci NY / グッチ・ラブス・ニューヨーク」というロゴが、 コピーライト・ヴァイオレーション(違反)に当たる というニュース。
このロゴは、写真左のように Loveの文字の代わりにハートをあしらったものであるけれど、これが ニューヨークのトレードマーク・スローガンで、 ニューヨーク州がコピーライトを所有する 「I NY」 のロゴのパクりであることは ニューヨーカーでなくともひと目見れば分かるもの。
このコピーライトとスローガンをコントロールしている、エンパイア・ステート・デベロプメントでは、 先週のこのコラムでもご紹介した「I ジェローム・ケルヴィエル」Tシャツのように、 「I XXXX」、もしくは 「XXXX NY」といった コピーライト・ヴァイオレーションの対応に 苦慮していることが伝えられており、グッチも 歴史ある一流ブランドにも関わらず、このロゴ・イメージを無断で使用していたことが明らかになっている。
でも「Gucci NY 」のロゴをフィーチャーしたプロダクトは、その利益が100%セントラル・パーク・コンサーバンシーに寄付されることに なっているため、「NY州が同プロダクトを厳しく取り締まることはないだろう」 というのが大方の見方である。

ところで、「I NY」のロゴをフィーチャーしたベスト・セラー・プロダクトと言えば、 CUBE New York でも扱っている 「I NY」Tシャツであるけれど、これを生産しているのは Tシャツ・メーカーではなく、ロゴの使用権を買い取っているニューヨーク州のプリント業者。 ロゴの使用権は複数のプリント業者が買い取っており、それぞれの業者がヘインズやフルーツ・オブ・ザ・ルームなどの プレーンなホワイト・Tシャツを仕入れて、それにロゴをプリントすることによって生産されているのが I NY Tシャツである。 この内情を知らない人は、時にTシャツについているタグを見て フルーツ・オブ・ザ・ルーム や へインズ が これを生産していると勘違いしてしまったり、「タグが違うから偽物なのでは?」と疑ってしまう場合も少なくないようである。
ちなみに、 「I NY」ロゴが誕生したのは1977年のことで、 グラフィック・デザイナー、ミルトン・グレーザーによって無料でデザインされたもの。 にも関わらず、同ロゴは2007年度には ニューヨーク州に1億円を超えるライセンス収入をもたらしていることが伝えられている。
それでも ニューヨーク州は、 喫煙が原因の心臓病や肺がんによる死亡率がアメリカで非常に高い事実を受けて、 これまで販売されていた使い捨てライター、灰皿などの喫煙グッズにはロゴの使用を許可しない方針に変えており、 年明け早々販売店に I NY ロゴをフィーチャーした喫煙プロダクトを 陳列棚から取り除くように 働きかけているという。

その一方で、火曜日にはニューヨーク・ジャイアンツの祝勝パレードが行われたけれど、こうしたNYチームの チャンピオン・シップを祝うパレードは2000年のヤンキーズ以来であると同時に、2001年のテロ以来初めてのもの。
それだけに、パレード後のスピーチではテロ後の悲惨な状態から、すっかり平常に戻って久しいダウンタウンの姿を パレードによってアメリカ中にアピールすることが出来たことを歓迎する声も聞かれていたのだった。 でもテロの影響で、その後に建てられたビルの多くが窓が開かない構造になっていたり、テロ以前からあった建物でも、 窓の傍に人が近寄れないようにしているものが増えたため、今回のパレードで 沿道の建物から撒かれるコンフェッティ(紙吹雪)の量は これまでのパレードに比べて 遥かに少なかったことが報じられている。 それでもサニテーション・デパートメント(清掃局)の発表によれば、 火曜日に撒かれたコンフェッティの量は 36.5トン もあったというけれど、2000年にヤンキーズがサブウェイ・シリーズに勝利して ワールド・チャンピオンになった際に撒かれた量は これより10トンも多い46.7トン。
また ニューヨーク最古のパレードとなる1945年8月、第二次世界大戦で日本に勝利したアメリカ軍の帰還パレードの際に撒かれた コンフェッティの量は、これとは比較にならない5,438トン。 1962年にジョン・グレンが始めて宇宙から帰還した際のパレードでも 3,474トンの紙吹雪が撒かれたというから、 これに比べれば、今回のジャイアンツのパレードの紙吹雪は約100分の1であったことになる。
でも今回のパレードは インターネット上でも観られるようになっていたので、仕事中でも コンピューターや携帯端末機で、パレードの様子がチェックできるようになっていたのは テクノロジーの進化。 とは言っても実際には、様々な理由をつけて パレードのために仕事を休んだニューヨーカーはかなり多かったようで、 火曜日のダウンタウンやミッドタウンは、昼間にも関わらずジャイアンツのジャージを着た酔っ払いで溢れていたのだった。

ところで、今回の祝勝パレードが ムードとしては盛り上がっていたにも関わらず 紙吹雪の量が少なかった 理由として、 ニューイングランド・ペイトリオッツのあまりの優勢が伝えられていたために、ジャイアンツが勝利した場合のパレードの計画は立っていても、 前もって真剣な準備が行われておらず、大量の紙吹雪を用意する時間が足りなかったことも指摘されていたのだった。 その逆に 準備が整い過ぎていたにも関わらず 敗れてしまったのがニュー・イングランド側。
ニューイングランド・ペイトリオッツが勝利していた場合、NFL史上初のスーパーボウルを含む19戦全勝、すなわち 「19−0」 という 記録を打ち立てることになっていたため、ペイトリオッツ側は スーパーボウルが行われる1週間前には 「19−0」というトレードマークの申請を済ませ、 その「19−0」のロゴ、「ニューイングランド・ペイトリオッツ、スーパーボウル・チャンピオン」の 文字をフィーチャーしたTシャツやジャージを 先走って大量に生産していたという。
通常であればワールドシリーズやスーパーボウルのチャンピオン・グッズは、先ずそれぞれのチームが勝利した場合に備えて、 両チームの選手や関係者に行き渡る分が先に生産され、勝利が確定してから徹夜で大量プリントを行って、 翌朝にはスポーツ店に出荷されるというのがスケジュール。 そして前もって用意されていた敗戦チーム側のチャンピオン・グッズは リーグ規定で全て処分されることになっており、 これを販売、配布することは禁じられている行為である。
しかしながら 今回の場合、ニューイングランド・ペイトリオッツが 前もって準備していた量があまりに多いこともあり、 これらの陽の目を見なかったチャンピオン・グッズは、NFLが特別に許可を与えて 全てニカラグアの貧しい人々に 寄付されることになったという。
ちなみにニカラグアの人々は、スーパーボウルに関する知識など全く無い上に、ニューイングランド・ペイトリオッツというチームの存在や、 「19−0」が何を意味するかも知らない一方で、一生の間に 真新しいTシャツに腕を通すチャンスがあればラッキーという 恵まれない状況。 なので NFL側は 人道的な理由からも これらを破棄して無駄にするよりも チャリティとして寄付することを特別に認めたという。
アメリカではチャリティに寄付した金額というのは、以前のこのコラムの ” チャリティのトリック ” でもご説明したとおり、税金から控除されるべきもの。 なので、ペイトリオッツ側は勝利を逃し、ビジネス・チャンスも逃してしまったけれど、この先走った マーケティング戦略で大損をすることは免れたようである。

さてパレードの翌日、水曜には1月末に自宅アパートで死亡しているところが発見されたヒース・レジャーの死因が正式に発表され、 当初の見込みどおり、睡眠薬、抗欝薬などの6種類の処方箋薬をミックスして摂取したための ドラッグ・オーバードース(過剰摂取)が 原因であったことが確認されている。 でもそれと同時に、フェデラル・ドラッグ・エンフォースメントがドラッグの入手先についての捜査に乗り出したことも伝えられており、 状況によっては薬を処方した医師が検挙される可能性も出てきているというから、死因は確定しても まだまだ彼の死については、謎の部分が多いのが実情である。

でも今週の後半に ヒース・レジャーよりも ドラッグ絡みで話題となっていたのは、以前このコーナーで触れたミッチェル・レポートで、 現役時代にステロイドを使用していた疑惑が浮上した元ヤンキーズのピッチャー、ロジャー・クレメンズ。
これまで一貫して疑惑を否定してきたクレメンズであるものの、彼にステロイドを注射したと証言する元トレーナー、 ブライアン・マクナミーが 今週に入ってから 「自分にステロイド疑惑の矛先が向けられた時に備えて保存してきた」という 注射器を含む物的証拠を提出。 加えて、金曜にはマクナミーが クレメンズの妻、デビー夫人にもHGH(ヒューマン・グロース・ホルモン)を 注射していたことがメディアで報じられ、 クレメンズを取り巻く状況は 更に不利になったという印象を与えている。
夫人にHGHが注射されたのは「スポーツ・イラストレーテッド」誌の2003年スイムウェア・イッシューのグラビア(写真右)撮影の前。 「スポーツ・イラストレーテッド」誌は毎年春先にスイムウェアの特集号を発行して高い売り上げと人気をを誇っているけれど、 この当時はスポーツ選手とその夫人の水着姿をフィーチャーしたグラビアのセクションを設けており、 それに登場していたのがクレメンズ夫妻。
確かにこの写真を見る限りでは、デビー夫人の腹部がボディビルダーのように筋肉質になっているけれど、 ブライアン・マクナミーによれば 夫人のビキニ姿がよりフィットして見えるようにと クレメンズの指示で彼が夫人にHGHを注射したという。 これに対してクレメンズ側の弁護士は、夫人がHGH注射を受けたところで、クレメンズがステロイドを使用したとは限らない と反論し、クレメンズ側もマクナミーがウソをついている証拠を握っているとして、全面対決の姿勢を見せている。

そのクレメンズ、マクナミー、そしてマクナミーからHGHホルモン注射を受けたことを既に認めている ヤンキーズのピッチャー、アンディ・ぺティットらが揃って下院で証言することになっているのが2月13日の水曜日。
今回のクレメンズの場合、無罪を主張しているだけに 「真実を告白して、ステロイド疑惑の解明に協力すれば、罪は問わない」といった 司法取引も無く、もしブライアン・マクナミー側の主張が真実だと認められた場合、偽証罪に問われる可能性が高くなっている。
そのステロイドに関する偽証で既に有罪になっているのが、シドニー・オリンピックの 陸上ゴールド・メダリスト、マリオン・ジョーンズ。 彼女は、ステロイド使用を自ら認めて 2007年10月に陸上界からの引退表明をしたけれど、 彼女を引退に追いやったのが バリー・ボンズも使用していたと言われ 、 ”デザイナー・ステロイド ”として知られる BALCO/バルコ のステロイド。 マリオン・ジョーンズは、このバルコ社のステロイド疑惑の際、 捜査官に対してステロイド使用に関するウソの証言をしたために偽証罪に問われ 今年1月にその有罪判決が確定している。 彼女の場合、事前に自ら有罪を認めていたため 最高で5年の禁固刑が科せられる偽証罪であるものの、 刑期は6ヶ月で、加えて200時間のコミュニティ・サービスが言い渡されている。

アメリカではマーサ・スチュアートの株式不正取引の時もそうであったけれど、ステロイドを摂取したり、 株の不正売買をしたという行為そのものではなく、 それについてウソの証言をしたという偽証罪で、実刑判決を受けるのは珍しくないこと。 それほどウソをつくというのはアメリカ社会では罰せられて当然の罪なのである。
日本でもウソの証言は非難されるべきことではあるけれど、それに対して きちんと法律によって 実刑判決が下されるところが アメリカ社会の厳しさなのである。





Catch of the Week No. 1 Feb. : 2 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Jan. : 1 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Jan. : 1 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Jan. : 1 月 第 2 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。