Feb. 2 〜 Feb. 8 2009




” Good-Bye, African American Express Card!! ”


今週も様々なニュースが報じられていたアメリカであるけれど、 先週末に北京オリンピックで8つのゴールド・メダルを獲得したマイケル・フェルプスがマリファナを吸っている写真が 大騒動を巻き起こしていたのに次いで、今週末はヤンキーズのアレックス・ロドリゲスが2003年の薬物テストで、 ”ポジティブ(陽性)”反応であったこと、すなわち彼がステロイドを使用していたことが大きく報じられ、 物議を呼んでいたのだった。
ファンの間では、アレックス・ロドリゲスに失望する声もあれば、「今更どのスポーツ選手がステロイドを使用していても驚かない」 といった冷めたリアクションも聞かれていたけれど、ニューヨーク・タイムズ紙ではそんな声に混じって 「スポーツ選手のドーピングと同じくらい熱心に ウォールストリートのバンカー達の不正について捜査するべきだ」という 読者からの指摘も掲載されていたのだった。

そのウォールストリートは先週、大赤字を計上しているにも関わらず 史上6番目に高いボーナスが支給され アメリカ国民からの大顰蹙を買っていたけれど、これを受けて今週、オバマ大統領が発表したのが TARFからのベイルアウト・マネーを受け取っているウォールストリートのバンク、及びその他の企業に対する 給与のガイドライン。
これによれば、エグゼクティブの年間の給与は50万ドルに制限されているけれど、株式による報酬は この対象外。株式は企業がTARFマネーを国に返済するか、もしくは企業の経営が安定するまで 売却が出来ないことになっている。 また企業はエグゼクティブの報酬を公開し、株主の承認を得なければならないのに加え、 オフィスの改装、プライベート・ジェットの使用、パーティー、コーポレート・リトリート(日本で言う慰安旅行)などの 出費についても株主に説明をして許可を求めることが義務付けられているのだった。
さらに、ゴールデン・パラシュートと呼ばれる、リタイアや退職に際してエグゼクティブが受け取る 報酬やベネフィットのパッケージにも制限が加えられていたけれど、 その数日後にはウォールストリートのバンクが ”リテンション・フィー” (従業員に仕事を維持してもらうための手当て)という 名目で 報酬を支給するプランを立てていることが報じられており、 この給与制限がどの程度 功を奏するかは未知数といった感じである。

でももし ウォールストリートのエグゼクティブが50万ドル、すなわち$ハーフミリオンの年収しか受け取れなかった場合、 これまでその4倍〜6倍を受け取っていた彼らが 生活を改めなければならないのは必至の状況。 
そもそも50万ドルの年収の税引き後の手取りは、約27万ドル(約2500万円)。 もちろん節税対策を講じることによって この金額が増えるのは言うまでも無いけれど、 彼らのそれまでの生活レベルを維持した場合、27万ドルがいかに小額であるかを報じたのが今日、2月8日付けのニューヨーク・タイムズの記事である。
これによれば、ウォール・ストリートのエグゼクティブ・ファミリーの年間出費を 夫婦と子供2人の4人家族で見積もった場合、 まず寝室が3つのコンドミニアムのローンの支払い、及び維持費だけで 月々1万6000ドル、年間では19万2000ドル(約1,760万円)。 子供をマンハッタンのプライベート・スクールに入れた場合、1人当たりの年間の学費は3万2000ドル(約294万円)。 さらにナ二ーと呼ばれる子供の世話役に年間4万5000ドル(約414万円)、車の運転手に年間10〜12万ドル(約919万円〜1,103万円)、 パーソナル・トレーナーに年間1万2000ドル(約110万円)をそれぞれ支払い、冬のヴァケーションのバジェットは最低1万6000ドル(約147万円)。 加えてハンプトンのサマー・ハウスのローンの支払いは年間に20〜24万ドル(約1,838〜2,206万円)になるという。
この他にも夫人のファッションやジュエリー、レストランでのダイニング・アウト、ホリデイ・シーズンのギフト、 スパやグルーミング&ヘア・カットの費用、ハウスキーパーの給与、 外食以外の食費や 電気、電話、ケーブルなどの月々の出費がこれに加わると、 彼らの生活はどんなに切りつめても 年間に80万ドル(約7,360万円)は必要とのこと。 その80万ドルを税引き後に受け取るには $1.6ミリオン(約1億4,720万円) の年収を得なければならないという。

でもウォールストリートのエグゼクティブの出費がこれだけ嵩む理由の1つは、ニューヨーク、それもマンハッタンの税金や物価の高さに よる所も大きいようで、テキサスでなら5万ドル(約460万円)の収入で可能なミドル・クラスの生活を マンハッタンで実現しようとした場合、その倍以上である12万3,322ドル(約1,134万円)の収入を要するという。
この事実を踏まえれば、ウォールストリートのような馬鹿げた給与を受け取らずして、 ニューヨークで暮らしている一般の人達の方が、遥かに大変な生活を強いられていることが容易に察することが出来るだけに、 「$ハーフ・ミリオンの給与じゃ 暮らして行けない」 というウォール・ストリートのエグゼクティブの言い分は 全く別世界のたわごとのように聞こえてしまうもの。
その一方で、ウォールストリートのエグゼクティブ達は上層部になればなるほど、 一般の人々のファイナンシャル・クライシスの怒りの矛先が自分達に向けられていることが 全く理解出来ないのだそうで それほどまでに 彼らは隔離された別世界に暮らしていることが メディアで指摘されているのだった。
でも同じウォールストリートに勤めていても、エグゼクティブより遥かに下に位置する人々は、 昨今の ”ウォールストリート=国民の敵” といったフォーミュラを非常にストレスに感じていることが伝えられており、 人に 仕事を訊かれても 答えられなかったり、もしくは自分が勤める金融機関の名前を言った途端に 相手の態度が変わってしまう という思いをしているという。
また、ファイナンス関係の仕事をするボーイフレンドに持つ女性達も、 ファイナンシャル・クライシスに突入してからというもの、かなりの苦労を強いられているとのことで、 ボーイフレンドの精神状態が安定せず、セックス・ライフも疎かになっただけでなく、 高級レストランでのデートや、ボーイフレンドのクレジット・カードを使ったショッピングが 激減しているという。昨年11月にはインターネット上に こうした女性達のサポート・グループが誕生しているとのことで、 そこには、「ダウが下がった日はデートをキャンセルして、女友達と出掛けるか さもなくはランドリーでもするように 」 といったアドバイスが 書き込まれているという。

さて、今週には 1月のアメリカの雇用統計も発表されているけれど、それによれば1月に職を失った人々の数は、 1974年以来 最多と言われる59万8000人。 アメリカの失業率も12月時点の7.2%から 7.6%にアップしているのだった。
でも1月の失業率が特筆して多いかと言えば、決してそのようなことは無く、2008年11月にも 59万7000人分の職が失われており、 翌月12月にも57万7000人分の仕事が失われているのだった。
今回のリセッションがスタートしたと言われる2007年12月からの失業者の総数は360万人に達していることが伝えられているけれど、 これだけレイオフが連発されれば、それだけ増えるのが失業手当ての支払い。 ニューヨーク州では、失業手当の支払いのために毎週$90ミリオン(約83億円)を 国の失業手当基金から借り入れていることが 伝えられているのだった。
そんなアメリカは今、個人と企業の税金の申告を控えているけれど、私も昨今、週末を返上して行っているのが税金申告の準備。 その最中に気づいたのが知らない間に 会社が支払っている失業保険料が値上がっていたことであるけれど、 私のようなスモール・ビジネス・オーナーは、日頃の業務に追われているのが常なので、タックスのファイリングを控えて 全ての収支を入力する作業でもしない限りは、こうした知らない間に差し引かれているタックスや保険料の値上がりには気づかないものである。

こんな ご時世だと、確実にしなくても良くなるのが余計な見栄を張ることで、 来週に控えているヴァレンタイン・デイは、高級なレストランでのディナーや、 高価なジュエリーなどのギフトの代わりに、カスタム・メイドのテディ・ベアや、 高級チョコレート、ランジェリーといった安価なプレゼントで、自宅でシャンパンで乾杯というような リセッション・バージョンのヴァレンタインが見込まれているのだった。
欧米では日本とは異なり、ヴァレンタインは男性が女性にギフトや花束を贈るものであるから、 リセッションはヴァレンタインを迎える男性達にとっては 有難いもののようである。

こうして見栄を張らなくても良くなる一方で、仕事が不安定になったり、収入が低下する状況が続いた場合、 徐々に減っていくと見込まれているのが アメリカン・エクスプレスのブラック・カード。
既にウォール・ストリートのバンカーの一部が更新時に同カードをギブアップすると言われているけれど、 そのウォール・ストリートでの 同カードのジョークまがいのニックネームが ”アフリカン・アメリカン・エクスプレス” ( ”アフリカン・アメリカン” とは黒人層=ブラックのこと)。 カードの正式名称は Centurian Card / センチュリアン・カードで、タイタニアムで出来ていることから ” タイタニアム・カード ”と呼ぶ人も居るけれど、これは死語になりつつある名称である。
1999年に登場した時点では、年会費が1000ドルだった同カードであるけれど、 今やその額は3000ドルにアップ。しかも5000ドルのイニシエーション・フィーがチャージされるので、初年度は このカードを得るだけのために74万円も使うことになる。(そのワンランク下のプラチナ・カードは現在の 年会費が395ドル、 その下のゴールド・カードは140ドルになっている。)

同カードはプラチナ・カードの所有者に対してアメリカン・エクスプレス側からのインヴィテーションがあった場合にのみ 与えられてきたもので、そのインヴィテーションは年間2500万円以上をアメックスで支払った場合、 もしくは500〜1000万円の支払いを5〜10年連続で行った場合に与えられるもの。 深刻なリセッションに突入するまでは、そのインヴィテーションをリクエストする人々が ウェイティング・リストに名を連らねていたのだった。
ウォール・ストリートのバンカーの間では、長くフェラーリと共に ”チック・マグネット(若い女性を惹きつけるもの)” と 言われてきた ”アフリカン・アメリカン・エクスプレス” であるけれど、 昨今では 見栄を張りきれなくなったバンカー達が、マスター・カードを使うことを ”プライスレス!” と言って 自分達を慰めているという。

実は 私の友人でも この ”アフリカン・アメリカン・エクスプレス” を持っている人が居るけれど、 このカードは予約を取るのが不可能な人気レストランのテーブルを確保する時には非常に役に立つものの、 彼自身はこれを 人前に出すのをはばかるそうで、「いつも裏にして ウェイターや販売員に渡す」 と言っていたのだった。
彼のように同カードを裏にして出す人は 決して珍しくないようで、 逆に 水戸黄門の印籠のように 「どうだ!」 と言わんばかりに出す方が みっともないと言われるのが このカード。
これもヤッピー・ギルト(リッチなヤッピーが感じる罪悪感)なのかもしれないけれど、 お金と常識を一緒に持ち合わせて居る人であれば、 経済がこんな時期であろうとなかろうと、カードの種類を見せびらかすのはあまりに軽薄な行為と言えるのである。





Catch of the Week No. 1 Feb. : 2 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Jan. : 1 月 第 4週


Catch of the Week No. 3 Jan. : 1 月 第 3週


Catch of the Week No. 2 Jan. : 1 月 第 2週







執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。