Feb. 6 〜 Feb. 12, 2012

” Election, Religion and Bullying ”

今週のニューヨークは、週明けはニューヨーク・ジャイアンツのスーパーボウルの勝利に沸きに沸いていたけれど、 週半ばからそれに取って替わり始めたスポーツ関連のニュースが、NBA ニューヨーク・ニックスのタイワニーズ・アメリカン・プレーヤー、 ジェレミー・リン(24歳)の大活躍ぶり。
2月4日の対ニュージャージー・ネッツ戦で25得点をスコアして以来、 ニックスを連勝に導き、今週金曜の対レイカーズ戦では38得点を記録したジェレミー・リンであるけれど、 彼は12月にニックスに加わったばかりで、つい最近までは IDを見せても マディソン・スクエア・ガーデンのセキュリティに、ニックスのプレーヤーだと信じてもらえなかったとのこと。
ニックスのチーム・ショップでも 彼のユニフォームは 商品化さえされていなかったけれど、 彼の突然の大センセーションを受けて 急遽発注された背番号17番、「Lin」 とネームが入ったニックスのユニフォームは、 今週半ばにやっとショップにお目見え。ジャイアンツのスーパーボウル・チャンピオンのTシャツ同様、メガヒットになっていることが伝えられているのだった。
これを受けて、ニックスの試合を観戦するアジア人が激増しただけでなく、中国を始めとするアジア諸国でニックスのゲームが放映されるようになり、 メディアでは 「Lin-credible」(”Incredible=信じられない”とLinをくっつけた造語)、「Linvincible」(”Invincible=無敵の”とLinをくっつけた造語)など、 彼のラストネームを様々な単語とミックスしたヘッドラインが登場しているのだった。

ジェレミー・リンの突然のスターダムは、何年も低迷が続いていたニューヨーク・ニックスにとって明るい話題であるだけでなく、 ニューヨークのチャーニーズ・コミュニティ、アジアン・コミュニティにとっても歓迎すべきニュース。
そもそも、ニューヨークのチャイニーズ&アジアン・コミュニティは、 2011年秋にアフガニスタンで同僚のアメリカ兵からの人種差別のいじめを苦に 自殺したと報じられている中国系アメリカ人兵士、ダニー・チャンがニューヨークのチャイナタウン出身であったことから、 アメリカ軍内におけるアジア人差別に対し、猛反発を見せていたのは大きく報じられていたこと。
これを受けてアメリカ軍は ダニー・チェンの死因を捜査すると同時に、2011年12月末に 彼にいじめの行為を行なった同僚、上層部、計8人の 身柄をアフガニスタンで拘束したけれど、ダニー・チェンが 中国系であるというだけの理由で、 アメリカ軍内で毎日のように精神的、肉体的ないじめにあっていた報道は、 特にチャーニーズ・コミュニティのプライドを傷つけると同時に、大変な怒りを買っていたのだった。

なので、ニューヨークのアジアン・コミュニティにとって、ジェレミー・リンの存在は 待ちに待っていた彼らのヒーローというイメージであるけれど、 通常 いじめが問題になる学校という舞台では、アメリカ軍とは異なり、人種がいじめの原因になるケースは14%。 貧困をからかわれるケース(13%)とほぼ同じ程度。
それよりも いじめの圧倒的な理由となるのは肥満など、ルックスや体型が最も多く39%。 2番目が ゲイやレズビアンである、もしくはゲイやレズビアンに見えるという理由で33%。 それに次いで 男性が「男らしくない」、女性が「女らしくない」という性別の一般概念に当てはまらないこと(28%)がいじめの原因になっていると伝えられているのだった。



ところで、今週はゲイ・ピープルにとって明るいニュースが2つあり、その1つは2月7日に サンフランシスコ連邦控訴裁判所(連邦高裁)が、 カリフォルニア州での同性愛結婚を禁止する修正案、プロポジション8に対して 合衆国憲法に違反するとの判決を下したこと。
カリフォルニア州では2008年6月に 同性愛者の婚姻が許可されたものの、同年11月に これを覆す プロポジション8が 州民投票で可決。 これに対して同性愛結婚の支持者が、これを違憲として連邦地裁に提訴していたもので、それが認められたのが今週、火曜日なのだった。
今後、同性愛者の婚姻に反対する勢力が、連邦最高裁に上告した場合は、最高裁の判決が出るまでは、カリフォルニア州における 同性愛結婚は認められないままになるけれど、 もし上告された場合、最高裁が審議を行なう可能性が 非常に高いのが実情。 これまでは、各州ごとに定められてきた同性愛者の婚姻であるけれど、最高裁が判決を下した場合は、それが全米50州に効力を及ぼすことになるのだった。

ゲイ・ピープルにとってのもう1つの明るいニュースと言えるのが、アメリカの大衆小売店、JCペニーが保守派団体のボイコットを恐れず、 レズビアンのコメディアン兼トークショー・ホスト、エレン・デジェネレス(写真上右側)をスポークスパーソンとして起用する決定を下したこと。
JCペニーが、エレン・デジェネレスをスポークスパーソンに起用することを発表した途端に、フェイスブック上で JCペニーに対するボイコットを呼びかけたのが 保守派団体、”ワン・ミリオン・マム”。 「JCペニーはアメリカの一般的な家族がショッピングをするストアであり、そのストアが レズビアンという宗教モラルに反するスポークスパーソンを雇うべきではない」 というのがその言い分なのだった。
でもこれに対してはネット上で、エレン側を支持する一般の声が圧倒的に多く、保守派で知られるニュース・キャスターまでもが、 ワン・ミリオン・マムの行為は「魔女狩り」だと非難。 JCペニー側も、エレン・デジェネレスの起用を止めるつもりはないことを宣言し、保守派によるゲイ・バッシングが見事に失敗したケースとなったのだった。


さて、先週のこのコラムでもお伝えした通り、 先週のアメリカではフェイスブックの株式公開が大きな話題になっていたけれど、 今週はそのフォーカスが、「果たしてフェイスブックの株式は良い投資であるか?」に移っていたのだった。
これに対する多くのファイナンス・アドバイザーの意見は、「投資というのは、株を安く買って、高く売ることであり、高く買って持ち続けることではない」として、 フェイスブックが一般投資家にとってはそれほど魅力的な投資対象ではないというもの。 また、今週はIPO(株式公開=Initial Public Offering)を果たして間もないグルーポンが、第4四半期に赤字を計上し、その後、同社株式が1日で16%も下落していただけに、 IPO株は一般投資家には難しいことを印象付けていたのだった。

ところで、フェイスブックの株式公開のニュースに際して、毎日4億8300万人のアクティブ・ユーザーがフェイスブックにアクセスし、 月間のアクティブ・ユーザー数は8億4500万人に上るというデータが報じられたけれど、 「果たしてそんなに多くの人々が 実際にフェイスブックにアクセスしているのか?」は、メディアから一般の人々までもが首を傾げた疑問。
その疑問を解き明かすような報道があったのが火曜日のニューヨーク・タイムズ紙のビジネス・セクションで、 それによれば、フェイスブックは ”アクティブ・ユーザー”という言葉について独得の定義付けをしているのだった。 通常 ”アクティブ・ユーザー”といえば、誰もが思い浮かべるのは フェイスブックにアクセスして、友人のアップデイトを読んで フィードバックをしたり、自分のプロファイルをアップデイトしている人々のこと。
ところが、フェイスブックの定義づけによれば、フェイスブックのサイトにアクセスしなくても、 全く別のサイトの記事や写真、ビデオに付いている フェイスブックの 「Like」ボタン (日本語の「いいね」のボタン)をクリックしただけで ”アクティブ・ユーザー”にカウントされてしまうとのこと。
例えば、先週日曜はスーパーサンデーで、NFLのサイトには1日に何千万というアクセスがあったけれど、そこでビデオを見たり、 記事を読んだりして 「Like」ボタンをクリックすれば、誰もがフェイスブックのアクティブ・ユーザーになってしまうのだった。
さらに、私はよく写真を検索していて、知らない間にフェイスブックのページにアクセスしてしまう場合があるけれど、 そんなケースもアクティブ・ユーザーとカウントされているようで、私のようにフェイスブックにアカウントを持っていなくても、月間8億4500万人のユーザー数に 含められているようなのだった。

でも株式公開のニュースは、大人たちを羨ましがらせた反面、ティーンエイジャーなど若い世代のユーザーには反感を買っているようで、 今日付けのニューヨーク・ポスト紙には、過去3〜4年の間、フェイスブックにドップリ浸かっていたティーンエイジャー達が、 フェイスブック離れをし始めていること、その理由の1つに 自分達の情報を広告主に売って利益を上げていることに反発していることが記事になっていたのだった。
ティーンエイジャーというと、後先のことを考えずにソーシャル・メディアを使っているというイメージがあるけれど、 現在のアメリカのティーンエイジャーは、データを見る限りでは親の世代より遥かにまともな世代。 飲酒、喫煙が親の世代に比べて激減していることは指摘されて久しいけれど、 ティーンエイジャーの妊娠にしても、過去22年で42%もダウン。ティーンの中絶も、ピークに達した1988年から59%ダウンし、100人中僅か1.78人という中絶率になっていることが レポートされているのだった。



ところで、今週のアメリカでは避妊問題も大きな論争を巻き起こしていて、それは 今週2月10日に、オバマ大統領が 避妊に反対する宗教団体に対して、避妊を医療保険の対象にすることを義務付けないと発表したため。
当初の案では、全ての雇用主に対して 避妊サービスを医療保険の対象に含めることを義務付けていたオバマ政権であるけれど、 これに対しては、当然のことながら宗教団体からの反発を買っていたのだった。
でも今年は 大統領選挙の年ということもあり、オバマ大統領が打ち出した妥協案が、避妊に反対する宗教団体に対して 避妊を医療保険の対象から外すことを認め、 その替わりに、宗教団体で働く女性は 雇用主からではなく 保険会社を通じて 無料の避妊のサービスを受けるというもの。 これによって宗教団体がそのポリシーを変える事なく、そこで働く女性が避妊のサービスを受けられるようにしたのがこのプランであったけれど、 カソリックを始めとする宗教団体は、どういう経路で支払われようと、女性が避妊サービスを無料で受けることを不服として 猛反発を見せているのだった。
一部では、この妥協案が 「宗教団体を差別している」という声も聞かれているけれど、 政治評論家の間では、これがオバマ政権による 「選挙で重要な鍵を握る女性票の獲得」を狙った動きだと見られているのだった。

大統領選挙の年は、同性愛者の婚姻、中絶・避妊問題などが 投票の行方を左右するだけに、通常より大きく取り沙汰される傾向が強いけれど、 これらは要するに宗教観の問題。アメリカは合衆国憲法で宗教の自由を認めていながらも、 キリスト教の教えに沿って婚姻、避妊、中絶 等についての法律が定められるべきと考える人々が、共和党という政党を支持することにより、 政治、立法に 強く宗教観を持ち込んでいるという 矛盾した側面を持つ社会。
そんなアメリカにおいては、今やレイシスト=人種差別主義者というのは、非常に憎まれるべき存在であるけれど、 ゲイ差別については、宗教上の観点から 「ゲイは モラルに反する」、「神の教えに背く存在」という ”真っ当な差別理由” が存在しており、 その婚姻を認めない というような、人権の一部を拘束する行為が 一部の人々にとっては宗教的に正しい行為と見なされているのだった。

なので、こうした実情を考えるにつけ、学校で人種によるいじめが減っている一方で、 ゲイ学生に対するいじめが非常に多いのは、大人社会の一部が ゲイに対する差別を肯定していることが、少なからず影響しているように思えるのだった。
ゲイに対する いじめ問題については、 レディ・ガガや ゲイであることをオープンにしているハリウッド・セレブリティ等が、 積極的に活動しているけれど、大人達の間における ゲイに対する宗教上の差別意識が変わらない限り、 その子供がゲイを蔑視、もしくは差別するようになるのは、どうしても避けられないようにに見受けられるのだった。
その意味で、ゲイに対するいじめというのは、肥満などをからかう いじめよりも ずっと根深く、難しいケースだというのが私の意見なのだった。


最後に、今週末最大のニュースとなったのが、ホイットニー・ヒューストン死去の報道であったけれど、 私はデビューから初期の彼女のファンで、初期の楽曲はアイポッドに何曲も入っているほど。
未だ日本に住んでいた頃には、日本武道館で行なわれた彼女のコンサートに行って、 全身鳥肌が立つような 素晴らしい歌声を聴いた記憶が鮮明に残っているのだった。 ちなみに、私がそんな思いで肉声を聴いたアーティストは、ホイットニー・ヒューストン以外では、チャカ・カーンとルチアーノ・パバロッティだけ。
今日、2月12日にNBCが放映した追悼の特番の中では、彼女が母親でゴスペル・シンガーのシシー・ヒューストンとアカペラで歌っている 未公開テープを流していたけれど、 思わず聞き入ってしまう圧倒的な歌唱力で、「セリーヌ・ディオンやマライア・キャリーより凄い!」というのが私の偽らざる感想。
そんな逸材が 誤った結婚、ドラッグ、アルコールで人生を台無しにしてしまったのは本当に残念な限りだと思うのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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