Feb. 14 〜 Feb. 20 2005




The Gate と NYC 2012



日本でも報道されている通り、2月12日から27日までの16日間、セントラル・パークで行われているのが、 クリスト&ジャンヌ・クロードのアート・イベント、「ザ・ゲート」である。
パーク内の23マイルに渡って、サフラン色のカーテンを付けたゲートが7500設置されるというこのイベントは、$21ミリオン (約22億円) を投じ、 構想に26年を掛けたといわれるプロジェクトで、一番最初にこのプロジェクトの提案がニューヨーク市に対して行われたのは、 エド・コッチ市長時代の1980年代であったと言われている。 でも、当時はパーク内にゲートを設置するために3000以上の深い穴を開けなければならず、公園の土地が痛むことを理由に 却下されたのだそうで、なるほどよく見てみると、今回実現したゲートは、支柱の根元を支える金属製のベースが取り付けられており、 パークに穴を開けることなく、ゲートが設置され、構想期間におけるテクニカル面の進化が窺えるものとなっているのである。

さて、このゲートに対するニューヨーカーのリアクションはと言えば、賛否両論で、これは賛成派と反対派に分かれているというよりも、 賛と否の双方の意見を持つニューヨーカーが多いというのが、私の個人的な印象である。
セントラル・パークで、最初に「ザ・ゲート」を目にした人々が、総じて抱く印象は 「スペクタキュラー(壮観)!」、「エキサイティング!」 というものであるけれど、毎朝ここをジョギングする人々は「3日目で飽きた」などと語っているし、犬の散歩でパークを毎日訪れている ニューヨーカーは 「(ザ・ゲートが始まってから)平日なのにパークに人が多過ぎる」と、憩いの空間を奪われた思いをしていたりする。 それもそのはずで、2月12日土曜日に「ザ・ゲート」がスタートして以来、最初の5日間でセントラル・パークを 訪れた人々は約100万人と言われており、これが通常のパークのトラフィックを大きく上回っているのは言うまでも無いことである。
また、私も昨日の土曜日、友人とアッパー・イーストサイドのカフェでブランチをしようとしたところ、 セントラル・パークに近いカフェやレストランは、かつて無いほどの大混雑で、メイトルディーに「45分待ち」と告げられた来店客が、 「ファック・ザ・ゲート!」と苛立ちながら語った言葉に、待たされていた人達から笑いと歓声が起こっていたような状態だった。 実際、セントラル・パークに近いアッパー・イースト&ウエスト・サイドのレストランやカフェ、加えてパーク内のホットドッグ・カート等にしてみれば、 「ザ・ゲート」が始まってからというもの、連日の大繁盛で笑いが止まらない訳で、こうしたビジネスを営む人々にとって 「ザ・ゲート」は、紛れも無く ”幸福の門”となっているのである。
セントラル・パークを見下ろしながら食事が出来る マンダリン・オリエンタル・ホテル内のレストラン、アジアテにしても ランチ・タイムは連日予約で一杯の盛況を見せていることが伝えられているし、同ホテルが1泊1,050ドル (約11万円)からオファーしている 「ザ・ゲート・パッケージ」 (セントラル・パーク・ビューの客室に、双眼鏡、ザ・ゲートの写真集、朝食などがセットされたもの) も満室状態。 セントラル・パーク内を走る30分で 35ドルの馬車も、馬達が名実共に「馬車馬のように働かされる」ほどの人気を博しているという。
だから、「ザ・ゲート」を好む、好まざるに関わらず、その顕著な経済効果については 誰もが認めるところなのである。

では、アート界ではこの「ザ・ゲート」をどう捉えているのかと言えば、 有名建築家、リチャード・マイヤーは手放しで絶賛していたものの、 アート評論家の間では、「こんな四角い鉄柱をアート呼ばわりしては、ミケランジェロやレオナルド・ダヴィンチに申し訳ない」、 「ザ・ゲートは、アイデアであり、コンセプトであるけれど、決してアートではない」といった批判が聞かれていたりする。
その一方で、広告&マーケティング業界では、この16日間で$80ミリオン (約84億円)の経済効果をニューヨーク市にもたらすと見積もられている イベントについて、 「何故スポンサーをつけないんだ?」と疑問視する声が聞かれているという。 クリスト&ジャンヌ・クロードは、「自分達の思い通りにプロジェクトを行いたい」ことを理由に、 スポンサーシップや 寄付を一切断ることで知られるアーティストであるけれど、 今ではアート・イベントやエキジビジョンに企業スポンサーが数億円の資金を提供するといったことは ごく当たり前に行われている訳で、 イベントの主旨に沿ってスポンサー選びをすれば、アーティストが表現の自由を束縛されるようなことが起こらないのは 折込済みの事実なのである。
特に、「ザ・ゲート」の場合、これだけのパブリシティを獲得し、世界中からの旅行者を集めるほどのイベントなのであるから、 21億円という開催費用くらいは、企業スポンサーから簡単に集められるというのが、広告&マーケティング業界の人々の見解なのである。

では、今回の「ザ・ゲート」の費用が誰から支払われているかと言えば、クリスト&ジャンヌ・クロードというアーティスト本人達で、 彼らはパーク内で販売されている「ザ・ゲート」 Tシャツや、スウェット・シャツの売り上げも受け取らず、 自らのアートワークの売り上げから、このプロジクトの資金を支払っているという。
このアート・ワークとは、具体的には「ザ・ゲート」のスケッチや、コンセプト・ドローイングなど 数百点で、 これらはコレクターズ・アイテムとして 1点 9万ドル〜80万ドル(約950万円〜8400万円)で、アート・ディーラーやギャラリーに販売されたことが クリスト&ジャンヌ・クロードの弁護士から説明されている。
アート業界のインサイダーによれば、今回の「ザ・ゲート」の世界中からのパブリシティのお陰で、 これらのアート・ワークの価格は、既に跳ね上がっているとのことで、 アーティスト側にしてみれば、広告&マーケティングの専門家が何と言おうと、 21億円を支払ってまで 「ザ・ゲート」というプロジェクトを遂行するだけの見返りは十分にあると言えるものなのである。

ところで、この「ザ・ゲート」の期間中に合わせて、ニューヨークを訪れているのが、IOC(インターナショナル・オリンピック委員会)の 視察団である。 ご存知のように ニューヨークは、2012年に行われるオリンピックの誘致を巡って、 最有力候補と言われるパリ、それに次ぐロンドン、マドリッドを追い掛ける立場で、 今回の「ザ・ゲート」が行われている最中に IOC視察団を招待した意図は、 ニューヨーク市が、スポーツだけでなく、アート&カルチャーの中心地であることを示し、 「ザ・ゲート」のために世界中からやって来た旅行者に対する、街のホストぶりを見せるためと言われている。
しかし、ニューヨークがオリンピックを誘致するためには、市内にスタジアムを建設する必要があり、 それが昨年から大きな物議を醸している「ウエストサイド・スタジアム」と呼ばれるものである。 マンハッタンのローワー・ウエストサイドに建設が予定されている このスタジアムは、フットボールのニューヨーク・ジェッツの ホーム・スタジアムになると同時に、コンベンション・センターやレストランなどを含む商業コンプレックスになる予定で、 市側は、スタジアムの建設によってオリンピックの誘致と共に、失業問題を解決するに十分な仕事が生み出されることを 強調しているけれど、ニューヨーク市民はその建設費の大半が税金でまかなわれることから、 スタジアム建設に反対する声が多く、TVを見ていても、スタジアム建設賛成派の広告と反対派の広告が、 交互に放映されるような状態である。
ニューヨーク・タイムズが行った電話調査によれば、ニューヨーカーのうち2012年のオリンピックがニューヨークで開催されるべきと考えているのは、 67%で、反対派は27%。これに対してウエストサイド・スタジアムに関しては、「建設すべき」と答えた人々が39%、 「建設に反対」と答えたのが53%で、 ニューヨーカーは、ウエストサイド・スタジアムが無ければ、オリンピック誘致が難しいことを知りながらも、 「オリンピックには来て欲しいけれど、スタジアムは建設して欲しくない」という、賛否が入り混じった意見を持っていることが明らかになっている。
それだけに、オリンピック視察団を迎えるニューヨーカーは、「ザ・ゲート」に対するリアクション同様、 歓迎ムード 一色ではない訳であるけれど、 私がこのコラムを書いている20日(日曜)から4日間のスケジュールで滞在する視察団は、 セントラル・パークの「ザ・ゲート」が窓から見渡せる プラザ・ホテルに滞在し、レインボー・ルームでのカクテル・レセプション、 ジャズ・アット・リンカーン・センターのコンサートを含む、総額$3ミリオン(約3.2億円)の最高級のもてなしを受けることになっている 。

ところで、クリストの「ザ・ゲート」と、オリンピックというのは、私から見ればいくつかの共通点があるイベントで、 共にブルームバーグ市長が誘致に非常に熱心である(あった)こと、多数のボランティアに支えられているイベントであること、 そして開催期間が「ザ・ゲート」は16日間、オリンピックは17日間とほぼ同じくらいであることで、 世界中から旅行者が訪れ、経済効果をもたらす点も同様である。さらに言うならば、オリンピック誘致のポスターや バナー広告に見られる、NYC 2012の文字は、「ザ・ゲート」がスタートした2月12日とダブるものがあり、 昨今「2012」という数字にこだわるNY市が、意図的にこの日を「ザ・ゲート」のオープニングに選んだとも取れるものだったりする。
でも私が個人的にニューヨークのオリンピック誘致が、クリストの「ザ・ゲート」に学ぶべきだと思うのは、 時間を掛けて、反対意見に対処しながら、開催への道を模索するべきという点である。 私が記憶している限り、ニューヨークが2012年のオリンピック候補地として名乗りを上げたのは、 9/11のテロの直後のことで、テロのショックに打ちのめされていた当時のニューヨーカーにとって、 「オリンピックの開催」というのは、その経済効果も含めて、明るい希望に満ちたニュースに聞こえていたものだった。
しかしながら、ウエストサイド・スタジアムの建設や、選手村施設の建設以前に、ニューヨークはワールド・トレード・センター跡地の復興という 遠大なプロジェクトを抱えている訳で、市の悪化している財政を考慮すれば尚のこと、2012年のオリンピック誘致は 時期尚早という感が否めないのである。またオリンピックが、開催地に多額の借金を残していく可能性があることは、 前回のアテネが身をもって示してくれた訳で、もしニューヨークがオリンピックのホストを狙うのであれば、 今回は ずっと以前から周到に準備を重ねてきたパリに譲って (という以前に、パリが選ばれる可能性が非情に濃厚であるが・・・)、 2016年に焦点を合わせるべきだというのが私の考えである。
そもそもアメリカは、1996年にアトランタ大会、2002年に冬季のソルトレイク大会をホストしている訳で、 そんなにアメリカばかりが頻繁にオリンピックをホストする必要はないように感じられるのである。

いずれにしても、来週、私がオスカーを見ながらこのコラムを書いている頃には、「ザ・ゲート」は終了に向かっている訳であるけれど、 この「ザ・ゲート」のテーマ・カラーである「サフラン色」というのは、 実際には オレンジで、オレンジとは目立つと同時に、気分を高揚させる反面、 人間が見飽きる色でもあり、ファスト・フード店やダイナーの内装&イメージ・カラーに適した色と言われるものである。 これは、「目立つことで客を引き寄せ、気分が高揚することによって食欲が増すけれど、見飽きてしまうから客が長居をせず、 テーブルが効率良く回転する」からで、同じカラー効果は「ザ・ゲート」にも現れていたようである。
すなわち、最初は目立つし、エキサイティングなイベントに感じられるけれど、だんだんと飽きてくるというもので、 当初、一部には「ザ・ゲート」が僅か16日で終了することを 惜しむ声が聞かれていたけれど、 人々のリアクションを見る限り、私はこれが良い潮時ではないか思う。





Catch of the Week No.2 Feb. : 2月 第2週


Catch of the Week No.1 Feb. : 2月 第1週


Catch of the Week No.5 Jan. : 1月 第5週


Catch of the Week No.4 Jan. : 1月 第4週





執者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。