Feb. 13 〜 Feb. 19
ヴァレンタインとオリンピックが盛り上がらない理由
今週火曜日が、ヴァレンタイン・デイであったのはご承知の通りであるけれど、
女性が義理チョコを男性にプレゼントする日本のヴァレンタインは世界のスタンダードからは全く外れたもので、
通常ヴァレンタイン・デイとは男性が女性にプレゼントを贈る日。また、この日にプロポーズする男性が非常に多いのも通例で、
この日の直前に大きなビジネスが見込まれるのはジュエリー・ストア、ワイン・ショップ、有名チョコレート店、フラワー・ショップ、
そしてランジェリー・ショップである。
でも、今年のニューヨークでは ヴァレンタイン直前の週末の記録破りの大雪で、買い物客の足が途絶えた上に、
フラワー・ショップに関しては、毎年ヴァレンタイン需要で価格が日頃の3〜5倍に跳ね上がる
真っ赤なバラのデリバリーが 雪のために届かず、数億円の損失が出たことが伝えられている。
この「雪のためにバラが手に入らない」という言い訳のため、今年のヴァレンタイン・デイのバラの花束の価格は容赦無しに高いもので、
普段はデリで8ドルで売られているようなバラ 1ダースの花束が90ドル以上の値段をつけているような状態。
しかもヴァレンタイン当日はドレスアップしてディナーに出掛けようとしても、足元はスノーブーツという ロマンティックにはかけ離れた出で立ちになるため、
「高いワインやシャンペンで乾杯!」というムードは盛り上がらなかったようであるし、
郊外居住者の多くが、マンハッタンのレストランでのディナーの予約をキャンセルしており、
今年のヴァレンタイン・ビジネスは気象観測史上最悪の大雪に横槍を入れられてしまった感じであった。
またヴァレンタイン同様、今ひとつ盛り上がらなかったのはオリンピック開会式当日に終了したニューヨークのファッション・ウィークであったけれど、
こちらは、一般メディアのレポーター達が 皆トリノ入りしてしまって、メディア・フォーカスをオリンピックに奪われてしまったため。
しかしながら、そのオリンピックも始まってみれば、その視聴率は芳しくなく、先週日曜は、かろうじて「デスパレート・ハウスワイブス(邦題「デスパレートな妻達」)
の視聴率を僅かに上回ったものの、その後に放映された「グレイズ・アナトミー」には負けてしまったし、
今週火曜日の放映では、同じ時間帯に放映されていた人気No.1の リアリティTV、 「アメリカン・アイドル」が、いつものように3110万人の視聴者を獲得したのに対して、
オリンピックはその半分以下の1540万人に止まっており、多くのアメリカ人がオリンピック開催期間中も、日頃見ている番組にチャンネルを合わせるという
これまでには見られなかった現象が起こっているのである。
こんなことが起こる理由の1つは、今回のオリンピックで期待されたスター・アスリートがことごとくメダルを逃しているためで、
日本もオリンピック不振が深刻ではあるけれど、送り込んでいる選手の数や、メダルの期待度、それを見込んでスポンサーが投入した資金などを
考慮すればアメリカの不振の方が遥かに深刻と言えるものである。
男子ホッケーは土曜に2−1でスロヴァキアにまさかの敗退。女子ホッケーも
それまで26回の対戦で負け無しだったスウェーデンに対して、オリンピックの準決勝という晴れの舞台で初黒星を献上することになってしまった。
この他、ナイキが大金を投じてCMやウェブサイトを作成したワールド・チャンピオン・スキーヤー、ボディ・ミラーは参加5種目中、
3つが終わった時点でその成績は、5位、ポールをまたいで通過したための失格、そして土曜に行われたスーパーGでは、
スピードの出し過ぎで バランスを崩し、レースを終えることも出来ないという惨憺たる結果。
また女子スノーボードクロスでゴールド・メダルが期待されていたリンジー・ジェイコべリスは、後続を30メートル以上離す独走状態にありながら、
最後のジャンプの際にボードを掴みながら身体をツイストするという 不必要なトリックを加えたために着地に失敗。
本人を含む誰もが 彼女のゴールド・メダルを確信した時に起こった、悪夢のような転倒を見せた。
起き上がって走行を続け、シルバー・メダルを獲得した彼女であるものの、「シルバー・メダル・ウィナー」というよりは、
「ゴールド・メダル・ルーザー」という落胆ぶりで、彼女のスポンサーであり、既に 出場を辞退したミシェル・クワンのCMを制作して
貧乏クジを引いた感がある VISAカードを 落胆させることになった。
また、ショート・トラックのスター、アポロ・オーノも土曜に行われた1000mで かろうじてブロンズ・メダルを
獲得したものの、その成績は期待外れで、アメリカでオリンピックを放映するNBCは、すっかりそのスターを失っている状態なのである。
でも、今回のオリンピックが低視聴率である最大の理由は、アメリカ選手の不振よりも
他局のプログラミングの変化によるものと言われている。
これまでは、オリンピック期間と言えば、他局はオリンピックに視聴率を取られることを考慮して、本来のプログラムを温存し、
再放送を当てるのが常識となっており、視聴者は、既に見た番組のリピートよりも オリンピックにチャンネルを合わせて来た訳である。
ところが今回のトリノ大会については、一部を除く他局が再放送ではなく、レギュラー・プログラムを放映しており、
視聴者は、オリンピックが放映されていることを知りながらも、日頃見ている番組にいつも通りにチャンネルを合わせているのである。
この結果、オリンピック開催から6日間のプライム・タイム(日本で言うゴールデン・アワー)に放映された他局の番組のうち、6番組が
オリンピックを上回る視聴率になっており、今や「オリンピック=高視聴率」のフォーミュラは崩れつつあるとさえ言うことが出来るのである。
しかしNBCにとって、オリンピックは常に広告収入のマグネットになってきた存在で、同局は2000年のシドニー大会から2012年のロンドン大会までの
アメリカにおける放映権を総額57億ドル(約6700億円)という破格の値段で買い取っているのである。
オリンピックでは、常にアメリカの放映権料が収入の大半を占めており、今回のトリノ大会には NBCが$613ミリオン(約723億円)を
支払っているけれど、これに対してNBCは、スポンサー企業から広告放映料として
$900ミリオン(約1060億円)を集めており、言うまでも無く 多額の利益を上げているのである。
オリンピックのようなイベントの場合、放映局はスポンサーに平均視聴率を保証した上で 高い広告料を請求するのが常で、
トリノ大会で そのボーダーラインとなるのは、視聴者数にして1325万人以上を獲得すること。
この条件が満たせなかった場合、NBCはスポンサーに対して、オリンピック終了後に
CMスポットを無料で提供しなければいけないことが義務付けられているのである。
今大会の場合、初日から6日間の平均視聴数は1378万人で、
これはスポンサーへの保証条件をようやく満たしている数字であると同時に、前回のソルトレイク大会の視聴率より36%減。
もちろん前回はアメリカがホスト国であったので、高視聴率は当然であるけれど、
その前の長野大会と比べても、トリノ大会は24%減の視聴率であるという。
このようにパッとしない、トリノ・オリンピックの報道から聞こえてくるのは、アメリカ・チームの不協和音ばかりで、
その最たる例と言えるのは、男子スピード・スケート・チーム内の「ソープ・オペラ(茶番)」である。
土曜の1000メートル競技で、黒人スケーターとして初のゴールド・メダルに輝いた
シャイニ・デイビスが、この種目に体力を温存するために団体追い抜き競技の出場を拒み、結果的に
アメリカ・チームがリレーで決勝に出場することさえ出来なかったことを受けて、
チーム・メイトで、同種目の5000メートルで金メダルを獲得しているチャッド・へドリックが
プレス・カンファレンスで デイビスのことを「愛国的でない」と公に非難。
これに対してデイビスが「自分はチーム・プレーヤーではない」とコメントしたため、デイビスのもとには彼を非国民扱いするEメールが多数寄せられたと言う。
へドリック以外のチーム・メイトは、「アイス・スケートは個人技」として、チームのメダルよりも 個人のメダルを優先させた
デイビスには同情的であったが、へドリックがそれほど団体追い抜きに執着した理由というのも、
彼が 「1大会で5つのゴールド・メダルという記録を狙うために、チーム競技の金メダルが必要だったから」という個人的な理由からだった。
そのへドリックは、デイビスが金メダルを獲得した1000メートルで5位に終わっており、
例え団体追い抜きのメダルがあったとしても 記録は達成出来ない状況となっている。
デイビスは、チームの内紛を訊かれるのに疲れたのか、メダル獲得のインタビューでも殆ど笑顔を見せず、
「自分の決断が正しかったことは、(自分が獲得した)メダルが物語ってくれる」とコメントしているけれど、
彼とへドリックは 火曜日の1500メートルで再びメダルを争うことになっており、
NBCはやっと視聴率が取れる話題性が生まれたとばかりに、2人の対決を事ある毎に報じている状態である。
でもNBC以外のアメリカ・メディアは、デイビスがゴールド・メダルを獲得したことから、彼に好意的に変わりつつあり、
今日2月19日付けのニューヨーク・タイムズ紙では、「デレク・ジーターや、ヒデキ・マツイがワールド・シリーズで勝つために、
ワールド・ベースボール・クラシックに国の代表として出場するのを辞退してもお咎め無しではないか!」と、
メジャー・リーグを例に挙げて 彼をサポートする様子が見られている。(デレク・ジーターは、ベースボール・クラシックに出場することになっています。)
ところで、先述のゴールド・メダルを逃したスノーボーダー、リンジー・ジェイコべリスは、独走状態にも関わらず
余計なジャンプをした際に、何を考えていたのか? とメディアに訊ねられ、
「ゴールドメダルを獲得するまでの自分の道のりが頭をよぎった」と答えていたけれど、
彼女が不必要なジャンプによって失ったのはゴールド・メダルと、その名誉だけでなく、
金額にして1万ドル(約118万円)の報酬。
というのもゴールド・メダルを獲得すればUSオリンピック委員会からボーナスとして2万5千ドル(約295万円)が
支払われるけれど、シルバーの場合はこのボーナスが1万5千ドル(約117万円)に減ってしまうため。
彼女としては「ヴィクトリー・ラン」のつもりだったのかもしれないけれど、
終わってみれば文字通り ”高くついた愚行” になってしまった訳である。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。
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