Feb. 12 〜 Feb. 18




”Hot Spot Doesn't Need Customers !?”



今週のニューヨークは 火曜の夜から降り始めた雪が 水曜のヴァレインタイン・デーにも ほぼ1日中降り続け、 そのせいでヴァレンタインのフラワー・デリバリーが届かなかったり、レストランではディナーの 予約をキャンセルする人々が多かったことがレポートされている。 一部のレストランでは、リムジンで予約客を送り迎えするサービスを行っていたそうだけれど、 そんなことをしたら よほど高額なレストランでない限りは元が取れない訳で、 今年のヴァレンタイン商戦は、この大雪のせいですっかりダメージを受けたようだった。
この日は、CUBE New Yorkでも 商品発送のピックアップがUSPSから来て貰えないほどだったので、 空港での空のダイヤがキャンセルに次ぐキャンセルだったのは容易に想像が付くところであるけれど、 最悪だったのはこの日にディスカウント航空会社、ジェット・ブルーを利用した人々。 離陸、着陸便を併せて7機の乗客が最低で7時間、最高11時間、JFKに着陸後、JFKから離陸前の機内で 足止めされ、空調も暖房も効かず、やがてトイレも詰まって使えなくなるという最悪のコンディションの中で閉じ込められることになったのである。
ジェット・ブルー側は、この事態について突然コンディションが変わって、到着ゲートや機体の一部が凍り付いて使えなくなったこと などを理由にしているというけれど、各機の乗客達は苦痛に耐えかねて、機内の状況を携帯電話でビデオや写真に収めて メディア会社に送り、助けを求めていたという。
このヴァレンタイン・デイだけで、ジェット・ブルーがキャンセルしたのは全米で合計250便。同社では、チケットの払い戻しに加えて、 無料の往復航空券を各乗客にオファーしているというけれど、機内に閉じ込められた乗客の中にはヴァレンタイン・デイに ハネムーンに出掛けようとしていたカップル、アルバのビーチでプロポーズをする予定だったカップルなども居て、 乗客達はそれぞれ無料航空券などには代えられないダメージを受けていたのだった。

でも翌日 木曜になって、ジェット・ブルーの乗客を同情してばかりは居られなくなったのが、路上駐車をしたニューヨーカー。 多くの車がスノータイヤを付けていないニューヨークでは、積雪量が増して車の走行が危険になった時点で路上駐車をして 地下鉄などを利用したドライバーが多く、この他に日頃からガレージを持たず常に通勤用の車を路上駐車しているドライバーが居る訳だけれど、 木曜にブルームバーグ NY市長が記者会見で語ったのが、雪で動けなくなっている車でも、駐車違反やパーキング・メーターの超過が認められたら、 容赦なくチケットを切るということ。
傍から見れば、「そんな事は当たり前」と思うかもしれないけれど、実際には状況はそれほど簡単なものではないのである。 というのも、市の衛生局では水曜日の大雪の中、ほぼ1日中 除雪車を市内で走らせており、その結果、路上に駐車した車は除雪された雪によって 車体の半分、もしくは3分の2ほどが埋まってしまっているのである。 既に固まりつつあるそれらの雪を除去して、車を走れるようにするのは大変な作業で、ことに車道側と 車の前後の雪は 全て歩道側に除雪しなければ、車は発進することが出来ないため、 ドライバー達は庶民の苦労が分からない ビリオネア市長の無情さに腹を立てていたのだった。

ニューヨークでは、今週の大雪もさることながら、ここ3週間ほど日中でも零下という寒さが続いており、 ここまで寒いと 夜に食事やドリンクに出掛けるのが億劫になってしまうものであるけれど、 それでも混み合うスポット、人々が競って予約を取ろうとするスポットというのは存在するものである。
現在、ニューヨークのナイト・シーン、レストラン・シーンで、最もホットと言われているのは ウエスト・ヴィレッジにオープンしたばかりの The (Ye) Waverly Inn & Garden / ジ・ウェバリー・イン&ガーデン。(”Ye” は古い英語で”The”のこと。同店の看板には”Ye”が用いられている。写真左)
同店は実際、ホット過ぎてセレブリティかモデルか、有名ファッション・デザイナー、映画&メディア業界のエグゼクティブ、 有名政治家か、さもなくばシェフかオーナーの知り合いでないと入店が難しいというハードルの高いスポットである。

ウェバリー・インは、1920年代に建てられたタウン・ハウスの1階で、かつてはその名の通り イン(宿泊施設)として経営されていたもの。 これまで何度となくそのオーナーが変わってきたけれど、今回 同スペースを買い取ったのが「ヴァニティ・フェア」誌の発行人である グレイドン・カーターと彼の3人のパートナー。
日本ではあまり知られていない「ヴァニティ・フェア」誌について少し説明を加えておくと、同誌はアメリカで最も高いプレステージを誇る セレブリティ・マガジンで、ハリウッド・スター、政治家を初めとして、モニカ・ルインスキー等のスキャンダラスな”時の人”を フィーチャーし、また時に デミー・ムーアの妊娠時のヌード写真を表紙にするなど、ショッキングなビジュアルでも話題を振り撒くマガジン。 ピープル誌やUS誌のようなゴシップ・メディアとは完全に区別されるものである。 毎年、同誌はオスカー授賞式の後に 盛大なアフター・パーティーを主催することでも知られ、このパーティーは ハリウッド中のセレブリティが集まる唯一、最大のパーティーである。

ウェバリー・インに話を戻すと、同店は今年1月の初め頃からソフト・オープニングと称して グレイドン・カーターの友人の セレブリティや政治家、有名実業家などが足を運ぶようになったスポットで、 ここで2時間半のディナーをしただけで、ロバート・デニーロ、トム・フォード、ジェニファー・コネリー、アナ・ウィンター(ヴォーグ編集長)、 ラッセル・シモンズ(ラップ界の実業家)、カーリー・サイモン(ベテラン・シンガー)に遭遇するという セレブリティ・へヴィーなレストランである。
写真下は メディアにも 決して写真を撮影させない ウェバリー・インの貴重な 店内ビジュアル。 映っているのはダイニング・ルーム、バー・エリア、ラウンジ・エリアであるけれど、同店は ニューヨーク・タイムズがレストラン・レビューを掲載する際にも 写真撮影を許可しなかったという、徹底したメディアに対する ”アンフレンドリーぶり”を貫いているのが現状である。








通常、レストランやバーをオープンした場合、オーナーが喉から手が出るほど欲しがるのがパブリシティであるけれど、 同店の場合、パブリシティを獲得する努力をする以前にメディアがその存在を書き立てており、取材拒否を続ければ続けるほど、 人々とメディアの関心はつのるばかりという状況である。
過去5週間のソフト・オープニングで訪れたセレブリティは 先述のセレブリティの他に、マライア・キャリー、ジュリアン・ムーア、 グイネス・パートロ、ドナ・キャラン、カルバン・クライン、Jay-Z,シェリル・クロウ、スーザン・サランドン、へザー・グラハム、 ルー・リード、ティルダ・スウィントン、キャロリーナ・ヘレラ、ミーシャ・バートン、ヘア・スタイリストのフレデリック・ファッカイ、 ブライアン・グレーザー(映画プロデューサー)、クライブ・デイビス(レコード・エグゼクティブ)等だけれど、これは同店来店客のごく一部。
いかにも古いタウンハウスらしく、ウッドの床と低い天井のノスタルジックなスペースは、2つのファイヤー・プレース(暖炉)がある 細長いレイアウト。夏までにはガーデン・ルームと小さなガーデンがオープンする予定である。

同店のシェフを務めるのは、かつてソーホー・グランド、トライベッカ・グランドでシェフを務め、最も最近ではメリタイム・ホテルの ラ・ボッテガでシェフを務めていたジョン・デルシー。 フードはカジュアル・アメリカンで、アペタイザーは8〜14ドル、メインが14〜55ドル、デザートが7〜8ドルで、 同店で最も有名な料理と言えばホワイト・トリュフをトッピングに摩り下ろすマカロニ&チーズで55ドル。 アペタイザーは、ツナ・タルタルやウッド・グリルしたムール貝など。メインはドーバー・ソールやポーク・チョップ、ヴィール・チョップなどで、 デザートはアップル・クリスプ、バナナ・フォスター、チーズ・ケーキといった至って素朴なものである。
ここで、食事をした業界インサイダーの間では同店のシンプルなアメリカン・フードは非常に好評であるけれど、 ニューヨーク・タイムズ紙のレストラン・レビューは、最高4つ星中1つ星という評価。 また同店は、食事+タックス込みの価格の20%のチップを来店客に義務付けており、同店の料理に文句を言う人々の殆どは、 「味は悪くないけれど、値段が高すぎる」という点を指摘している。 事実、ムール貝のアペタイザーとハンバーガーとチーズケーキを食べて、 ワインをオーダーしたら100ドルを超えてしまうというのは、セレブリティ御用達のホットなレストランだからこそ出来るプライシングなのである。
同店は 以下に記載する通り、一般公開されたレストランとして 電話番号とアドレスがリストされているけれど、 実際はこの番号に電話をしても「予約は一杯」と言われるのがオチ。インサイダーの間だけで知られている特設ナンバーに電話をしないと テーブルを確保することは出来ないので、事実上 一般にはオープンしていないのと同じことになる訳である。
でも そうした極秘の電話番号も 何故かそのうち風の噂で広まるのがニューヨーク。 そしてその頃になれば、また別の極秘番号が設定されてインサイダーだけに流布されるという イタチごっこは レストランがホットなうちは永遠に続くものである。

ウェヴァリー・イン同様に一般客を受け入れないようにすることで ニューヨークで異例の長寿人気となっているホット・スポットには 女性オーナー、エイミー・サッコが経営する ”バンガロー・エイト” がある。
同店は「セックス・アンド・ザ・シティ」のエピソードにも登場している(キャリーがエイデンと同居した直後にゲイの男友達に連れられて 出掛けるクラブ)けれど、ここはキャパシティにして60人程度の小さなスポットで、 マーク・ジェイコブスのような有名デザイナーやセレブリティがプライベート・パーティーを頻繁に行うことで知られるクラブ。
2000年のオープン以来、同店を訪れていないセレブリティは居ないと言われる一方で、同店を訪れた一般客は 極めて少なく、今も最もホットなクラブかつ、誰もが中に入ってみたいと思うミステリアスな存在である。
実際、グレイドン・カーターはウェヴァリー・インをオープンする際にバンガロー・エイトをお手本にしたと言われるけれど、 それと同時に彼は、自分とその友人のセレブリティが気兼ねなく リラックスして楽しめるホット・スポットを確保したかった とも言われている。
「それならば プライベート・クラブをクリエイトすれば良いのでは?」と思う人もいるかもしれないけれど、プライベートにしてしまうと 一般の人々は 始めから入店できない店には関心を払わないので、羨む人が少ない分 セレブリティ側もそこでハング・アウトすることには それほどステイタスを感じないもの。 しかも、同じ顔ぶればかりがやって来て、やがて常連客達も飽きてしまうため、 ニューヨークでは プライベート・クラブは極めて生存率が低いのである。
これに対して 一般客にもオープンなスポットにしておけば、時折入店する一般人が、口コミやブログ等で 店の評判を広める上に、「何時電話をしても予約が一杯」という状況が人々の興味や関心を掻き立てるので、 レストランやクラブは長く「ホット!」と言われる状態を保てる分、セレブリティ顧客も足を運んでくれる訳である。

言うまでも無く、こうした「客を拒む」ビジネス手法は ニューヨークのレストラン業界、ナイト・クラブ業界では「マイノリティ」と言えるもので、 通常は、ホット・スポットをオープンして短期間で稼げるだけ稼いで売却する、もしくは廃れかけたところで店をクローズして、 また新たなクラブをオープンするというのが 移り変わりの激しいニューヨークのナイトシーンの常套手段として用いられるもの。
なので、最初の2〜3ヶ月はドアポリシーが厳しかったり、予約で一杯のスポットも、やがては誰でも入店できるようになり、 そのうちブリッジス&トンネル(マンハッタン以外からの来店客)や旅行者、フェイクIDを使ったティーンエイジャー等が 大半を占めるようになって、客足が途絶えたところでクローズ、もしくはイベント・スペースとして生き残っていくのが ニューヨークのクラブ&レストランなのである。

バンガロー・エイトや、ウェヴァリー・インの他に、 少なくとも表向きにはメディア報道を避けて、「知る人ぞ知るスポット」として 営業するビジネスとしては、以前このコラムでもご紹介したラ・エスキーナがあるけれど、 同店は 今では”シークレット・プレース”というステイタスは無くなったものの、根強く生き残っているビジネス。
この他、今月末〜3月頃には、ミートパッキングの老舗クラブ、ロータスのオーナー、ジェフリー・ジャーと 4つ星レストラン、ダニエルのオーナー、ダニエル・ブリューがコンビを組んで、リトル・ウエスト12ストリートに ”イン LW 12”を オープンする予定で、目下のニューヨークは ちょっとした ”Inn / イン” ブーム。 この”イン LW 12” もエクスクルーシブな顧客を対象に息の長いビジネスを目指すとのことである。

要するに、ニューヨークのナイト・シーンは、一般大衆をターゲットに「一花咲かせて散る」か、 さもなくばセレブリティ&エクスクルーシブな顧客を相手に「咲いて散るより、つぼみでいたい」というビジネスを展開するかの 2通りに分かれることになる。でも、セレブリティというのはとかく払いが悪い人々が多いだけに、 果たしてどちらが儲かるビジネスであるのかは 双方の売り上げ帳簿を見てみないと分からないのが実際のところである。


Ye Waverly Inn & Garden
16 Bank Street New York, New York 10014
Tel: 212-243-7900









Catch of the Week No.2 Feb. : 2 月 第2週


Catch of the Week No.1 Feb. : 2 月 第1週


Catch of the Week No.4 Jan. : 1 月 第4週


Catch of the Week No.3 Jan. : 1 月 第3週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。