Feb. 9 〜 Feb. 15 2009




” I know you're not telling the truth ”


今週もニューヨークではダウが大きく値を下げたけれど、その原因と言われたのが 月曜のプライムタイムに行われたオバマ大統領のプレス・カンファレンスと、その翌日 火曜日に行われた ティモシー・ガイズナー財務長官のプレス・カンファレンス。
本来、月曜に行われる予定だったのが、ガイズナー財務長官のカンファレンスで、ここで景気刺激対策の具体案が 明らかにされる予定だったけれど、これが翌日に延期され、代わりにオバマ大統領のプレス・カンファレスが 月曜の午後8時から メジャー・ネットワークで緊急にライブ放映されたのだった。
この席でオバマ大統領は、現在アメリカが迎えている経済危機の深刻さを強調して 早急に策を講じる必要を訴え、 景気刺激策への国民からの支持を求めていたけれど、 このスピーチというのが 大統領がカンファレンス直前まで マイケル・フェルプスと一緒にマリファナでも吸っていたのでは?と思うほど、 言葉を選ぶのに時間が掛かった シャキッとしない話しぶり。
また、この席でオバマ大統領は 「明日ティモシー・ガイズナーが具体的な案についてクリアに説明する」宣言し、 「I'm sure he's gonna be terrific」 と、 メディアやウォール・ストリートの期待を煽るようなコメントをしたのだった。
そうして行われた火曜日のガイズナー財務長官の記者会見で 人々が期待したのは、 政府が 銀行から買い取ると言われているバッド・ローン(不良債権)に いかに値段を付けるかの詳細なガイダンスであったけれど、 蓋を開けてみれば このカンファレンスは 具体策が全く示されない不透明なスピーチに終わり、 その最中に株価は下がり続けたのだった。
同カンファレンスは事実上、ガイズナー財務長官の公の席でのデビューとなった訳だけれど、 あまりの中身の無さに失望したメディアからは、「言う事が無いなら わざわざプレス・カンファレンスなんか行わなければ良いのに・・・」 という厳しい指摘も聞かれたほど。 加えて「今すぐアクションを起こさなければ 手遅れになる」 と その前日に オバマ大統領が語っていたのとは裏腹に、 ガイズナー長官は 「状況が複雑過ぎて、直ぐに具体策が示せない。数週間以内に詳細を明らかにする」 として、 大統領とは 相反する姿勢を見せていたのだった。
これを受けて 翌日のメディアやファイナンス・ブログでは、「オバマ大統領は、ガイズナー長官のスピーチの内容を承知であんなに期待を煽るコメントをしたのか?」、 「景気刺激策には本当に具体案が存在するのか?」といったコメントが飛び交っていたのだった。

そのオバマ大統領が打ち出している景気刺激策は、大統領自身が66%という高い支持率を得ているのとは好対照に、 国民からの支持を失い続けているもの。 アメリカ国民の間では オバマ大統領は支持しても、彼が打ち出している景気刺激策は支持出来ないという人々が増えており、 それと同時に ヘンリー・ポルソン前財務長官と さほど路線が変わらないガイズナー長官への不信感も募りつつあるのだった。
でもティモシー・ガイズナー長官と言えば、就任前の審査で 自営業収入の申告漏れによる 3万4000ドル(約312万円)の 税金を支払っていなかったことが明らかになった人物。 その申告漏れの理由というのが、アメリカで最も多くの人々が使っている 税金申告のソフトウェア、 ”ターボ・タックス” を使って間違えたとのことだったけれど、もし この言い訳を真に受けた場合、 世界最大の経済国の財務長官を 税金申告ソフト も使えない人間に任せていることになる訳である。
とは言っても、そんなことは誰も信じていない訳であるから 彼の就任は 明らかなウソに蓋をして実現したようなものなのである。

アメリカ社会では、絶対にウソだと思われるようなことを とりあえず 事実と受け止めて、 次に大事が起こるまでは 事なきをえてしまうというケースは少なくないけれど、 同様のケースになりつつあるのが アレックス・ロドリゲスのステロイド使用。
月曜にスポーツケーブル局、ESPNのインタビューでステロイド使用を認めて謝罪した アレックス・ロドリゲスであるけれど、彼は2007年12月に放映された報道番組 ”60ミニッツ” の中で、 アメリカで最も高給取りのキャスター、ケイティ・コーリックのインタビューに応じて、 「ステロイドや成長ホルモンなど、パフォーマンス・エンハンシング・ドラッグを使用したことはありますか?」、「使用しようと思ったことがありますか?」 という2つの質問に いずれもきっぱりと 「No」 と答えており、多くのメディアは彼の謝罪よりも、 A・ロッドがこの時点でウソをついていたことを大きく報じていたのだった。
彼は謝罪インタビューの中で 「パフォーマンス・エンハンシング・ドラッグを使用したのは、テキサス・レンジャースに所属した2001〜2003年の間のみで、 ヤンキーズに所属してからは使用していない」、「どのパフォーマンス・エンハンシング・ドラッグを摂取したかは 分からない」 と答えていたけれど、これに対して専門家は 「彼ほどのワールド・クラス・アスリートが 自分の身体に 何だか分からない薬物を投与していた とは 極めて 信じがたい」 とコメントしているのだった。
その一方で、このトラブルが報じられて以来、マイアミに滞在していたアレックス・ロドリゲスは クラブで超ミニ・ドレスを着用した2人の女性と絡み合っているところがスナップされただけでなく、 金曜にはマイアミ大学で スピーチを行って、今回のステロイド使用発覚をジョークにして顰蹙を買っているのだった。
2月17日の火曜日には、ヤンキーズのスプリング・キャンプが行われているフロリダのタンパで 彼の記者会見が行われることになっているけれど、A・ロッドと言えば現在メジャーリーグで最高給取りのプレーヤー。 それを支払っているヤンキーズ側は 彼の主張を信じて、契約を変更する意志が無いことを明らかにしているのだった。

さて、今 アメリカで A・.ロッドと同じくらいに メディアに毎日のように登場しているのが 通称 ”Octomon / オクトマム” こと Octuplet / オクタプレット (8つ子)を 出産した ナディア・サールマン(33歳)。
彼女が1月末に出産した時点では、単に8つ子という出産の最多記録が報じられたのみであったけれど、 その後 ”オクトマム”、ナディアとその妊娠について 様々な疑惑が浮上しているのだった。 まず彼女は 8つ子を出産する以前に 既に6人の子供を抱えるシングル・マザーで、仕事も無く、カリフォルニアの両親の家で暮らす状態。 彼女に出戻られた両親は 「6人の孫の世話で疲れ果てている」 とコメントしているのだった。
6人の子供は全て人工授精による妊娠なので、当然のことながらナディアの父親は ドクターに対して 「これ以上 彼女を妊娠させないで欲しい」 と依頼していたという。
にも関わらず ビバリー・ヒルズの不妊治療ドクターは 今回の妊娠に際して ナディアに6つの受精卵を注入しており、現在、カリフォルニア州の医療委員会ではこのドクターについて捜査を行っている真っ最中である。 というのも、不妊治療は6人も子供が居て、しかもその子供たちを養う生活力が無い女性に対しては行われないのが通常である上に、 ナディアのような35歳以下の女性に対しては、注入する受精卵の数は2つまでというガイドラインが設定されているのだった。
また ナディア本人は否定しているものの、一部では 彼女がアンジェリーナ・ジョリーに触発されて妊娠したという報道も行われており、 隣人は彼女が美容整形医に出向いて アンジェリーナを真似て唇にコラーゲン注射をしたと証言。 更に彼女が鼻の整形手術をしたことも指摘しているのだった。
本来なら、こうした美容整形が個人のバッシングの対象になる必要は無いけれど、 ナディアの場合、月に490ドル分のフード・スタンプ(低所得者に支給される食料品購入のための金券)を受け取っている上に、 6人の子供のうち 3人が 障害者保障の対照となっており、要するに生活保護を収入源としている身。 しかもそれを支払っているカリフォルニア州が破産寸前であるだけに、 メディアや世論は 彼女とそのドクターに非常に厳しいリアクションを示しているののだった。
ちなみに、子供の父親は全て同じ男性であるというけれど、ナディア自身は、 過去8年以上セックスをしていないという事実も報じられている。

でも、そんな ナディアとは正反対のセックス・ライフが 見られるのが現在のアメリカで、 今年に入ってから売上が大きく伸びていることが伝えられているのがコンドーム。
深刻なファイナンシャル・クライシスがスタートした2007年9月〜10月の時点では、 セックス産業の売上が低下し、女性用のセックス・トイの売上が伸びる一方で、 離婚の申請が増えていることが伝えられていたけれど、 現在起こっているのはその逆転現象。 「離婚をしたくても、夫が仕事を失って 扶養手当が支払えない」、「離婚をすれば生活費が倍になってしまう」 という理由から離婚を断念するカップルが増えていると同時に、 外食の回数が減って、自宅で夜を過ごす人々が増えているために、 夫婦や一緒に暮らしているカップル間のセックスの回数が増えていると指摘されているのが昨今である。

それと同時に、リセッショに入ってから大きく売上を伸ばしているのがマッチメーキングのウェブサイト。 かつてはマッチメーキング・サイトと言えば、「マッチ・ドット・コム」があまりに有名であったけれど、 今では 「Eハーモニー」の方が、確実に交際できる相手が見つかるとして利用者を増やしているという。
この 「Eハーモニー」というウェブサイトは、登録の際に 趣味から自分の性格に至るまで、詳細に渡るプロフィールを作成しなければならず、 その結果、同サイトのデータベースから相性が良い相手が選び出されるというシステム。 私の女友達の中には 、正直にプロフィールを作成しすぎて 「 マッチする相手が居ません という結果が出てきた」 という例もあったけれど、 実際マッチする相手を見つけようと思ったら、ある程度は自分を偽らなければならないようである。
でも、現在のリセッションのお陰で 女性側も男性側も かなり理想の相手のハードルを下げている上に、 経済がこんな状態だと仕事もそれほど忙しくないので、 特にこれまで恋愛の不毛地帯であった都市部での結婚の確率が増えるといわれているのが2009年。
今や女性も男性も相手に望むものは、ユーモアのセンスや性格の穏やかさなどに加えて”安定した仕事”。 ニューヨークで失業した場合、月々受け取れる失業手当の最高額は1600ドル(14万7000円)程度。 でも もし、伴侶やパートナーに収入があれば その金額でも十分に暮らしていける訳で、 ”2つ目の失業保険”としてのパートナーを求めている人は 本音のレベルでは 決して少なく無いという。
そのEハーモニーでは、メンバーが長期的な真剣な交際を望んでいるだけに、既婚者がメンバーにならないように 慎重に配慮しているとのことで、そのあたりは既婚者のデート相手探しに頻繁に利用されている「マッチ・ドット・コム」とは異なる点のようである。
こうしたマッチメーキング・サイトにとってリセッションが幸いする1つの要因は、 特に男性側が収入や財産を偽る必要がなくなってくるという点。
株なんて一度も買ったことが無い人でも、お金が無いのは「株で大損をしたから」などと言い訳が出来るのもさることながら、 年収500万と正直にプロフィールに書いたところで、今のような時代では ”仕事があるなら それで十分” と考える女性も 少なくないようで、見栄を張らない交際が出来るのだという。
逆にウォール・ストリートが住宅ローンのブームで大いに潤っていた頃には、女性達が 収入のある男性にしか興味を示さなかっただけに、数千万円の年収を稼ぎ出していたバンカーでさえ 1億円以上のボーナスを受け取っているふりをしなければならなかったという。

でも住宅ローンのブーム時代に ウォール・ストリートのバンカー以上に 実際より遥かに収入があるふりをしていたのは サブプライム・ローンで家を購入していた人々。
今週木曜にはファイナンス・ケーブル・チャンネル、CNBCが今回のエコノミー・クライシスを招いた サブプライム・ローン、そしてモーゲージ・バック・セキュリティの仕組みや背景を描いた 2時間の特番を放映していたのだった。
サブプライム・ローンを組んでいた人々は、貯金も無ければ クレジット・ヒストリー(個人の金銭支払いの履歴、信用情報)も 無く、本来ならばローンなど組めない人々であるのは既に報じられている通り。 もし 正規の手続きでローン組もうとした場合、最低で過去2年に渡る税金申告書を審査のために提出し、 クレジット・ヒストリーの調査などが行われるの通常である。 ところがこの番組によれば、こうした人々を対象に そんな手続きをすれば ローンが組めないのは明らかであるため、 その代わりに ローン・オフィサー(ローンを組む担当者)が要求していたのがステーテッド・インカム、 すなわち自己申告の収入であったという。
これはローンが組みたくてたまらないローン・オフィサーによって誘導尋問的に 多額を申告させられてしまう場合もあれば、家が購入したくてたまらない人々が自主的にウソを付く場合もあるようだけれど、 このCNBCの特番に出てきた女性は、実際の住宅ローンの他に、頭金までローンにしていたそうで、 収入の自己申告で ウソを付いたことを自ら認めていたのだった。

一方の”ローン・オフィサー" という職業も、その偉そうな肩書きとは裏腹に 何のトレーニングや 資格試験も必要ないので、 車のセールスマンやピザのデリバリーマンでも簡単に なれてしまう職業。住宅ブームの際には 約200万の月収があったという。
彼らの仕事は ローンを申請した人を審査するのではなく、本来なら組めないローンを 承認してしまうことで、 ローンを組む側も、組ませる側も、 お互いウソを承知で 高額のステーテッド・インカムをでっち上げていたというのである。
こうしてサブプライム・ローンで家を購入した人々は、その後の 住宅価格の急激な高騰を受けて、 リファイナンスを行い、それによって得たエクイティ(含み資産)をショッピングや、 家の改築、庭のプールの設置などに使って、暫くは 豊かな生活をしていたという。 また中にはビジネスを始める資金をエクイティから得るために 家を購入した人々も居るとのことだった。
でも、ここで注意しなければならないのが サブプライムで家を失っている人々の多くにとって そのリファイナンスが災いしていることである。

そもそも収入があまり無い人が 無理やり ローンを組めば、返済が滞るのはクレジット・カードでも 住宅ローンでも同じこと。 特にサブプライム・ローンの場合、その支払い滞り件数が 2006年に入ってから あっという間に激増していったという。 そうなってくると、それまでサブプライム・ローンを買い取っては商品化していたウォールストリートが その受け入れを拒むようになり、そうすれば住宅ローン会社は それ以上 新しいローンが組めなくなる訳で、 ローンが組めなければ 住宅の買い手が減ってしまうのは自然の摂理。 そして買い手が減れば、それまで高騰を続けた住宅価格が値下がりするのも当然の展開。
このためリファイナンスをして先に含み資産を使ってしまった人々は、いきなり月々の高額の返済を余儀なくされた一方で、 リファイナンスで支払われる含み資産を念頭に入れて住宅を購入した人々は すっかり宛てが外れることになってしまったのである。
しかも住宅価格の下落には歯止めが掛からず、特にサブプライム住宅は その資産価値が 残された借金より 安くなってしまうケースが多くなっていったという。 そうなれば 返済が滞って立ち退きを余儀なくされる人々 だけでなく、 返済を諦めて 購入した我が家を後にする人々も 出てくる訳で、こうしてローンの支払いがストップし、売れない、価値の無い住宅のみが残ったのが サブプライム問題である。 この問題はローンを買い上げては、それをCDO (Collateralized Debt Obligation )に商品化していた ウォールストリートにも悲惨なまでのダメージをもたらし、 住宅ローンのプロダクトを中心にビジネスを行っていたベア・スターンズが先ず破綻に 追い込まれたのが2008年春のこと。その後の転落は周知の通りである。
しかも本来だったら、こうした危険な投資に警鐘を鳴らさなければならないムーディーズ、スタンダード&プアーなどの レーティング会社も、ウォールストリートのバンクのビジネスを奪い合うあまり CDOの80%に 最高のトリプルAの レーティングをしていたというから、 レーティング会社も このサブプライム問題の共犯と言われて 仕方が無い訳である。

ふと考えると、ニューヨークでドアマンが居る きちんとしたアパートを借りようと思ったら、 レントの24か月分のキャッシュが銀行口座にあることを証明するか、 そうでなければ過去2年分の税金の申告書と仕事の雇い主による年収の保証などが必要な訳であるから、 家を購入する住宅ローンが自己申告の年収だけで通ってしまうというのは全く信じがたい事実。
そんなウソで固めたローンが組めるのも恐ろしいけれど、そのリファイナンスで 含み資産が支払われてきたことも 更に恐ろしい事実な訳で、これを思えば今のファイナンシャル・クライシスは起こるべくして起こったこと。 私は個人的には不動産投資には全く興味が無いけれど、 今回のサブプライム問題では リファイナンスの落とし穴もまざまざと見せ付けられたという印象なのだった。
また、最も恐ろしいと思ったのは 住宅ブームに乗って登場した 新興住宅地の不動産物件に投資をすること。 もちろん、上手くこれらに投資が出来たブーム時代には 家を購入して 数ヶ月後に売ってしまうだけで 多額の利益が上げられたというけれど、かつては新居が建ち並んで見目美しかったエリアも あっという間にゴーストタウンとなり、 その物件にはホームレスが転がりこんだり、落書きの被害もひどく、庭のプールからは 蚊が大量発生し、資産価値は地に落ちているという。

経済でも、何でも 終わらないブームというのは存在しないものだけれど、 それだけに、 後からこれに乗った人は 必ず損をするのが世の中の仕組みなのである。





Catch of the Week No. 2 Feb. : 2 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Feb. : 2 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Jan. : 1 月 第 4週


Catch of the Week No. 3 Jan. : 1 月 第 3週







執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。