Feb. 15 〜 Feb. 21 2010




” Tiger's Scripted Apology ”


アメリカでは、引き続きオリンピックが事前の予想を上回る好調な視聴率を記録しており、 連日2300万〜3200万人の視聴者を獲得しているけれど、 開会式からの9日間で オリンピックにチャンネルを合わせたアメリカ人の総数は、何と1億6200万人。
この要因と言われるのは、アメリカ選手団の大健闘ぶりで、 今日、日曜の時点でアメリカは7つのゴールド・メダルを含む24個のメダルを獲得し、 国別獲得メダル数のトップ (2位はドイツの16個)。 大会期間を約半分残しながらの 24個のメダル獲得は、アメリカ国外で行われた冬季オリンピックでの メダル獲得新記録で、これも視聴率同様に 予想を遥かに上回るもの。
ライバル局は、今回のオリンピック視聴率は 幸運に恵まれたアメリカ選手の 恩恵を受けたもので、 冬季オリンピックに 毎回これだけの関心が集まるとは考え難いとしているのだった。
実際、アメリカで 冬季オリンピックが同等の高視聴率を記録したのは、 フィギュア・スケートの ナンシー・ケリガンとタニヤ・ハーディング(日本ではTonyaをトーニャと読んでいますが、英語の発音ではタニヤ) の事件が起こったリレハンメル・オリンピック以来のこと。
そのナンシー・ケリガンは、今回のオリンピックの直前に 父親が弟によって殺害されるという惨事に見舞われているけれど、 メディアのコメンテーターとして ヴァンクーヴァー入りしているのだった。

今週のオリンピックで最も物議を醸したのは、木曜に行われた男子フィギュア・スケートの結果で、 アメリカのエバン・ライサッチェックが、演技にクワッド(4回転)・ジャンプを含めることなく、ゴールド・メダルを獲得したというもの。
前回のオリンピック・ゴールド・メダリストであり、クワッド・ジャンプをコンビネーションで成功させながら シルバー・メダルに甘んじた ロシアの エフゲニー・プルシェンコは この結果を不服として 「男子のオリンピック・チャンピオンが4回転を飛ばないなんて」、 「フィギュア・スケートはダンスではなくスポーツ競技なのだから、技量の高度さを競うべき」 と コメント。
ロシアのメディアも「男子がトリプル・アクセルでゴールド・メダルが取れるなら、いっそフギュア・スケートはユニセックス競技にしてしまうべきだ」と まで論評。ロシアのプーチン首相も 「プルシェンコのシルバーはゴールドに匹敵すべきもの」として、 クワッド・ジャンプを トライすることさえなく、ゴールド・メダルを獲得したライサチェックを猛烈に攻撃していたのだった。
その一方で ライサチェックは、クワッド・ジャンプを加えなかったことについて、 「どうして他の選手が、100%出来るとは限らないジャンプをプログラムに加えるのかが分からない」とコメント。 実際、新しいフィギュア・スケートのスコアリング・システムでは失敗が大幅に減点される一方で、 プログラムの後半にジャンプを含めるとボーナス・ポイントが加算されるシステムになっており、 後半に10回のジャンプを入れたライサチェックは減点を防ぎ、ボーナス・ポイントを稼ぐという プログラム構成で勝利したのは誰もが指摘するところ。
一方のプロシェンコは、クワッド・ジャンプは成功させたものの、その他2回のジャンプで着地がグラつき、 さらにプログラムの後半に3回しかジャンプを含めなかったことや、スピンの軸が曲がっているといった問題点を アメリカのメディアが指摘し、「4回転というたった1つのトリックでゴールドメダルが取れる訳ではない」と ライサチェック擁護の姿勢を見せていたのだった。

メディアでは、このライサチェックVS.プロシェンコ論争を アメリカVS.ロシアの” 久々の冷戦 ” などと言っていたけれど、 そんなアメリカのメディアの中にも、スノーボードでゴールド・メダルを獲得したショーン・ホワイトが、 そのヴィクトリー・ランで見せた 度肝を抜く 超絶技巧トリック、 ”ダブル・マックツイスト ” のような超人技が スポーツのレベルを上げていくとして、ライサチェックのクワッド・ジャンプ無しの ゴールド・メダルに対する批判に 理解を示す論調も見られていたのだった


話は変わって、アメリカ東部時間、金曜午前11時に放映されて、オリンピック並みの視聴率を獲得したのが、タイガー・ウッズの不倫問題についての プレス・カンファレンス。
13分半に渡るこのスピーチが行われたフロリダのリゾートには、世界中の300のメディアが取材に押し掛け、 アメリカでは4大ネットワークはもちろんのこと、ケーブル・ニュース・チャンネル、スポーツ・チャンネル、スペイン語のチャンネルまでもが 全てこのスピーチを放映。オバマ大統領の緊急スピーチより大掛かりなメディア・カバーがされていたのだった。
このスピーチは、タイガーのPRチームが選んだゲストとメディア関係者のみが 立会いを許可され、 質問は一切受け付けないということが事前に明らかにされていたため、 ゴルフ・アソシエーションのメディアは、この条件を不服として 取材をボイコットしたことが伝えられているけれど、 金曜のメディアと土曜の新聞を埋め尽くしたのがこのタイガー・ウッズの報道なのだった。

このアナウンスメントは、事前に用意した原稿を読みながらのもので、PRはこの原稿を書いたのはタイガー本人であるとしていたけれど、 彼はエレン夫人の立ち会いを望んでいたため、夫人の名前の登場回数を4回から14回に増やしたという。
でも その夫人は姿を見せず、彼の母親が最前列に座り、スピーチの最中、終始タイガーとのアイ・コンタクトを避けていたことが カメラに捕らえられていたのだった。
スピーチの内容は、不倫を認めたと同時に、彼のファンや周囲の人々への謝罪、メディア報道の無責任な内容 と 妻や子供のプライバシーを侵害していることに対する批判、そして最後にファンに対して 「いつか再び自分を信じて欲しい」 というメッセージで締めくくっていたもの。
彼がメディアからの質問に答えない理由については、「不倫の詳細については自分とエレンの夫婦の間でのみ話し合われるべき問題」である と説明され、不倫をした動機については 「それまでの人生が ゴルフ一筋に努力してきたものだっただけに、 名声、多額の財産を得た自分が、周囲の誘惑に屈しても良いはず、自分にはそれが許されるはずという 思い込みをしてしまった」 と説明されていたのだった。

12月の末から45日間のセックス中毒のリハビリをしてきたというタイガーは、何時ゴルフに復帰するかは分からないとしながら、 再びセラピーに戻ることを明らかにしていたけれど、このプレス・アナウンスメントを見た 長年タイガーを取材してきた記者は、 「あんなタイガーの姿を見たのは初めてだ」と語り、 彼が今回のスキャンダルで大きな痛手を受けていることを指摘していたのだった。
でも紙に書かれたステートメントを読み上げただけのタイガーに対する一般世論は、様々なアンケート調査で 65〜75%が 「謝罪を信用しない」、「彼は不倫が大騒動になったから 謝っているだけ」、 「今回のアナウンスメントでイメージアップしたとは思えない」、「自分の不倫が大スキャンダルになってしまったことに対する 怒りが感じられる」、「タイガーは不倫がスキャンダルにならなかったら、今も複数の愛人と交際を続けていたはず」 といったネガティブなリアクションを示しており、彼の地に落ちてしまったイメージ挽回が それほど簡単な事ではないことを 感じさせていたのだった。

タイガー・ウッズは彼のイメージ回復のために新しいパブリシストを雇ったことも伝えられているけれど、 一般の人々のリアクションとは裏腹に、メディア 関係者の中では 今回のプレス・アナウンスメントは 以前の釈明コメントに比べて遥かに 計算され、しっかりシナリオが書かれていると評価する声が聞かれていたのだった。
まずバック・グラウンドのカーテンのカラーに誠実さをイメージ付けるブルーを選び、シャツのカラーとコーディネートして、 TV映りを良くしているという点。2台のみ用意されたTVカメラが、タイガーの真正面からのショットと、 同席者側に座っているタイガーの母親の姿をタイガーの姿と共に映すようにセットされていたこと。
同席者にはタイガーの親しいプレス関係者や友人のみを選んで招待し、タイガーをリラックスさせると同時に、 ルール違反の質問や野次が飛び交うリスクを回避していること。 さらに、服装もスーツではなく、スラックスとブレザー、シャツ、ノータイというクリーンなスポーツ選手をイメージ付けるもので、 企業経営者や政治家の釈明会見のような雰囲気を演出しないよう、 気遣いが見られているのだった。

私は 個人的には 今回のタイガー・ウッズの大統領スピーチを遥かに超える規模のTV放映を見て、改めてタイガー・ウッズが いかにスーパースター・アスリートであったかを実感してしまったのだった。
ふと考えてみれば 今回のオリンピックでゴールド・メダルを獲得した 先述のショーン・ホワイトの年収は スノーボーダーとしては 桁外れの800万ドル(約7億3000万円)。 オリンピック前に突如知名度を上げたスキーヤーで、やはりゴールドメダルを獲得した リンジー・ヴォンの年収は 昨年の時点で300万ドル(約2億7440万円)。彼女の年収は今年2倍に伸びると見込まれているけれど、 タイガーウッズは この2人の年収の合計の 10倍以上を 毎年稼ぎ出している訳である。
また、タイガーが「金曜に会見を行う」と 前日にアナウンスしただけで、全てのメジャー・ネットワークが番組予定を変更するだけでなく、 その彼がたった1人で行った会見が、オリンピック並みの視聴率を獲得してしまうのであるから、これは物凄いメディア・インパクトなのである。
そんな多大なメディア・インパクトをもたらす史上初のビリオネア・アスリートが、 フットボールやベースボールのプレーヤーではなく、ゴルファーであるということ、 彼がゴルフという 今も白人プロがマジョリティを占めるスポーツが生んだ初の、そして唯一のマイノリティー・スーパースター・プレーヤーであること、 そしてゴルフに全く興味が無い人でさえ 知らない人が居ないほどに知名度が ある唯一のゴルファーであるという点も 非常に興味深い部分なのであった。
PGAツアーは そのタイガー無くしては、これまで通りの視聴率や収入を得られないとも言われているけれど、 今回の会見前日に 公開されたのが、トレーニングを再開したタイガーの姿。
以前より かなり体重が増えたことが指摘されていた彼は、カムバックにはまだ時間が掛かるとの指摘もされていたのだった。

メディアの中には、タイガーを昨年のちょうど今頃、パフォーマンス向上ドラッグの使用疑惑でウソをついたことが発覚し、 釈明記者会見を行ったヤンキーズのアレックス・ロドリゲスと比較する向きもあったけれど、 メディアも一般の人々も指摘したのは、タイガーも A・ロッド 同様、ファンを取り戻すためには、 本業で活躍するのが最善かつ最短の道であるということ。
したがって、これ以上 パブリシティという見地から余計なイメージ回復を試みるよりも、 トーナメントに戻って、連勝を続ける方が 確実にファンのハートを掴み、再び広告契約と多額の収入が得られるだろう というのが 人々のリアリスティックな意見なのである。

ところで、タイガーが会見を行った直後、彼の愛人の1人が やはり記者会見を行い、「エレンだけでなく、私にも謝罪して欲しい」などと 語っていたことがニューヨーク・ポスト紙によって報じられていたけれど、殆どのメディアは この会見を無視。
1週間ほど前にも、タイガーの愛人の1人が 「タイガーによって2回妊娠させられ、一度は流産し、2度目は中絶した」と 激白していたけれど、これも以前ほどの報道インパクトをもたらさなくなっているのだった。
結局のところ、時間が経過すればタイガー・ウッズのスキャンダルで 真のメディア・インパクトをもたらせるのはタイガー本人のみ。
だからこそ、やり方次第で 彼がカムバックできるチャンスは大いにあると思うし、 新しい愛人さえ作らなければ、古い愛人達の報道価値が日に日に衰えていっているのは紛れも無い事実なのである。





Catch of the Week No. 1 Feb. : 2月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Feb. : 2月 第 1 週


Catch of the Week No. 5 Jan. : 1月 第 5 週


Catch of the Week No. 4 Jan. : 1月 第 4 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





© Cube New York Inc. 2009