Feb. 13 〜 Feb. 19, 2012

” Lin, Whitney and Valentine ”

今週、アメリカの報道が集中していたのが先週に引き続き、NBAニューヨーク・ニックスを連勝に導いていた アジア系アメリカ人プレーヤーのジェレミー・リン。そして、先週の土曜日に死去したホイットニー・ヒューストンの話題。
ジェレミー・リンについては、今週金曜の対ニューオリンズ・ホーネッツ戦で、彼がゲームに出場し始めてからの ニックス連勝記録が7でストップしてしまったけれど、ハーバード大学出身、敬虔なクリスチャンというユニークなバックグラウンドも手伝って、 そのメディア報道は加熱する一方。今週は、彼がニューヨーク・ポスト紙のカバーに毎日のようにフィーチャーされていたのだった。
ジェレミー・リンは 昨年末にニックスに加わって以来、自分のアパートをレントする経済力が無いことから、 兄のアパートに居候して、カウチで眠っていたというけれど、彼の突如のスターダムを受けて、 今週にはNYの不動産王、ドナルド・トランプが、 自らが所有するビルのコンドミニアムを彼に貸し出すことをオファー。 ニックスの試合は、視聴率が50%もアップし、中国、台湾でも彼のセンセーションが連日のように大報道されていることが 伝えられているのだった。

でも、中にはジェレミー・リンがこれだけの大センセーションを巻き起こしているのは、「彼がアジア人だから」 という冷めてたリアクションが聞かれているのも事実。とはいっても、ジェレミー・リンは学生時代から 活躍しながらも、アジア系だという理由でスカウトから無視され、ドラフトされることもなかったプレーヤー。 前述のように敬虔なクリスチャンである彼は、インタビューで 「今になってみると、自分が歩んできた道のりが 神の意思によるものであることが納得できる」と語っているけれど、 彼がアジア系であることもさることながら、彼が全く注目されず、チャンスも与えられなかったプレーヤーであったことの方が、 彼の突然のスターダムを 人々がセンセーショナルに受け止めている要因。 それと同時に、彼のサクセスは 「努力をしていれば、いつかは報われる日が来る」という、 インスピレーショナルなメッセージとしても受け取られているのだった。



先週死去したホイットニー・ヒューストンについては、土曜日に4時間に渡る葬儀の模様が NBCで放映された他、世界中の人々がその様子をウェブキャストでリアルタイムで見守ったことが伝えられているのだった。
その死因については、彼女がバスタブに沈んでいる状態で発見されているだけに、溺死なのか、 それに薬物が絡むのかは司法解剖の結果が待たれているけれど、 部屋の中から処方箋薬が発見されているだけに、警察はそれを処方したドクターの事情聴取を始めているとのこと。
ホイットニーの死を受けて、今週はアイチューンのシングル・チャートで「アイ・オールウェイズ・ラブ・ユー」が、 そしてアルバム・チャートで彼女の「グレーテスト・ヒッツ」が それぞれNo.1にランクされていたけれど、 このメガ・セールスで、ほぼ破産状態と言われていた彼女が死後1週間で稼ぎ出したと言われるのが数十億円。 「アイ・オールウェイズ・ラブ・ユー」を作曲したカントリー・シンガー兼女優のドリー・パートンでさえ、 その印税だけで億円単位の収入を得るという。
そのホイットニー・ヒューストンは、兄を始め、家族のほぼ全員がマネージャー、アシスタント等と称して、 彼女に給与を支払われていた状態。 死亡直前は経済的に困窮して、家族に給与が払えず、 彼女の育ての親のレコード・プロデューサーであるクライブ・デイヴィスから、 生活費を借金していたことが報じられているのだった。


ホイットニーの死によって、彼女の20年前のヒット曲である「アイ・オールウェイズ・ラブ・ユー」が、 再び人々の心に強烈なインパクトを与えているのを見るにつけ、音楽が人々に与えるパワーを痛感してしまうけれど、 そう考えるのは、現在行なわれている共和党大統領予備選挙の候補者陣営も同様。
予備選挙では、候補者達が自らのテーマソングになるような楽曲を探しては、それをCMやキャンペーン・イベントで 使用しているけれど、今回の選挙で 共和党の複数の候補者によって その白羽の矢が立てられたのが、80年代のロックバンド、 サバイバーのヒット曲で、映画「ロッキー3」の中でも使われた「アイ・オブ・ザ・タイガー」。
同曲は、 共和党大統領候補の中でとりあえず 最有力と言われるミット・ロムニー、そして元下院議長のニュート・ギングリッチが 共にキャンペーンで使用していたけれど、それに対して 待ったを掛けたのが 現在は解散状態にあるサバイバーの元メンバーで、 「アイ・オブ・ザ・タイガー」の共同作曲者の1人であるフランキー・サリヴァン。 彼は許可なしに「アイ・オブ・ザ・タイガー」が選挙キャンペーンに使われたことを抗議し、これを受けてミット・ロムニー側は 2度と同曲をキャンペーンで使用しないことを約束。ギングリッチに対しては、 「アイ・オブ・ザ・タイガー」がYouTubeで公開されているビデオに使われていることを理由に コピーライト違反の損害賠償訴訟が起こされているのだった。

フランキー・サリヴァンは「アイ・オブ・ザ・タイガー」という曲に特定のイメージが付いて欲しくないことを 抗議の理由に挙げていたけれど、共和党候補者がキャンペーンにヒット曲を使って ミュージシャンに訴えられたり、抗議されるのは 決して珍しくないこと。
その理由は、ミュージシャンの殆どが、リベラルな思想を持つ民主党支持者で、 コンサバでキリスト教寄りの思想が強い共和党を支持していないどころか、時に毛嫌いしているため。 古くは80年代に、レーガン大統領が ブルース・スプリングスティーンのヒット曲「ボーン・イン・ザ・USA」を 政治イベントで使ったことに対して、スプリングスティーンが抗議したというエピソードがあるけれど、 そのスプリングスティーンといえば オバマ大統領の就任式でパフォーマンスを行ったことからも分かる通り、民主党支持者。
彼だけでなく、音楽業界はカントリー・シンガーを除いては、その殆どが民主党支持者で、 選挙の専門家は 共和党候補者はカントリー・ソングを選ばない限りは、テーマソング選びで今後もトラブルを抱えるであろうと予測しているのだった。
ちなみに、選挙でヒット曲が大きな役割を果たした好例と言われているのが、1992年の大統領選挙で ビル・クリントンが勝利した際に、そのキャンペーンのテーマソングとなった フリートウッドマックの「ドント・ストップ」。
クリントン陣営は、当時解散状態にあったフリートウッドマックの許可なしに同曲を使ったというけれど、 フリートウッドマックは、大統領就任式のために 特別に再結成パフォーマンスを見せただけでなく、 それがきっかけで、再結成ツアー、アルバムの発売を行ない、大成功を収める結果になったのだった。

「アイ・オブ・ザ・タイガー」に話を戻せば、何故ミット・ロムニー、ニュート・ギングリッチが共にこの曲を選んだのかは、 メディアが非常に不思議がっていたのが実情。 ミット・ロムニーはこれについて「ロッキーが好きだから」と説明していたけれど、 ロッキーといえばブルーカラーのヒーローで、共和党のマルチミリオネアとは無縁のキャラクター。
しかも「アイ・オブ・ザ・タイガー」が映画の中で使われた「ロッキー3」では、ロッキーが黒人ボクサーに敗れて チャンピンの座を奪われるシーンが登場するため、メディアは この楽曲のチョイスをジョークの対象にしていたのだった。

さて、その共和党候補者が選挙で中傷広告を展開し、お互いを叩きあっている間に、 失業率のダウン、予想を上回るG.D.Pのアップなど、経済の回復を示す数字が明らかになってきたことを受けて、 過去3ヶ月で6ポイント上昇したのがオバマ大統領の支持率。
ニューヨーク・タイムズ紙のライターによるデータ分析では、現時点で オバマ大統領が再選される可能性は60%になっているという。

そのオバマ大統領は、今週火曜日のヴァレンタイン・デイのプレス・カンファレンスの冒頭で、 アメリカの男性に対して 「自らの経験からのアドバイス」としながら、「今日がヴァレンタイン・デイであることを忘れないように!」と語って 笑いを誘っていたけれど、ヴァレンタイン・デイは欧米では男性が女性にプレゼントを贈る日。
そのヴァレンタインの出費にも景気動向が反映されるもので、 リーマン・ショックの約半年前の2008年のヴァレンタイン・デイは、男性1人当たりの平均的出費は128ドルであったけれど、 2010にはそれが68ドルまでに落ち込んでいたのだった。 でも昨年 2011年にはそれが、116ドルにまで持ち直し、 今年はまだ統計が出ていないものの、2008年の水準程度にはアップすることが見込まれているのだった。



さて、そのヴァレンタイン直前の先週末にニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたのが、 何故オンライン・デート・サービスでは、恋愛相手が探せないかという分析。
この分析を行なったのはノースウェスタン大学の社会心理学の教授、イライ・フィンケルであったけれど、 彼によれば、アメリカのデート・サービスの大手、Eハーモニー、パーフェクト・マッチ、ジーン・パートナー等に代表される メンバーのプロファイルをデータベース化して、共通点が多いメンバー同士のマッチメイクをする サービスでは、その関係が長続きする恋愛相手に巡り会える可能性が低いという。
こうしたサービスでは、自分の趣味や好み、ライフスタイルに合わせて、予めコンピューターで 選別された相手にのみコンタクトを取るシステムになっているため、 メンバー登録をする際には、多岐に渡る質問に答えなければならないもの。
でもその替わりに、ランダムに写真やプロファイルを見て相手を探すシステムよりも、 理想の恋愛相手に巡り会えるサービスと言われており、ここ数年、アメリカではどんどんメンバーを増やしてきているのだった。

フィンケル氏によれば、こうしたサービスの問題点は 恋愛相手の居ないシングル・ピープルのデータばかりを集めて、 長く結婚生活や恋愛関係を維持しているカップルの分析を怠っていること。 すなわち、恋愛のサクセス・フォーミュラを理解しないまま、共通点だけでメンバーをマッチメイク している点であるという。
共通点が多いというのは、一見カップルが上手く行く要因に思われがちであるけれど、 確かに、人種や宗教等に関しては同じである方が離婚率が低いことがレポートされているという。 しかしながら、パーソナリティや好みになってくると、結婚しているカップル2万3000組を対象にした調査によれば、 伴侶に対する満足度において 自分との共通点が 締める割合は僅か0.5%。 共通点が相手と上手くやっていくために決して重要ではないことが明らかになっているのだった。

私がこの記事を読んで、思い出したのが友人のケースで、最初の3回目のデートは、「共通点が沢山で、 話すことが沢山ある」ということで、相手の男性とすっかり意気投合していたのだった。 でも一通り自分達のことを話し終わったら、その後はすっかり話題がなくなってしまい、 彼女は「こんなことなら、最初の3回のデートで あんなに喋らずに、ネタを出し惜しみすれば良かった」と言っていたけれど、 出し惜しみしたところで、ネタが無くなるのは時間の問題。 結局、2人は その後退屈なデートを2〜3回して、別れてしまったのだった。
逆に、私の周囲で長続きしているのは 価値観やモラルなどは似通っているものの、 お互いの性格や趣味が「全然違う」と認め合っているカップル。 特に、お互いの無い部分を補い合っているカップルは、 お互いの有り難味が感じられるせいか、明らかに長続きする傾向が見られるのだった。
ところで、オンライン・デート・サービスのデータによれば、恋愛に妥協をしないのは 若い層よりもむしろ 60代以上の人々。 若い層は さほど恋愛感情が沸かなくても、条件が揃っている相手と上手くやっていこうとするとのこと。
でも年齢がアップしてくると、既に離婚などを経験して、愛情が無ければ一緒に暮らしていけない、 もしくは一緒にやっていけないということを学んでいる人々が多いためか、 恋愛感情において 妥協をしない傾向が強くなってくるという。 でも妥協をしない分、恋愛感情さえ高まれば、多少の犠牲を払ってまで 一緒になろうとするのも この世代とのこと。

人間というのは、年齢を重ねて 知恵が付くほど打算的になる傾向が強いけれど、 それがピークに達するのは40代前後。 それを過ぎると、仕事に関しても、恋愛に関しても、人生において後悔しないチョイスを選ぶ 傾向の方が高まってくる ようである。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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