Feb. 9 〜 Feb. 15 2015

"SNL 40's & 50 Shades" ”
SNL &フィフティ・シェイズに見るアメリカン・カルチャー


今週最も報道時間が割かれていたのは、東海岸を襲っている超低気温の大寒波のニュース。
今年に入ってからというもの、毎週のようにスノーストームや寒波が大ニュースになっているけれど、 今週末のニューヨークは20年来の低気温。 今日、日曜は強風のため 日中の体感温度がマイナス10度と言われていたけれど、 きちんと防寒装備を整えて外に出ると、最初の5分程度は さほど寒くないと感じるのだった。 ところが徐々に身体が冷えて、アイフォンやアイパッドは 100%充電していても、屋外で使用すると あっという間にバッテリーが減ってしまう状況。
また唇を閉じていないと歯が冷えて、口の中が冷たくなるのに加えて、 手袋をしていても 指につけているリングが外気で冷えるので、リングの数が多ければ多いほど、指が冷えてしまうのだった。
この寒さだと一軒家で起こりがちなのが、水道のパイプが凍って水が出なくなったり、それが原因による 家屋のダメージ。ニューヨーク市内はアパートメント・ビルディングが多いので、このリスクは少ないけれど、 ニューヨーク郊外やお隣のニュージャージー州ではパイプの凍結が かなり深刻な問題になっているのだった。
でも、もっと深刻なのはボストン(写真上右)で、今週末だけで30p以上の積雪があり、キャンセルされたフライトの数は400便。 この冬の積雪量は合計で240p。 毎年ボストンでは、除雪の費用として約20億円を用意しているというけれど、今年は現時点で 既にその2倍のバジェットを使い切ってしまい、その費用は更に嵩むことが伝えられているのだった。




そんな厳寒の今週末のニューヨークでは、2つのメジャーなイベントが行われたけれど、その1つはNBAオールスター・ゲーム。 このため新旧取り混ぜたNBAスター・プレーヤーがNY入りしていたのは言うまでもないこと。
でもそれより遥かに多くのセレブリティを集めたメガ・イベントになっていたのが、私がこれを書いている2月15日、日曜に行われた 人気番組 「サタデー・ナイト・ライブ」40周年記念イベント。 屋外の体感温度がマイナス10度を超える寒さとあって、レッド・カーペット上はテントで覆われて、暖房が入っていることが伝えられていたけれど、 「サタデー・ナイト・ライブ」は、アメリカのカルチャー、ミュージック、政治、スポーツなど様々な分野に 最も大きな影響を及ぼしたTV番組。
「サタデー・ナイト・ライブ」のキャストは、古くは 今は亡きジョン・ベルーシから始まって、エディ・マーフィー、ビル・マーレイ、その後、マーク・マイヤー、 アダム・サンドラー、ウィル・ファーレル、ティナ・フェイ、エイミー・ポーラー等、数多くが番組で知名度を高めた後、 ハリウッド映画で主演を務めるスターになっているのは周知の事実。 毎週、番組のホストを務めるのは ハリウッドスターや、ミュージシャン、スポーツ選手、政治家、ビジネスマンなど、ありとあらゆる類のセレブリティ。 それに加えて、毎週のようにセレブリティのキャミオ・アピアランス(飛び入り出演)があって、過去には歴代の大統領はもちろんのこと、ヒラリー・ クリントン、 サラー・ペイラン、モニカ・ルインスキー、マーク・ザッカーバーグ等が 予告も無しに登場しては、思わぬユーモアのセンスを見せるのもサタデーナイト・ライブの醍醐味。 4年ほど前にはマドンナとレディ・ガガが一緒にキャミオで登場したこともあったけれど、そんなスーパースターの顔合わせが実現するのも 「サタデー・ナイト・ライブ」ならでは。
80年代に「ビートルズ再結成が数十億円のギャラで実現するかもしれない」と報じられていた際には、「サタデー・ナイト・ライブ」で ビートルズ再結成にたったの30万円程度のギャラをオファーするパロディ・スケッチが放映され、それを観ていたジョン・レノンが ポール・マッカートニーに電話を掛けて、あわや「サタデー・ナイト・ライブ」のための再結成が実現しかけたこともあったほど。

また「サタデー・ナイト・ライブ」は大統領選挙の年になると、そのパロディ・スケッチが候補者のイメージを左右し、大統領選挙の行方にも影響を与えてきた存在。 世界中のTV番組を見回しても、これほどまでに長きに渡って、カルチャーや世論、政治に影響を与えているTV番組は存在しないと言えるのだった。
その人気とファンやセレブリティからの支持を支えてきたのは、いち早く世の中の出来事をコメディ・スケッチに落とし込んで、 最も旬の笑を誘うスピードもさることながら、 シャープでシニカルな、いかにもニューヨーク的なユーモアの視点。
また「サタデー・ナイト・ライブ」は、音楽史に残るライブ・ミュージック・パフォーマンスでも知られており、 今年グラミー賞の主要部門を受賞したサム・スミスにしても、つい最近のインタビューで、彼を最初にメジャーなライブ・パフォーマンスに 起用したのが「サタデー・ナイト・ライブ」で、そのパフォーマンスが彼のキャリアにとってのターニングポイントであったと語っていたほど。
今では「サタデー・ナイト・ライブ」のスケッチが、放映直後からソーシャル・メディア上でトレンディングとなることは珍しくないけれど、 その遥か以前から、「サタデー・ナイト・ライブ」は翌週月曜のオフィスで 誰もが話題にするコメディ・スケッチを提供し続けてきているのだった。




さて、今週は土曜日がヴァレンタイン・デイであったけれど、それに合わせて公開されたのが映画「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」。 全世界でメガ・ベストセラーになった同小説については、これが2012年にアメリカで出版された当時のこのコーナーで ご説明しているけれど、ヴァレンタイン・デイにボーイフレンドが居ない女性が、女友達と観に行く映画の筆頭に挙げられていたのが同作品。
ブック・レビューアーが「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」の著者の文章力の乏しさをコテンパンにけなしていたにも関わらず ベストセラーになったのは、SMの主従関係をファンタジー・ロマンスに持ち込んだコンセプト。 メイン・キャラクターは平凡な大学生のアナスターシャと、ルックス抜群の27歳のビリオネア、クリスチャン・グレー。

「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」の前に、SM系のロマンス映画が話題になった例としては、1986年に封切られたキム・ベイシガー(写真上中央、右側)の出世作で、 ミッキー・ローク(写真上中央、左側)が共演した「ナイン・ハーフ」(原題は「ナイン・アンド・ハーフ・ウィークス」)があるけれど、 この映画でキム・ベイシガーが演じたのは ソーホーのアート・ギャラリーに勤めるヒロイン、エリザベス。ミッキー・ロークが演じたのはウォール・ストリートの ブローカー、ジョン・グレイ。 キム・ベイシガーが演じたヒロインは、「フィフティ・シェイズ」でダコタ・ジョンソン(写真上右、右側)が演じるアナスターシャに比べると 年上なので 当然ではあるけれど、遥かにインディペンデントで、 キャリアもエスタブリッシュされた存在。逆にミッキー・ロークのキャラクターは、 「フィフティ・シェイズ」でジェイミー・ドーナン(写真上右、左側)が扮するビリオネアのクリスチャン・グレーに比べると、ただの平民に過ぎない経済状態。
したがって、エロティック・ロマンスの世界でさえ、主従関係において貧富の差が大きく開いていることを実感するのだった。


「ナイン・ハーフ」のヒットで、ミッキー・ロークが一躍女性の間で 「最もセクシーな男優」として人気を博したのに対して、 「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」は、最初にクリスチャン・グレー役にキャストされたチャーリー・ハナムが 「小説のイメージとはかけ離れている」として、ファンから複数の反対署名運動が起こり、クランクイン前に降板したのは その当時、このコーナーでご説明したとおり。
その後キャストされた 元カルバン・クラインのモデル、ジェミー・ドーナンについても、 やはり「小説のイメージとは違う」、「クリスチャン・グレーを演じるには魅力不足」といった批判が、 映画のレビューと共に、一般の人々から聞かれるような有様。 なので、いかに多くの女性が小説を読みながら、自分が思い描くクリスチャン・グレーのファンタジー像を築き上げていたかが窺い知れるけれど、 キャスティングの段階でメディアが行ったアンケートで、最も多くの人々がクリスチャン・グレーのイメージに近いと答えた俳優は アーミー・ハマー(写真上左)なのだった。

今週、封切に先駆けて行われた試写では、レポーターが「今年のヴァレンタイン・デイは、ワイフやガールフレンドに ファンシーなギフトを贈らなくても、ハードウェア・ショップに行ってロープを買ってくるだけでOK!」とジョークを飛ばしていたけれど、 キャストされた俳優を降板に追い込むほど、小説のファンが強烈なファンタジーを抱いているということは、 カップル間で そのシミュレーションをしたところで、女性が頭の中で思い描くのは、自分が理想とするクリスチャン・グレー像。
特に小説や映画のシーン同様に、ブラインドフォルド(目隠し)でプレーをしていた場合、 尚のこと そのファンタジーに入って行き易いのは言うまでもないのだった。

果たしてそれが浮気とカテゴライズされるかは別として、ハーレクイン・ロマンスが女性の間で永遠のベストセラーになっていることからも分かる通り、 女性は映画や小説のフィクショナル・キャラクターに恋をし易い生き物。 「フィフティ・シェイズ・オブ・グレー」にしても、著者、E L ジェームスは普通のおばさんというルックスの主婦。 その彼女が「トワイライト・シリーズ」のエドワードにファンタジーを抱いて、トワイライト・ファンのノンフィクション・ウェブサイトに寄稿したのが このベストセラー小説の始まり。
そう考えると、もしワイフやガールフレンドが「フィフティ・シェイズ」のシミュレーションSMプレーをしたいと言った場合、 男性はそのファンタジーの対象が自分ではなく、 クリスチャン・グレーであるかもしれないことを考慮すべきなのだった。


Will New York 宿泊施設滞在



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。




PAGE TOP