Feb. 21 〜 Feb. 27 2005




オスカー・メイクオーバー



私がこれを書いている2月27日は、ご存知のように第77回アカデミー賞授賞式の日で、 アメリカでは東部時間午後8時からプレ・オスカー・ショーが始まり、授賞式は8時半からスタートしたけれど、 今回のオスカーは、ここ数年の視聴率の低下を反映し、ショーのスピードアップと若返り、及び 若い視聴者の獲得が最優先課題とされているものだった。
というのも、アメリカでは長くオスカーがスーパーボウルに次ぐ年間の最高視聴率番組になっていたものの、 そのマンネリ化や、退屈で長すぎる番組構成から、若い層を中心にオスカー離れが続き、 過去数年は、「サバイバー」や「アメリカン・アイドル」といったリアリティTVの最終エピソードが、 オスカーの視聴率を上回るという不名誉が続いていたのである。
このため、今回のオスカーに要求されていたのはメイクオーバーで、それを実現するためにホストに選ばれたのが、 若手黒人コメディアンのクリス・ロック。 彼は、F ワード (放送禁止用語である「ファック」のことを、アメリカではエフ・ワードと呼んでいる) を連発する、 シャープな時事風刺やセレブリティ・ジョークで知られる存在であるだけに、「全米ネットで放映されるファミリー番組であるオスカーには 不向きなのでは?」という憶測や論議を呼んでおり、このためクリス・ロックは、数多くのメディアに登場して 「自分はオスカーのホストを問題なくこなせる」とアピールしなければならなかった状態で、 それほどに彼の起用は、オスカーの歴史を振り返ると、大胆なキャスティングと言えるものであった。
ショー開始早々、クリス・ロックはホストとしては 極めて異例なスタンディング・オーベーションでステージに迎えられ、 それには彼へのサポートや期待が込められていたと言えるけれど、 私の個人的な感想では、彼のホストぶりは期待外れと言えるものだった。 いかにも彼らしいシニカルなジョークには、会場の観客の反応が鈍く、オープニング・モノローグでは 笑わせてくれる部分もあったものの、 彼の黒人的なジョークは、時に空回りしていた印象が強かったし、最初に口を開いた瞬間から「yo ass」という、オスカーらしからぬ言葉が 含まれていたのにも 少々度肝を抜かれてしまった。
評価出来る点は、無駄なトークが少なかった点で、これまでのホストの中で最も喋りが少なかった割には、 インパクトがあったのは事実である。さらに彼が短いトークのペースメーカーとなったお陰で、 受賞者のスピーチが例年より遥かに短くなったことも評価される点で、大方のハリウッド関係者は、 彼のホストぶりをそれなりに評価しているのが実際のところである。

その一方で、今年のオスカー・メイクオーバーの一環として、話題と物議を醸していたのは、 ノミネート者を全員ステージに上げて、受賞者を発表するという新しい試み。 この試みがオスカー・プロデューサーから授賞式の2週間前に発表された時点では、 俳優部門のノミネート者から大変な反発があったことが伝えられているけれど、 これはもちろん、彼らが賞を逃した姿をステージ上でさらしたくないため。
でも実際には、この新しいスタイルで受賞者が発表されたのはアート・ディレクション、 コスチューム・デザイン、ドキュメンタリー、ビジュアル・エフェクト、サウンド・ミキシング、 サウンド・エディティング部門で、この企画は通常、舞台裏で働いている人々に スポットライトを当てるという目的だけでなく、 時間の節約にも大いに貢献していると言えるものだった。 というのも、こうした部門のノミネート者は通常会場の後ろの方に着席しているため、 受賞者がステージに上がるまでに かなりの時間を費やすためで、今回のようにステージ上にノミネート者が全員上がっていれば、 受賞者は数歩前に出て、オスカー像を受け取って、直ぐにスピーチが始められる訳で、 その分、番組進行がテンポ良く、スピードアップしたイメージになっていた。

また、もう1つの新しい試みとしては、客席で受賞者にオスカーを手渡すというものがあったけれど、 これはケイト・ブランシェットがプレゼンターを務めたメイクアップ部門 (写真右) を始め、 ライブ・アクション・ショートフィルム、ショート・アニメート・フィルム部門等に用いられたプレゼンテーション。 こちらも客席の通路にスピーチ用のマイクが用意され、受賞者が直ぐにスピーチを行うことが出来るようになっており、 客席に更なる臨場感を与えると同時に、放映時間の短縮に役立つものになっていた。
さらに、授賞式に先駆けて発表された技術部門の受賞者紹介は、プレゼンターのスカーレット・ジョハンソンによって、 ステージ右手のバルコニーから行われており、このようにオスカー授賞式のために建てられたコダック・シアターをフルに 活用したプレゼンテーションが行われたのも、今回初の試みと言えるものだった。
でもこうした授賞方法を見ていて 気が付くのは、作品、監督、俳優部門、及びオリジナル・スコア、脚本賞 といったプレステージの高い賞が、従来通りの 客席から受賞者がステージに上がるスタイルで発表されており、 次いで、ステージ上にノミネート者を並べるといった発表方法、そして次が客席でのプレゼンテーションと、 ハリウッドのヒエラルキーが、授賞方法に如実に反映されていたということ。 こうした上下関係はハリウッドのインサイダーならば、十分に理解しているものであるけれど、 それに対して分け隔てなく、同じスタイルで賞を与えていた従来のやり方の方が、民主的なイメージがあったような気がするのは事実である。

この他のメイクオーバーとしては、プレゼンターにP.ディディ、プリンス、オーランド・ブルーム、キアスティン・ダンストといった 若い層にアピールする顔ぶれを多く揃えていたのに加え、主題歌賞ノミネートのパフォーマンスも オリジナル・パフォーマーがパフォーマンスを行うという慣例を破り、 5曲中3曲をビヨンセが歌うという異例の取り計らいで、MTVゼネレーションへのアピールが見られていた。
スピーチも主要部門以外は30秒、名前の羅列は極力控えるというアカデミー側のお達しが 今年ばかりは かなり守られており、 これらの時間節約の工夫が実って、ショー自体が終了したのは東部時間の11時40分。 その後テロップが流れて、番組が終了したのは11時45分で、正式発表で3時間15分という放映時間は、 私がアメリカで見た過去15回のオスカーの中でも最短に短いものであったし (メディアの発表によれば、 近年の最短は「シンドラーズ・リスト」が作品賞を獲得した1994年の3時間10分であるという)、 例年の平均に比べて1時間前後短いものだった。


ショー放映直後のリアクションでは、一様にサクセスと見なされていた今回のオスカー・メイクオーバーであるけれど、 実際には、本当にオスカーにメイクオーバーが必要とされるのは、ショーの構成や進行以前に、 カテゴリー部門の見直しと言われていたりする。
現在ハリウッドのインサイダーの間で、最も物議を醸しているのは、俳優に代わって危険度の高いアクション・シーンをこなす スタントマンに対するカテゴリーが設けられておらず、事実上彼らの身体を張った演技が、 アカデミーから全く無視をされ続けているという問題である。 今日、2月27日付けのニューヨーク・タイムズ紙には、スタントマンズ・アソシエーション・オブ・モーション・ピクチャーズ のプレジデント、コンラッド・パルミザーノ氏執筆による意見記事が掲載されていたけれど、 それによれば、スタントマンは、ディレクターやプロダクション・デザイナー、スペシャル・エフェクト(特殊効果)のチーム、 俳優らと肩を並べて映画制作に携わっているにも関わらず、スタントマンに対するカテゴリーのみがオスカーに設けられていないというもので、 たとえ俳優本人が、危険度の比較的低いスタントを自らこなしたとしても、 そのアクションの一部始終はスタントマンの度重なるトライアルを通じてデザインされたものであるという。
彼らは、危険なスタントをこなすために、常にトレーニングを重ね、動きやセットのタイミングを学ばなければならないと同時に、 状況に応じて、自分達の身を守るための機転を利かせたアクションが要求されるという、非常にプロフェッショナル度の高い仕事を 請け負っている訳で、これが長きに渡って、アカデミーからその栄誉が与えられず、映画制作への貢献が認識されていないことは、 スタントマンならずとも不思議に思えるものなのである。
アカデミーは1991年の時点で、スタントマンの功績を認めたとして、彼らにアカデミーのメンバーシップを与え始めたけれど、 スタント部門をカテゴリーに加えることには首を縦に振らない状況が続いており、 パルミザーノ氏は、「アカデミーの役員と実際に対面して、スタント・カテゴリーの設立を アピールしたい」と この記事の中で述べている。

その一方で、スタントマン同様に、オスカーで無視されがちなのはコメディ映画で、 人を笑わせる映画を製作するのがいかに難しいかを認識するアカデミー・メンバーは多いものの、 コメディがアートとして認識され難いことを嘆く声が多いのが現状である。 中には、「アニメ部門を設ける前にコメディ部門を設けるべきだった」という指摘も聞かれているけれど、 オリンピックの種目のように、時代に対応してどんどん増やしていける訳ではないのがオスカーのカテゴリーである。
総じて今回のオスカーは、時間が短かったというだけでも メイクオーバーに成功している印象であるけれど、 こうした本当にメイクオーバーされるべき点については、まだまだ野放しになりそうな気配であることは、 残念な限りと言わなければならないと思う。

さて、余談ではあるけれど、オスカーはノミネート者、プレゼンターはノー・ギャラで出演するイベントであり、 その見返りとして受け取れるのがギフト・バッグ、別名 フリービーと呼ばれる品物の数々である。
今年、ノミネート者が受け取ったのは約500万円相当のギフト・バッグ、プレゼンターが受け取ったのは1000万円相当のギフト・バッグで、 前者には20万円相当のサーモン・ステーキとセラピストとのセッション、後者には超ハイテク掃除機、6万円のオリーブオイル等が含まれていたそうで、 これらはもちろんスポンサーから無料で提供されているもの。
さらにオスカー終了後に、メディアや映画会社の主催で行われるパーティーで配布されるギフト・バッグも今年は超豪華であることが伝えられており、 パーティー参加者全員に50万円相当のギフトバッグを配布するパーティーも珍しくないとのことである。
中でもドリーム・ワークスのアフター・パーティーでは、抽選で1名に来年まで発売されない 新車のジャガーがプレゼントされることになっているという。



Catch of the Week No.3 Feb. : 2月 第3週


Catch of the Week No.2 Feb. : 2月 第2週


Catch of the Week No.1 Feb. : 2月 第1週


Catch of the Week No.5 Jan. : 1月 第5週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。