Feb. 19 〜 Feb. 25




”セレブリティ・ペイン ”



今週のアメリカと言えば、先週末に頭を剃ってしまったブリットニー・スピアーズの報道で引き続き持ちきりであったけれど、 ことに頭を剃っている男性のことを 「ブリットニー・スピアーズ・カット」 と呼ぶのは、ちょっとしたトレンディ・ジョークになっていた。
ブリットニーが頭を剃ったのは、先週リハビリから24時間で抜け出してきた翌日のこと。 週明けに再びリハビリ入りをした彼女は またもや24時間で出てきてしまい、その翌日にはまたリハビリに戻るという出入りを繰り返していたために、 報道するメディアもさすがに疲れ気味で、金曜の時点では 写真右のニューヨーク・ポスト紙のように、「Do-It-Yourself Headline」と銘打って、 ブリットニーの最新情報に応じて、読者がブリットニーがリハビリ入りしたか、リハビリから出てきたかを見出しに書き込むという 皮肉交じりの報道さえも見られていたのだった。

でも、セレブリティが英語で ”Break Down / ブレークダウン” と表現される、リハビリ入りを必要とするようなコンディションに なってしまうことは決して珍しくはないこと。 かつてはマライア・キャリーも錯乱状態になり、それを母親がやっとの思いで沈めてリハビリに連れて行ったことがスキャンダルになっていたし、 2年前から昨年に掛けてのトム・クルーズもリハビリ入りこそはしなかったものの その奇行ぶりが故に パラマウント・ピクチャーから 契約更新がなされないという 事実上のクビ状態になってしまい、彼の行動、言動の数々はゴシップ・メディアの格好のネタになっていたのだった。 この他にも 昨年夏に 飲酒運転で逮捕された際に、人種差別発言をして吊るし上げを食うことになったたメル・ギブソン、 パーティー三昧、ドラッグの使用、失恋がたたって今年初めにリハビリしたリンジー・ローハン等、セレブリティ・ブレークダウンは 例を挙げればきりがないのである。
こうしたブレークダウンの症状を見せるセレブリティに対するメディアや一般の人々のリアクションというのは 冷ややかなもので、メディアはビッグなセレブリティがブレークダウンを見せてくれれば それだけ雑誌が売れるため 執拗に追いかけては 大きく報道するし、一般の人々にとってはピークを過ぎたスターが落ちぶれていくのを見るのもエンターテイメントの一環なのである。 でも、一度落ちるところまで落ちたスターのカムバックを好むのも人間心理であり、 ことにアメリカは 「誰にでも”セカンド・チャンス” が与えられるべき」 という社会。
セレブリティも株価の原理と同様で、一度底を付けたら後は上っていくだけ・・・ということで、ブレークダウンを見せたセレブリティでも 必ず 様々な形でのカムバックの仕掛け人というのが出てくるものなのである。

さて今日2月25日、日曜はアカデミー賞授賞式が行われるオスカー・サンデー。 映画&メディア関係者のみならず、 ファッション、ビューティーを始めとする 様々なビジネスのエグゼクティブたちが、このイベントのために ロサンジェルスに大集合する日である。
オスカー授賞式というと、傍から見ているとノミネートされた俳優、プレゼンターとして登場するセレブリティ以外には 無関係のイベントのように見えるけれど、実際 授賞式自体に訪れるセレブリティの数は限られているのが実状。 しかしながら、オスカー・ウィークにはハリウッドで様々なパーティーが行われる上に、当日にはプレ・オスカー・パーティー、 授賞式が終われば 例年カリフォルニア州知事(現在はアーノルド・シュワルツネッガー)が主催するガバナーズ・ボウルという 晩餐会が行われ、それと共に各映画スタジオが主催するアフター・パーティー、先週もこのコーナーで触れたヴァニティ・フェア誌がレストラン、 モートンズを会場に行うパーティー、エルトン・ジョンがホストするエイズ・ファンデーションのパーティーなどが 盛大に行われ、最後のパーティーではブレックファストが出されるというから、朝までノン・ストップのパーティー・シーンが繰り広げられるのがこの日である。
そして、こうしたオスカー関連パーティーは 駆け出しのセレブリティにとっては スタジオ・エグゼクティブや映画監督と 知り合ったり、自分を売り込む絶好のチャンスであり、既にエスタブリッシュされたセレブリティにとっては、 例え暫く映画に出ていなくても 自分のハリウッドにおける存在を示す、もしくは示さなければならない時。 なので これらのオスカー・パーティーに足を運ぶセレブリティの数は、芸能&ゴシップ・メディアがスナップするより遥かに多かったりする。

さて、多くのハリウッド・セレブリティはLAに自宅を構えているものであるけれど、オスカーの日に関しては 授賞式に出演&出席するセレブリティは LAに自宅があろうともホテル、それも授賞式会場のコダック・シアターから程近いビバリー・ヒルズのホテルに滞在するのが 例年の慣わしになっている。
これは交通渋滞に巻き込まれることなく 会場に着けるということもあるけれど、多くのメークアップ・アーティストやヘア・スタイリストが 複数のセレブリティを掛け持ちで担当しているため 自宅まで出向いてくれないこと、 またホテル内には通常 ショッパール等の有名ジュエラーや ヴェルサーチのようなデザイナー・ブランド、ジミー・チューのようなシューズ・ブランドがブースを構えているので、 万一、ラスト・ミニッツにドレスやジュエリーを変えたくなった際には、直ぐに届けてもらえるのもセレブリティにとっては魅力なのである。
オスカー・サンデーにセレブリティが滞在するホテルとして最もステイタスが高いのは、 フォーシーズンス・ビバリーヒルズで、フォーシーズンスはビバリー・ヒルズに2つのロケーションを持つけれど、 ここで言うのはビバリー・ウィルシャー沿いではなく、サンタモニカ・ブルバードに程近いドーニー・ドライブの方。 コダック・シアターにはリムジンで5分という絶好のロケーションである。
同ホテルは全285室中 98室がスウィートルームになっていて、最も高額な部屋の中にはプレジデンシャル・スウィート(写真左)があるけれど、 ここは1泊のお値段が5300ドル、日本円にして約64万円。 でも同ホテルのスウィート・ルームにはオスカーの1週間前からは どんなに前から予約を試みても宿泊することは不可能で、 それというのもオスカー・ウィークは ホテル側が、スウィート全室を 映画業エグゼクティブのためにキープしておくためである。
今年も60人の有力なノミネート者 (主にプロデューサー、映画監督、大物俳優ら) が同ホテルに滞在することになっていたけれど、ノミネート者以外のセレブリティが 同ホテルに滞在するのは、「オスカーにノミネートされるより難しい」と言われるもの。 通常ならば、ハリウッドであろうと、ミラノやパリであろうとセレブリティのマネージャーが電話を1本掛ければ、 喜んでセレブリティにスウィートを提供するホテルは多いものだけれど、オスカー・ウィークのフォーシーズンス・ビバリーヒルズでは そんなセレブリティのネーム・バリューは全く通用しないのである。
彼らが部屋を取れるとすれば、映画スタジオのエグゼクティブの口利きがあった場合のみ。 すなわち、オスカー・ウィークは映画業界の本当のヒエラルキーが明らかになる時期とも言えるのである。

一般大衆から見れば、映画1本に出て$10〜20ミリオン(12〜24億円)を稼ぐハリウッド・スターは ”メガ・リッチ” と言える存在であるけれど、 実際には彼らを使って映画を製作しているスタジオ・エグゼクティブの方が遥かにリッチでパワフルな訳であるし、 オスカーのスポンサーとなる企業のトップ・エグゼクティブにしても然りである。
かつてビジネス・エグゼクティブやスターを対象にコール・ガール・クラブを経営し、”ハリウッド・マダム”と呼ばれ、脱税で逮捕された ハイディ・フライにしても 「セレブリティ・イズ・チープ!」 と言い、彼女の上等顧客は常にビジネス・エグゼクティブ達であったことを匂わせていたのだった。
こうしたトップ・ビジネス・エグゼクティブ達が授賞式やパーティーに出席する際、女性のスタジオ・エグゼクティブなら セレブリティのように一流デザイナーからオスカー・ドレスを提供され、セレブリティ顔負けにスタイリストが付いている場合が殆どである。 すなわち一般には名前が知れていないし、レッド・カーペットの上を歩くことは無いものの、 セレブリティと同様、往々にしてそれ以上の扱いを受けているのがスタジオ・エグゼクティブやスポンサー・エグゼクティブなのである。

その財力にしても、例えばブリットニー・スピアーズが何年ものキャリアで全世界で何百万枚ものレコードを売って、ツアーに出て、CMに出演しても 総資産は約180〜200億円。パリス・ヒルトンなどはあれだけ ありとあらゆる場所に登場して2005年の収入は3.5億円、しかもこれは課税前である。 これに対して、映画スタジオのトップはビリオネア(1千億円長者)を筆頭に、ブリットニーの2〜3倍の資産を持っていても珍しくないもの。
昨年パリス・ヒルトンの遊び友達として知られるオイル・マネー・ビリオネアの孫息子、ブランドン・デイビスが リンジー・ローハンのことを 「9億円しか財産が無いなんて 貧乏だ」と馬鹿にして顰蹙を買っていたけれど、 そのブランドン・デイビスは一銭も稼ぐことなく 生まれた途端にビリオネアだった訳である。
これを思うと、ブリットニー・スピアーズやリンジー・ローハンのように 子供の頃から仕事をして、アイドルになった途端に自由な時間も プライバシーも無くなってしまい、人間的に成長する前に大人に扱われて、一度遊び始めたら歯止めが利かなくなって 遂には リハビリ入りというのは あまりに気の毒な話である。
セレブリティは成功している時は映画スタジオやレコード・レーベルの財源となり、スキャンダルを起こせばメディアのドル箱となるけれど、 常に彼らを使って、彼ら以上に儲けている人間が居るもの。
おまけにセレブリティは、ファンやメディアに追いかけられるために、ミリオネアが暮らすニューヨークで最もエクスクルーシブなCo Up(コ・アップ)には 住ませて貰えないし、今回のブリットニー・スピアーズにしても彼女が希望したリハビリ施設は 彼女が来ることによってメディアが押し寄せて、他のリッチ・クライアントに迷惑が掛かることを理由に入所を断わったことが伝えられている。
しかし、こうしたお金やパワーの図式は世間一般にはあまり知られていないだけに、セレブリティに憧れたり、 ハリウッド・スターを目指す人々は多くても、スタジオ・エグゼクティブやオイル・ビリオネアを夢見る人々は極めて少ないのものである。



Catch of the Week No.3 Feb. : 2 月 第3週


Catch of the Week No.2 Feb. : 2 月 第2週


Catch of the Week No.1 Feb. : 2 月 第1週


Catch of the Week No.4 Jan. : 1 月 第4週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。