Feb. 16 〜 Feb. 22 2009




” 心のニルバーナ ”


今日、2月22日は言うまでも無くオスカー・サンデー。
オスカーの授賞式自体はアメリカ東部時間8時半からであったけれど、レッド・カーペット上のファッションやインタビューを映し出す 番組は午後6時から放映されており、今年もオスカーは授賞式自体よりも登場するセレブリティとそのファッションに関心が集中している ことを感じさせていたのだった。
でも1月に行われたゴールデン・グローブの時よりも 更に経済が悪化していることを受けて、 セレブリティが控えめなジュエリーを選ぶと同時に、借り物とは言え 以前のようにインタビューで、 ”このブレスレットだけで2億4千万円” などとと そのお値段をひけらかさないように 景気に対する気遣いがされているとのことだった。
また今週、ニューヨークではファッション・ウィークが行われていたけれど、 関係者に言わせれば 「こんな沈んだムードのファッション・ウィークは初めて」とのことで、多くのデザイナーが 盛大なアフター・パーティーをキャンセルした他、 ショーの規模を小さくし、グディーズ・バッグと呼ばれる招待客へのお土産を無くしたり、もしくはその中身の質を落とすなどして、 バジェット・カットを行っていたのだった。
通常だったら、ファッション・ウィークは セレブリティ、モデル、世界のファッション・メディアが一堂にニューヨークに集まるので、 期間中は 新たにオープンしたホットなクラブやレストランをロケーションにいくつもの華やかなパーティーが行われるもの。 一方のクラブやレストラン側にしてみれば、ファッション・ウィークに合わせて 新しい店をオープンすることによって、 そのパーティーをメディアに取材してもらい、パブリシティを獲得しようとするのが通例であるけれど、 今回に限っては それが望めないため、 もっと暖かくなって人々が夜遊びを始める時期までオープンを延期する傾向にあるという。
そうなってしまうのも無理も無いと思えるのは、1月にニューヨーク市内で閉店に追い込まれたレストランの数は何と40軒。 多くのレストランが、安価なプリフィックス・メニューを提供しているにも関わらず、客足が遠のいているという。
ファッションに話を戻せば、ファッション・ウィーク中にバイヤーの間で聞かれていたのは こんなリセッション下では、 「既にクローゼットにある服に対して人々はお財布を開かない」、「景気が悪くても購買欲をそそられるようなエキサイティングなファッションでなければ・・・」、 ということで、いわゆる ” 無難で 安全” と思われるファッションこそが ビジネスの見地からは ”危険” である と見なされていたのだった。

さて、私のようにスモール・ビジネスを営んでいると、昨今、 会う人々に言われるのが 「こんな時期だから(ビジネスが)大変でしょう」ということ。
でも私に言わせれば、スモール・ビジネスというのは何時でも大変な訳で、キューブのビジネスをスタートしてから、 一度たりとて 「将来も安泰」などという気持ちを抱いたことは無いので、 リセッションだから特別に危機感があるかといえば、そういう訳ではないのである。
売れている商品があって、売上が順調な時でも 「これが売れなくなった時に それに 替わる商品が出てくるだろうか?」とか、 「何時までこの商品の価格が維持できるだろうか?」というような不安や危機感は常にあるし、 高い税金や様々なコストについての心配、お客様に対するサービスやクレームへの対処、 サイトの記事の更新やその内容も常に頭の中にある問題。 でも だからと言ってコンピューターの前に座って、仕事だけをやっていたら 世の中が分からなくなくなってしまうので、 外に出て情報収集をしたり、いろんな人と話もしなければならない訳で、 気が付くと生活の全てが仕事中心で回っているけれど、それが続けられるのは、 自分が好きでこのビジネスをやっている ということに加えて、「スモール・ビジネスなんてちょっと手を抜いたら 簡単に潰れてしまう」 という 危機感に煽られている部分も非常に大きいのである。

でも 先日出掛けたパーティーの最中、 私がブラックベリーでメールを読みながら 2回もため息をついていたのだそうで (私はため息をついた ことさえ覚えていない)、その様子を見た知人が「気分転換に・・・」 と誘ってくれたのが2つのイベント。
その1つは、メディテーション(瞑想)の クラスで、インド人インストラクターが1時間半に渡って、瞑想のやり方から 丁寧に教えてくれるというもの。 そこで 瞑想を学んでからは、「それまでレイオフを恐れて眠れなかった人が 良く眠れるようになった」 とか、 「ストレスフルな状況に置かれた時に、5分程度瞑想するだけで、穏やかに処理することが出来るようになる」 とその効用が説明されていたのだった。
もう1つは、占いのイベントで タロット、クリスタル・ボール(水晶球)、手相、サイキック など、その道のベテラン 占い師が 一堂に集まる中、自分が試してみたい占い師、2人 を選んで 占ってもらえるというもの。 実際、占いのビジネスは、リセッションに入ってからというもの 大盛況が続いているそうで、 先が見えない時代であるだけに自分の将来がどうなるのかを知りたい人や、自分では決断できないことに対するアドバイスを求める人が 占い師に相談するケースが増えているという。
かつては「私は結婚出来るでしょうか?」 というような質問が多かったのに対して、昨今では「私はレイオフされるでしょうか?」とか、 「この投資を止めて現金化しておくべきでしょうか?」というような相談が多いという。

私の場合、占いは 母がやっていることもあって あまり必要としていないのに加えて、 胡散臭い占い師に会うと 真顔が保てなくて 笑ってしまったりする悪いクセがあるので 占いのイベントはお断りして、代わりにメディテーションのクラスに友人と一緒に出かけることにしたのだった。
とは言っても 私は瞑想というものが全く出来ないタイプ。 以前もヨガのクラスで、瞑想を少しかじったことがあったけれど、その時点で 私は自分には 雑念が多過ぎて 心を空っぽにすることは 不可能と判断していたのだった。 でもそのクラスは インストラクターが 本場のインド人で、しかもそれを受けた人は ”心のニルバーナ” を見出しているとのことなので、 「ひょっとしたら私のことも その心のニルバーナ とやら に導いてくれるかもしれない!」 という ほのかな期待感を抱いて セッションに参加することにしたのだった。

クラスが行われたのは日曜の午後2時で、事前に 「満腹の状態では瞑想が出来ないので、昼食は軽めに」 という指示があり、 加えて 「10分セッションに遅れたら、入場はお断り」 で 、その場合 「先払いした料金の返金はしない」 という厳しいポリシーが 提示されていたのだった。
なので、この日 昼まで寝ていた私は、大急ぎでタクシーに乗って セッションに駆けつけることになったけれど、 クラスは12人という少人数制。 メディテーション・ルームは日当たりが良く 静かで、お香が焚かれていたのだった。
そのセッションでは、最初にメディテーションについて簡単な説明がされ、最初は座って行うメディテーション、 次に 横になって行うメディテーションを学ぶというのがその構成。 いざメディテーションに入ると、ニューエイジの音楽が掛かり始め、 まずは呼吸に集中するようにとの指示があり、 暫くはその通りにしながら 何も考えないようにしていたのだった。
ところが、気分良く集中できると思ったのも束の間、インストラクターがインド訛りの強い英語で、 定期的にいろいろなことを語りかけてくるので、私はこれが気になって全く集中が出来ず、 心の中で 「うるさ〜い!」 と叫んでいたのだった。 インストラクターが語っていたのは 「経済の心配、仕事の心配、生活の心配、家族の心配から 精神を解き放って・・・」といった ものだったけれど、後日 ヨガのインストラクターを目指しているキューブのスタッフに訊いたところ、 インストラクターが定期的に声を掛けるのは 雑念を抱きそうになった意識を引き戻すためであるという。
でも私の場合、これが逆に 雑念のソースとなってしまい、最初に彼が語りかけを始めた時には、 そのインド訛りから パシュミナ業者のことを頭に描いてしまい、 ”最近届いたパシュミナの検品が未だ済んでいない” ことを思い出してしまったのだった。 それに止まらず、インストラクターが 何かを語りかける度に、そこから雑念のイマジネーションが生まれてきてしまい、 結局のところ 瞑想の間中、私の頭の中では雑念が雑念を生む状態が繰り返されることになってしまったのだった。

そうするうちに、次の横になって行う メディテーション になったけれど、その段階で強いられたのが睡魔との闘い。 今年に入ってから税金のファイリングの準備で睡眠時間が減っている私にとって、 横になって目を閉じていたら 眠ってしまうのはごく自然のこと。
でも セッションを受けていた中には 私より 眠たかった人が居た様で、メディテーションが始まって程なくすると、 ニューエイジ音楽に混じって いびきが 聞こえてきたのだった。 しかもその いびきが、何とも言えない動物的な いびきで、私は思わず吹き出してしまったけれど、 私が笑ったのを聞いて 安心したのか、 他の2〜3人もクスクス笑い出してしまう始末。 なので、インストラクターが そのいびきの主を 起こしに行って、とりあえず いびきは一段落したけれど、 その数分後には またしても いびきがスタートしてしまい、 その時点では 私を含む 数人が同時に笑い出してしまっていたのだった。
このため、横になって行うメディテーションは その殆どを睡魔 と笑いをこらえる 闘いに費やしてしまい、 精神を集中したり、心を空っぽにする などというのは 全く論外な状態に終わってしまったのだった。
結局1時間半のセッションは、私にとっては一体何をしていたのか分からないものになってしまったけれど、 これで 自分に 瞑想が 如何に向いていないかが良く分かったので、 今後は 無駄な努力をしないで済むことが 唯一の収穫と言えるものなのだった。

後で、別の友人にこの瞑想セッションの話をしたところ、私のように記憶力の良い人間というのは 瞑想をして心を空っぽにするのが難しい といわれたのだった。
というのも記憶というのはミルフィーユのように何層にも重なっているもので、記憶力の良い人というのは 自分の目で見た光景や耳で聞いた言葉をきっかけに、下層の記憶を掘り出してきては 頭の中でリプレーすることを 無意識のうちに行っているのだそうで、その脳の活動が活発であるため、 瞑想のように それをストップしなければならない状態には向いていないのだという。
さらに、その友達によれば 深刻な経済危機に突入してからというもの、 自分の精神を穏やかに保つため、また自分の人生の意味を見つめ直すために、 「自分をリセットしたい」と考えている人は多いそうで、 サイコセラピストのセッションにも、そうしたクライアントのニーズが反映され始めているとのことだった。
例えば、彼の知人が受けた1時間600ドルのサイコセラピストのセッションで行われたのが、 幸福度と人生に望むものをチェックするための簡単なテスト。 そのテストとは、「ピンボール・マシーンに3発のボールが用意されているのと同様に 人生にも3回のチャンスが 与えられて、 それぞれの人生を自分で好きなようにデザインできるとしたら・・・」 というもので、 最初の質問は、その3回のうちの 1回を今の自分の人生に使うか?というもの。 そして、自分がデザイン出来る人生に何を望むか? が2つ目の質問である。
この回答として、今の自分の人生を3回のチャンスの1回として使いたくないという人は、現在の人生への幸福度や満足度が 極めて低い人であるのは言うまでも無いこと。 それと同時に 3回の人生をどうやって使いたいか?の 回答が 瞬時にドンドン浮かんでくる人も、 満たされた人生を送っていないケースが多いという。
その自分でデザイン出来る人生に望む物には、今の人生で 求めても 得られないものが現れることになるけれど、 その例を挙げれば、600ドルのサイコセラピーのセッションを受けるようなお金持ちの中にも、 お金のコンプレックスを持っている人は沢山居るようで、「ビル・ゲイツのような世界一の大富豪になりたい」という人も居るというし、 ジェームス・ボンドのような フィクションのキャラクターを持ち出してきて、自分の人生に無いスリルを求める人も居るという。 また「美しい容姿で、人から愛されたい」というような、ルックスと異性にモテなかったコンプレックスを 違う人生で払拭したい人も少なくないという。
更に多いのが、「セレブリティになって人から注目を浴びる存在になりたい」 というもので、時に「昔のガールフレンドや、思いを伝えられなかった女性と一緒になりたかった」というような 希望も聞かれるという。
もちろんサイコセラピストとのセッションは、会話を続けることによって こうした個人の回答を掘り下げて、 その人にとっての人生の価値観や真の幸福感を探り当てて行くことになるけれど、 「レーサーになってみたい」、「野球の選手になってみたい」というような子供の頃からの職業的な夢を挙げる人は、 比較的 現在の生活でも幸せで コンプレックスが少ないと 分析されるとのことだった。

今や 時代が歴史的な ターニング・ポイントを迎え、職業や 財産はもちろんのこと、 人生全般における価値観が 変わりつつある時期であるだけに、 新しい時代を生き抜いていける 自分を見出そうとする人は 今、アメリカで非常に多いといわれているのだった。
なので、 職を失ってから再び学校に通い始めたり、資格試験を受けようという人々が増えているけれど、 そんな時だからこそ、大切なのは 自分にとっての幸福が何であるか、自分の夢や目標が何であるかを見極めること。 自分を高める努力や、自分が信じる道に向かって努力することはいずれ花開くと思うけれど、 時代に翻弄されながら 食いつないでいくための手段ばかり追いかけていると、 時間やエネルギーを無駄にしたり、その手の商法に騙されてしまうだけのように思えるのである。
例えば アメリカの景気がピークをつけて、それを追いかけてやってきた高額スパのブームに乗せられて、 2〜3年前ほど前からマッサージ師を目指した人は非常に多かったけれど、その資格が取れた時点では すっかりスパブームが去ってしまった後。 しかも同じ時期にマッサージ師を目指した人々があまりに多いために 仕事にも就けない状態なのである。

さて、話題は全く変わるけれど このところ再び急激に価格を上げてきたのがゴールド。
今週仕事でダイヤモンド・ディストリクトに出かけたら、先週よりも1オンスあたりのゴールドの価格が50ドル以上アップしていて、 その後金曜には一時的にゴールドが1000ドルを超えていたのだった。
CUBE New York のCJ(Cubicle Jeles/キュービクル・ジュールズ)のビジネスでは、 切れてしまったチェーンとか、製作に失敗したネーム・プレート、販売不可能なサンプルが出るので、 私は2週間ほど前から それを売ろうと持ち歩いていたけれど、業者には この高騰を受けて 「もっとゴールドが上がるから 暫く待ったほうが良い」と アドバイスされてしまったのだった。
ダイヤモンド・ディストリクトではゴールド1オンス 2000ドル説が飛び交っているというけれど、 本当にそんな値段を付けたら、今CUBE New York で300ドルで販売できているものが 800〜900ドルくらいに跳ね上がってしまうのも さることながら、ダイヤモンド・ディストリクトの多くの業者があまりのコスト高のせいで廃業に追い込まれてしまうので、 果たして商品を作ってくれる業者が残っているかも微妙だと思えてしまうのだった。
昨年の春に金が高騰した時は1オンス1500ドル説が出ていて、結局は1000ドルを超えたところで その価格上昇にストップが掛かったけれど、 当時と今の状況が異なるのは、かつてヘッジ・ファンドなどに投資されていた資金が、金融機関の破綻や バー二ー・メイドフのポンジー・スキームなどの影響で、金融商品以外の投資先に流れ込もうとしている点。 これを受けてゴールドが史上最高価格をほどなく更新するであろうことが見込まれているのだった。
それでも 1オンス2000ドルというのはかなり極端な価格で、私としては 1オンス1200ドルくらいはつけるかもしれない と予想しているのだった。

それとは別に今週、女友達に 「今買うならばダイヤモンドとゴールドと どちらが投資に適しているか?」と訊かれたけれど、 私の考えでは 答えは断然ゴールド。というのは宝飾品や貴石というのは 売ろうとした時に決して 買ったときの値段が越えられない という事実に加えて、ゴールドであれば きちんとした業者さえ見つければ、18Kでも14Kでも 常にそれを溶かして、 マーケット・プライスで買い取ってもらえるためである。
その一方で、ダイヤモンド・ディストリクトに出入りしてると、現在のリセッションに入る遥か以前から お金に困ったダイヤモンド業者が、とんでもないディスカウント・プライスでダイヤモンドを売りたがっている様子は 何度となく目にしているもの。彼らは「キャッシュで払う」、「複数を購入する」といった条件で 面白いくらいに価格が値切れる上に、 特に1カラット以下の石はステイタスが低いこともあって、ブレスレットやペンダントに埋め込むような小さめの石だと 質の良いものでも ビックリするほど安くなるのである。
なので 投資をするなら断然ゴールドであると思うし、このリセッション下で100万円を出してダイヤ入りの宝飾品を購入するならば、 それと同額のゴールドを購入する方が、私から見れば遥かに賢いことだと思えるのだった。





Catch of the Week No. 3 Feb. : 2 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Feb. : 2 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Feb. : 2 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Jan. : 1 月 第 4 週







執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。