Feb. 22 〜 Feb. 28 2010




” ジャッジ・スポーツ と TOYOTA”


私がこれを書いている2月28日、日曜でヴァンクーヴァー冬季オリンピックが閉幕したけれど、 アメリカ選手団は カナダが方位学で 吉方だったこともあってか、37個のメダルを獲得して、 冬季オリンピック1大会における最多メダル獲得記録を更新。
ホスト・カントリー、カナダは14個のゴールド・メダルを獲得して、これも冬季1大会における 最多ゴールド・メダル獲得数の記録となっているのだった。

今回のオリンピックは 開会式の時点で聖火点灯のコラムが1本上がらないというトラブルや、 グルジアのリュージュの選手が死亡するアクシデントに見舞われたことが象徴するように、 不運な不手際が あちらこちらに見られた大会という印象は否めなかったのだった。
アイス・アリーナの氷が解けて、スピード・スケートの選手達がウォームアップと全く異なるコンディションでのレースを強いられたかと思えば、 今週行われた女子ジャイアント・スラロームでは、悪天候を理由にスタート・タイムの間隔を短くしすぎたために、 転倒したアメリカのリンジー・ヴォンが未だコースに居る段階で、同じくアメリカのジュリア・マンキューソが 滑り込んで来ることになり、イエロー・フラッグが出てマンキューソのレースはやり直し。 出発点に戻ることになったマンキューソは、最初は「途中までしかスノー・モービルで連れて行けないから、あとは歩くように」と 言われ、結局出発点までスノーモービルで連れて行ってもらったものの、コースを半分以上滑って戻ってきた彼女を 休憩もなしに滑走させるという酷い待遇で、当然のことながら、彼女のタイムはトップと1秒以上の差が開いた18位。
前回のトリノ・オリンピックの同種目でゴールド・メダルを獲得し、 既にヴァンクーヴァーでも2つのシルヴァー・メダルを獲得して 絶好調だったジュリア・マンキューソであるだけに、 滑走後、 悔し涙を流していた彼女の姿は気の毒の一言なのだった。

今週のオリンピックの話題と言えば、何と言っても花形種目である女子フィギュア・スケートが一番のメディア・フォーカスを浴びていたけれど、 日本人でなくとも、放映を見ていて感じたのはアメリカのオリンピック放映局であるNBCのコメンテーターが 韓国のキム・ヨナの演技を 彼女の流し目線に至るまで褒めちぎっていたこと。
また、その他のメディアもキム・ヨナのことは、「韓国ではオプラ・ウィンフリーやマイケル・ジョーダンのようにビッグ」な存在として、 大きくプロモートしており、「彼女さえマークしておけば、今回の女子フィギュア・スケートについてそれほど知識が無くても大丈夫」 といった別格扱いがされていたのだった。

私は個人的に、キム・ヨナのスター性はズバ抜けていたと思うし、技術面はさておき、衣装、音楽、エンターテイメント性など 全てのプレゼンテーションが秀でていたことは認めざるを得ないと思うのだった。 でも、トリプル・アクセルをロング・プログラムで2回成功させたにも関わらず、低得点に甘んじなければならなかった 浅田真央選手を非常に気の毒に思ったのと、母親の死去で同情が集まったカナダのジョアニー・ロシェットの 必要以上の高得点を見て、ジャッジ・スポーツ (審判がつけた得点で競うスポーツ)の限界を感じてしまったのも事実なのだった。
家族の不幸に見舞われた ホスト・カントリーのスケーターということで、観衆が彼女のパフォーマンスに涙して、 ジャッジの得点が上がってしまうというのは、見ようによっては 4年に1度のオリンピックのために努力してきた選手達、およびスポーツに対する侮辱のようにも感じられてしまうもの。
ちなみに 私を含め、私が話した全ての日本人、アメリカ人、アメリカン・コリアンは皆、 最後に演技を見せた アメリカのミライ・ナガス がブロンズ・メダルを獲得するべきだったという意見だったけれど、 そのアメリカ女子選手がフィギュア・スケートでメダルを獲得しなかったのは1964年以来のことであるという。

ジャッジ・スポーツにおける得点のシステムについては、冬季オリンピックではフィギュア・スケート、夏季オリンピックでは体操で、 常に物議を醸しているように思うけれど、正直なところ私は タイムのように誰も文句が付けられない基準で計るスポーツや、 ホッケーやバスケットボールのように得点で競い合うスポーツに関しては、よほどの審判のミスが無い限りは 本当にフェアな勝者が生まれると信じているし、運、不運があってもそれは勝負のうちだと思えるのだった。
でも ”演技” というもので競う場合、どんなにクリアな基準を設けたところで 私情や事情やお金が絡んでいると指摘されることが多いだけに、そうしたXファクターが絡む スコアリング・システムで 獲得したゴールド・メダルが本当に世界一早く 滑ったり、泳いだり、走ったりする最高のパフォーマンスで獲得したゴールド・メダルと 同等であるかは私には判断できないのだった。

ところで今回のオリンピックを見ていて感じたのが、怪我から立ち直った選手、一度引退を決意した選手が見事に カムバックして、活躍していたこと。こうしたアスリート達に共通して感じられたのは怪我を克服した強さや、 カムバックするだけの決意 といった 精神面でのタフさ。
また選手達が国境を越えて 別の国でトレーニングをするだけでなく、 別の国の選手をトレーニング・パートナーにして、互いに切磋琢磨しているという事実も興味深い点で、 こうしたトレーニング・パートナー同士は、同じ国のチームメイトよりも強い友情の絆で結ばれているのだった。
さらに、今日付けのニューヨーク・タイムズでは今回のアメリカのゴールド・メダリスト達が それぞれのスポーツ連盟から距離を置いて、独自にスポンサーを付けて トレーニングをしていることが報じられているのだった。
例えばスノー・ボードのショーン・ホワイトは、彼のためにプライベート・チューブを作って、 そこでトレーニングをしていることは日本でも報じられていたけれど、そのプライベート・チューブを 彼のために提供していたのが エナジー・ドリンク ”レッド・ブル”。 レッド・ブルのロゴ入りのチューブで 超絶技巧のダブル・マックツイスト1260を練習する彼の姿は、 レッド・ブルのコマーシャルのように YouTubeにビデオがアップされているのだった。
オリンピックがアマチュア・スポーツの祭典ではなくなって久しい時代であるだけに、 選手が連盟のサポート無しに スポンサーから資金を得て、選手自身がイニシアティブを握って トレーニングをしたり、自らをプロモートする傾向が強くなると見込まれるのが今後のアメリカ。 その反面、ルールやレギュレーションでスポーツ選手を拘束してきた連盟が弱体化して行くことも見込まれるけれど、 これはスポーツそのものにとっては好ましいことと考えられるのだった。


話は全く変わって、アメリカで最も影響力が強い報道番組と言えば6時半から3大ネットワークで放映される30分間のニュース。
その3大ネットワークの6時半のニュースが、今週火曜日にこぞってトップに報道したのが、この日行われた 米国トヨタ・エグゼクティブによる リコール問題についての下院の公聴会での証言。
トヨタの大々的なリコールについてはよく日本の知人から 「アメリカ人は一体どう思っているの?」と訊かれることがあるけれど、 アメリカという国はひとくくりにするにはあまりに大きすぎるので、全体を公平に語ることは出来ないけれど、 実際にトヨタの車を運転しているアメリカ人の トヨタに対するロイヤルティがこのリコールで完全に揺らいだかと言えば 決してそんなことは無いというのが私の印象なのだった。
先週末のニューヨーク・タイムズ紙の読者投稿欄にも、「今回のリコールだけで、過去30年以上に渡って アメリカ車を恥に思うような優秀な車を生み出してきたトヨタという会社に対する信頼を失墜させるのはおかしい」という 意見が掲載されていたけれど、今回のトヨタのリコールをきっかけに「それ見たことか!」的に トヨタをこき下ろしているのは、もっぱら 壊れても、壊れてもクライスラーやGMの車に乗リ続けてきたアメリカ人。
でも同じアメリカ人でも、一度人里離れたエリアで、 携帯電話が無かった時代や 携帯電話の電波が届かない森の中などで、 車が故障した経験がある人、身内や友人がそんな思いをした人は 日本車かドイツ車しか乗らなくなるそうで、 ウエスト・チェスター郡やコネチカット州などの住人は、そうした理由で日本車とドイツ車を乗る人々が圧倒的に多いという。
 
でも、そんなトヨタやホンダに乗るアメリカ人でも最近認めていることは、新車のレベルではフォードやGMの車の感触が 日本車同様に良くなってきているということ。それでも彼らが日本車を選ぶのは、5年後にアメリカ車が同じクォリティを維持しているか? ということについて懸念があるためで、車検の無いアメリカで ”長く乗り続けられる車” という点で 日本車が高い評価を獲得しているのは その再販価格の高さからも察しがつく通りなのである。
でも今回のリコールが原因で アメリカでトヨタ車が売り上げを落としているのは事実。逆にビッグ3が売り上げを伸ばしているのも 指摘される通りである。
その一方で、TVを見ているとトヨタを擁護するようなジョークも飛び交っていて、例えば「サタデー・ナイト・ライブ」では そのニュース番組のパロディの中で、「政府ではリコール対象になっているトヨタの車を運転しないように警告していますが、 これに対してトヨタ車のオーナー達の反応は、”一応はやってみるけれど・・・”」 というようなジョークが苦笑を誘ったかと思えば、 別のトークショーでは 「ブレーキ・ペダルの問題でトヨタを責めるのはおかしい。 トヨタのコーポレート・キャッチフレーズは ”Moving Forward (ムーヴィング・フォワード / 前に進む)”だ。止まることなんて企業ポリシーでは約束していない」といったジョークが 爆笑を買っていたりするのだった。

先にジャッジ・スポーツでは本当の勝者が生まれるかは疑わしいと書いたけれど、 消費者の購買の鍵を握るのはパーソナル・ジャッジメント。
より多くの条件を満たした車より、自分の思い入れのある車、自分が価値を見出すブランドを消費者が選ぶのは 当然の行為として理解されること。
それだけに、トヨタは 今日付けの主要な新聞メディアで メッセージ広告を掲載して、 トヨタ車のオーナーの ロイヤルティを失わないように務める姿勢が見られていたし、 同様の内容のTVCMも 昨今のアメリカで 頻繁に放映されているのだった。

今回のリコールでビジネス的に大打撃を受けたトヨタであるけれど、私に言わせれば トヨタのようなブランドが リコール問題を乗り切って 、今後アメリカ消費者のパーソナル・ジャッジメントを獲得して、 再び売り上げを伸ばしていくことは それほど簡単ではないとしても、実現し得ると見込まれること。
でも、今後オリンピック選手が フィギュア・スケートや体操の床運動などで 誰からも文句が出ない公正なジャッジメントを 常に獲得することは、遥かに難しいだけでなく、実現しなくても不思議ではないのである。






Catch of the Week No. 3 Feb. : 2月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Feb. : 2月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Feb. : 2月 第 1 週


Catch of the Week No. 5 Jan. : 1月 第 5 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





© Cube New York Inc. 2009