Feb. 18 〜 Feb. 24, 2013

” Oscar Shakeup ”

私がこのコラムを書いている2月24日は、アカデミー賞の授賞式が行なわれたオスカー・サンデー。 今週のアメリカでは、そのオスカーを含む、2つのオスカー報道にメディア・フォーカスが集中していたのだった。

先週末から大きな報道になっていたのが、南アフリカのブレード・ランナーこと、オスカー・ピストリウスがヴァレンタイン・デイに ガールフレンドでモデルの リーヴァ・スティーンキャンプを射殺した事件。
世界中のメディアの注目を集めている同事件は、今週、彼の保釈が認められるかが焦点となっていたけれど、 判事がその保釈を認めるまでには、訴追している検事本人が 別の殺人事件の容疑で担当を外されるなど、 どんどん茶番の様相を呈して来ていたのが同事件。加えて 週末には オスカー・ピストリウスの兄が、 2010年に起こった 女性バイカー死亡事件で、過失殺人の罪に問われていることが明らかになっているのだった。

本国、サウス・アフリカでは 義足で史上初めてオリンピックに出場したピストリウスは、 国民的英雄として扱われてきたこともあり、この事件を ピストリウス側の言い分どおり、 「ガールフレンドを不法侵入者だと勘違いして射殺した」と信じる人々と、 「彼に殺意があった」と考える人々で、世論が2分しているというけれど、 アメリカの世論は、「彼に殺意があった」という意見が圧倒的。
というのも、ピストリウスは 過去にもドメスティック・ヴァイオレンスで警察沙汰を起しているのに加えて、 「不法侵入者に気付いた時点では、擬足をつけておらず、恐怖のあまりパニックになって発砲した」 という彼の言い分が、事件の状況と一致せず、彼の家に滞在していたガールフレンドかも確認せずに 発砲するのは、あまりに筋が通らないため。
被害者であるリーヴァ・スティーンキャンプの家族は、その姉が 「リーヴァが恐怖に怯えて死んでいったとは思いたくない」として、 事故である事を望むコメントをしていた一方で、父親はオスカー・ピストリウスに対して 「真実を話してくれれば、自分はいつか彼のことを許すことが出来ると思う」と、殺意の疑いを持っているかのような コメントを発表。
その一方で、警察側の現場検証が 非常に乱雑であったことが指摘されるだけに、 6月から行なわれる公判がどう展開するかが見守られるのだった。



さて、話をもう1つのオスカー、アカデミー賞授賞式に移すと、 同賞は、世界で最も歴史と権威がある映画賞として知られているのは言うまでもないけれど、 その投票を行なうのは約6000人とも言われる、アカデミーのメンバー。
でも授賞式の2週間前に メディアで報じられたのが、そのメンバーの著しい高齢化。 今や50歳未満のメンバーは全体の僅か14%で、 高齢のメンバーは、もう何年も映画の仕事から遠ざかっているだけでなく、 ノミネート作品を全て観ないで 投票を行なっているケースが少なくないという。
アカデミー賞は、映画というポップ・カルチャーのアウォードでありながら、 ポップ・カルチャーとは無縁の、芸術性を重んじた作品のノミネートが多いことで知られているけれど、 メンバーの84%が50歳以上という 投票者を考えれば、 それも納得が行くことなのだった。

今やメンバーの平均年齢は62歳で、これは歴代のローマ法王の就任年齢の平均よりは10歳若いけれど、 そのローマ・カソリック教会でさえ、法王の選出に投票出来るのは80歳未満の枢機卿。 でもアカデミーのメンバーシップはライフロング、すなわち生涯有効で、 年間250ドルのフィーさえ支払い続ければ、毎年ノミネーション、及び受賞作品の投票に参加できるというルールになっているのだった。
もちろん高齢でも アクティブなキャリアのメンバーは存在しており、NYポスト紙の記事に登場していた脚本家、 ウォルター・バーンスタインは、現在93歳。でも今もNYUのフィルム・スクールで教鞭を取り、1969年以来、全てのノミネート作品を観て、投票し続けてきたという。

そんな高齢のオスカー・メンバー泣かせになっていたのが、今年から導入されたインターネットによる投票システム。 ハッキングを恐れたアカデミー側では、 何度もパスワードを設定するシステムに加えて、メンバーの携帯電話に送付したPINナンバーを 入力しなければ投票できないという、アメリカ軍のサイトに匹敵するとまで言われる 厳しいセキュリティ・システムを導入。
でも、このシステムは テクノロジーに疎い高齢メンバーには 非常に難解だったようで、 希望者には従来どおりの投票用紙が郵送されたことも伝えられているのだった。



現在、そのオスカーのメンバーになるためには、既存のメンバー2人からの推薦状に加えて、業界における 経験が審査されるというけれど、オスカーのメンバーの大半は、過去の受賞者やノミネート者で、その多くが俳優陣。
俳優は、オスカーを受賞すると 出演ギャラが跳ね上がるの通例であるけれど、 現在 高齢に達しているジェネレーションが ハリウッドで活躍していたのは、現在のようにギャラが高額ではなかった時代。 それだけに、リタイアして 年金で暮らすメンバーにとっては、毎年、オスカーに投票するために250ドルを支払うのは、 かなりの出費であるという。
でも投票シーズンになると、映画会社はオスカーのメンバーを招待したディナーや、 イベントなど、多額のバジェットを投じて、票集めのプロモーションを行なうのが毎年のこと。 なので、そんな投票シーズンの好待遇を受けるために、メンバーシップをキープしているケースは少なくないという。

特に今年は、作品賞部門で 「アルゴ」と「リンカーン」の接戦が伝えられていただけに、 その配給元であるワーナー・ブラザースと、ディズニー傘下のタッチトーン・ピクチャーズが それぞれ10億円以上を投じた、例年に無く高額なオスカー・プロモーションを展開していたことが伝えられているのだった。
例年、オスカーの票集めのプロモーションが最も上手いと言われるのが、ハーヴィー・ワインスティーン率いるミラマックス・フィルム。 でも今年は、タッチトーン・ピクチャーズが「リンカーン」を売り込むために、上院議会で試写を行なったり、 オスカーのメンバー全員にスティーブン・スピルバーグ監督の直筆サイン入りブックレットを配布するなど、 ユニークなプロモーションを展開。
一方、ワーナー・ブラザースは これまでは票集めのプロモーションが下手で知られてきた存在。しかしながら「アルゴ」に関しては、 新たなマーケティング担当者を雇い、プロデューサーのジョージ・クルーニーを武器にしたイベントなどで、 例年になく ブリリアントなプロモーションを行なっていたことが指摘されており、 その甲斐あって、今回のオスカーでは「アルゴ」が作品賞を授賞しているのだった。



その一方で、アカデミー賞授賞式の数日前に物議を醸したのが、ザ・ハリウッド・レポーターが公開した アカデミーのメンバーの実際の投票用紙(写真上)と、その投票理由。
このメンバーは 名前は伏せられているものの、映画監督とのことで、彼の明かした投票理由は 作品や演技の優秀さよりも、個人の私情が入りまくったもの。 それによれば、「アムール」のミヒャエル・ハネケは 個人的に腹を立てているから投票せず、 「ビースト・オブ・ザ・サザン・ワイルド」で 史上最年少(9歳)で 主演女優にノミネートされた クィンヴェンゼイン・ウォリスについては、名前が読みにくくて 発音できないから投票しない。 「リンカーン」で助演女優賞にノミネートされているサリー・フィールズは、本人が鬱陶しい。 同じく助演女優賞にノミネートされているヘレン・ハントは、主演であるべき役どころだから 投票しない。 助演男優賞に「リンカーン」でノミネートされているトミー・リー・ジョーンズは 業界で誰にも好かれていない、 主演女優賞の最有力候補、ジェニファー・ローレンスは、 彼女が「サタデー・ナイト・ライブ」に出演した際のモノローグが気に入らなかったから投票しない 等、 映画とは全く関係の無い投票理由が明かされていたのだった。
ちなみに、ジェニファー・ローレンスの「サタデー・ナイト・ライブ」のモノローグは、 番組のライターが書いたものを、彼女が番組で語っていただけ。 したがって、その内容が気に入らないことを理由に彼女に投票しないというのは、あまりに筋が通らないのだった。



話は変わって、今週から データ統計システムを時代に合わせてアップデイトしたことを発表したのが、 長年アメリカのミュージック・ヒットチャートを発表してきたビルボード誌。
今週からそのビルボード誌が、新たにチャートのデータに加えることにしたのが、YouTubeにおけるヒット数。
これまでビルボード誌のランキングは、ラジオのオンエア数や、レコード売り上げといったトラディショナルなデータに加えて、 デジタル・エイジに入ってからは、ミュージック・ダウンロードの数がデータに加わっていたけれど、 過去2〜3年の間に、YouTubeは ジャスティン・ビーバーのようなスーパー・スターを生み出したり、 カーリー・レイ・ジェプセンの「Call Me Maybe / コール・ミー・メイビー」のようなメガ・ヒット曲を生み出すなど、 ミュージック業界に最もインパクトをもたらすメディアになっていたのは周知の事実。
今やラジオやCDより、コンピューターやアイフォンで音楽を聴く人々がどんどん増えていることもあり、 そんな世相を反映するデータとして ビルボード誌が導入することにしたのが YouTubeのヒット数なのだった。
その結果、今週突如ビルボードHot 100に No.1でデビューすることになったのが、 先週のこのコラムでも触れた「ハーレム・シェイク」。 YouTubeで 1億300万のヒット数を獲得している「ハーレム・シェイク」は、ダンス・ムーブメントであると同時に、2,630万回以上ダウンロードされたメガ・ヒット。 今や、キャンパスやオフィスだけでなく、ファッション・ウィークのバックステージから、軍隊の基地でもハーレム・シェイクで踊る様子が YouTubeにアップされているけれど、これだけ世の中で流行っていても、YouTubeのデータが入らなければ、 「ハーレム・シェイク」はランクインさえしないというから、やはりビルボードのこれまでのシステムは、 時代に立ち遅れていたと 言わざるを得ないのだった。




オスカーの場合も、エイジング・メンバーがかつてと同じ基準で投票を続ける結果、 アクション映画がテクニカル部門でしかノミネートされず、コメディが無視されがちな一方で、 芸術性の高さや、作品の意義が評価されてノミネートを獲得する傾向が依然として続いているのが実情。
その結果、このところアカデミー関係者の間で深刻な問題となってきているのが、授賞式の放映が、 若い層の視聴者を獲得できないこと。 すなわち、メンバーだけでなく、TVの視聴者までもが高齢化しているのがアカデミー賞で、 これを打開するために、今回のホストに選ばれたのが、若い層にアピールするシャープなユーモアで知られるセス・マクファーレン (写真上)。
でも、オスカーのメンバーの殆どは、彼の名前さえ聞いたことが無かったというから、 アカデミーのメンバーと、アカデミーがアピールしたいと考える層のジェネレーション・ギャップは かなり深刻と言えるもの。
そもそも、アカデミーが獲得したい 18〜49歳の視聴者は、3時間以上もTVの前に座って、 名前の羅列だけのスピーチを聞いているより、結果だけをタブレットやアイフォンでチェックするもの。 今回のオスカーでは、フリー・ダウンロードのアプリが用意され、ソーシャル・メディアを通じた アプローチや、ライブ・ストリーミングも行なわれていたけれど、メディアのヴァラエティが増えても、 ターゲット年齢層の授賞式への関心がアップするかは別問題なのだった。

ところで私は今日の午後、友達とブランチをしていたけれど、昨年のオスカー作品賞が 「ジ・アーティスト」だったことを瞬時に思い出せたのは、 4人の中で私だけ。その私も2年前の受賞作が、「キングス・スピーチ」だったことまでは思い出せたけれど、 3年前になると 全くのお手上げ状態。 その場でグーグルした結果、この年は「ザ・ハート・ロッカー」が受賞していたことが分かったけれど、 昨年のオスカーの作品賞さえ思い出せないというのは、私の友達に限ったことではないもの。
そう考えると、毎年、この時期に大騒ぎする割りには、さほど記憶に残らないのがオスカー受賞作品と言えるのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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