Mar. 1 〜 Mar. 7 2010




” ジェームス・キャメロン、生涯の失言 ”


今日私がこのコラムを書いている3月7日は、オスカー・サンデー。 すなわちアカデミー賞授賞式の日であるけれど、今年のオスカーは作品賞のノミネーションが例年の2倍である10作品になり、 ホストも例年の2倍である スティーブ・マーティンとアレック・ボールドウィンの2人が務めたけれど、 当初、作品賞が10作品になることで危惧されていたのが、ノミネート作品の紹介時間が2倍になる分、 益々オスカーの放映時間が長くなるのでは?ということ。

近年の視聴率調査によれば、 多くのオスカー視聴者は 授賞式が長すぎるため、 番組を部分的にしか見ていないというデータが得られており、 これを受けて 今年から例外ナシの厳しいルールが設けられたのが 受賞者のスピーチ。
アカデミーでは ノミネート者に対して2種類のスピーチを用意するようにと事前に指示しており、 1つ目のスピーチはTVのライブ放映用。 こちらは45秒という制限時間が設けられたもの。
そして2つ目のスピーチは これまでのオスカー受賞者が行ってきた典型的なスピーチである 名前を羅列しながら、ありとあらゆる関係者に感謝するスピーチ。
このスピーチは、受賞後に ”Thank You Cam / サンキュー・カム” でヴィデオ録画され、 フェイスブック、ツイッター、マイスペースといったありとあらゆるソーシャル・ネットワークやYouTubeなどの ウェブサイトを通じて視聴できるようになっており、 ハリウッド関係者だけでなく一般の人々も アクセス可能なもの。
このため、受賞が有力視されている候補者は、アカデミー側の指示に従って スピーチを用意していたことが 伝えられていたけれど、その結果、 「アヴァター」 の監督、 ジェムース・キャメロンのスピーチのドラフトがインターネット上に 出回るという事態も起こっていたのだった。

この2つのスピーチのメリットは、放映時間が短くて済むだけでなく、 受賞者は サンキュー・カムに向かって 関係者に感謝を述べる際に、 ライブ放映のプレッシャー無しに行える上に、誰かの名前を言い忘れたからといって 後からアタフタする必要もなく、 リラックスした環境で、時間を気にせずスピーチが出来ること。
このお陰で、今年のオスカー・スピーチは名前の羅列が少なく、受賞者が作品に抱く パーソナルな 思い入れを短く語るものが主流となっており、長引いたスピーチに関しては音楽がスタートするだけでなく、 カメラの映像が引いて 音声が消されるという厳しい措置が取られていたのだった。
今回、その犠牲者となったのは、ドキュメンタリー・ショート部門を受賞した 「ミュージック・バイ・プルデンス」、 ドキュメンタリー・フィーチャー部門を受賞した「ザ・コーヴ」のスピーチ。 前者は延々と続きそうな纏まりの無いスピーチが、後者は複数の受賞者が次々と喋ろうとするのが テイストフルにカットされていたのだった。

当初、この45秒というスピーチは ファンがスピーチを楽しみにしているような受賞者、特に演技部門の受賞者については 短すぎるのでは?との声も聞かれていたけれど、もちろん演技部門については他の部門に比べて タイム・リミットが甘く設定されていたのは言うまでも無いこと。
この他にも今年のオスカーでは、主題歌ノミネーションのパフォーマンスが省かれ、オリジナル・スコアに合わせての ダンス・パフォーマンスも短めになっており、時間短縮の措置が顕著になっていたのだった。

今年のオスカーで 時間短縮以外に 非常に配慮されていたのは、 物議を醸すようなジョークやコメディ・スケッチを含めないということ。
オスカーには、複数のライターが居り、 作品のプレゼンテーションから、細かいジョークまでが全て 脚本として書かれているけれど、今年は放映局であるABCが特に厳しい 目を光らせていたため、 オープニング・モノローグで語られる予定になっていたタイガー・ウッズの不倫ジョークがカットされたほか、 ベン・スティラーがサーシャ・バロン・コーエンと演じる予定になっていた「アヴァター」のパロディが ジェームス・キャメロン監督に対して侮辱的であるという理由でカットされ、 今日の授賞式ではベン・ステイラー(写真左)が1人で アヴァターのメイクでステージに上がっていたのだった。

さらに、オスカーで毎年物議を醸すのがプレゼンターについて。
プレゼンターは、主要部門の受賞者を1人で紹介するのが最もプレステージが高いと見なされていて、 今年はオスカー最高の栄誉である作品賞が トム・ハンクスによって 発表されていたけれど、 同部門は 大物監督や俳優が務めるのが通常。
演技部門は前年度の受賞者が、女優が男優部門のプレゼンターを担当し、男優が女優部門のプレゼンターを担当することになっているけれど、 例年、ハリウッドで物議を醸すのは それほど実力が認められていない 俳優が 1人でプレゼンターを務めること。
1人でプレゼンターを務めるというのは、2人でプレゼンターとしてステージに上がるより ずっとプレステージが高いと見なされること。 なので、2008年の授賞式で マイリー・サイルスが1人でプレゼンターを務めたこと、2009年の授賞式ではロバート・パティンソンが 1人でプレゼンターとしてステージに上がったことは、一部のハリウッド関係者の間で不平、不満のリアクションを醸していたのだった。
でも、今年に関しては クリスティン・スチュワート、マイリー・サイルス、テイラー・ラトナー、ゾーイ・サルダナといった若手俳優は、 全て2人でペアを組んだ プレゼンターとなっており、ハリウッド・インサイダーから文句が出ない キャスティングがされていたのだった。

さて、今年のオスカーは、終わってみれば 「ザ・ハート・ロッカー」が 9部門のノミネーションのうち、作品賞、監督賞という 最もプレステージの高い2部門を含む 6部門を受賞するという圧勝。
これによって「ザ・ハート・ロッカー」は史上最低の興行成績での オスカー最優秀作品賞受賞となったけれど、 その一方で 、史上最高の興行成績記録を更新中の「アヴァター」はテニクカル部門 3つの受賞にとどまっているのだった。
授賞式シーズンがスタートした時点では、圧倒的に優位と言われた「アヴァター」が オスカーだけでなく、他の授賞式イベントでもそれほど芳しい成績を上げなかった理由と言われるのが 「アヴァター」の監督であるジェームス・キャメロンに対する ハリウッドで根強い 「アンチ・キャメロン」 のネガティブ感情。

この「アンチ・キャメロン」 が ハリウッドで最高潮に達したのが 1997年度のアカデミー賞授賞式の際。 この年 「タイタニック」で、 1950年の「イブのすべて」に並ぶ 14部門のノミネーション中 11部門の受賞という、 オスカー最多受賞を記録したジェームス・キャメロンであるけれど、監督賞受賞のスピーチを終える際に、 トロフィーを高々と掲げながら、 「タイタニック」の中のレオナルド・ディカプリオの台詞である 「 I'm King of the World !」 と叫んだのが 当時、大顰蹙を買ったのだった。
でも、これはジェームス・キャメロンのエゴの極めつけのエピソードであり、 この生涯の大失言とも言える 一言を口走る以前から、「タイタニック」で一躍 ”時の人” となっていた ジェームス・キャメロンは、その横柄な態度とエゴでメディアやハリウッド関係者から嫌われ始めていたのだった。
「 I'm King of the World 」 のスピーチはYouTubeでビデオを見ることが可能だけれど、 その時点の観衆の冷めたリアクションと、キャメロン監督のハイテンションのギャップは今見ても痛々しいほどであったりする。
このスピーチはハリウッド関係者だけでなく、一般の人々からも随分 ネガティブなリアクションを買ったもので、 人々の記憶に ” ジェームス・キャメロン=タイタニック= I'm King of the World ”という確固たるイメージを植えつけてしまったのは 紛れも無い事実。 なので 今回、「アヴァター」が事前の予測に反して、多くの映画賞を逃している要因として ハリウッド関係者が暗にほのめかしていたのが ハリウッドに根強い 「アンチ・キャメロン」 ムード。
先述のベン・スティラーも「アヴァター」のキャラクターのメークで登場しながら、 ジェームス・キャメロン監督をからかうように 「 I'm King of the World !」と言っていたけれど、 ただでさえハリウッドで人望が薄いと言われる同監督が オスカーのような舞台でした失言は、 10年以上の年月が経過した今も、彼のキャリアに たたりのように根強く影を落としているのは 多くのハリウッド関係者が認めていることだという。

こうしたエピソードを聞くと、「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」という 諺(ことわざ)を思い出して、 成功している人ほど謙虚に振舞うし、振舞うべきであることを感じてしまうけれど、 実際に 人間が顰蹙を買ったり、敵を作りがちなのは 何かが上手く行って 有頂天になっている時。 その何かとは仕事かもしれないし、恋愛かもしれないし、ダイエットが上手く行っている人が居るとしたら、 最近太り始めた友達を見て、優越感から 傷つけるような言動をしてしまう場合もあるもの。
そして、たった一言の失言でも そうした有頂天の自信過剰的なコメントに対しては、 周囲はその場で態度や言動に出さなくても、内心で 恐ろしいほど 一斉に反応しているもので、 誰もが聞き流す事無く、 同じように 面白くなく思って聞いている 、もしくはそのコメントに対して反感を抱いているのである。 そして、そんな不満や反感は それを語った本人が居ないところで山火事のような物議となって広がっていくけれど、 語った本人は 、自分の言った事の何がそんなに悪いのか さえもが 分からないケースが殆どなのである。

ジェームス・キャメロンの場合、この失態を年間第2位の視聴率を誇るオスカーの生放映で 行ってしまった訳であるけれど、日常生活の中でも、特に女友達との会話の中では こうした失言が、やがて陰口となって広まるのは日常茶飯事。
そして、ジェームス・キャメロンのケース同様に、有頂天コメントを聞いた側は 言った側よりずっと記憶が持続するものであるから、その後 余計なことを口走る度に、 悪口のネタになる語録は レジュメ(履歴書)のように増えていってしまうのである。





Catch of the Week No. 4 Feb. : 2月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Feb. : 2月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Feb. : 2月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Feb. : 2月 第 1 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





© Cube New York Inc. 2009