Feb. 27 〜 Mar. 4, 2012

” How Habits Rule Our Lives ”

今週末のアメリカでは、未だ3月初めだというのに、巨大な竜巻がケンタッキー、インディアナ州などを襲い、 殆どの家屋が崩壊するという甚大な被害をもたらしているのだった。 通常、竜巻は4月〜5月にピークを迎えるもので、昨年も5月末にミズウリ州ジョプリンにとんでもない被害をもたらしていたけれど、 今年は暖冬とあって竜巻のシーズンが1ヶ月早くスタートしており、気象関係者の間では、今年が竜巻の当たり年になる懸念が聞かれているという。

さて 今週のアメリカでは、火曜日にアリゾナとミシガン州で行なわれた共和党の大統領予備選挙で、ミット・ロムニー(写真上、右)が勝利を収め、 共和党の大統領候補が だんだんとミット・ロムニーに決まりそうな気配を呈してきているのだった。 でも今回の共和党の予備選挙は、熱心な共和党支持者でさえ 「誰も支持したくない」というくらい候補者の不作が嘆かれおり、 ミット・ロムニーに関しては、アンケートで 「彼のことを知れば知るほど、支持したくなくなる」という声が52%にも達していることが明らかになっているのだった。
実際、共和党支持者の間では、「別の候補者を擁立するべき」、あるいは「して欲しい」という声が70%以上に上っており、 その候補者として頻繁に名前があがっているのが、元フロリダ州知事で、ジョージ・W・ブッシュ前大統領の弟、ジェブ・ブッシュ。
ミット・ロムニーが予備選挙で勝利を重ねても、共和党が今ひとつ彼の支持で纏まることが出来ないのは、 彼が 庶民の生活苦に疎いマルチミリオネアであることを露呈するような失言を繰り返していることもあるけれど、 根本的には 彼に人間的な魅力、国民を引き付けるカリスマ性、好感度が欠落しているため。 ロムニーが唯一評価されているのはそのビジネス・センスであるけれど、 彼がマルチミリオネアになる過程では、敵対買収した会社の社員を大量解雇をし、その職を海外にアウトソースして、経営をタイトにして株式を公開。 それによって大儲けをして、業績が悪くなったら倒産させてしまうといった、アメリカ経済を落ち込ませた身勝手な経営者の シナリオを自ら演じており、 決して違法ではないとしても、そのビジネス手腕について、「必ずしも諸手を上げて彼を評価できない」という声は少なくないのだった。



そして今週、もう1つ大物議を醸していたのが、保守派のラジオ・パーソナリティ、ラッシュ・リンボウ。(写真上左)
彼は日本の震災と津波の際にも、被災者がリサイクルをしている様子を馬鹿にするようなコメントをして、 叩かれていたけれど、彼の失言や、理不尽な言動はこれまでにも数え切れないほど。 暴言を吐き続けても彼が生き残っていられるのは、まず彼がその意見を発信するメディアがTVではなくラジオであるということ。 加えて、彼のラジオ番組は 彼と思想を同じくするウルトラ・コンサバティブなキリスト教右派に向けて発信されているためで、 アメリカの中西部に住み、「人類は神の創造物なので、ダーウィンの進化論を教科書から取り除くように」と運動をしているような人々の間では、 ラッシュ・リンボウは長年支持を集めてきたのだった。
でも 彼が何を言ってもクビにされない本当の理由は、共和党に属さない立場で、共和党のメッセージを人々に浸透させるという 政治的役割を担っているため。 逆にリベラル派が多い都市部では、TVのトークショーの会場でホストが彼の名前を口にしただけでブーイングが起こるのが常。 彼の言動が そういったトークショーのジョークのネタになるのも日常茶飯事で、中には彼をきっぱり馬鹿扱いするリベラル派のトークショー・ホストも居るけれど、 実際のところ、アメリカに住んでいたら、かなり右寄りでなければ、さほど好感が持てないのが彼の存在なのだった。

そのラッシュ・リンボウが、例によって今週も暴言を吐いたけれど、今度はたとえラッシュ・リンボウでも行き過ぎというもの。 その標的となったのが、避妊が健康保険でカバーされるべきかを審議する下院公聴会で証言を行なったジョージタウン大学の女子学生、サンドラ・フルーク(写真上右)。
彼女は、女性が負担する避妊コストについてのリサーチ・データについて語り、 避妊が保険でカバーされるよう主張したのだった。 それに対してラッシュ・リンボウは、「セックスするのに、金を払って欲しいというなら、その女はあばずれだ。娼婦だ。」、 「人のセックスに対して金を払わされるなら、こっち(納税者)にも何らかの見返りが必要だから、そんなにセックスがしたいなら、 その様子をビデオに取ってYouTube にアップするべきだ。そうしたら 少なくとも、こっちはそれを見て楽しむことが出来る。」と語り、 言うまでもなく、女性団体から猛反発を受けただけでなく、日頃は意見を同じくする共和党議員からも批判されることになったのだった。
ツイッター上では、彼のラジオ番組のスポンサーに対して 「ラッシュ・リンボウのスポンサーを続けるなら、 全ての女性を敵に回すことになる」というようなツイートが引っ切り無しに寄せられ、 この発言の2日後、金曜には数社がスポンサーを降りてしまったのだった。

これを受けて、土曜日には さすがのラッシュ・リンボウもサンドラ・フルークに対してそのウェブサイトで謝罪のステートメントを掲載したけれど、 今回何故 ラッシュ・リンボウがあっさり謝罪をしたかといえば、彼が11月の大統領選の結果に影響を及ぼしかねない大きなミスを犯したため。
避妊が健康保険でカバーされるべきかという問題は、選挙の争点の1つになることが見込まれていたけれど、 共和党側としてはこれを「宗教の自由の問題」として捉えて、避妊や中絶に反対する宗教団体にも、健康保険による避妊のカバーを義務付けることは、 宗教弾圧に当たるとして民主党を攻撃しようとしていたのだった。 一方の民主党、及びオバマ政権は、避妊は「女性の健康問題」として、宗教とは切り離し、それを保険でカバーすることによって女性票の獲得を見込んでいた訳であるけれど、 ラッシュ・リンボウの暴言のせいで、この問題が一気に女性問題になってしまい、「避妊を保険でカバーしないのは、女性が娼婦だと見なされるからか?」 のような争点に摩り替わってしまったのだった。
ちなみに、共和党が多数を占める下院が最初に行なった避妊と健康保険の公聴会では、 その証言に招かれたのは、絶対に妊娠しない上に、避妊の必要も無い 5人の男性宗教関係者(写真右)。
女性が1人もそれに加わっていなかったことには、非難が寄せられていたけれど、 先述のジョージタウン大学のサンドラ・フルークは、この1回目の公聴会で証言を拒否されたとのこと。 そのことからも、共和党が如何にこの問題を宗教問題として捉えて、キリスト教徒を反オバマ避妊政策で 一致団結させようとしていたか窺い知れるのだった。
そのオバマ大統領は、ラッシュ・リンボウの暴言のターゲットになったサンドラ・フルークに自ら電話を掛けて、 メディアを通じて「あばずれ、娼婦」などとなじられた彼女が、大丈夫かを気遣う姿勢を見せたことが伝えられており、 ラッシュ・リンボウの暴言に上手くあやかって、すっかりイメージアップを図っているのだった。



ところで、今週はダウがリセッション前を上回る値を付け、アメリカは数字の上では景気の回復が徐々に見られているとあって、 オバマ大統領は ここへきて支持率をアップさせつつあるけれど、そのオバマ大統領の選挙陣営がチーフ・サイエンティストとして雇っているのが、 ハビッツ・スペシャリスト。
ハビッツ・スペシャリストとは、データと人間心理の分析を組み合わせて、人間の行動に最も大きな影響を与える”習慣(ハビッツ)”を読み取る専門職で、 製造、小売、政治、スポーツ、金融などありとあらゆる世界で、ここ数年、引っ張りだこになっているのだった。
何故、オバマ大統領の選挙陣営がハビッツ・スペシャリストを雇っているかといえば、どういった出来事や報道などが アメリカの各選挙区で、 従来と異なる投票パターンをもたらしているかを分析するため。 その分析結果を上手く用いれば、長年 共和党を支持してきた州でも、オバマ大統領が勝利を収める可能性がある訳だけれど、 2月にニューヨーク・タイムズ・マガジンに掲載されたのが、そのハビッツ・スペシャリストに関する記事。
この記事は、様々なメディアでセンセーションを起こしており、私はそのセンセーションを知ってから、 オンラインで同記事を読んだけれど、そこには一緒に暮らす家族よりも、小売店の方が個人のプライベートな情報を持っている様子が描かれていたのだった。

その記事で特にフォーカスされていたのが、大衆ディスカウント・チェーンのターゲットにおいて、2002年からハビッツ・スペシャリストとして勤務してきたアンドリュー・ポール。
記事は、入社して間もないアンドリュー・ポールが、マーケティング部門のスタッフに 数字のデータ分析から、「女性客が妊娠しているかを知ることが出来るか?」と聞かれたところからスタートしているのだった。
どうしてマーケティング部門の人間が 女性客の妊娠について知りたがるかといえば、 妊娠した女性は、非常に良い買い物客になってくれるためであるけれど、それ以前に理解しなければならないのが、小売業界において既に確立されている習慣についての常識。 これは UCLAのアラン・アンドリーセン教授が1980年代に行なったリサーチに基づくもので、それによれば 殆どの人々はソープ、歯磨き粉、洗剤といった 日用必需品の購入において、脳を使った判断は全く行なわず、習慣で同じブランドを選んでいるということ。
習慣というのはショッピングに止まらず、人間の様々な行動を左右し、人間は習慣で物事を決定するケースが非常に多いと指摘されているのだった。
なので、既に習慣が確立されている消費者には、どんなに広告を打っても、さほど効果が見られない可能性が高いけれど、 そんな習慣が崩れるのが、生活が変わるとき。結婚、離婚、転勤、転職、移転などがそのターニング・ポイントであるけれど、 中でも女性の出産というのは、その時点から必要になるものが非常に多い上に、それは全てターゲットの店内で手に入るもの。 そこで一度、女性客を取り込めば、出産後は育児に追われる生活を強いられるので、「その後 女性は 全てのショッピングをターゲットだけで 済ませるようになる 可能性が高い」というのがマーケティング部門の読み。
そこで、記事に登場したアンドリュー・ポールは妊娠した女性が購入したもののデータを何千アイテムにも渡って分析することになったという。


そもそもターゲットという会社は、買い物客1人1人にIDナンバーをつけて、購入パターンや、住むエリアや頻繁に買い物をする店、 年齢、収入、ライフスタイルなどを細かく分析したデータを集めていることで知られてきた企業であるけれど、 そのデータから何らかのパターンを読み取って、購入に結びつけるのがアンドリュー・ポールのようなハビッツ・スペシャリストの仕事。
やがて、アンドリュー・ポールは妊娠初期の女性が、マグネシウム、カルシウムといったサプリメント、ラージ・サイズの無香料のローションを買い込むこと、 出産が近付いてくると、無香料のソープ、コットン・ボール、ハンド・サニタイザー(手の消毒ローション)と手ぬぐいを大量に買い込むようになる といった分析結果を 得たというけれど、そうしたデータの積み重ねによって、例えば、アトランタ州に住む23歳の女性が、3月に ココア・バター・ローション、大きなサイズのバッグ、 マグネシウムとジンクのサプリメント、明るいブルーのエリア・カーペットを購入しただけで、この女性は87%の確率で妊娠しており、その出産予定は 8月末であるという予測が可能になったという。

とは言って妊娠している女性に 「妊娠おめでとうございます」というようなマーケティング・アプローチをすれば、プライバシーの侵害として 気分を損ねてしまうので、その時点で必要なプロダクト、妊娠のプロセスに応じてこれから必要になるプロダクトの クーポンをタイミング良く送りつける際に、それに混じって芝刈り機やワイングラスなど妊婦が必要としないプロダクトのクーポンをミックスし、 たまたま自分が必要なクーポンが入っていたように思わせる演出もしているのだった。
そこで浮上してくるのが、果たしてそのデータ分析による妊娠予測が本当に正しいのか?という問題であるけれど、 それを立証するようなエピソードが、ミネアポリスのターゲット店舗で起こった出来事。 ある日、 高校生の娘を持つ父親が 「ターゲットが子供服やゆりかごのクーポンを娘に送ってきたけれど、娘に妊娠を薦めようとしているのか?」と怒鳴り込んできたという。 そこで、後日マネージャーが謝罪のために電話をしたところ、謝ってきたのは逆に父親で、実際に娘は妊娠しており、父親が知らないうちに 臨月を控えていたというのだった。


ターゲットでは、妊婦がこれから必要になるプロダクトのクーポンをタイミング良く送りつけたのはもちろん、 同じセオリーで様々なタイプの買い物客にアプローチをして、アンドリュー・ポールが入社した2002年に440億ドルだった売り上げを、 2010年には670億ドルに伸ばしているのだった。
このことは、人生の同じ局面にある人々が、同じようなニーズに迫られて、同じ購買パターンをしていることを裏付けているけれど、 それならば、離婚が人々にどんな購買パターンをもたらすかといえば、 まず別居をすれば、当然家具が必要になるけれど、それと同時に増えるのが ダイエット・フードやエクササイズ・グッズの購入、 そして調理されたフードの購入量。 ダイエット・フードやエクササイズ・グッズを購入するのは、スリム・ダウンして新しい相手探しに取り組もうとするためで、 調理されたフードを買うようになるのは、たった1人分のために わざわざ料理をするのは時間や手間が勿体無いと考える傾向にあるためだという。
また離婚後は、”新しい生活”を重視するせいか、シリアルやビールなど、習慣的に購入するものブランドをあえて替える傾向も顕著だという。 そこまでに至る前の段階では アルコールの購入量が増えるというのが離婚する人々に顕著な傾向。 また入眠剤の購入が増える人も少なくないことが指摘されているのだった。

こうやって、消費パターンに組み込まれて、ストアのお金儲けに利用されていると思うと、習慣というのはあまり有り難くないものに思えるけれど、 逆に人間が習慣に従って生きる習性を利用すれば、生活を向上させることも出来るのだった。
例えばコロンビア大学では、約250人を対象に、エクササイズをさせるプロジェクトに取り組んだというけれど、 グループを2つに分けて、その1つに対しては健康維持にエクササイズが如何に大切かだけを説明し、 もう1つのグループには、それ以外にエクササイズを習慣化させるためのレクチャーを行なったという。
その習慣化のためのテクニックは、例えばランニングをしようと思う人であれば、朝起きたら、朝食の前にスニーカーを履く、ランニングウェアを すぐ着られるように用意してから眠る、といったもの。 殆どの人々が朝起きて、まず歯を磨いたり、顔を洗ったり、朝食を食べながら、新聞を読んだりするように、 エクササイズを朝のルーティーンの中に組み込むための 何らかの工夫をすれば、やがて自然にエクササイズを行なうようになる というのがそのセオリー。
実際に、コロンビア大学の実験では2つのグループに歴然たる差が出て、 習慣化のレクチャーを受けたグループは、多くの人々がエクササイズを続けること出来たことがレポートされているのだった。

逆に、過食や甘い物を食べる、お酒の飲みすぎなど、不健康な習慣は、そのルーティーンを崩すことによって 習慣を破ることが出来るもの。
そのためにはその習慣のトリガー(引き金)になっている状況を、時間、場所、その時に何をしているか、その時の心理状態 などで分析することが大切だそうで、 例えば、自宅での夕食後に TVを見ながらアイスクリームを食べるのが習慣で太ってしまった場合、 食後にお風呂に入って、TVを見ないようにするだけで、アイスクリームを食べようとする習慣はかなり崩れるもの。 お風呂の後、TVを見ずに、20分のメディテーション(瞑想)を心掛ければ、尚のことアイスクリームから遠ざかることが出来るのだった。
そして、それを続けるうちに体重が落ちてくれば、もうアイスクリームの習慣は過去のものになってしまうのだった。

習慣を改めるというのは、物事を無意識にやっているうちは難しいけれど、意識的に別の事をし始めることによって、 比較的簡単に、もしくは徐々に崩せるものなのだった。
前述のターゲットがクーポンを送りつける際に、店側が買い物客の妊娠を察知していると悟られないようにするのも そのため。 買い物客が、ターゲットが自分の妊娠を察知して妊婦に必要なプロダクトのクーポンを送りつけてきたと気付けば、行為をプライバシーの侵害と判断して腹を立て、 どんなにお得なクーポンが送られてきても、意識的に 「ターゲットだけでは買いたくない」、「ターゲットが薦めたブランドは買わない」というように ターゲットが分析した購買パターンにあえて逆らおうとするもの。消費者がそれを知らずに、無意識でいるうちは、 ターゲットの誘導する通り、妊娠の経過に応じて、必要なプロダクトを買い足していく購買パターンにはまっていくけれど、 一度、消費者がそのパターンを見破ってしまうと、特定のものを購入させようとする店側の意図を感じ取るだけに、 広告やクーポンのパワーが多かれ少なかれ 衰えるケースが出てくるのだった。

そのターゲットは、様々なデータを分析し 消費者が悟る前に消
費者がこれから必要になるプロダクトの クーポンや広告を送る 「予知マーケティング」で知られる存在。 なので 「私のところには 一体どんなクーポンや広告が送られて来ているんだろう?」と思って、過去1年分のメールを チェックしたところ、昨年秋にテニスのパートナーのアパートをデコレートするために、 家具やベッド・リネンを物色していたせいか、それ以降はガーデン・ファニチャーや 乳幼児グッズ、キッチン・グッズの広告が何回も送られて来ていたのだった。
でもそれに混じって、入っていたのが ドンピシャで私が必要としているプロダクト。 それは、ラップトップ・コンピューターで、私の場合、コンピューターはソニーじゃないと、何故か壊れたり、動かなくなったりするというジンクスがあるけれど、 それを読んだかのように、送られてきたのは VAIOのラップトップのオファーなのだった。
これが偶然か そうでないかは分からないけれど、 ターゲットから買うかは別として、私がもう直ぐソニーのラップトップを買うことになるのは確実なのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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