Mar. 7 〜 Mar. 13 2005




Who's Acting?



今週、アメリカの上院で可決されたのが、個人における破産法の改正案である。
従来のアメリカでは、個人が破産申告をした場合、差し押さえで手持ちの財産は失うものの、どんなに借金をしていても それが帳消しとなり、また 1 からやり直しが出来ることになっており、こうしたケースは「フレッシュ・スタート破産」とも 呼ばれてきた訳である。 ところが近年、この手の破産が激増した結果、昨年申告されたフレッシュ・スタート破産の数は1,100万件にも上っており、 その中には、現在の破産法を利用して、クレジット・カードによる買い物のし過ぎ、ギャンブル癖による散財を 繰り返す人々が含まれていることから、個人に対する破産に対しても、企業並みの返済責任を負わせるように定めたのが 今週可決された改正案である。
一方、この案に反対する主に民主党議員、及び知識人によれば、この改正案で苦しむことになるのは、 低収入の仕事で真面目に働いているものの、育児費用のために借金が増えていった貧困家庭、 もしくは健康保険に加入していない、もしくは加入していても 適用されないために、多額の医療費を抱えて やむなく破産申告をする人々で、ハーバード法律大学のエリザベス・ワーレン教授は、 半数以上の個人破産が医療費負担によるものである という調査結果を挙げて、 「こうした人々は、ロレックスの時計を買って破産を申告している訳ではない」と反論の姿勢を見せている。
この改正案は、クリントン大統領の時代にも上院、下院で可決されたものの、大統領が拒否権を発動したために ここ数年棚上げになってきたものであったけれど、今回ばかりはブッシュ政権下でこの改正案が通ることは 有力視されており、そうなれば一部のショッピング中毒、ギャンブル中毒の人々の「借金が返せなくなったら、 破産すれば良い」という安易な考えと行動のツケが、真面目で不遇な人々に回ってくるということになる訳である。
中には、「破産内容を検討すべき」との声も聞かれているけれど、浪費やギャンブルで破産したような人ほど、 犠牲者、被害者として振舞うのが上手く、真面目で正直な破産申告者ほど「こうなる前にどうにか出来たでしょう?」といった 印象を抱かせてしまうのが、世の常であり、現実だったりするのである。

これに止まらず、世の中には自分に何らかの利益をもたらすための 「Act / 演技 or 振る舞い」 をしている人々が、様々なケースの 様々な場面に存在するけれど、世間というのはそれほど簡単に、しかも何度も騙せるものではないもので、 いかにも演技、演出をしそうな人々は、最初から疑惑の目で見られたり、その演技、演出のせいで 批判の対象にもなりかねないのが実際のところである。

たとえば、5ヶ月間の拘留期間を終えて、先週木曜に自宅軟禁となったマーサ・スチュアートにしても、 その涙で声を詰まらせた社員へのスピーチが報道された直後のアンケート調査では、「彼女が以前より温かく、柔らかい人間になったと思う」 と答えた人々は46%、「以前と変わらない」と回答した人々は54%で、 彼女のにこやかな表情や涙を見せたスピーチが、例え彼女の偽らざる行動であったとしても、半数以上のアメリカ人にとっては、 それが今後スタートするリアリティTVの視聴率稼ぎや、株主へのアピールにしか見えないものなのである。

また3月1日には、ダウンタウンにあるラジオ局、ホット 97 (ナインティ・セブン) で ニュー・アルバムのプロモーションを兼ねたインタビューのため、 同局を訪れていたラッパー、フィフティ・センツと、新進ラッパーで、フィフティ・センツの弟分と見なされていたザ・ゲームの アントラージュ(側近) 同士の間で争いが起こり、フィフティ・センツの側近が脚を撃たれるという事件が起こっている。 この争いの背景には、フィフティ・センツが同局でのインタビューの最中、ザ・ゲームを 彼のラップ軍団、Gユニットから外す と語った等、様々なストーリーが展開されていたけれど、 事件直後から、飛び交っていたのが これがフィフティ・センツのニュー・アルバム、「The Massacre / ザ・マッサカー (大虐殺という意味)」の プロモーションのためのアクトであるという憶測。
というのも、この事件が起こったのは午後10時、ちょうどFOXのプライム・タイム・ニュースが放映されている時間帯で、 しかも この事件が起こるのをまるで見越したかのように、ホット 97には FOXのレポーターが取材に訪れており、 同発砲事件は FOX ニュースのライブ・レポートとして、生放送中に飛び込んできたものだったのである。 またフィフティ・センツとザ・ゲームは、後日揃って記者会見を開き、お互いのいざこざを解消したことを語り、 フィフティ・センツは15万ドル(約1600万円)、ザ・ゲームは10万ドル(約1050万円) を、ハーレム少年合唱隊に寄付することを 巨大な小切手のレプリカを提示しながら 明らかにし、この事件を美談として締めくくっているのである。
こうしたニュース・メディアからのパブリシティも手伝ってか、フィフティ・センツのアルバムは、 発売から1週間で110万枚を売り上げたことが伝えられており、 3月19日付けのビルボード・アルバム・チャートにも、堂々No.1でのデビューを果たすに至っている。

でも今週、誰の目から見ても 「アクト」 としか映らない行動を示したのは、何と言っても木曜にパジャマ姿で法廷入りしたマイケル・ジャクソンである。
マイケル・ジャクソンの少年性的虐待裁判については、世界中で報道されていることなので今更説明の必要はないかと思うけれど、 水曜に被害者少年本人の証言で、不利な立場に立たされたマイケル・ジャクソンは、 翌朝木曜に、「着替えの最中に転んで腰を痛めた」として、病院に出掛け、裁判開始時間になっても法廷に姿を見せず、 一時は判事から逮捕状が出されるという一幕があったものの、結局は1時間半以上も遅れて、ブルーのパジャマ・パンツに ディナー・ジャケットを着用した姿で入廷することとなった。 もちろんこのことは、 少年の証言のダメージを緩和するため、もしくは引き続き木曜にも行われた 少年の証言を先送りするためのアクトにしか映らなかったのは言うまでもないことであるけれど、 その一方で、多くの人々が思いをめぐらせているのが、「果たしてこの少年の証言も真実なのか?」、 「本当にマイケル・ジャクソンによる虐待行為があったのか?」ということ。
法廷で非常に信憑性のある証言を行った被害者少年に、こうした真偽が問われるのは、 少年の母親が息子のガンを利用して、数多くのセレブリティに会い、金品を受け取ってきたことで知られる人物であるためで、 弁護団が、容疑を覆えし、マイケル・ジャクソンこそが賠償金目当ての訴訟の犠牲者であることを立証するキー・ファクターとして 今後審議に持ち込んでくるであろうと見込まれているのが この母親の存在である。
同裁判については、多くの法律専門家や知識人を含むコメンテーター達が、 「何が本当なのか、誰がウソを付いていて、誰が本当の犠牲者なのか、全く分からない」と語っているけれど、 「事実」や「真実」でさえも、立場が違えば、違うバージョンが出てくる訳であるから、 こうした物証に頼れない裁判では、「法廷が陪審員を説得するためのステージと化す」と言っても過言ではなかったりする。
だから、被害者少年に限らず 証言台に立つ人間は、入念に尋問のセッションを重ねて、証言に信憑性を持たせる練習をしてから 本番に臨む訳で、証言が本当であっても、ウソであっても、ある程度の演技指導が行われているし、 この証言を聞く陪審員達も、証言者が練習を重ねていることを承知の上で、その信憑性を測ることになるのである。

私の個人的な見解としては、木曜のマイケル・ジャクソンのパジャマ・アクトの最大の失敗と言えたのは、 彼がボサボサの髪と、パジャマ・パンツ姿でありながら、しっかりメークだけはしていたことで、 普通の人間であれば 出廷前に 化粧をする時間があったら、 服を着替えるはずである。 彼が歩いて法廷入りし、その後ずっと椅子に座って証言を聞いていたことを思えば、彼の腰の具合が着替えが出来ないほど悪いとは 思えない訳で、パジャマはとってつけた言い訳にしか見えないと同時に、パジャマ姿は見せても、素顔は見せない彼の姿勢からは 顔への強いこだわりが感じられたけれど、 それだけに、もし彼が いつもながらの服装でも ノー・メークで現れていたら、 その方が 周囲は 「きっと よほどの事が起こったに違いない!」と 察したと思うのである。

さて、個人の破産法の改正案が上院で可決された直後に、マイケル・ジャクソン弁護団から発表されたのが、 マイケル被告が破産寸前の経済危機にあるという事実。 その負債額は350億円とも、700億円とも言われているけれど、弁護団は 被告の裁判費用を捻出するため、 TV番組スペシャルの製作許可を判事から取り付ける予定で、その世界各国からの放映権料だけで、 マイケル被告は十数億円を稼ぎ出すことが見込まれている。
でも、いくらマイケル・ジャクソンが世界的なスーパースターであっても、負債を解消するまで この手が使えることは無い訳で、 TVスペシャルで稼ぎ出した資金も、恐らく弁護料の支払いだけで消えてしまう可能性が濃厚である。 だから、ひょっとするとマイケル・ジャクソン側は破産法の改正案が可決される前に個人破産を申告するかもしれないし、 一方の改正案も、下院を通過すれば 今年初めに遡って施行されるかもしれない訳で、 この動向も裁判同様に 興味深く見守られるところである。 でも、世界各国で放映されたBBC製作のドキュメンタリー番組で マイケル被告が見せた、数分で数億円を使ってしまう異様なまでのショッピングや、 少年性的虐待の現場となったと言われる彼の邸宅で、遊園地や映画館等を擁するネバーランド・ランチの巨額な維持費を考慮すると、 彼は破産後もその返済義務を負うべきであると思うし、 350億円でも、700億円でも、 それだけ負債額が嵩む以前に 債権者側も 何らかの策を講じるべきであったというのが私の考えである。
彼が百億円単位の借金地獄に陥っていることは、アメリカでは2001年頃から報道され始めていたニュースで、 もし、その頃にネバー・ランド・ランチを差し押さえていれば、 今回の裁判の性的虐待容疑も発生していなかったかもしれないのである。



Catch of the Week No.1 Mar. : 3月 第1週


Catch of the Week No.4 Feb. : 2月 第4週


Catch of the Week No.3 Feb. : 2月 第3週


Catch of the Week No.2 Feb. : 2月 第2週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。