Mar. 2 〜 Mar. 8 2009




” Snuggie Time! ”


今日3月8日の日曜は、午前2時に 時計の針が1時間進んで 午前3時となるデイライト・セイヴィングの日。
これを境にアメリカはサマータイムに突入した訳だけれど、統計によれば サマータイムが終わる時に時計の針を1時間遅れさせた翌日、 月曜は心臓発作を起こす人の数が日頃より5%減るのに対して、時計の針を進ませて睡眠時間が1時間奪われた直後の月曜は、 逆に心臓発作を起こす人が5%増えるという。
それほどに1時間でも睡眠時間を奪われることは、身体に悪影響を与えるものであるし、規則正しい生活をしている人ほど、 時計の針を進ませるデイライト・セイヴィングの際は 時差ボケのような症状を覚え、サマー・タイムに身体のリズムが馴染むまで 1週間ほどを要する場合もあるという。

私の場合デイライト・セイヴィングの際は土曜の夕方には腕時計を含む 家中の11個の時計を全て進ませておくようにしているけれど、 それでも今朝は起きてから どうもシャキッとせず、新聞を読みながらウトウトする状態。 でも、そんな眠たい身体に鞭を打って出掛けたのがアカウンタント(会計士)とのアポイントメントで、私は晴れて今日で 自分個人の税金の申告を終えたのだった。
私は、弁護士とアカウンタントは 「自分が人間的に好きで、120%信頼できる人」と決めているけれど、 私のアカウンタントは 私個人の経済事情を誰よりも良く知っているせいか、年に1度、この季節にしか会わないにも関わらず、 私のことをとても理解していて、毎年お金に関わらず いろいろなアドヴァイスをしてくれるのだった。 なので私自身、彼に会いに行くのは楽しみだったりするけれど、毎年のように私に結婚を勧める彼が今年に関しては 結婚を勧めなかったばかりでなく、”Between Job” の男性、すなわちレイオフされて、次の仕事を探している失業者とは 「どんなに好きになっても結婚だけはしないように」 と言われてしまったのだった。
彼からの昨年のアドバイスで 「きちんと従っておけば良かった」 と思うのは、「株を早いうちに全て始末するように・・・」 というものだったけれど、幸いアメリカでは投資による損失、すなわちキャピタル・ロスについては 毎年3000ドルまでが税金控除の対象となり、 その年にそれ以上の損失分があった場合は、翌年、その翌年の税金から3000ドルずつ控除されるという有難いシステムがあるのだった。
なので、私のように会社からの給与が既に源泉されている納税者は、株の損失がタックス・リファンド(税金の払い戻し)という形で キャッシュで戻ってくる訳で、今年はこの3000ドルを国税局から受け取るタックスペイヤーが非常に多いことが見込まれているのだった。
でも 既に破産状態のカリフォルニア州では、ステート・タックスの払い戻しが生じても、州がそれを払うことが出来ないため、 今年は「IOU」と呼ばれる 州からの借用書が発行されるのみだそうで、経済が建て直されるまでは払い戻しが行われないと言われているのだった。

さて、今週末には2月のアメリカの雇用統計が発表されたけれど、この1ヶ月間にレイオフされた人々の数は65万1000人。 これを受けて アメリカの失業率は1月の 7.6% から 8.1% にアップしたのだった。
もちろん失業率は各州によって異なるけれど、最も失業者が多い州は カリフォルニアかと思いきや 自動車業界のお膝元、デトロイトがあるミシガン州。 次いで リッチ・ピープルがお屋敷を構えていることで知られるロードアイランド州が意外にも 2位となっている。
ミシガン州については住宅価格の下落も激しく、デトロイトでは一戸建ての住宅が マンハッタンのワンベッドルームのアパートの6か月分の 家賃より安い1万8000ドル(177万円)で売られているという。
でもそんな安値でも、アメリカの不動産を買いあさっている中国人でさえ見向きもしないのは、デトロイトという街がそもそも治安が悪いという 悪条件に加えて、今後自動車会社が倒産に追い込まれるようなことがあれば、 同エリアに全く産業が無くなって、失業者が溢れることを見越してのもの。
でも今日付けのニューヨーク・ポスト紙には、ニューヨークでも差し押さえになった住宅が激安で競売に掛けられることが報じられており、 それによれば、かつては 55万5000ドル(約5456万円)ドルだったクイーンズの一戸建てが 6万9000ドル(678万円)で売りに出されるとのこと。 ちなみにクイーンズはニューヨーク市において 唯一、 桁外れに住宅差し押さえ件数が多く、 今年1月の数字では マンハッタンの住宅差し押さえ数が僅か5件、ブルックリンが12件、ブロンクスが33件、 スタッテン・アイランドが58件なのに対して、クイーンズは何と170件という数字になっているのだった。

でも、私が個人的に住宅価格の下落よりも遥かに危惧する2つの問題は、新聞 と 郵便局の経営悪化である。
2月末にはコロラド州で最も古く、150年の歴史を誇ったロッキー・マウンテン・ニュースが倒産のため廃刊となっており、 これでコロラド州で発行される新聞が無くなってしまったことになるけれど、次に倒産が見込まれているのがサンフランシスコ・クロニクル紙。 リセッションが悪化してからというもの、新聞はどんどん薄くなっており、今年に入ってからはその状況に拍車が掛かる一方。 また 新聞各紙は昨今 カラーページを少なくし、紙の質も落としているだけでなく、ニューヨーク・ポスト紙などは 同紙が 長年抱えてきたアメリカで最も高給取りのベテラン・ゴシップ・ライター、リズ・スミスをクビにしたりと、 それぞれが生き残りをかけた バジェット・カットを行っているのだった。
人々が新聞を読まなくなっている最大の理由は、それぞれがウェブサイト上でも 無料でニュースを配信しているためと言われており、 毎月40ドル以上を支払ってニューヨーク・タイムズ紙を購読している私は よく友達に 「どうしてインターネットで読まないの?」 と聞かれることもしばしばである。 そのニューヨーク・タイムズ紙は定期購読者が他の新聞に比べて遥かに多いことから、存続の危機にまでは追い込まれて居ないものの、 かなり苦しい経営を強いられていることが報じられているのだった。
でも私に言わせれば、ニューヨーク・タイムズ紙というのは 私の1日の始まりに欠かせない大切なニュース・ソースであると同時に、 そのニュースを捉える視点や記事の内容の濃さは群を抜いているし、経済問題、政治問題を 実に分かりやすく的確に記事にする世界で最も優秀なメディアなのである。 加えて、同誌はフランク・リッチに代表される有能なライターを様々な分野で抱えている点でも、 アメリカだけでなく、世界のメディアの財産と言える新聞だと私は考えていて、同紙を支えるためだったら 月々40ドルの出費は全く厭わないし、何故かニューヨーク・タイムズ紙に関してはオンラインで読むのと、実際の新聞で読むのとでは 頭に入ってくる内容の濃さが全く異なる不思議な新聞なのである。(NYポストやUSAトゥデイなどの記事は オンラインで読んでも、紙で読んでも全く同じにしか感じられないのである。)

同じく経営悪化が伝えられているのが郵便局であるけれど、 既に郵便局はエクスプレス・メールを除いては 土曜の配達を行わないことを決定しており、人員削減を行うことも見込まれているのだった。 また労働時間の短縮=ペイ・カットも行われているようで、今週 CUBE New York の荷物を いつも取りに来てくれる ピックアップ担当者が 突然休んだので後で理由を尋ねたところ、 その日の朝8時に 突然 電話が掛かってきて 「今日は休むように」と言われたとのこと。
なので、郵便局員と言えど レイオフを恐れて戦々恐々の日々を過ごしているようなのである。

さらに先週報道されたニュースによれば、カンサス州では予算不足から死刑を廃止する可能性が出てきているという。 例えば もし犯罪者を終身刑にした場合、その刑にかかる費用の総額が74万ドル(7270万円)なのに対して、 死刑にする場合は$124ミリオン(約1億2000万円)もの費用が掛かるとのこと。
現在 全米50州の中で死刑を行っているのは30州であるけれど、このうち カンサスを含む7州が予算不足から 死刑の廃止を検討していると言われており、 それと同時にケンタッキー州などでは、予算不足のために受刑者を早めに釈放する羽目になっているという。

でも経営が苦しいのは ラグジュアリー・ビジネスも然りで、今週 ファッション業界紙で報じられたのが シャネルが日本の大阪と九州の ブティックを閉店するというニュース。
今週パリに舞台を移したファッション・ウィークはそんな一流のデザイナー・ビジネスも リセッションのため バジェット・カットに次ぐ バジェット・カットを強いられていることを 露呈するものとなっているのだった。 例えば、ソニア・リキエルが70年代以来初めて ファッション・ショーをブティックで行うことにしたのを始め、 多くのデザイナーがショーの規模を縮小し、ステージ・セットにお金を掛けないのはもちろん、 ショー会場や、ブティックに飾る生花のバジェットも減らしているという。
ルイ・ヴィトンに関しては、これまでブティックに飾ってきた花を減らすことで、年間1億5000万〜2億円近い節約が出来ると 見積もられているそうで、同社は 2009年度の広告費も 30〜50% 減らすことを発表しているのだった。 さらに グッチに関しては、 これまで社員に無料で与えていた携帯電話を解約することによって、やはり億円単位の 経費節約を図ったことが伝えられているのだった。

さて、今週は遂にダウが7000ドル台を割っただけでなく、6.2%も値を落とし 金曜の終わり値は6626.94ドル。 中でも 今週 一時は 1ドルを切って 97セントを付け、金曜には1ドル3セントで引けたシティ・バンクの株価は、 大きな話題となっていたのだった。
2007年11月までは60ドル以上をつけていた同社の株価が 今やアメリカ版の100円ショップ、”ダラー・ストア”で 売れるようなお値段になってしまったのは驚くべきことだけれど、 その1ドル・グッズを販売する最大手、ダラー・ツリーの株価が シティ・バンクの40倍であるのも冗談のような本当の話である。
今週は友達とレストランで食事をして パスタをオーダーするにしても、26ドルという値段を見て 「ふーん、シティ・バンク 26株か・・・、だったら パスタをオーダーした方が有効なお金の使い方よね!」 などと、何にお金を使うにしてもシティ・バンクの株価を引き合いに出していたけれど、 今やそのシティ・バンクのATMからお金を引き出そうとした場合、同社株式2株分の2ドルの手数料が掛かると言われているのだった。

とは言っても シティ・バンクよりもアメリカ国民の怒りを買っているのは、メリル・リンチもさることながら何といってもA.I.Gで、 2008年第4四半期だけで、これまでのアメリカ企業の最悪記録を更新する $61.7ビリオン(約6兆650億円)の損失を出し、政府が同社に対する3度目のベイルアウトを行う羽目になったことは、 国民から大変な怒りを買っているのだった。
今や税金のブラック・ホール状態になっているA.I.Gであるけれど、今回のベイルアウトも これが最後なのではなく、 「続きがあるだけなく、終わりが無い」 とさえ言われており、「A.I.Gのベイルアウトが終わるのは 同社が崩壊する時」 とも指摘されているのだった。 そのA.I.G. は かつて 夜のトークショーで 「Alliance In Greed / アライアンス・イン・グリード (欲に駆られた同盟、もしくは連携)」の略だと ジョークで言われていたものけれど、今回の大損失が発表されてからは 「And It's Gone / アンド・イッツ・ゴーン (そして無くなった)」 の略だと からかわれて 人々の大笑いを誘っていたけれど、 納税者にとっては笑っていられる話ではないのが実際のところなのである。


ではこんな大不況のアメリカで何か売れている物があるのか?といえば、不思議なものが大ヒット商品になっていたりするのである。 それが袖付きブランケット、”Snuggie / スナギー” である。(写真上一番右)
この奇妙なプロダクトは フリース素材の毛布に袖が付いたもので、スター・トレックでミスター・スポックが着ていたコスチュームや、 修道僧のユニフォーム、後ろ前に着ればスター・ウォーズのオビワン・ケノビのようであり、トム・クルーズが「アイズ・ワイド・ショット」で 着用していたマントのようでもあると指摘されているもの。 アメリカに暮らしていて、夜ケーブル・チャンネルを見る人だったら、スナギーの2分間に渡るCMを見たことが無い人は居ないと言っても 過言ではないけれど、それほどまでに 物凄いヘビー・ローテーションで放映されているのがスナギーのコマーシャルである。 それもそのはずで販売元のオールスター・マーケティング・グループはそのCM放映料に$10ミリオン(約9億8000億円)を投じたという。
このプロダクトはオールスター・マーケティング・グループが開発したものではなく、既に類似したプロダクトが市場には 幾つか登場していたというけれど、それを1枚19.95ドルというお値段と インパクトの強いCMで 売り出したのが同社である。
スナギーの2分CMは、”暖房費の節約”、”ブランケットでは滑り落ちて、手が自由にならない”などと謳ってから、 袖付きブランケット、スナギー着たモデルがポップコーンを食べながらゆったりTVをみたり、家族全員がスナギーを着て、 子供のフットボールの試合を観戦している様子など、あり得る状況から あり得ない状況までが描かれていて、 私は最初にこのCMを見た時に 笑いが止まらなかったのを覚えているけれど、 オールスター・マーケティングの社長のコメントでは、意図的に笑えるCMを製作したという。
確かに一度見たら誰も忘れられないCMであるけれど、私のように馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばす人だけでなく、 これを見て「暖かくて便利そうで、しかも安い」と思う人は多かったようで、 スナギーは昨年10月に発売されて以来、僅か4ヶ月足らずの間に400万枚を売り切る大ヒット・プロダクトになったのだった。
スナギーを冗談交じりのクリスマス・プレゼントに選ぶ人も多かったというけれど、この誰も予想しなかった メガ・ヒットは 多くのメディアが報じており、それぞれに番組のホストやアンカーがスナギーを着用して登場し、そのニュースを伝えていたのだった。
このヒットは 「貧すれば鈍する」 の象徴のように指摘する声もあるけれど、 経済の動向に関係なく、 大衆にアピールするトレンド・プロダクトというのは、アグリーで不思議なアイテムが多いもの。 数年経った時に 誰もが「どうしてあの時 こんなものにお金を払ったんだろう・・・」と 振り返っては 笑ってしまうものが多いだけに、 スナギーが これだけのセンセーションを巻き起こすのも 決して不思議ではないのである。





Catch of the Week No. 1 Mar. : 3 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Feb. : 2 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Feb. : 2 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Feb. : 2 月 第 2 週







執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。