Mar. 9 〜 Mar. 15 2009




” Drink Till You Drop... 刹那的快楽主義者たち・・・ ”


今週のアメリカでは、フォーブス誌毎年恒例の世界長者番付リストが発表されていたけれど、 それによれば、2009年度のリストでは ビリオネア(1000億円長者)の数が昨年の1125人から 約30%減って 793人となっており、世界の富の頂点の人々でさえ 現在の世界的なリセッションでその財産を減らしていることが報じられていたのだった。
昨年この長者番付リストで1位となっていたウォーレン・バフェットは、 彼の投資会社バークシャー・ハサウェイが昨年62%というとんでもない減益を記録したけれど、 個人でも$25ビリオン(約2兆4500億円)もの資産を減らしており、 今年は資産総額が $37ビリオン (約3兆6265億円)となっているのだった。
彼に代わって1位に返り咲いたのはマイクロ・ソフト社のビル・ゲイツ会長であるけれど、 ビル・ゲイツにしても昨年より資産を$18ビリオン (約1兆7642億円) 減らして $40ビリオン (約3兆9205億円)という 資産総額になっているのだった。
国別に見て、今年 ビリオネア・リストから最も多くの名前が消えたのはロシア。 昨年は74人のビリオネアを抱えていたモスクワが ニューヨーク(71人)を抑えて ビリオネア・キャピタルとなっていたけれど、今年はその数が24人に激減。 替わって 2009年は ブルームバーグNY市長を含む55人のビリオネアを要するニューヨークが ビリオネア・キャピタルとなっているのだった。
今年の793人のビリオネアのうち、資産を増やしているのは 約5.6%に当たる 44人のみ。 また、昨年は39人もの アメリカのヘッジファンド・マネージャーがビリオネアとして名前を連ねていたけれど、 今年は 28人に減っているとのことだった。
その長者番付で2位に下がったウォーレン・バフェットは先週末のCNBCのインタビューに 応えて、現在のリセッションを 「エコノミック・パールハーバー」 と表現していたけれど、 アメリカのメディアではかつて彼のことを「アメリカで最もサクセスフルなインヴェスター」と呼んでいたもの。 でも昨年の大損失や、昨年10月に行った「バイ・アメリカン」発言(「アメリカの株に投資をするべき」というアドバイス)が 完璧に的が外れていたことを受けて、今やメディアはバフェット氏のことを「アメリカで最も有名なインヴェスター」という 当たり障りの無い表現に替えているのだった。

ところで目下、アメリカはスプリング・ブレークの真っ最中。
スプリング・ブレークとは春休みのことで、子供でも居ない限りは 普通に生活している大人の生活にはあまり関係が無いものである。
通常スプリング・ブレークには大学生がカンクーンなど、メキシコのビーチ・リゾートにこぞって出掛けるのが常で、 この理由はメキシコの法律だと飲酒が許される年齢が18歳であるため(米国は21歳)、アルコールを浴びるほど飲んでパーティー三昧が 出来るためである。 なので、スプリング・ブレークというのは大学の新歓コンパを何日も 連続で行う ノリ に似ているけれど、 今年に限ってはメキシコの国境付近で ドラッグ・カルテルとメキシコ政府が戦争状態を繰り広げており、 旅行者や地元市民が誘拐される事件が多発しているために、 アメリカ政府がメキシコへの旅行を自粛するように呼びかけているのだった。
なので、スプリング・ブレーク期間中のメキシコ行きをキャンセルした学生は多かったようだけれど、 アメリカという国は大学を出て一度仕事をしてから、MBAを始めとするマスター・デグリーを取りに学校に戻るというのは 決して珍しく無いこと。 ことに昨年初頭までにレイオフされていた人々の中には、仕事探しが難しい時期に あえて条件が悪い仕事に就くよりも 失業手当を貰いながら 学校で 学び、景気が戻った頃にキャリア・アップして仕事に復帰した方がベターと判断する人も多かったようで、 私の女友達のうちの2人もMBAやマスター・デグリーを取るために大学に戻っているのだった。
本来だったら、この時期は 彼女らも 学校の友人達とスプリング・ブレーク にメキシコやプエルトリコなどに行く予定であったと思われるけれど、 今年はメキシコ旅行を控えなければならない上に リセッションとあって、 旅行を諦めてニューヨークに里帰りしており、先週から今週に掛けて 私は そんな久々にNYに戻った彼女らを囲む Girls Night Out / ガールズ・ナイトアウト に付き合わされていたのだった。

NYに里帰りしている友達は、短い期間に沢山の友達に会って帰ろうとするので、出掛けてみると私が今まで会った事が無い 女の子が2人ほど混じっている場合もあったけれど、例えば7人で出かけたとすると、Guest of Honor である里帰りしている友達は 学生であるからカウントしないとして、残りの6人中、仕事があるのは私を含む4人。 残り2人は ”Jobless / ジョブレス”、すなわちレイオフされた失業者という割合になっているのである。
当然仕事がある組は、夜12時が近付いてきたら 明日の仕事があるので帰る事を考えるし、それ以前にアルコールの量にも リミットを設けるけれど、学生&ジョブレス組は すっかりリラックスして酔っ払っており、 私はその姿を見て 先週会計士に言われた 「今の時代は、仕事があるというだけで素晴らしいことだよ」という言葉が 誰にでも当てはまるものでは無いことを目の当たりにしてしまったのだった。

もちろん 彼女らは住宅ローンも無ければ、養う子供も居ない状態で、失業手当を貰って暮らしている訳だけれど、 その失業手当はNYの場合、最高で月々1600ドル程度。しかもこれは課税対象となる上に 源泉されないので、確定申告の時期になったら その所得税を支払うためのお金をプールしておかなければならないもの。
でも物価も家賃も高いニューヨークでは 普通に暮らしていたら失業手当だけでは 当然生活が賄えない訳で、 失業者は、 親や伴侶、もしくはパートナーから援助を受けているか?、 自分の貯金を食いつぶしているか?、さもなければクレジット・カードを使って、その借金が膨らんでいるか? のいずれかの生活をしているのである。
にも関わらず、ジョブレス&学生組が ”Super Deluxe Fun Girls Nite(Nightのスラング) Out” というタイトルのEメールで、決して安くは無いレストランやバーを リストして ”Let's DTYD!(Let's Drink Till You Drop / 倒れるまで飲みましょう!)” などと書いて来るので、仕事がある組の方が ”彼女達、お金大丈夫なの?” と 陰で心配しなければならない状態になっていたのだった。

しかも、ジョブレス&学生組は 仕事がある組が働いている最中から既に飲み始めているケースが多く、 皆が集合する頃にはすっかり出来上がっているという状態。
そのうちの1夜では、私が夜10時に彼女らが居るバーにジョインしたところ、 ジョブレス嬢の1人は 階段を1人で降りられないほどに酔っ払っており、 ”金融関係”を名乗る男性グループにおだてられて、彼らのテーブルで ラップダンス(ストリッパーのプライベート・ダンス)の 真似事まで始めたので、仕事がある組の友人が 彼女を引きずって 家に送り届ける羽目になってしまったのだった。
そもそも日本人というのは酔っ払いに寛容な国民であるけれど、彼女はその日本人の私から見ても 「あれは酷い!」と 思わざるを得ない酔っ払いぶり。加えてそのニュージャージーのストリッパーのようなダンスにも 度肝を抜かれてしまったのだった。
ちなみに、彼女は昨年春に仕事を失ってから職探しなどせず、ボーイフレンドとエジプトに出かけ、姉妹とシルク・ロードの40日旅をしたばかり。 その時居合わせた もう1人のジョブレスの女の子も、時間があるからといって イタリアに居るボーイフレンドのところに6週間の予定で 滞在するという。
なので、この”ファービュラスなジョブレス・ライフ” の話を聞いた 保険会社に勤める女の子は、 「ニュースで見る失業者の話とは別世界ね」 と皮肉なのか本音なのか分からないようなコメントをしていたのだった。

ところで、今アメリカではマクドナルドが売上を伸ばしている事からも察しがつくとおり、食費を切り詰めている人が多い反面、 アルコールが売上を大きく伸ばしており、人々がアルコールで現実逃避をしていることが指摘されているのだった。
実際、今アメリカでは 普通にしていては物が売れないので、ワインやシャンパンを振舞って気が大きくなったところで、買い物をしてもらおう という ショッピング・パーティーなども行われており、そうでもしなければ 売り場は博物館のようで、 「人が見ては素通りするだけ」 なのだという。
これはアルコールのパワーがマーケティング・ツールになっている好例であるけれど、 同様のアルコール・パワーでリセッションとは思えないビジネスを展開しているのが、ミートパッキング・ディストリクトのレストランで 土曜の午後に行われるハイエンド・ブランチである。
実は私は、この土曜のハイエンド・ブランチに1月に出掛けており、レストランのセクションで記事にしようかと思っていたのだけれど、 今日のニューヨーク・タイムズにその記事が掲載されていて、正直なところその馬鹿げたお値段にビックリしてしまったのだった。
というのも、私がこのハイエンド・ブランチに出かけたのは ”友達の友達のバースデー” に連れて行かれたので、 食事代やドリンク代を支払って居なかったのである。


私が出かけたのは、Bagatelle / バガテル というフレンチ・ビストロでのブランチ(写真上)で、 友達には「全員揃わないとテーブルに案内してくれないので、 時間通りに参加するように!」と釘を刺されたけれど、幸いブランチとは言え 2時半の集合だったので、出かけたところ まだまだ外が明るいのに DJが入って 80年代のダンス・ミュージックをガンガン掛けており、3時を過ぎて私達がテーブルについた時には ミニドレスやタンクトップを来た女の子が椅子やテーブルの上で ノリノリの状態で踊っていたのだった。
またシャンペンをボトルでオーダーするたびに花火が飛び出してきて、私達のテーブルもバースデー・セレブレーションということで、 マグナムのシャンパンが何本も空いていたのだった。 でも ヴーヴ・クリコ・イエローラベルだったし、フードはブランチとあってフレンチ・トーストとかをオーダーしているので、 そんなに高いことは無いだろうと思って、大して有難いとも思っていなかっただけに、 今日のニューヨーク・タイムズ紙の記事を読んで愕然としてしまったのだった。
というのも、このバガテルのブランチは シャンペンのボトルをオーダーすると、 テーブルチャージが軽く4桁、すなわち日本円にして数十万円になってしまうという クラブのボトルサービス も真っ青のお値段。 その支払いが100万円を超えるテーブルも珍しくないというから、原価を考えれば ”史上最悪の ボッタクリ” なのである。

でもそんなお値段だとは知らずに レストランを出た時は、1月のようにリセッションに関係なく、 その寒さから遅くまで夜遊びをするニューヨーカーが少ない時期だと、「こんな風に昼間のブランチから飲み出すのは 悪く 無いアイデアなのかもしれない」 程度に考えていたのだった。
ちなみにバガテルの常連は、ニューヨーカーが時に ”ユーロトラッシュ” と呼ぶ スノッブなヨーロピアンが中心で、 金融関係者を始めとするニュー・マネーではなく、代々リッチで、生まれたときからリッチだった オールド・マネー組、 すなわち 時代に関係なくお金がある人々。なので彼らがお取り巻きの分まで気前良く アフリカン・アメリカン・エクスプレス(アメックスのブラック・カード)で 支払っているケースが多いという。
この他にもニューヨーク・タイムズ紙には、同じくミートパッキングのアフリカン・レストラン、 マーカト 55 で行われている ブランチについても書かれていたけれど、 今、ミートパッキングではこの2軒が 昼間から 飲んで 踊って、夜の7時には引けるというハイエンド・ブランチの メッカになっているとのことだった。

ふと考えると このコンセプトは、私が個人的にブランチというものを好む理由とは全く相反するもの。
そもそも私にとってのブランチとは、カジュアルな格好で出かけて、脳が半分機能していない状態を放置したまま ミモザ(シャンパンとオレンジ・ジュースのカクテル)を飲みながら、フレンチ・トーストを味わって、 最後のコーヒーを飲む段階で、やっとエンジンが掛かってくるというもの。
ところがこのハイエンド・ブランチはある程度ドレスアップして出掛けなければならない上に、 いきなりハイテンションで登場しなければならないので、夜遊びが数時間前倒しになったようなもの。 要するに時差ぼけ感覚のイベントなのである。
でもニューヨーク・タイムズ紙の記事を読んだり、私の友達の様子を見ていて思うのは、 一部には本当にお金があって、お金を使う人が優遇される今だからこそ、 はばからずに 気分が良くなれる場所でお金を使っている人が居る一方で、 日頃はお金を切り詰めながら生活をして、週に何度か現実逃避の場を求めて、こうしたドリンキング・パーティーにやって来る人々も多いということ。

私のシングルの友達だけを観察した限りでは、仕事がある人間の方が ヴァケーションのためにお金を貯めたり、必要なものやどうしても欲しいものを 買うお金を優先させて、バーやレストラン代を切り詰める傾向が強く、要するに ”残るお金の使い方” をしたがるのに対して、 ジョブレス組の方が バーに出かける飲み代 等に 気前良くお金を使ってしまうし、酔っ払って楽しい時間が過ごせればそれで良いという実に刹那的な考えを持っているのだった。
とは言っても、彼女らが気前良くドリンクをオーダーし始めるのはもっぱら酔いが回ってからの話。 後から銀行の残高やクレジット・カードの請求書を見た時も そう思っているかは定かではないのだった。

ところで、フォーブス誌の世界長者番付に話しを戻せば、今年は新たに38人がビリオネアになっているというけれど、 そのうちの1人がホワキン・グツマン・ロエラ という アメリカにコカインを密輸しているメキシコ最大の麻薬組織の親玉である。 すなわち 彼をビリオネアにしているのが、アメリカ人のコカイン消費であるけれど、ウォールストリートのレイオフされた トレーダーが借金をしてまでコカインを常用し続けていることからも分かる通り、そのビジネスはリセッション知らずどころか、 経済状態が悪く、現実逃避を求める人が多い方が繁盛するものなのである。
目下、 アメリカでは カリフォルニアを中心にマリファナを合法化して課税することによって税収を得ようとする動きが 強まって来ており、これが実現すれば既にマリファナ栽培が一部合法化されているカリフォルニアは一躍 数千億円ビジネスが誕生し、 破産状態から数年で脱することが出来るとさえ言われているのだった。
その一方で、ニューヨークを始めとするいくつかの州ではこれまで禁止されてきたスーパーマーケットやコンビニエンス・ストアでの ワイン販売を許可し、そのリカー・ライセンスによる収入と ワインの売上アップによる税収で財源を賄おうという動きも出ているのだった。

この2つの法改正のメリットは財源確保であるけれど、これに猛反対する人々が訴えるデメリットは まずマリファナを合法にした場合、マリファナ中毒が増えたり、マリファナでは物足りなくなった人々がコカインやその他のドラッグに手を出し、 やがては中毒者になってしまうことが見込まれるため。
その一方で、ワインのスーパーマーケットでの販売が反対される理由は、ワイン専門店のビジネスが潰されてしまうこと、 そしてワイン専門店が減ってしまえば、ワイン好きが好むような小さなヴィンヤードのユ二ークな ワインを仕入れる店が激減するため、 小規模ヴィンヤードが閉鎖に追い込まれることが危惧されるのが1つの理由。
さらに一足先にスーパーでのワイン販売を許可した州では、それをきっかけに 飲酒運転による交通事故が増加しているのだそうで、 食料品の買い物のついでにワインが買えるというのは一見便利で、それに伴って売上も伸びるというけれど、 その分 人々のアルコール消費量が増えることによる弊害も出てくる訳である。
なのでコカイン・ビリオネアが誕生する一方で、この2つの法改正が実現した場合、 アメリカ国民の 麻薬、アルコールといった刹那的快楽の追求に一層拍車が掛かることが見込まれるけれど、 この刹那的な快楽というのは、先述の通り 辛いことや苦境からの逃避、すなわちそれらを忘れたいと思うために行うこと。 でもそれによって 現実世界の辛いことや苦境が消えてくれる事は無い訳で、 そんな逃避を続けよう、もしくは逃避に依存しようとすることによって 陥るのが 麻薬やアルコールの中毒。 これらは精神的に満たされている人には無縁のものである。
「人間が快楽を維持するには理性が必要である」と解いたのがストア派哲学なのか?、エピキュロスなのか?、 私には未だにはっきり分からないけれど 経済の状態がどうあれ、 大人である以上は理性的に振舞うべきだと思うし、人生というのは何かから逃避するものではなく、 何かを追求するべきもの。
そう思うからこそ 社会的な責任がなく、仕事をせず、毎日酔っ払っても暮らしていける人を見ても、 私は 決して羨ましいとは思わないのである。





Catch of the Week No. 2 Mar. : 3 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Mar. : 3 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 Feb. : 2 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Feb. : 2 月 第 3 週







執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。