Mar. 11 〜 Mar. 17, 2013

” Raw Diet Break-up? ”

今週アメリカで、最大の話題になっていたのは、やはり新ローマ法王誕生のニュース。
予想より遥かにスピーディーなコンクラーヴェで誕生したフランチェスコ1世(英語名はフランシス)は、事前の予測では 有力候補者にさえ入っていなかったので、メディアやカソリック関係者の間ではサプライズ選出と見なされていたのだった。
フランチェスコ1世は、今やカソリック教徒の40%を擁する南米からの 歴史上初の選出であるけれど、 アメリカのカソリックが徐々に考えを改めつつある同性婚については、絶対反対の立場。 フランチェスコ1世の初のツイートは9ヶ国語で行なわれたものの、今日、3月17日行なわれた初の日曜礼拝は、イタリア語のみで行なわれており、 数ヶ国語を流暢に話したベネディクト16世とは異なる様子を見せていたのだった。

アメリカ国内、及びニューヨークで今週大きな報道になっていたのは、ブルームバーグNY市長が推し進めていた、 16オンス(473ml)以上の容器のソーダ、及び砂糖を含むドリンクの販売を禁止するという法案が、 施行前日に NY最高裁の判事によって覆されたというニュース。
ブルームバーグ市長が、巨大容器のソーダの販売の禁止法案を打ち出したのは、ソーダの飲みすぎが肥満の原因と指摘されるためで、 肥満、ことに健康保険を持たない貧困家庭の糖尿病、心臓病といった肥満がらみの健康問題は、 市の財政の大きな負担になっているのは言うまでもないこと。
これに対して、「市政府の市民生活に対する過剰介入」として反対運動を起していたのが、貧困家庭層の市民団体とソーダ会社で、 結果的に、判事は37ページにも渡る説明文付きの法案無効判決を言い渡したのだった。 でもその翌日、NYポスト紙に掲載された判事のフルボディ・ショットが、ソーダを浴びるように飲んでいるかのような 巨漢だったというオチもついており、当然のことながらブルームバーグ市長側は、控訴の姿勢を見せているのだった。

私は個人的にはこの法案に賛成で、それというのも、私の知り合いの日本人女性が、NYに住み始めてから、ダイエット・コークの1リットル・ボトルを 1日1本飲むようになって、僅か数ヶ月の間に10キロも体重を増やしていたため。 彼女の場合、50キロが60キロになったので、20%もウェイトが増えたことになるけれど、着る物のサイズが変わったのはもちろん、 顔の輪郭まで変わってしまったのだった。
ソーダやワインのように、カロリーの割りに 消化器官が活動せずに済むものを、昨今では ”エンプティ・カロリー”、すなわち”空虚なカロリー”と 呼ぶ傾向があるけれど、このエンプティ・カロリーは 実は非常に危険な存在。 というのは、脳は体内に入ったカロリーを察知して、その消化活動を行なうシグナルを送るけれど、 消化するべき食べ物が無い場合、消化活動の空回りが 食欲というシグナルになって、食べ物を胃に送り込むように 脳に伝達されるとのこと。
ワインを飲むと食事が美味しく感じられるのは、エンプティ・カロリーによって活動を始めた消化器官に、待ち受けていた食べ物が 送り込まれ、その機能が満たされたシグナルが脳にセンセーションとして伝達されるため。 したがって、映画館で 巨大サイズのソーダが、それより巨大なバターをトッピングしたポップコーンを胃に流しこんで、 あっと言う間に2500カロリーを消費する トリガー になっていることは否定出来ないのだった。
その一方で、今週は アメリカ国内で、ボトルド・ウォーターが初めてソーダの売り上げを抜いて、市販ドリンクの No.1になったというニュースも報じられているのだった。



ところで、少し前に友人たちとブランチをしていて、話題になったのが、「食生活の違いがカップルの別れの原因になるか?」 というもの。
「食の趣味がはっきり違えば、最初から付き合わないはず」と考える人は多いけれど、 かつては 「食の好みが違う」といえば、ヴェジタリアンとか、「レッド・ミートは食べない」程度で済んでいたのだった。 でも昨今は、ヴィーガン、グルテン・フリー、そしてロウ・フーディズムと、 カテゴリーがどんどん複雑になり、しかも ある日突然 ダイエット目的で、「セレブがやっているから」と ヴィーガンになったり、 セリアック病でもないのに グルテン・フリー・ダイエットを始める人も多く、 一緒に住み始めてから、パートナーがエクストリームなダイエットを始めるケースが増えているのだった。

ブランチの場に居た女友達の1人は、出産で増えた体重、約22キロを落とすことを ニューイヤーズ・レゾルーションに掲げていて、 その目標達成のために ロウ・ダイエットを友達に薦められたというけれど、 夫に大反対されたという。 夫が反対理由として、彼女に語って聞かせたのが 彼の職場の同僚男性の話。 その男性は、一緒に住んでいたガールフレンドがロウ・ダイエットを始めて以来、不仲になり、年末に別れたというのだった。
問題のカップルは、一緒に住み始めた段階では、女性がヴェジタリアン、男性がパートタイム・ヴェジタリアン。 一緒にヨガのクラスを取り、スターバックスではソイ・ラテをオーダーするような、ヘルス・コンシャスなカップルであったとのこと。 でも男性側は、フットボール観戦をしながら、チキン・ウィングを食べたり、クライアントの接待でステーキ・ディナーに出掛けるような 状態であったのに対して、女性側は1年半ほど前からヴィーガンになり、 徐々に2人で一緒にディナーやランチに出掛けると、どちらかが食べた物に不満を言うことが多くなったという。

そんな不仲に拍車を掛けたのが、女性側が1年ほど前からロウ・ダイエットを始めたこと。 以来、ホーム・クッキングにまで 食の好みの違いがはっきり現れるようになり、2人は喧嘩を避けるために、殆ど一緒に食事をしなくなったという。 そして、昨年11月のサンクスギヴィングの際、女性側の両親宅のディナーに 彼が同行して出掛けたというけれど、 女性は自分用のロウ・フードを容器に詰めて持って行く徹底ぶり。
でも彼女の両親や兄妹は、どうして彼女がサンクスギヴィングのご馳走より、見るからに不味そうな火も通っていないロウ・フードを 食べたいのかが分からない上に、身内とあって遠慮がなく、 「そんな物を食べているから、すっかり顔色が悪くなった」等と批判めいたことを言ってきたという。 それに対して腹を立てたのが女性で、まずはその場で家族と大喧嘩。そしてディナーを早く切り上げて帰ったため、 空腹になった男性がターキー・サンドウィッチをデリで買ってきて食べていたところ、 その様子を見てまた怒り出したという。
その後も、ホリデイ・シーズンに友人宅のパーティーに招待される度に、彼女の徹底したロウ・フードの問題がついて回って、 「2人は年が明けるのも待てずに 別れた」というのがそのストーリーなのだった。



私がそれを聞いて思い出したのが、昨年末のパーティーで聞いたストーリー。
このストーリーもやはり女性側がロウ・フーディスト。彼女はモデルなので、ロウ&ヴィーガンでそのスタイルを保とうとしており、 ヘッジ・ファンドに務めるリッチな男性と付き合い始めてからは、彼のアパートに転がり込んで、 彼のお金で 最高級のジュース・マシンを買い、朝は男性のためにケールやにんじんでジュースを作り、 昼も 彼にロウ&ヴィーガンのランチを持たせていたという。 でも男性は、最初は彼女の好意を有り難いと思っていたものの、ロウ&ヴィーガンのフードに我慢できず、いつもジュースやランチを捨てていたとのこと。 すると、そのうちモデル嬢が 「ロウ・フードを食べているのに、ちっとも痩せない」と、疑いの目を向けるようになったため 彼は、朝の野菜ジュースを逃れる目的も兼ねて、彼女が未だ眠っているうちに出勤して、オフィスにあるジムでワークアウトを始めたという。
すると、未だ20代後半という若さも手伝って、みるみる身体が引き締まってきて、男性側はワークアウトにはまってしまう一方で、 モデル嬢はロウ・フードの効果が出てきたと大満足。 でもある時、モデル嬢があまりにロウ・フードを讃えるので、男性が 自分は彼女が作ったローフードを全く食べずに捨てていたことを 告白してしまい、それがきっかけでモデル嬢は彼のアパートを出て行ってしまったとのこと。
でも男性側は、ショックどころかヘルシーでハッピーだそうで、モデル嬢の引越し荷物の中に、高額ジュース・マシンを詰めて送り出したというのだった。

ブランチの場に居た私を含む4人は、誰もヴェジタリアンやヴィーガンでは無かったけれど、22キロの減量を掲げた友達が、 「ロウ・ダイエットをしようかと思っていた」と言った途端に、私以外の残り2人は 「絶対やめた方が良い!」と、 即座に大反対したので、私はちょっとビックリしてしまったのだった。
というのは、私はヴィーガンや ロウ・フーディーではないものの、火を通さないで良いものは、昨今、火を通さないで食べるようにしていたため。 その結果、ロウ・フーディズムの定義が、「食べ物の70%が生、もしくは45度以下で調理されたもの」ということであれば、 私もパートタイム・ロウ・フーディーと見なされる立場なのだった。

厳密に言えば、ロー・フーディズムはヴィーガンの最もエクストリームなダイエットで、動物性たんぱく質を全く取らず、その上で生か低温調理で食べるというもの。 私の場合、1日1回、主にディナーで 肉か魚の動物性たんぱく質を取るけれど、ロー・フーディズムになるのは、たんぱく質がお刺身やシェビーチェとなる日。
もちろん野菜の中には、ニンニク、玉ネギ、ニンジン、トマトなど火を通した方が栄養価がアップするものも少なくない訳で、 トマトなどは調理することによって、含まれるライコピンが3倍に増えるので、肌の美しさを考えたら、火を通した方が良いもの。 逆にブロッコリーは、最も強い抗がんエンザイムが熱で破壊されてしまうので、できればロウで食べた方がそのメリットが得られるのだった。

私が野菜を以前よりロウで食べるようになったのは、ロー・フーディズムがきっかけではなくて、 フランス料理のクッキング・ショーで学んだレシピを実践した結果。
このレシピは生のカリフラワーをスライスして、サン・ドライド・トマト、ガーリックなどミックスし、オリーブ・オイルとヴィネガー、塩で漬け込んで、 浅漬けのピックルスのようにして食べるというもの。最初は生のカリフラワーに抵抗があったけれど、 やってみたらカリフラワーが カリカリの心地好い食感で、調理したカリフラワーよりずっと美味しく感じられたのだった。
以来 ブロッコリーやインゲンでも、 同様の調理しない ロウのピックルスを作るようになり、 以前は炒めて食べても嫌いだったケールは、フードプロセッサーで 細かく刻んで、生の状態でサラダにミックスするのが昨今のルーティーン。 その他、バクチョイや白菜も、そのままサラダにしたり、キムチっぽく漬け込んで、 ロウで食べることが多くなったけれど、 私がこれを実践しているのは、その方が美味しいと思うからで、ロウ・フーディズムを始めようというつもりは全く無いのだった。



ロウ・フーディズムは、フルータリアン同様、信仰者が熱烈に入れ込む反面、ヴェジタリアンやヴィーガンの間でさえ反対説を唱える人が多い特殊なダイエット。
例えば、セレブリティ・トレーナーのトレーシー・アンダーソンは、ロウ・ダイエットを7ヶ月続けた結果、生理不順になってしまい、 以来、反対説を唱える1人。 それ以外にロー・フーディズムをギブアップする人の理由で最も多いのが冷え性、肌の乾燥なのだった。

また脳の分野で指摘されるのが、ロウ・フーディズムが脳の維持、発達を妨げるということ。 ロウ・ダイエットでは、人間の脳と身体の双方に十分なエネルギーを供給するだけの栄養分を消化吸収するのは難しいとのことで、 その研究レポートによれば、ロウ&ヴィーガン・ダイエットというのは、ゴリラやオラウータンの食生活とほぼ同じ。 でも人間の脳はゴリラや、オラ・ウータンより大きく、より多くの栄養素を必要としているけれど、 人間はゴリラやオラ・ウータンほどは 沢山食べられないというのがその理論。

また別の学者は、人間の脳が著しい進化を遂げたのは火を使い始めてからで、火を使うことによって まず大きく変わったのが人間の食生活。 それによって肉や魚といった動物性たんぱく質を、安全かつ、栄養価が高い状態で食べられるようになったのに加えて、暖かい食べ物を摂取できるようになり、 そんな食べ物に熱を加えるという行為から生まれたのが食文化。
人間が火を使った調理をして、栄養価の高い、ヴァラエティに富んだ食べ物を摂取することが出来なければ、 その脳も発達することは無かったと いう説が唱えられているのだった。

でも火だけが調理法かといえば、そんなことはなくて、シェビーチェ(写真上左)は 生の魚介類を レモン汁、ライム汁などの酸を使って調理する方法。 また、 ”Cured / キュアード” という塩漬けの調理は、肉、魚に加えてフォアグラなどにも用いられるもの。 キュアード・ミートというとサラミを考える人が多いけれど、自宅で簡単に出来るものにはコーンド・ビーフ(写真上中央)があるのだった。
サーモンに関しては、Gravlax / グラブラックス (写真上右側)という塩漬けの別カテゴリーが存在しているけれど、 これはスモーク・サーモンと違いが分からないような仕上がりになるのだった。

したがって酸や塩を用いれば、ロウ・フーディズムでも、衛生面の問題無しに肉や魚を食べることは可能であるけれど、 何故か 今のアメリカでロー・フードというと、生のヴィーガン食。
さらに言えば、ロウ・フーディズムは オーガニックのローカルな野菜&果物を食さないと そのメリットが激減する食事法。 というのも野菜、果物は搬送中にも栄養価が失われるので、農薬にまみれていない、地元の食材を選ぶのはマストなのだった。
また危険なのは、見よう見まねのロウ・フーディズム。ロウ・フーディズムはヴィーガンより偏食なので、きちんとした栄養学に基づいてメニューを組み立てないと、 結石の原因になったり、必須アミノ酸が十分に摂取できないなど、 味だけでなく、健康面で かなりの問題が指摘されているのだった。

ブランチの席では、先述のように体重を落としたがっている友達が ロウ・ダイエットをトライしようとするのを、 残り2人の友達がかなり激しく止めていたけれど、 そのうちの1人が指摘していたのが、「ロウ・ダイエットを実践したセレブを考えてごらんなさい。 デミー・ムーア、パメラ・アンダーソン、アリシア・シルヴァーストーン、皆、頭がおかしい人ばかりじゃない!」ということ。
確かにそのラインナップを頭に浮かべると、ロウ・ダイエットでは 脳と身体の双方に 十分なエネルギーを供給できないという 学者の説は正しいように思えるのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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