Mar. 10 〜 Mar. 16, 2014

” Gas Explosion & Immigration”


今週のアメリカでは、引き続きクリミア情勢も大きなニュースになっていたけれど、ニューヨークのメディアの報道が集中していたのは、 写真上左、ニューヨーク・ポスト紙の表紙に取り上げられている3つのニュース。

まずは、3月8日に消息を断ったマレーシア国空370便については、通信システムが機内で故意に スイッチ・オフされていたことから 浮上してきたのが、 同機が事故やテロが原因ではなく、 パイロットによるハイジャックで行方不明になったという説。
機長であるザハリー・アーマド・シャー(53歳)は、飛行時間1万8000時間のベテラン・パイロットで、 大の飛行機オタク。自宅には本格的な操縦シミュレーション・システムを擁していたとのこと。 加えて彼はマレーシアの反政府グループの熱烈な支持者であったことが伝えられているのだった。
一方、副操縦士のハリク・アブドゥル・ハミッドは、機長のシャーよりは遥かに経験が浅く、若いパイロット。 今週に入ってからは、彼が2011年のフライトの最中、コックピットにブロンド女性の乗客2人を 招き入れて記念撮影をしていた様子がウェブ上で公開されているのだった。
2人の自宅は、今週警察によって家宅捜査されているけれど、シャーの妻と彼の3人の子供は、 370便が行方不明になる前日に家を出ているのだった。


ニューヨークのスポーツ界、及びNBAで今週最大のニュースになっていたのは、かつて シカゴ・ブルスのコーチとして6回のチャンピオンシップに輝き、その後 ロサンジェルス・レイカーズのコーチとして 5回のチャンピオンシップを制覇したコーチ、フィル・ジャクソン(68歳、写真上左)が、 長年低迷が続くニューヨーク・ニックスのプレジデントに就任したというニュース。
フィル・ジャクソンは NBAプレーヤーとしての現役時代に、ニックスで10シーズン、732試合をプレーをしており、 そのうち1970年、1973年にはNBAチャンピオンになっているのだった。 そして この1973年を最後に、ニューヨーク・ニックスは無冠の状態を41年に渡って続けており、 ニューヨーク・シティを本拠地とするプロ・スポーチ・チームで、ニックスより長く無冠が続いているのは、 ニューヨーク・ジェッツのみ(ジェッツは1969年に第3回スーパーボウルに勝利して以来の無冠)。

そのフィル・ジャクソンは、前述のように11回NBAチャンピオンに輝く、史上最もサクセスフルなNBAコーチであるけれど、 シカゴ・ブルスの6回の優勝の際にはマイケル・ジョーダン、レイカーズ時代には シャキール・オニール、 コビー・ブライアントといったスーパースター・プレーヤーをチームに擁していたのもまた事実。
そのレイカーズも今シーズンは低迷していることもあり、コビー・ブライアント と 既に引退したシャキール・オニールが フィル・ジャクソンをレイカーズに呼び戻す嘆願メッセージを送った矢先に決まったのがこの就任。 ジャクソンは5年契約で、毎年12〜15億円の年俸を受取ることになっているのだった。



そんな中、今週ニューヨークで最も大きく報じられたと同時に、最もニューヨーカーにとって衝撃的であったのが、 イースト・ハーレムにおけるガス爆発事故のニュース。
事故が起こったのは水曜日の午前9時半頃で、目撃者は 「爆音と共にビルの天井が跳ね上がった」と証言していたけれど、 117丁目、パーク・アベニュー沿いの2軒の建物が あっと言う間に瓦礫の山と化す、大きな爆発になっていたのだった。
実は私は、この事故の直後にセントラル・パークでランニングをしていて、パークの北端である110丁目に差し掛かったところで、 気付いたのが 盛大に焚き火をしているような匂い。そして東側には薄っすらと煙が見えていたけれど、自宅に戻ってニュースを見るまでは、 まさかそれがガス爆発だとは思ってもみなかったのだった。

日本人女性を含む8人の死者と 69人の負傷者を出したこの事故が、 ニューヨーク、及び他都市にとっても 衝撃的であったのは、アメリカではガス管の老朽化が手付かずの問題として 放置されて久しい状況であるため。 実際に イースト・ハーレムの爆発現場エリアのガス管は、100年以上使用されていることが指摘されているのだった。
でも、ガス漏れさえしていなければ、ガス管が古いこと自体には問題は無いというのが、 ニューヨークのガス、電気を取り仕切る コン・エディソン関係者の言い分。

それより問題として指摘されていたのが、住人の多くが「以前からガスの匂いがした」と証言しているこのエリアからは、 コン・エディソンに対して 爆発の10分ほど前に 1件のガス漏れ通報があっただけで、 過去4年間に渡って、誰1人ガスの匂いについて通報していなかったという事実。
さらに、ニューヨークには日本の110番に当たる 緊急通報用の911という番号の他に、 緊急を要さないも苦情や、調査依頼、被害レポートを出すための311という番号が設けられているけれど、 この311番にも、911番にも、同エリアからのガス漏れ通報が寄せられていなかったことが明らかになっているのだった。

コン・エディソンでは、同エリアのガス漏れについて、既に50箇所から土のサンプルを摂取して調査を行っているけれど、 それによれば、ニューヨークでは地下45〜60cmの深さでは、土から天然ガスが検出されることは無いのが通常。 ところが今回の爆破現場となったイースト・ハーレムにおいては、最低5箇所のサンプルから 5〜20%という極めて高い濃度のガスが検出されたことが明らかになっているのだった。
したがって、多くの住人がガスの匂いを察知するのは、全く不思議ではないけれど、 それが通報されなかった要因とメディアが指摘していたのが、イースト・ハーレムには不法移民や前科がある人々など、 あまり警察や市の職員とは関わりたくない人々が 暮らしているケースが多いということ。

とは言っても、ニューヨークの法律では 事件の通報をした人や、事件の証言を求めた人に対して、 イミグレーション・ステータス、すなわち合法でこの国に滞在しているかを訪ねるのは禁じられている行為。 でも これがあまり知られていないために、ガス漏れに限らず、 様々な通報を怠る人々が多いことが指摘されているのだった。

私自身、通報を怠る人の気持ちが分からなくもないのは、2〜3年ほど前に 自ら311に電話をした経験があるため。 その時は夜中の3時まで外で工事が行われていて、 その騒音で全く眠れなかったので 電話をしてしまったけれど、 苦情をレポートするに至るまでの ID確認セッションが非常に長く、何かステータスで後ろめたい部分があったら、 たとえ電話を掛けたとしても、途中で通報を止めてしまうと思うのだった。


さらに低所得者エリアのビルにはハンディ・マンが勤務していないケースが多いのも、こうしたガス漏れが放置されてしまう要因と指摘されるもの。
例えば、ハンディ・マンが常駐するビルであれば 住民がガスの匂いを察知して、真先に連絡するのがハンディ・マンやメンテナンスのオフィス。 コン・エディソンや311に電話するよりも、遥かにストレス・フリーに通報が出来る上に、直ぐに問題が解決されるケースが殆どなのだった。
例えば、CUBE New York が新たにスタートした Will New York の滞在施設でも、 改装したてのキッチンのガス台を初めて使用した際に、ガス臭さを感じたフランス人テナントが、夜の10時に「明日で良いからチェックして欲しい」 とドアマンに電話したところ、「その5分後にはハンディマンが現れた」と言ってビックリしていたのだった。 確かにフランスやアメリカの郊外と比較したら、これは驚くべき速さだと思うけれど、 マンハッタンのアパートでは、ハンディマンさえ常駐していたら 水漏れとガス漏れというのは 最も早急に対処してもらえる問題。
今回のような事故が何時起こるか分からないので、ガスの臭いがした場合には「明日で良い」などとは言っていられないのが実際のところなのだった。

ちなみに、ガス漏れのチェックというのは意外にも簡単に行えるそうで、一時的に圧縮した空気をガス管に送り込むことによって、管内圧力が それに応じてアップした場合は ガス漏れ無し、それに応じた圧力上昇が見られなかった場合には ガス漏れ箇所があるということで、 調査を行うという。 こうしたチェックは ガス漏れの通報を受けて コン・エディソンでは頻繁に行なっているそうで、 事前に住民が通報さえしていれば、今回のような事故が防げたのは紛れも無い事実なのだった。

そう考えると、オバマ政権下で 一向に先に進まない移民法改正問題が 「ガス漏れ通報の遅れ」という 思わぬ弊害をもたらしたとも言えるけれど、 そのオバマ政権は、ブッシュ政権より遥かに急ピッチで、不法移民の国外追放を行っていることで知られる存在。
オバマ政権の最初の4年間で追放処分となった不法移民の数は160万人。ブッシュ政権下8年間に追放された移民の数、200万人と比較すると、 かなりの急増ぶり。特にオバマ政権下で増えているのは、犯罪を犯していない不法移民の国外追放。 このため一部では、移民法改正に着手すると公約しているオバマ政権が、実際には国外追放の恐怖を移民に与えていると指摘されているのだった。

さて、市の職員や警官がイミグレーション・ステータスを 事件の通報者等に対して尋ねることが禁じられているのは前述の通りであるけれど、 酒気帯び運転やスピード違反など、警察に取り締まられる状況になった場合は 話は別。
例えば、ニューヨークの地下鉄では電車の走行中に別の車両に移動することは違反行為。それを警察に取り締まられて、 IDの提示を求められた場合、IDを所持していれば 罰金のチケットを切られるだけの話。 ところがIDが提示できない場合には、逮捕されて 身元を確認されるというのは 不法移民が国外追放される典型的なシナリオ。
類似したエピソードは、2007年に公開された映画 「The Visitor / ザ・ヴィジター(邦題:扉をたたく人)」にも描かれているのだった。 この作品で、主演のリチャード・ジェンキンスはオスカーの主演男優賞にノミネートされているけれど、 同作品はアメリカの移民政策に疑問を投げかける一方で、人と人の絆を見事に描いた素晴らしい映画。 この映画を観て、初めて現行の移民政策の残酷さを知ったアメリカ人は 決して少なくないとさえ言われているのだった。

ところで ニューヨークでは今週、ガス漏れに気付いた際の対応について メディアが かなり大きく報じていたけれど それによれば、まずしなければならないのは 安全なところに避難するということ。 ガスの臭いがするところで やってはいけないのは、 火の使用はもちろんのこと、電話の使用を含む ありとあらゆる電気、静電気、熱を発する行為。 状況によってはドアのベルを鳴らすといった些細なことでも 爆発のきっかけになることが指摘されているのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


PAGE TOP